戸惑い

失ったものは二度と戻らない。

始まる為に終わることはあれど、終わる為に始まることはない。

僕は振り下ろす。


硝子細工の置物に振り下ろす。


ガシャンッ


それは死んだ。


色彩豊かな表情に、もう胸を打たれることはない。


僕は叩きつける。


フランス人形が踊るオルゴールを、力いっぱい叩きつける。


ガシャンッ


それは死んだ。


もう華麗な舞を見ることは叶わない。



僕は苦しくなる。


さっきまで自分の傍らにあったものが、儚くも簡単に散る様。


終末の美しさに魅入られていく。


僕は踏み潰す。


にこやかな表情で咲いている花を、重力に任せて踏み潰す。


それは死んだ。


もう、笑いかけてくる事はない。



僕はへし折る。


優雅に大空を舞う鳥の、一対の翼を。

それは死んだ。


もう羽ばたいて空に還ることは無い。


僕は突き刺す。


想い合った人のハートを、歓喜に弾むその鼓動を。


それは死んだ。


もう、その愛に触れることは出来ない。



僕は止める。


狂ってしまった僕、最後に見たのは紅い虹。
綺麗な綺麗な紅い虹。


それは死んだ。


もう何も壊せない。


もう何も感じない


もう何も見えない



もう・・・なにも・・・


・・・・・。

戸惑い

今回は喪失を題材に書きました。

少ない文字でもその印象を残せるように、多少表情を強烈にしました。

サイコパスか何かだと感じましたか?

いいえ、あなたの心にも潜んでいる感情です。

くれぐれもお気をつけて・・・。

戸惑い

短編集の一部として見てください。

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • ホラー
  • 青年向け
更新日
登録日
2012-10-11

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