Life's candy and...

衣更絲子

蝿の王は寡黙な肉だった


 バイトをクビになった。その後面接を何箇所か受けたがすべて不採用。残ったものは数ヶ月分の家賃の滞納、消費者金融からの借金、傷だらけのギター、大量の自作CDに湿気た煙草、それからなけなしの怪しい白い粉と使い回しの注射器。冷蔵庫は氷と賞味期限切れのソースと醤油、カビの生えたパンしか入っておらず、電気・ガス・水道ももうそろそろ止められるだろう。
 西向きの窓からは容赦なく夕陽が差し込んで目を焼く。夏場は業火でしかないが、キマった時に目にする夕陽はこの世の何よりも綺麗でキラキラしている。だが生憎の曇り空は部屋を鉛色に染めていた。
 親にも勘当され、友人や仲間も去った今、残された選択は首を吊るか、血や内臓を売るか、どの道死ぬしかないだろう。親には絶対成功させると大口をはたいたというのにこのザマだ。俺の人生、ちょろいものだった。きっと明日は、なんて言葉は売り払っても二束三文にしかならない。生への諦観が過ぎると言われたらそれまでだが、俺はロックはセックスアンドドラッグなんてアホなことを抜かしていた人間であるので、元から生きる重要性が欠落しているのかもしれない。あと俺は童貞なのでロックの踏襲すら儘ならなかった。
 きっと明日は売れる、が過去形であるなら、きっと明日は死ぬかもしれない、が現在進行形だ。まあ、どうにもならない。せめて女を抱いてから死にたかったが、三十を過ぎてなお経験のない男を誰が拾ってくれるのか。女を買う金もなければクスリを買う金もない。知ってるか、愛と幸せは金で買えるし、レンタルすることもできるんだぞ。
 そろそろどうにかして、楽な方法で死ぬことを検討していたのだが、実は一週間ほど死ぬに死ねない出来事があった。どうせクスリでラリっているんだろう、といえばそれまでであるし、自分もヤク中ゆえの幻覚でも見ているのだと思っていたのだが、クスリの効果が切れても見えるものがあるもので、それが気になって死ぬに死ねなかった。

「あれ、焼いたら食えんのかな」

 アンチクライストを名乗る割にはクリスマスありがとうキリスト万歳、なんてはしゃぎますし、おばあちゃんっ子だったので親に見付からぬように墓参りにも行っていた俺なので(数年ほど移動費が捻出できずにいたので、この地より墓の方向に向かって手を合わせて、おばあちゃんに詫びていた)神様たるものは誰かがいると主張すれば、少なくともその人のためにいるものだと思う。
 祖母がアニミズム信仰であったし、米粒にはお米の神様が、と言われ育ってきたもので、片付けが絶望的に下手くそなのはそのせいだったりする。捨てたら勿体ないという信念は現代の断捨離だとかミニマリズムと縁がなさすぎた。寒かったら着なさいと言われた緑茶色の半纏ですら、あちこち虫に食われても活躍している。
 だからといって例のくだんと片付けの出来なさは無関係だ。だって俺は流石に知らないぞ、あんなもの……。シケモクを咥えながら浴室の磨りガラスを押すと、扉の隙間から黒い粒がふたつほど、ぶんと顔を横切る。勢い良く立ち去ったそれを見届けることなく扉を開けると、水色のタイルが昭和の雰囲気を醸し出す、なんとも古臭い浴室がお目見えし、浴槽の手前にはトリップ症状とにしては地味かつ凄惨な塊が佇んでいる。突如現れた死体と、本日も相対することとなる。

