倭建命伝説【オトタチバナ姫編】④

Shino Nishikawa

倭建命伝説【オトタチバナ姫編】④
「タケル、おかえり。よく戻ってきてくれたな。」
城についたタケルに、シラギが言った。

「はい。重要なお役目をいただき、ありがとうございました。」

シラギの後ろには、兄弟たちが並んでいて、オホタラシヒコもニコニコとして立っている。

夜は、宴会だった。
「ヲウスも、立派になったのぉ。」
司がタケルに酒をそそいだ。
「いえ、まだ司様には叶いません。」

同行していたカマキリが言った。
「司様、ヲウス様は、ヤマトタケルに改名したのですよ。」
「ははあ、そうか。それで前と感じが違ったわけだ。」
「はい。クマソ征伐をした際に、弟のタケル様から名前をいただいたんです。」
「はははは!それはよかったなぁ!」

アオイとイオトが来て、カマキリに話しかけた。
「カマキリ、お前が敵を切り刻んだという話は本当か?」
「はい、本当でございます。私の鎌で、クマソタケルも、獅子オドロも、その他の化け物も全て、切り刻みました。」
「はは、こわいのぉ!」
アオイとイオトは、笑った。

タケルは少しだけ暗い顔をしていた。
シラギがタケルに聞いた。
「タケル、大丈夫か?」
「はい。兄さん、実は僕、まだ人を殺したことがないんです。」
「そうか。」
シラギは真剣な目で、タケルを見つめた。

「カマキリ、こちらに来なさい。」
オホタラシヒコがカマキリを呼んだ。

「はい‥。」
カメレオンに乗ったカマキリが、オホタラシヒコの前に出た。
「カマキリ、君はクマソタケルをはじめとする様々な化け物退治で、活躍をしてくれた。
何か褒美をやりたい。何がほしい?」
「王様‥。」
カマキリは、言葉をなくした。
「よかったな。」
カメレオンは、背中から降りたカマキリにささやいた。

「なんでもよいぞ。なんなりと申せ。」
「私が欲しい物は、私が住む森です。」

「あの森は、千年後の未来まで朝廷が管理し、守っていってほしい。それが私の願いであります。」
「わかった。お前が住む森を、千年後まで朝廷が責任を持って、管理することを約束しよう。」

「ははあ。」
カマキリとカメレオンは頭を下げた。

タケルはその光景を呆然と見つめた。
シラギはまだ何かを考えている感じだ。

一人の乙女が来た。
「あなたがタケル様ね?」
「あ、うん‥。」
「私の名前はオトタチバナよ。これから私達、結婚するの。」
「結婚っ?!」
「ええ。倭姫様が決めたことよ。逆らうことはできないわ。」
オトタチバナはニヤリと笑った。

司、アオイ、イオトは、その事を知っていたかのように、タケルを見た。
オホタラシヒコがタケルを呼んだ。
「タケル、来なさい。」
「はい。」
「その乙女は、穂積氏様の娘じゃ。これから結婚し、そして、お前たちはただちに、東国の征伐に向かってくれ。」
「ええ‥。」
「お前は、倭国の王にふさわしい男だ。さらに強くなって、戻ってこい。」

タケルは少し暗くなって、考え、言った。
「御意。オトタチバナ姫と結婚し、すぐに東国征伐に向かいます。」


次の日、出発するタケルに倭姫は話しかけた。
「あなたの結婚を勝手に決めてしまい、ごめんなさい。天皇は私に死ねとお思いなんですよ。」
「母上、そんなことはありません。」
「いえ、そうですわ。タケル、この草薙の剣を持って行きなさい。それから‥、この袋を、困った時に開けるように。」
「ありがとうございます。」

オトタチバナ姫は、他の姫達と話している。

シラギが話しかけた。
「タケル、あの鏡は持ったか?」
「はい。持ちました。」
「俺はいつでも、お前の味方だ。」
「シラギ様、ありがとうございます。」

司が言った。
「お前も立派になって。」
「いえ、まだまだです。」

ルルズが来て、タケルの肩をつかんだ。

「きゃぁ!」
タケルはオトタチバナをつかみ、ルルズに乗せた。

「タケル様ー!!我々もお供致しますゆえ!」
カマキリとカメレオンがまた飛んできて、ルルズに乗った。
「ありがとう、心強いよ。」
「また、お役に立てます。」
カマキリは鎌を構えた。


