倭建命伝説【旅立ち編】②

Shino Nishikawa

倭建命伝説【旅立ち編】②
「ヲウス。お前に頼みがある。」
オホタラシヒコは言い、ヲウスは膝まずいた。
「はい、なんなりと。」

「九州を支配しているクマソタケル兄弟を、討ち取ってきてほしい。」
オホタラシヒコは言い、兄弟たちは息を飲んだ。

「何か恨みでもあるのですか?」
ヲウスは聞いた。
「ホデリの子孫、隼人と同じく、朝廷の言う事を聞かないのだよ。
本当に困っている。征伐してくれ。」

父の目の奥に光るものを感じたヲウスは、言った。
「御意。明日にでも、出発致します。」

荷造りをするヲウスの部屋に、シラギと司が来た。
「一人で行けるか?」
「はい。」
ヲウスには、本当は少し不安な気持ちがあった。

「はああ。」
シラギはヲウスの前に座った。
「無理をしなくていいぞ。」
「俺‥大丈夫です。ちゃんと一人で行けます。」

シラギは衣から、鏡を出した。
「これを持って行け。困った時にこれを見てくれれば、すぐに俺が助けるから。」
「ありがとうございます。」

立ち尽くしていた司は、腰につけた太刀をとった。
「この太刀をお前にあげよう。以前、街の鬼退治に使った物だ。」
「え‥。」
「少し重いかもな。」

ヲウスは太刀を両手で持った。
「ありがとうございます。」
「いいんだ。頑張れよ。」

「おっと。」
司が部屋を出ようとした時、アオイとイオトが来た。

2人とも、手の甲の中指まで、愛の魔法が描かれていた。
2人はヲウスの手をとった。
「ヲウス、俺たちはいつでもお前のことを想っている。」
「きっとヲウスならできるよ。」

「ありがとうございます。」
ヲウスの腕には青と黒の腕輪がはめられていた。

司とイチは、司の黒い布団で、2人で会っていた。
「イチ、愛している。」
司はイチの上に乗った。
「ええ、ありがとう。」
イチは司をおろした。
「なんで。」
「ヲウスが明日、旅立つのに、私たちこんな事をしていていいのかしら?」
「ヲウスなんて関係ないさ。」
司はイチの手を握った。

「俺はいつも、イチのことだけを考えている。」
司はイチに覆いかぶさり、もう一度キスをした。

司がイチの手を握りなおすと、2人は暗い場所に落ちてしまった。
そこは2人だけの宇宙で、誰も助けることはできない。

次の日の朝、兄弟みんなが見送りに出た。
オホタラシヒコはヲウスに手を伸ばし、
「父上。」
ヲウスはオホタラシヒコに抱きついた。

「ヲウス、御衣と御裳です。持って行きなさい。」
倭姫が渡した。
「ありがとうございます。」
ヲウスは肩掛け鞄にしまった。
「気をつけて。」
「はい。」

ルルズが来て、爪でヲウスの肩をつかんだ。
「ヲウスー!!」
「ヲウスー、頑張ってー!!」
兄弟たちが叫んでいる。

キューン
「あ‥。」
タヌキの親子の声がしたので、ルルズとヲウスは振り返った。
「行ってくる!!」
ヲウスは大きく手を振った。
他の動物たちも見上げている。

「行こうか。‥わぁっ!!」
ヲウスとルルズが前を見た時、何かが飛んできたので、ルルズはバタバタと大きく動いた。
「ルルズ、落ち着け!!」
クワァー
飛んできた物は、カマキリとカメレオンだった。
「我々も、お供致ししますゆえ。」
「お前たちはついてこなくていいよ。」
「ヲウス様の初めての遠征です。何か起きたら大変ですから。」
「こっちのセリフだぞ。お前たちがどうなっても知らないからな。」
「覚悟はできております。」

ルルズの背中に乗ったヲウス、カマキリ、カメレオンは、クマソタケルの館を目指した。

「ありがとう、ルルズ。」
クマソタケルの館の前に、ヲウスとカマキリとカメレオンを下したルルズは、大空に飛び立った。
「青空に敵はいない。いたとしても己のみだ。‥ここが、クマソタケルの館か。」
「立派なお屋敷ですね。」
「うん、どうやって入ろうか。護衛が‥幾重にも取り囲んでいる。」
「うーん。」