「……やっぱり美味そうではないんだよなぁ」

 物を大事にとは言われたものの、やらかしてしまうのが人の性であり、チルド室の肉を腐らせたのは数知れず。本来体を清めるために実在する浴室は赤黒く崩れた肉に占領されており、まさにあの臭い――卵や肉や糞尿を混ぜこぜにして数週間放置したような、兎に角最悪な臭いが漂っている。幻覚と片付けて換気扇を回そうとしたが、換気扇が壊れていることに気付いた。
 こんなおんぼろアパートにいればどうせ大家が警察を引き連れて戸を叩き壊しに来るのだと怯えたものだが、しかし不思議なことに誰も訪れやしない。アパートの二階の住人が俺を除いて誰もいないからだろうか。それにしたって誰も来ないので、自分が豚小屋に突っ込まれることは免れそうだが、しかし捕まれば捕まったで粗食くらいは食わせてもらえるし、風呂も仕事も与えられるのだよな……と思い直したが、クスリをやめる気もなかった。しかし腹は減るし何もかもひもじいし、何が幸せなんだろう……と死体と対峙しつつ、自問自答。
 さて、この死体は何処からやってきたのだろう。かれこれ一週間は出歩いていないし、買い物する銭もないので、ひたすら水を飲んでトイレに行って、クスリを打っておざなりなオナニーで己の心を慰めたくらいじゃないか。この所クスリの効きも良くないし、肉体的なバッドトリップが酷くて動けもしなかったなぁ、と間延びしたこと思いながら背中を掻いた。
 死体のことは神様と呼んでいる。実際は天使というべきなのかもしれない。その証拠に肩甲骨のあたりにアイロン台ほどの大きさの肉腫が一対くっ付いており、腕も人より四本ほど生えている。引き締まった肉体から男かと思うのだが、全裸である肉体が伏せてあるために性別は判断できそうにない。若干のくびれがあって、顔面はすっかり蛆の住処だ。眼球が嵌め込まれていたと思われる穴がふたつに、額にもうひとつ。明らかに人ではない死体を神様と名付けたかった。よく見ると蝿の王に形が近いかもしれない、とタンクトップ越しに胸を摩った。
『神様がいるのだとしたら、死んだところが見てみたい』
 今思うとなんて陳腐な歌詞を押し付けてしまったのだろう。目立つからという理由だけでやれもしないボーカルや作詞をして、メンバーから大顰蹙を買ったものだ。クソだせえ。この死体もまた、クソダサなキャッチフレーズに倣ってクソださく野垂れ死んでいる。バンドのメンバーも、神様も、可哀想だ。俺はなんでもない、生きる時代も土地も体もスペックも間違えただけの人間ですので。

「アンタはいいなぁ、死んで腐って骨になるとか最高にロックじゃん」

 ロックに託ける癖は死んでも直らないだろう。あまりの激痛で線彫りだけになったベルゼブブが、今でもめかしこまれるのを夢見て左胸に佇んでいる。リストカットは血が噴き出しただけで失神したので向かなかった。死ぬ覚悟もなくだらだらと生きてしまったので、上手く死ねぬまま餓死して神様の二の舞だろうな、と想像すると、ぎゅるぎゅると虚しく腹が鳴る。
 焼いて食えば腹を下して死ねるだろうか。しゃがんで、その辺に転がるハエたたきの持ち手でつつくと肉がぼろりと零れたので、ビクリと大袈裟に後退り、ハエたたきは浴室へとへたり落ちる。バチが当たるやもしれぬと怯えたが、そもそもバチも何もこの有様じゃないか。手を尽くすほど何かしてやれるわけでないし、腹は減るし、煙草は不味いし、頻繁に祖母のことを回想してしまったので、いよいよ悲しくなって涙を零した。バッドトリップの影響だった。死にてえな、畜生。できれば楽に。

