屑籠の死骸
自堕落な日々を噛み、十分に擬似果汁味を知ったら紙に包んで屑籠へ投げる。しかし計算不十分な投擲は的を外し、渋々唾液塗れの不要物と化した物を拾って今度こそ目的地へ放り遣った。
丸めた原稿用紙、インキの失せた筆記具、使うに値しなかったフレーズ、そして新顔である噛み尽くした日常。動かず喋らずで僕の部屋よりも狭い空間で犇めく者達に向ける眼差しが孕むは或る種の哀れみ。屑籠に集められた死骸の息の根を止めたのは他ならず僕の手であり乍ら、息をしなくなった彼等に都会で溺死しかかっている己の心を重ねていた。このように悲観的視点でしか物事を見られないことが、抱えてきた自身の呼吸を奪われつつある何よりの証拠だ。
いっそ総て奪ってくれれば良い。誰の手でも構わない。天使だか悪魔だか実在の定かでない影であれ、希望に繋がる糸であるならば道端に生えた雑草だって構わない。此の心を、此の肉体を、静かに殺めて欲しい。のち、あの自堕落チューインガムと同様に誰ぞの手によってささやかな、そしてむごたらしい集まりの一員にしてもらえたなら、なんと望ましいばかりの結末なのだろう。
都合の良い想像も屑籠に棄ててやるべきだ。納得の行かないセンテンスよりも先に棄てる必要がある物体・事柄は僕の背後に、胸に、山積みとなって在している筈だ。ほろ、例えば、未だ屑籠にひしめく死体を視ている。さなかにて叶う見込みの無い夢を渦巻かせている。此の時間を、此の思いを、拳で握り潰し、漏らされる悲鳴も聞かぬふりであれ仲間入りをさせて仕舞えば良いものを。其れこそ単なる不要物、資源にすら成らない燃えないゴミだというに、何故剥ぎ取って棄ててやるだけの事が出来ないのか。
本来、塞ぐ気分は好きでない。好む者や酔っ払っていたい者も在るだろうが、生憎僕は其方の類いではない。だからせめてもの悪足掻きに、実態を持たない死骸に背を向けてヘッドフォンを装着する。緩やかな頭側部への締め付けは、間も無く鼓膜を通して此方を訪ねてくる快楽への期待を齎してくれる。じきに変わる。じきに何もかもを棄ててやれる。一寸した魔法に縋るべくして、ミュージック・スタート。ああ、ああ、おまえだけだ、信じていられるのは。鬱屈の時間から掬い上げてくれるのは。
屑籠の死骸