倭建命伝説【オホウス編】①

Shino Nishikawa

倭建命伝説【オホウス編】

「はぁはぁ。」
一人の青年が青い獅子に乗り、走っている。
後ろを見ると、松明の炎がゆらいでいた。
青年はまた前を見て、走り始めた。

松明の炎が見えない場所まで来ると、青年は水牛によく似た獅子から飛び降りた。
一回転して、うまく着地した。
「大丈夫だ。もう見えない。」

そして、水牛に水を飲ました。
「かわいそうに。ここには、化け物などいないのに。」
ふふ、青年は水牛をなでた。
しかし、後ろに化け物が迫っていた。
「ひぃぃ。」
青年は息を飲んだ。

化け物は牙を向いた。
水牛は逃げようとしている。
「ちょっと待て!」
青年は水牛につけた太刀をとった。

シャー‥化け物は牙を向いている、
青年と化け物は向かい合い、青年は太刀で化け物を真っ二つにした。

『倭建命伝説』

「ヲウス、大蜘蛛退治、ご苦労だった。」
王座に座った、父のオホタラシヒコは言った。

隣の席に座った母の倭姫が言った。
「ヲウスはまだ13歳だというのに、本当に立派だわ。」

「いえいえ。大蜘蛛退治など、たやすいことでした。
僕でよければ、いつでも申し上げてください。」
ヲウスは言った。

ヲウスはお辞儀をして、部屋から出た。
「ひっ。」
ドアの前に、オホウスとシラギ兄様が立っていた。

ヲウスは、2人を無視して、廊下を歩きだした。
オホウスは聞いた。
「それで?お前がどうやって、あの化け物を倒したんだ?」

ヲウスは立ち止まって、顔をしかめて言った。
「俺に聞くな。シラギ兄様なら分かるけん、シラギ兄様に教えてもらえ。」

シラギは口を開いた。
「それが私にも分からないのだよ。お前がなぜあんな事をしたのか。」
すると、ヲウスはしかめ顔で下を向いた。

「化け物の亡骸に、なぜ、クソをかけた?」
シラギは尋ねた。
「ええ?お前、それは最低だぞぉ。」
オホウスは言った。

「仕方ないやろがぁ!もう二度と起きてほしくなかったけん。」
ヲウスは走り出した。
「おい、ちょっと待てや!!」
オホウスは言った。
ヲウスは、5階ほどの高さから飛び降りた。

「わあ!」
すると、下には大鷲が来ていて、ヲウスを乗せて飛んで行った。
「あっ‥。」
「ヲウスはいい男になる。もたもたしていると、良い女は持って行かれるぞ。」
シラギは言った。

大鷲の爪に持たれたヲウスは、木の枝に飛び降りた。
大樹の穴には、タヌキの親子が巣を作っていた。
「お前たち元気か?」
ヲウスは声をかけ、タヌキの親子は可愛い目でヲウスを見た。
「何かあったら、すぐに俺に言え。」

ヲウスは大樹から降りながら、タヌキの親子に呼びかけた。
「それからさぁ、お前たち‥。」
タヌキの親子は出て来て、ヲウスを見降ろした。
「大鷲のルルズには気をつけろよ。お前たちなんか、簡単に食われちゃうからな。」

「ふぅ。」
ヲウスは地面に着地し、服を払った。

クワァー
大鷲のルルズの声が鳴り響いている。
「あいつもただの鳥なんだからさ。」
ヲウスは言った。

王の部屋には、兄弟たちが集まっていた。
「オホウス。」
「ひっ。」
オホタラシヒコが兄のオホウスを呼んだので、ヲウスはシラギの衣の影に隠れた。

「オホウス。今日はお前に頼みがある。」
「はい、なんなりと。」
オホウスは膝をついた。

「美濃の国に、エヒメとオトヒメというとても美しい姉妹がいるらしい。
ぜひともお会いして、天皇家に迎えたい。2人をここまで、連れて来てくれないか?」
「御意。すぐに出発します。」

「頑張れよ。」
次の日、シラギが荷物をオホウスに渡した。
「大丈夫だ。戦に行くわけじゃない。」
「兄様、綺麗な姫君を、楽しみにしておりんす。」
ヲウスは、オホウスに抱きついた。
「あはは、真っ先に俺が会う。」
「先に食ってはならぬぞ。」
シラギが静かに言った。