「神様が死ぬところより、俺を死なせてほしかったなぁー……なんてな…………う、うぅ」

 むわりとした湿気と臭気、焦げ臭いヤニの中でボロボロと泣いても、ハエすら慰めてくれやしない。ゴマすりより片手を頭に添えるくらいしてほしかった。
 鼻をすすりながら隠しきれぬ嗚咽を手で押さえると、虚しさと手を引いて部屋へと戻った。悪臭は扉を開けようが閉めようがもはや関係がなかったので、せんべい布団にダイブして、やたら反抗的な枕を抱き締めてわんわんと泣いた。ロックじゃねえなぁ、とゲラゲラ笑いながら泣いていた。まともな自分が己を俯瞰視したなら唾を吐いていたかもしれない。世界中の不幸をありったけ掻き集めてぶつけられたような気分だ。泣いて泣いて、そのまま寝た。
 珍しく夜明けまで寝た。そういえば吸っていた煙草をどうしたかと今になって探そうとしたが、火事になっていないならいいかと諦めた。相変わらず空腹はどうにもならないので、青カビパンにソースを数滴垂らして、一口五十回ほど噛んだ。パンにあらざる酸味と苦味は胃に多大なる影響を与え、案の定その後暫くはくたばることになる。ゴルゴンゾーラチーズは体に良くて、なぜカビパンは食えぬのだ、人体よ。人間はもう少し前向きに進化してもいいんじゃないか、と思いながら吐き気を必死に堪えた。申し訳程度の養分を吸収するために。なんだ、生きる気満々じゃないか、と誰かの声が聞こえた気がしたが、幻聴は日常茶飯事だ。できれば餓死で死にたくないからという下らないプライドが一日ほど寿命を更新する。苦痛も日に日に増すのに、本当にアホかと。
 そうしてまた一日が過ぎた。腐臭に慣れたのか死体の腐敗が折り返し地点を過ぎたのか、胃をまさぐる腐臭を感じなくなっていた。その代わり昨日の影響でずっと腹を下している。
 今日は久々に髭を剃り、珍しく片付けらしいことをしてみた。雑誌類を足元に積み重ね、使えそうにないゴミは袋へと詰める。衣類は窓際に丸めておき、辛うじて生まれたスペースを箒で掃いた。生きているだけでゴミは生まれるが、捨てぬ限りは増殖の一途を辿るだけだ。動くだけで消費カロリーが跳ね上がるのに、何となく掃除をする気に至ったのは、己が死ぬ時にちょっとだけまともな環境にしたかったからなのかもしれない。
 賃貸アパートが墓石になるだなんて、大家からすれば大損害なのだろう。売る部屋があるだけ良いじゃないか、俺には霞を買う金すらあるか怪しいものだし。背中を丸めてちりとりにゴミを掻き込むと、ふところりと大きな塊が駆け込んできた。宝石みたいにキラキラしていたもので、つい下心満載で摘んでみたが、俺は宝石を買ったような気でいても、事実に還元されていない。そう、宝石なんかあるはずもなく、封が切られぬままの飴玉があるだけだった。

「ジーザス! 神様は俺を見捨てなかったのか!」

 ピンクと銀色の包装に包まれた白桃の飴はこの世の何よりも凌駕する馳走に見えた。折角だからクスリでも打ってから舐めてやろうと部屋を掻き回したが、使い慣れた注射器が見つからない。ならストローで妥協しようと考えたが、ストローどころか小さなビニール袋もない。折角片付けた部屋をごちゃごちゃに掻き回して、ゴミ袋も逆さにして荒らしてみたが見付からなかった。
 最大の絶望だ。アレさえあれば多少はマシに生きていけていたし、幸せは白い粉にしかないのに、頑張って探しても姿を現すことはなかった。誰かに盗まれたのだろうか? もしかして金がないのも誰かに盗まれたからか? それならCDの一枚くらい道連れにしてくれて良いじゃないか! アレの良さを理解した超人の元に渡ったら俺は起死回生のチャンスを得られるのに……なんてことだ。人生はクソだ、糞以下だ。糞の方がまだ人のため世のため植物のためになっているのに、俺と来たら。
 本日初めての大号泣をかますと誰かが笑っている気がした。笑うくらいなら話し掛けてほしい。話し相手になれよ。慟哭とともに叫んでみたが、せせら笑う雨だけが降り頻るだけで、濡れるのは頬だけとくる。いっそのこと、みっともなくずぶ濡れになりたかった。
 飴を食べる気すら起きなくなり、とぼとぼと浴室へ向かった。相変わらず赤黒い肉が撒き散らかされており、黄色い斑点(浮き出た脂肪のようでもある)が蛆が腹を満たそうと肉を喰らう。たかるハエは新たに卵を産み付けているかもしれない。剥き出しの肋からはどす黒いものがはみ出していたが、あれは血液の成れの果てだろうか。内臓かもしれない。食べるにはもう遅い。
 神様の死体がやって来てから初めて浴室へと足を踏み入れた。のぼせがちな体を冷たいタイルが冷やしてくれる。米が蠢いている。握ってがっつり塩をまぶして食べたい。食べてしまおうか、虫はたんぱく質が豊富とも言うし。だが空腹も過度になると虚無へと変わり、冷えた足裏がぷちぷちと蛆虫を潰しに掛かる。通称プチプチの例の緩衝材を押し潰す快楽すらあった。そうして俺はやっと、神様と間近で対面することとなった。