伊勢、尾張を経て、タケル達は相武国に到着した。
相武国の者たちは火をたいて踊り、タケル達を歓迎した。

国造の執事がタケルに言った。
「これはこれは。ヤマトタケル様、お越しいただきありがとうございます。」
「いえ、当然の務めですから。」

タケルの後ろから、オトタチバナが顔を出した。
「おや、こちらの女性は、ヤマトタケル様の奥様ですか?」
「あ、はい、そうです。」
タケルは答えた。
「なんと美しい。ぜひ、奥様も一緒に、国造様にお会いしてください。」

国造は王座に座り、タケルとオトタチバナはひざまずいた。
「ヤマトタケル、ぜひともその顔をあげてほしい。」
「はい。」
「あなたに頼みがあります。」
「なんなりと聞きましょう。」
「この国の悪い神を退治してほしいのです。」
「御意。明日の晩にでも、決行致しましょう。」


国の者達は、松明を持ち、見守っている。
オトタチバナは言った。
「私も行くわ。」
「ダメだ、来るな。」
「では、ルルズに乗って空から見守るわ。」
「うん。わかった。」

「ルルズ!」
オトタチバナはルルズを呼んだ。
「そんなんでルルズが来るかよ‥。」
タケルはつぶやいたが、ルルズは来て、オトタチバナを空へ運んだ。
「嘘だろ‥。」

「タケル様、我々はお供致しますゆえ。」
カメレオンとカマキリは、タケルの肩に乗った。
「うん、頼んだぞ。」

タケルは野に入り、悪い神を探した。

「何か悪い予感が致しますゆえ。」
カマキリは言った。
「当然だろう。今から悪い神を退治するんだから。」

パチパチパチ‥
誰もいないはずの野が突然燃え始めた。
「わああ!」

すぐに炎に囲まれてしまった。
前を向くと、そこにいたのは、国造だった。
「まさか、あなたが?」
タケルが聞くと、国造は答えた。

「私は天皇家を滅ぼし、この国の王になるつもりだ。」
「天皇家を滅ぼすなど、不可能だ。皆が呪術を持っている。」
「そうか。でも、貴様には、呪術がないと聞いた。」
「たしかに、そうだ。俺には呪術が効かない。」

「呪術がない王など、聞いたことがないわぁ!!」
国造は、炎を出した。
呪術が効かないタケルも、炎には叶わない。

「タケル‥!!」
ルルズに乗ったオトタチバナは、空から心配そうに見た。

タケルは、焦ったように、衣から、倭姫の袋を出した。
「これで‥。」


国造はタケルに襲いかかってきたので、タケルは草薙の剣で応戦した。

そして、火花を国造の目に当てたすきに、野の草に火をつけた。
倭姫がくれた物は火打ち石だったのだ。
タケルは草薙の剣で、炎を国造に向け、国造を倒した。

「切り刻みますか?」
カマキリは聞いた。
「いや、待て。」
炎に包まれた国造はこちらに向かってきたが、少しすると倒れてしまった。
黒焦げの国造を見て、タケルは立ち去ろうとした。

カシャ
黒焦げの国造は少し手を動かしたので、カマキリは振り向いてジッと見た。

「あっ。」
「ダメだ、やめろ!」
カマキリはカメレオンから飛び降り、国造を切り刻んだ。

終えたカマキリを、タケルはジロリと見て、肩に乗せた。
カメレオンを抱き、ルルズにつかまれた。


蝦夷を征伐するため、タケル達はさらに東に入った。

オトタチバナは言った。
「この先に、私の家があるの。よければ、寄っていかない?」
「ああ。いいぞ。」
「あはは、よかった。ようやく布団で一緒に寝られるわね。」
「いや、俺はそんなことはしない。」