「では!!行ってまいる!!」
オホウスは、水牛に乗り、旅立った。
天皇一家はオホウスに手を振った。

「兄様ー!!」
ヲウスは駆け出した。
「ヲウス追いかけるな!!」
「そっとしておけ‥。」
オホタラシヒコが言った。

ヲウスは大樹に登り、オホウスの姿を見守った。

「姫‥。」
夜、オホウスは目を赤くし、バケモノに変身した。
クゥン‥
バケモノになったオホウスは、水牛から飛び降り、両手両足をつかって獣のように地面を走った。
「姫‥。」
二人の姫の城が見える所まで来たオホウスは、立ち止まり、人間の姿に戻った。
バタンッ
オホウスはその場で寝てしまい、水牛は、オホウスの体に鼻をつけて心配した。

オホタラシヒコの子供たちは80名もいる。
とても美しい姫も何人かいるが、もう思い人がいる。
「はぁ‥。」
ヲウスは首をふり、授業に集中した。

エイヤー!!エイヤー!!
剣の授業もある。
年上の司(つかさ)は、剣がとても上手く、高く飛んで技を見せた。
「わぁ、すごい。」
「誰か、相手になれ。」
司は言った。
「ええ‥、司様となんか無理だよ!!」
「ヲウス、貴様は弱虫だ。」
「何を言う、俺は大蜘蛛を退治したんだぞ!!」
「大蜘蛛など、イチでも倒せる。」
司は彼女のイチ姫を指し、
「そんなことないわ、ヲウスは強くなったもの。」
イチ姫はにっこり笑って言った。

ヲウスと司は向かい合った。
「うおおおお!!」
ヲウスは走ったが、司のジャンプには叶わなかった。
「ああ‥。」
「やっぱり、お前は弱い。」
司はニヤリと笑った。

「年下に本気になってはならぬ。」
シラギは静かに言った。
「本気になってやらなければ、こいつは強くなれない。
いいか。ヲウス、お前は跡取りだ。」
司は、ヲウスを倒した。

シラギは言った。
「だけど、司は、皇位継承権を持っていないではないか。」
「うん、そうなんだよ。だから俺たちは教育係ってわけだ。」


オホウスは、髪を結い、綺麗な服に着替えて、城の扉をたたいた。


「では、行ってまいります。」
姫君は水牛に乗り、天皇家に向かうこととなった。
オホウスは歩いて、水牛をひく。
キリリとして前を向いたオホウスは、ニヤニヤとして、目をだらんとした。

エヒメが聞いた。
「大和まで、どれくらいかかりますの?」
「普通の人間なら、歩いて3日はかかる。でも、僕は呪術が使えるんだ。
1日でつくだろうな。」
「へええ、どのような呪術を?」
「まず、そんなに眠らなくていい。」
「眠らない?眠らなければ、私達、死んでしまうわ。」
「あはは、大丈夫。眠らないのは僕だけだ。」

オホウスは、姫二人を水牛に乗せ、のどかな山道を歩き続けた。
夜、姫が寝たので、呪術で姫が水牛から落ちないようにした。
山の中の池まで来ると、オホウスは寝ている姫を水牛から降ろし、抱きしめた。

昼間、姫二人のあまりの美しさに手放したくなくなったオホウスは、二人に呪術をかけ、木のベンチに座らせた。
そして小石に息を吹きかけ、そこそこ美しい偽物の姫を作った。
オホウスは旅立とうとするが、姫二人をそのままにはさせておけないので、
呪術で植物を生やして隠し、飛んでいた美しい蝶を、二人を守るための狼に変身させた。

しばらく歩いて、オホウスは、歩きながら自分の体から幽体離脱をした。
正確に言うと、本物の体が抜け出たのだ。
そして、急いで、姫の下へ向かった。


「ほら、木の実持ってきてやった。」
朝、ヲウスは大樹のタヌキの親子に会いに行った。
ドサッ
地面に降り、ヲウスは森の中を颯爽と歩く。
「おはようございます、ヲウス様。」
空飛ぶカマキリが、ヲウスに言った。
「おはよう。」

野ウサギたちが、不思議そうにヲウスを眺める。
カマキリが聞いた。
「ご機嫌がよろしいようで。何かいい事でも?」
「ああ。もうすぐ兄様が、美しい姫君を連れて戻ってくる。楽しみじゃ。」


偽のオホウスが、城の前に現れた。
「おお~!!」
兄弟たちは拍手し、偽のオホウスは、オホタラシヒコにお辞儀をした。
「なんて、美しい姫君だ。」
兄弟たちは言った。

オホウスは、キリリとした目で、姫二人に言った。
「名前を申せ。」

「エヒメです。」「オトヒメです。」

「あはは、可愛いなぁ!」
ヲウスが言うと、前にいた司とシラギがじろりと見た。
「なんじゃ?可愛いと思わないのですか?」
「さぁ、まだ会ったばかりだ。それに、どんなに美しい女でも、俺のイチ姫には叶わない。」
「そうですか。」
「ああ。俺とイチは、結ばれた関係だ。心だけでなく、体まで。」
司が言うと、シラギが司を小突いた。
「子供にそんなこと‥。」
「教えなきゃ。こいつだって、いずれ経験する。‥もうすぐかもしれない。」
司が言い、ヲウスはすまし顔をした。

城に戻りながら、ヲウスが聞いた。
「それって、やって良い事なのですか?」
「ダメだ!!」
シラギが怖い目で睨んだ。
「まず、やる時は、俺に相談しろ。」
「分かりました。」

宴会が開かれ、終盤、オホウスは渡り廊下から、景色を見ていたので、ヲウスとシラギは駆け寄った。
「兄様、道中どうじゃった?」
「なんだ。」
「姫君と何か話しましたか?」
「無礼な。俺はもう行く。」
「え?」
オホウスは冷たい目で言ってしまい、シラギは何かに気づいたように景色を眺めた。

次の日も、姫二人は、兄弟の授業に参加したり、休み時間には羽根つきをしたりした。
夜、寝る前の団らんの時間。
お調子者のテルが、裸芸を見せたりした。

天皇家の姫達が、エヒメとオトヒメを見て、こそこそと話している。
「なんや、お前たち、こそこそと話して。」
ヤタが言うと、天皇家の姫達は、少し笑って睨んだ。

姫のトビイが、立ち上がって扇子を手に持った。
嫌な感じで笑っている。何か術を始めるようだ。

「お前、何をするつもりだ?」
「ふん。」

イチが言った。
「トビイお姉様、失敗したら大変なことになるわ。」
「はぁ。」
トビイは一瞬ためらったが、すぐに目をしっかりさせ、エヒメとオトヒメに呪術をかけた。

「ああ!」
「ええ?!」

「うわっ。」
ヲウスはシラギの後ろに隠れた。

エヒメとオトヒメが小石に戻ったのだ。

「きゃあああ!!」
姫達は叫び声を上げた。

トビイはオホウスに扇子を向けた。
「兄様には止めてくれ!!」
ヲウスは叫び、「オホウスッ。」さすがのシラギも衣で口を隠し、立ち上がった。

「止めるわけにはいかないわ。」
トビイは言い、オホウスに呪術をかけた。
オホウスは薄ペラになり、消えてしまった。
「ああ!」
シラギは部屋から出て、渡り廊下から飛び降りた。
「シラギ兄様!!」
ヲウスが飛び降りると、ルルズが来た。ルルズの巣は、渡り廊下の下にあるのだ。
シラギは鳥人間に変身し、飛び立った。

「やっぱり、オホウスは裏切りました。ほら、これを見てください。」
次の日、アオイは、オホタラシヒコに小石を見せた。
姫達はバツの悪そうな顔をしている。

倭姫とオホタラシヒコは小石を見た。
「まぁ‥。」
「エヒメとオトヒメは、小石だったと?」
「はい。トビイが呪術を使ってあばきました。」
アオイが言うと、トビイは別の方向を向いた。
オホタラシヒコは言った。
「トビイ、呪術が上達したようで、よかったです。」
トビイは一瞬照れた感じにしたが、すぐに別の方向を見て、つんとした。

「シラギ兄様とヲウスが、オホウスの下に向かっています。ですが、僕らも行ってもいいですか?」
アオイとイオトは手をつないだ。
「よかろう。」

2人は、青い鳥と黒い鳥に変身して、行ってしまった。
王座に風が吹き、残された兄弟の機嫌はまだ悪かった。

ヲウスはルルズの背中から、シラギは目を光らせ、オホウスを探した。
「はっ。」
シラギは、オホウスの衣が干してあるのを見つけて、下に降りた。

「あそこか‥。」
「ありがと。」
ルルズはヲウスを降ろし、大空に再び羽ばたいた。

シラギは衣を持って、立ち尽くした。
「兄様ー!!」
ヲウスは大声で探した。

シラギは静かに歩いて、花びらが落ちている場所に、よれよれの蝶の死骸を見つけた。
シラギは、手の平に蝶を乗せ、息をふきかけ、生き返らせた。

ザッザッ
シラギは右に怪しい場所を見つけ、目を少しとがらせ歩いた。
「ん?」
ヲウスはシラギの下に駆け寄った。

シラギは急いで植物をはらい、戸を見つけた。
「ここにいるのか?」
ヲウスは聞いた。
「わからない。開けてみよう。」

ちょうど、アオイとイオトも到着した。
2人は青と黒の布を持って、ふわりと地面に降りた。

「オホウス!!」
シラギが戸を開けると、そこには、オホウスと姫君が寝ていた。

「大丈夫か、姫様!!」
ヲウスがエヒメの肩をさわり、ゆすると、
「んん?」
「わぁ!!」
エヒメが気づき、布団がずり落ちると、裸だったような気がして、ヲウスはたじろいだ。