「神様ごめんなさい。俺が死ぬところが見たいとか言ったから、あなたは此処で死んだんですか」

 顔面の肉はほぼ消え失せ、乾いた肉が頭蓋の骨に僅かにこびり付く程度となっていた。小さなブラックホールを三つ眺め、そこに墜ちてみたいとすら思った。ねっとりと張り付く微々たる粘液を地にして、もっと深いところへ墜ちてみたかった。できれば痛くない方がいい。終着がないまま、サイケな景色も流れない真っ暗な場所に。

「俺は……僕は、これが良かれと思って生きて失敗して落ちぶれていく、そんな連続でした」

 触れた肉は生前の輪郭を忘却するかのようにとろりと溶け、べろりと剥がれた皮膚からはまっさらな腐臭が立ち込める。指先に絡み付くのは観客のいないカタストロフィ。あ、こういうことを歌詞に書いとけば売れたかな。どうでもいいことばかりが山の手線状態だ。
 神様も生き物であったと思うと急に親近感か湧くもので、乾涸びたゼリーを掬うように手を差し込めば、あたたかいかも冷たいかもわからない、例えようのない感触が手のひらを擽った。人だとか、男だとか、女だとか、死んでしまえば等しく死体なもので、途端に愛しくなるというものだ。しかも一週間と数日だけでも神様は紛れもない同居人であった。何を囁くでもなく、告知することもなく、虚ろに横たわって腐敗していくだけ。
 自分の人生の生き写しならぬ死に映しだ。ああ、俺ならまだしも神様すら呆気ない終わりを迎えてしまうのか! 滂沱と落つ涙は乾いた屍肉を潤してはくれない。死体は醒めぬ悪夢から一瞬の慰めにまで成り変わっていた。
 濡れた手の甲を降ろし、反対の手で握り締めていた飴玉の封を開けると、いつ製造されたかも明らかにならないそれは封の内側にべったりと張り付いていた。腐臭と白桃の濃密な香りが絶妙な不協和音を奏で、流石にえずきそうになった。吐き気を堪えながら下顎を引くと、ぱかりと口が開き、奥からはレバーのような赤い塊が覗いた。微かに湿る肉塊に飴玉を乗せると、ころりと奥まで転がっていった。俺はもう二度と飴玉を口にできないだろう。さようなら、白桃味の飴玉。俺はぶどう味が好きだった。
 手向けになればと考えた。ポケットの中のボックスに残された煙草は残り一本。カビパンよりは煙草が最後の晩餐に相応しい。もうロックがどうとか関係なかった。俺の胸にはひとつの穴が開いている。眼孔みたいに深くて、ぽっかり暗くて湿った、一人分の墓穴。心身の飢餓よりも色濃い寂寞が死体も入れぬくらいに埋まってしまって、骨すらまともに埋められそうにない。

「お供え、遅くてごめんなさい。今更罰とか地獄とか、なんでもありだと思っています。そういう生き方しかできない性分だったし、本当に、これくらいしかできないんで。僕が死んだら何処にでも突き落としてください」

