幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 7話
第二ボタン
聡が何か言ってる。でも、私の耳には入ってこなかった。佐々木君が気になっていた。佐々木君に女の子が話しかける。心臓の鼓動が速くなる。佐々木君が立ち止まると、数人の女の子が佐々木君を囲んだ。
ボタンはなくなっちゃうかもしれないな……。
そう思っていたら、佐々木君が女の子達から離れた。佐々木君は昇降口前の人込みから抜けると、私たちに気づいたように体をこちらに向けた。佐々木君が近づいてきた。私ではなく、聡と話したいのかもしれない。聡は背を向けているので佐々木君には気づいていない。
「なあ、聞いてる? ひとの話」
はっとなって聡に視線を戻した。聡はずっと私に何か話していた。
ええとなっだっけ。
「──そういうわけだから。おまえにもらって欲しいんだ」
聡はそう言って私にボタンを差し出した。
「そうかぁ、やっぱりふたりはそーゆー仲だったのか。ちょっと残念」
佐々木君が聡の後ろから顔をのぞかせ、ため息をついて笑ったように見えた。
えっ?! 残念? 今そう言った? どういう意味だろう……?
止まっていた私の思考がぐるぐると動き始めた。私は必死に佐々木君の言った言葉の意味を考えた。佐々木君は聡と何か話している。残念て言うのは? がっかり、ということだよね。それは誰にたいして? 私? まさか……。いや待てよ。
私の脳裏に一年生の水泳大会の日、聡の胸を喜んで触っていた佐々木君の姿が甦る。佐々木君は人気があるわりに何の噂もなかった。ふたりをチラッと見る。
楽しそう。
もしかして佐々木君は……。
私の思考は完全に壊れていた。
「じゃあ」
聡が言うと、佐々木君も「元気で……高梨もな。邪魔してごめん」とその場を去ろうとした。
えっ? 邪魔? 邪魔って誰が?
私の頭の中がパニック状態になる。聡が放心状態の私の手を取り、その手のひらにボタンを置いた。
違う。邪魔なのは……。私が欲しいのは……。
「さ……佐々──」
「仲良くな! 結婚式には呼んでくれよ!」
結婚式!? 私が呼び止めようとするのにも気づかずに、佐々木君は手を挙げて走り去って行った。
やっと今の状況を理解した私は反射的にボタンを握りしめた手を振り上げていた。
「あっ……」
ボタンは私の手から離れた。
ぽしゃん。
という音と、口を開けてぽかんとしていた聡。
※
いま──
あのときの第二ボタンは、私たちの寝室のクローゼットの奥、オルゴールの中にしまってある。聡には内緒だ。絶対に言わない。
幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 7話