「うっ、いたたた。」
カマキリが腹を抑えた。
「大丈夫か?突然どうした?」
カマキリは何も言わず、前を見た。
「ん?‥ああっ。乙女だ‥。」
そこには、前に森で見た乙女が立っていた。
行こうとする乙女に、ヲウスは声をかけた。
「待って。君はこの館の人かい?」
「いいえ。私の名はミヤズ。天孫族の末裔よ。」
「天孫族だと?では、僕と君は親戚だ。僕の名はヲウス。天皇家の人間だよ。」
「私の名前は見ての通り、カマキリです。」
「僕の名前はカメレオン。よろしく。」
「まぁ、なんて可愛らしいの。よろしくね。」
ミヤズは言い、ヲウスも笑った。

歩きながら、ミヤズが聞いた。
「あなた達は、クマソタケルを征伐しに来たのね?」
「ああ、そうだよ。君はなんでいる?」
「姉がクマソタケルにさらわれたの。助けたいのよ。」
「そうか。君も、同じだったんだな。」
「ええ。」

「でも、どうやって入ろうか?」
「今晩、宴があるの。そこに遊女として紛れ込めれば、クマソタケルを殺すことができるはずよ。」
「遊女?」
「あら、そんな言葉も知らないのね。」
ミヤズはヲウスをにらみ、カマキリが言った。

「遊女は、男と悪い遊びをする女のことです。」
「そうか、それなら、ちょうどいいな。」
ヲウスは言った。

「今晩、私がクマソタケルを殺すわ。」
「君が?無理に決まっているだろう。僕が行くよ。」
「でも‥。」
「遊女のふりをする。」
ヲウスはニヤリと笑った。
「それじゃ私の服を着て‥。」
ミヤズは服を脱ぎだした。
「わぁぁっ。」
「おおっ。」
ヲウス、カマキリ、カメレオンは驚いた。

「いや、いいよ。母上から、衣をもらってきたんだ。」

「これで、いいだろう?」
「ヲウス様、完璧な遊女であります。」
「なんと、美しい。」

「な、遊女に見えるか?」
「ええ、とてもきれいよ。」
ミヤズは笑った。

「我々も一緒に行きます。」
「うわぁっ!」
カマキリとカメレオンは、ヲウスのスカートの中に入った。

「ふふふ。」
「ミヤズ、君はルルズと一緒にいろ。」
「え?」
ピュー
ヲウスは口笛を吹き、ルルズを呼んだ。
夜空から、大きな影が舞い降り、ミヤズの肩をつかんだ。
「ああっ。」
「空は安全だ。」
ヲウスは手を振り、壁を上に走り、飛び越えた。

「ちょっと待って。」
ルルズはミヤズを背中に乗せ、館の上をゆっくりと飛んだ。
「でも‥ちょうどいいわ。」

「姉さん。」
ミヤズより髪色が明るい姉はクマソの隣にべったりとくっついている。
「許せない。」
ミヤズは言った。

「いったぁ‥。」
庭で、遊女姿のヲウスが足をくじいたふりをすると、男が来た。
「遊女、大丈夫か?」
「ええ‥。」
「一体、どうしてこんな所に。」
男はヲウスを立ち上がらせた。
「クマソ様に、小便は庭でしろって言われたの。そしたら、足をくじいちゃって。」
「庭で小便を‥?」
「ええ。」
「おかしいな、便所なら他にあるのに。」
「そうよね、私、クマソ様ともう一度話すわ。連れて行ってくれる?」
「ああ、もちろんだ。」
ヲウスが男を色っぽく見つめたので、男は少し赤くなった。

「君、名前は?」
男はヲウスにたずねた。
「私の名前は、ヲミズよ。」
「そうか。変わった名前なんだね。」
「ええ、そうなの。」

「ここが、クマソ様の部屋だよ。」
男が障子を開け、ヲウスはのぞいた。
クマソが、女達に囲まれ、友人と酒を飲んでいる。
「ここまで、ありがとう。」
「ううん。」
男が笑った。

「クマソ様、私とも話して。」
ヲウスはクマソに上目使いをした。
「ん‥?誰じゃ、お前。」
「私の名前はヲミズよ。」
「ヲミズ‥。変な名前やのぉ!」
クマソは笑った。
「そうかしら?私は気に入っているわよ。クマソ様の名前。」
「アハハ!変な娘が来たぞぉ!」
宴は盛り上がった。
ヲミズがクマソから離れた時、カマキリとカメレオンが顔を出した。
「ヲウス様、アイツを殺せそうですか?」
「相手はヲウス様を気に入っておられる。一緒に布団に入らないかと誘ってみたら?」

「アイツと一緒に布団に入るだと?絶対に嫌だ。」
「でも、それなら簡単に殺せるから。」

「うん‥。」

「短剣で心臓を一突き。」
カマキリがヲウスに囁いた時、
「ヲミズ!こっちに来い。」
クマソがヲウスを呼んだ。

ちょうど、クマソが誰と今晩一緒に寝るか選んでいる所で、ミヤズの姉カエデは嫌そうにクマソから離れたところだった。

「何?」
「俺は、今晩、お前と一緒に寝たいと思っている。」
「私もよ。嬉しいわ。」
ヲウスは笑った。

手をつなぎ、廊下を歩く。
「ちょっと、お化粧を直してきてもいい?」
ヲウスは言った。
「充分、綺麗だが‥、よかろう。」
「ありがとう。」

ヲウスは駆け足で、廊下の影に隠れた。
短剣を取り出し、胸をおさえた。
「大丈夫ですか、ヲウス様。」
「人を殺すのは初めてなんだ。」

「ヲミズ。」
「はっ。」
突然、何者かに背後から抱きしめられ、ヲウスは振り向いた。
その人は、先ほどの男である。
「ヲミズ、そんなことはやめろ。」
「でも‥。」
「兄様は悪党だ。だから、僕と付き合え。」

カマキリとカメレオンは、夜空を見上げた。
ルルズに乗ったミヤズがこちらを見ている。
男はヲウスをまた抱きしめた。
「俺の名は、タケル‥。」

『ヲウス様、あとは、私達にお任せください。』
カマキリとカメレオンは、クマソの下へ向かった。

ルルズに乗ったミヤズは、目をつぶり手の前で三角を作り、目を開け、念を込めた。

「はああ。」
ヲウスは気を失ってしまった。

霊となったヲミズは、クマソの下へ向かう。
カメレオンはカマキリを乗せ走り、カマキリは鎌を構えた。

「おお、ヲミズ、来たか。遅かったのぉ。」
「ごめんなさい、綺麗にしたかったものだから。」

霊のヲミズはひとしきり、クマソを楽しませた。
いよいよクマソが服を脱いだ時、カメレオンに乗ったカマキリが突進し、
クマソを切り刻んだ。
ルルズに乗ったミヤズは、三角を顔の前で作ったまま、顔をゆがめた。
カマキリがしていることと、ヲミズがしていることが、かぶっていく。

「これで征伐は完了です。」
カマキリは言った。


縁側では、タケルがヲウスを膝枕していた。
タケルはヲウスの上半身にふれ、胸がないことに気づいた。
「まさか、男か?」
タケルは服をめくり、男だということを確認した。
「なんてことだ。‥でも、こんなに綺麗だ。君が女でなくても、俺たちは愛し合える。」

タケルの下へ、カメレオンに乗ったカマキリは向かい、切りつけた。
「ああっ。」

「ヲウス様から離れろ!!」
カメレオンはタケルを倒した。
そして、カマキリはタケルの尻を一突きした。
「ううっ‥。」

カマキリは瀕死のタケルを見た。
「この方は女ではない。この方の名はヲウス。またの名をヤマトヲグナ。」
タケルは、最後の力をふりしぼり、ヲウスの手をとった。

「美しい方だ。僕の名前をあげよう。今日からあなたの名前は、ヤマトタケル。」
その瞬間、カマキリは目を見開き、タケルをずたずたにした。

「カマキリ、大丈夫か?」
カメレオンは言い、カマキリは立ち尽くした。

「ヲウス様!!」
ルルズが降りて来て、ヲウスとカマキリとカメレオンをつかんだ。

霧雲の中をルルズは飛ぶ。ヲウスはまだ寝ている。
「クマソをちゃんと征伐できた?」
ミヤズは聞いた。
「ばっちりです。私の鎌でばっさりと切り刻んでやりました。」

カメレオンは聞いた。
「お姉様は迎えにいかなくてもいい?」
「ええ、姉には仲間がいるから、きっと大丈夫よ。」
「そう、よかった。」

「ルルズ、この辺りで降ろしてくれる?」
「もうお別れなんですか?タケル様がまだ起きていないのに。」
カマキリは言った。
「ごめんなさい。でも、また会えるわ。」
地上1メートル付近で、ミヤズはルルズから飛び降りた。

「さようなら、ミヤズ様!!」
「ん‥、ミヤズッ?!」
ヲウスはやっと起き、ルルズから見下ろした。

「ミヤズー!!必ずまた会おう!!」
ヲウスは大きく手を振り、ミヤズも振り返した。

「クマソは?!」
「私が切り刻みましたよ。」
「そうか、よかった。」
ヲウスは胸をなでおろした。

「それから、今日から、あなたの名前は、ヤマトタケルです。」
「ヤマトタケル?なぜだ?」
「あなたを愛した男が申しておりました。」
カマキリはすまし顔で言った。

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