「ルルズ、あの赤い旗があるお家に下ろしてくれる?」

「ありがとう。」
オトタチバナとタケル達は、家の前に降りた。

「ん?」
家の前の道を掃き掃除していた男が、タケル達を見た。
オトタチバナは言った。
「お兄様!」
「オトタチバナ、戻ってきてくれたのか?」
「ええ。ヤマトタケル様と結婚したの。」
「そうか、おめでとう。」

タケルはオトタチバナに聞いた。
「この方は、お前のお兄様か?」
「ええ、そうよ。お兄様のツルギ。」
「ツルギ?」
「ええ。だから、お兄様がツルギなの。ツルギがお兄様よ。」

「はあ‥。」
「はは。タケル、俺の名前は、ツルギだ。だからそう呼んでくれ。」
「わかりました。」

「タケル様のお供をしております、カマキリと申します。」
「カメレオンです。」

「よろしくな!」
ツルギは笑った。

晩御飯を盛りながら、オトタチバナは、出かけようとしているツルギに聞いた。
「あら、食べないの?」
「うん。俺、乙女の家に行ってくるから。」
「そう、楽しんで。」

「お兄様は思い人のお家に行くって。はい。」
「あ、うん。」

タケルは猫のように、音を立てて食べた。
オトタチバナはタケルをじっと見た。雨が降り出している。

「ちょっと窓を開けてもいい?」
「なんで?」
タケルは聞いたが、オトタチバナは顔をしかめ、窓を開けた。
タケルは言った。
「雨が降っているから、寒いじゃないか。」
「でも、あなたの食べる音が不快だから。」
「はぁ?こんなの普通だぞぉ。」
「いいえ。今まで外で食べていたから気づかなかったけど、あなたの食べ方、すごく汚いわよ。」
「気にしすぎだ。」
タケルは窓をしめた。
カメレオンとカマキリも、2人の様子を見守った。
「不快だわ。」
「じゃあ、離縁するか。」
タケルは食べ続けた。

タケルとオトタチバナは、結局、別々のわらの布団で眠ることにした。
「はぁぁ。」
タケルはため息をつき、眠りについた。

「キスしたことある?」
「ええ‥。」
家の中で、タケルはオトタチバナに迫られ、壁に追いやられた。
「キスする時は、こうするのよ。」
オトタチバナにキスされそうになり、タケルは起きた。

「はぁはぁ。夢か‥。」
タケルは、オトタチバナから布団を遠ざけた。

タケル達は、ツルギにお別れを言った。
オトタチバナはツルギに抱きつき、言った。
「お兄様。私、タケルのためなら、死ぬこともできるわ。」
「そうか。でも、気をつけろ。俺は、お前に死んでほしくない。」
「ええ。わかったわ、気をつける。」

ルルズに乗ったタケル達が、走水を渡ろうとした時、大嵐が襲った。
ルルズはうまく飛ぶことが出来ず、今にも海に入りそうだ。
「頑張れ、ルルズ‥。」

オトタチバナは悲しそうに海を見つめた。
その姿を、カメレオンとカマキリも悲しそうに見つめた。
オトタチバナはつぶやいた。
「海の神様、どうか、この国の王様のために、気を鎮めてください。」

「さよなら、タケル。」
「オトタチバナ!」
オトタチバナは海に飛び込んだ。

『神様、この方ならきっと、この国の民をお救いなさいますわ。』
オトタチバナは泡と共に、海に沈み、海の神の怒りは鎮まった。


ルルズは真剣な目でまっすぐに飛び、タケル達を陸に運んだ。
タケル達を降ろすと、また海へ戻り、オトタチバナを探した。

「あっ。」
波は、オトタチバナの櫛だけを、タケルに運んできた。
オトタチバナは、海の神の物となったのだ。

「オトタチバナ‥。」
タケルはその櫛を懐にしまった。

タケルは東国の蝦夷を平らげた。
タケルが太刀の背で蝦夷を倒し、カマキリが切り刻んだのだ。

西に向かって帰る途中、ルルズは足柄峠にタケルを降ろした。
タケルは東を振り返り、「吾妻はや!」と三度叫んだ。

吾妻はやとは、わが妻よという意味である。

倭建命伝説【オトタチバナ姫編】④

倭建命伝説【オトタチバナ姫編】④

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 冒険
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted