複合ゴーレム。
粘土体と魔石燃料を少々、しかし近頃のトレンドは、熟成された魂のかけら。これらは悪魔たちから譲り受けるものだ。
全日本ゴーレム協会は、長き社会運動の末に潤沢な活動資金と、それなりの人員を手に入れた。しかし我らはやはり“魔術”を研究するもの。
特殊な能力と技能のノウハウを保有していた我らは、かつてサムカとよばれて、主に荒れ果てたの山を定住せず、流浪していた民だった。私は近頃、その生残りの一人として、熟成された技能と、その遺伝で受け継がれてきた生命の証を、闇市の“パレード”で披露する事を楽しみにしていた。
「いやあ、あの闇商売の彼がね……」
「驚いたね、暗殺さえも請負っていた子だから」
「近頃街も夜まで明かりをともしてにぎやかだから、文明の利器や発展が、その周囲の人物や暮らしにまで及ぶ、及ぼす影響は、これほどのものかね」
(ああ、そうか、今日も、あるいは今日だから、彼らは俺のうわさをしているのだ)
「 それでは始めます 」
貴族たちがワイングラスを片手に、身内話や、政治経済の話をしている。姿勢と礼節はさすがのもので、まるでパントマイムのように形式ばって彼らの表情としぐさにはりついている。
俺がその雑踏をかきわけて、仮面を外す頃には、すでに首元からくちを隠すかたちでとても厚手で大き目のスカーフを首元に結び目を作っておいた。だから俺の恐ろしい牙を見る人々もそれほど多くない。そう、もともとこのするどくとがる、一族内できわだって鋭く光るこの大きな牙が、俺をかっての商売につなぎつめていた第一の理由ともいえるかもしれない。そうかもしれないのだ。
俺は先の材料に、あるものをまぜた。きっとこの企業秘密は、この先何年も理解されることはないだろう。いいや、理解されてたまるものか。かつて我らの商売と生命が、文明によって“理解”され始めたころ、日本の著述家たちは我らの生態を記述した。しかしそれがわれらの“魔力”にとっていかに影響を及ぼしたか、いや、彼らの責任を問うつもりはない。
赤い水滴が、ひじをつたい手のひらの内側をつーっと音もたてずにつたう、俺は先ほど、自分の左肩をかんだ。すなわちこれは俺の血だ。
「おお、踊っておる踊っておる」
「あははは、おかしい、おかしい踊りだわ、ほら、あんなに、まるで本当のサーカスのようだわ」
小さな円い椅子のような、テーブルのようなパイプの上の卓上に小さな人型たちが3人、人のふりをして踊りまわる。命をともして踊り、ジャグリングや、パントマイムを披露する。たかだかこれだけの異次元が、退屈な彼らの生活を満たしたりする。ゆえに闇市は、これ程に退屈なのだ。
政界を引退した政治家。角界の大御所。芸能界のアイドル。人生に飽きた人間が闇の理智を危うい好奇心とともにここに寄せる。ここは闇市。私は今、人の依頼はうけない。私の仕事場は30平方センチメートルの小さな折り畳み式イスの上である。
(あなた方は、知る事がないだろう、これらのものが、人の注目をあびたから一度潰えそうになった、われらの血と肉によって成り立っている魔法であるという事を)
私の祖父のそのまた祖父のそのまた祖父は、異国の吸血鬼だという。だからこそ私の血は、未だに保たれているのだ。そうとも知らず貴族たちは、仮面つけたりつけなかったり、丸わかりのその素性をあらわに、闇市という都内のその場に夜な夜な集い。きちんと整えられたパーティ向けの装束をまとい。ありもしない魔法をもとめて、彷徨いあるく。
複合ゴーレム。