 回らぬ換気扇、密閉された窓、煙草にはなかなか火がつかない。薄煙が燻るだけで、満たすほどの紫煙は望めなかった。吸うならセブンスター一択。良いことがありますように、なんて願掛けをしながら肺を汚した日々。肺はこれ以上ニコチンとタールにまみれることはないだろう。先端が焼けただけでろくに燃えぬ煙草を転がすと、なんだか寝そべりたくなって、死体の横へと転がってみた。
 昔は親代わりに祖母が隣に寝てくれたことを思い出す。実は中学に上がるまで一緒に寝ていたなんて誰にも言えなかったけれど、あれが唯一覚えたぬくもりなのだろう。やっぱり童貞を捨てておけば良かった。いや、セックスしなくていいから誰かを抱いてみたかった。この際女じゃなくてもいいし、下手したら犬猫でも良かった。CDが売れたり、バンドがメジャーデビューしたり、そうでなくても正社員として細々と食っていける金を稼いで、たまに赤提灯が下がる古い居酒屋でビールを一気飲みしたり、してみたかった。
 ベルゼブブの刺青、筋肉が落ちて肋が浮いた体、肩まで伸びてぱさついた髪、割れすぎて深爪になった指先、虚ろに垂れ下がる目元。欲が多すぎて選べなさすぎて、思い浮かべることすら億劫になり、赤黒い死体を抱き寄せた。衝撃で片方の翼が落ちてしまったが、神様だったものはすんなりと腕に収まってくれる。逃げないでくれる人。恋人だったらこうしただろうなと、額が自分の鎖骨下に当たるように体をずらし、残った翼が落ちぬように恐る恐る背中を引き寄せた。

「もっと早くこうしておけば良かったなぁ」

 体が痒かった。皮膚の下がむず痒く、脳がクスリを欲しているのがよく分かる。暴れたかった。しかし神様を抱き締めると、クスリよりも頭がふわふわとして気持ち良い。腕からぷつぷつと這い出すのは神様の蛆虫か、はたまた俺の孑孒か。およそ適温である神の肉は驚くほど安堵を齎した。同時に枯れかけの涙腺をこじ開ける要因にもなった。
 罰当たり、罰当たり、罰当たり! 見えぬオーディエンスの中で、自分だけが神の死に巡り会ってしまった。排水溝にすら流れることのない半乾きの肉体だけが、好きにすればいいのだと囀っている。赦された気がした。赦されなくて結構だが、触れていると愛を施された心地になる。それが修羅のきっかけでもなんでもいい。愛と呼べるならそうしよう。今なら歌詞が書けそうな気がするが、ペンのインクは先月切れてしまった。曲を作ろうにもギターが遠かった。
 だから口遊む。賛美歌も鎮魂歌も聴いたことがないけれど、慰めてくれたお礼に魂の慰めになればと思う。俺は口笛が下手だった。鼻歌ですらチューニングが要るんじゃないか。神様に怒られるかもしれない。

「神様、神様って死んだら何処に行くんですか。それは僕も行けるところですか。おばあちゃんもいるところですか」

 反響する不細工な鼻歌を笑う者しかいなかったが、神を弔う浴室は快適だ。饐えた臭いがする頭部に鼻先を擦り付けながら、冷える半身を震わせた。
 ――××さん、いるんですか! アンタねぇ、今月こそ家賃を払ってくれないと追い出しますよ。いやどうせ此処は取り壊して新築のアパートにするんですけどね、アンタは入室拒否にしますよ! ××さん、××さん……。
 玄関の戸を叩く音がする。眠かった。死ぬなら今がベストだろうけど、俺は明日も死に損なって、神様に飴玉をあげたことを死ぬほど後悔するのだろう。だから今の内に死んでしまいたかった。できれば心がまともなうちに。どうせ生きてしまう明日を恨む前に。
 ああ、美味しいものでも食いたかったな。死ぬまで欲たかれの俺って、クソだせえ。そうは思いませんか、神様。

「お前には俺の肉がお似合いだよ」

 あ、神様って喋れるんだ。

Life's candy and...

Life's candy and...

夢に破れ、人生に破れた男の前に現れた死体は、浴室で静かに腐っていく。彼は死体を神様と呼んだ。まるで胸に刻まれた蝿の王だと、回らぬ頭で思う。

  • 小説
  • 短編
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