「ん?」
オトヒメのおでこをなでていたシラギは振り向いた。
「このバカたれ!」
ヲウスは、寝ているオホウスを蹴った。

「どうした?」「大丈夫か?」
アオイとイオトが顔を出した。
「アオイ、イオト、来てくれたのか?」
シラギは言った。
「はい。心配だったものですから。」
「ちょっと待って。今、服を着せるから。」

すぐに、呆然とした姫二人が出てきた。
アオイとイオトは聞いた。
「大丈夫か?」「酷い事されてない?」
姫二人は、呆然とうなずいた。

「オホウス、早く出ろ。」
「兄様、しっかりしてくれや!!」
シラギとヲウスに支えられ、よれよれのオホウスが出てきた。

アオイとイオトが駆け寄った。
「姫君に何をした?!」

「別に何も。三晩ほど、一緒寝ただけだよ。」
「ふざけるなよ!」
イオトがオホウスの頬をぶった。

「まぁまぁ、あとは父上にまかせましょう。」
シラギは言った。
「姫君は帰らせる。」
そこには、呪術で出した水牛が待っていた。

「はぁ‥。」
その後、城に連れ戻されたオホウスだったが、一人で物思いにふけることが多くなり、
授業や食事に出ないようになった。
シラギがオホウスに声をかけた。
「いつメシを食べている?」
「いつって‥。俺が好きな時に食べているよ。」
「ちゃんと食べているか?」
「ああ、それは大丈夫だ。炊事係に食い物をもらっているから。」
「そうか。それなら、良かった。」

夜、ヲウスがトイレで起きると、オホウスが空中を水平に歩いていた。
「兄様‥。」
オホウスは、何もない空中に横になり、物思いにふけっているようだった。
これほどまでに才能のある男を狂わせてしまう、愛という物は不思議である。
ヲウスは言った。
「愛という物は、なんだろうか?」

「オホウス、エヒメとオトヒメ、どちらが好きなんだ?」
次の日、アオイとイオトが、オホウスに詰め寄った。
「貴様はどちらを愛している?」

「どちらもだ。悪いか?」
オホウスは答えた。
「悪いに決まっている。」
イオトがオホウスの手をつかんだ。

「兄様?」
ちょうど来たシラギとヲウスは立ち止まった。

イオトはオホウスの腕に黒い模様を出し、オホウスは無表情でイオトを見た。
アオイもその腕をつかみ、青い模様を書いた。
「それは‥。」
ヲウスとシラギは息を飲んだ。
「どういうつもりだ?」
オホウスが聞いた。
アオイが言った。
「愛の魔法だ。貴様から愛おしい姫君を守るためのね。」

イオトは、呪術でオホウスを倒し、2人は立ち去った。

「オホウス、大丈夫か?」
シラギは、オホウスを立ち上がらせた。


オホウスは、オホタラシヒコにとって、特別大切な息子だった。
「もうすぐ、私の誕生日だ。祝宴を開きたい。」

「ヲウス、オホウスも参加するように、諭してくれるか?」
「分かりました。」

ヲウスは立ち上がった。
シラギは聞いた。
「一人で行けるか?」
「はい。」

アオイとイオト、その他の兄弟たちも、ヲウスを見た。
「大丈夫です。行ってきます。」

ヲウスは部屋を出て、渡り廊下から飛び降りた。
ルルズの背中に乗り、森へ向かう。
オホウスは最近、城に帰っていない。

「オホウス‥。兄様ー!!」
ヲウスは大きな声で呼んだ。
「いない‥。」

ルルズは、いつもの木にヲウスを下した。
ヲウスはタヌキの親子に声をかけた。
「兄を探しているんだ。どこにいるか知らないか?」
タヌキの親子は首を振っている。

「オホウスー!!」
ヲウスはオホウスを探した。
ヲウスに見つからないように、草にまぎれてポーズをとっているカマキリを見つけたので、ヲウスは声をかけた。
「やぁ、カマキリ。」
「はっ?私のこと?」
「そうだ。兄様を知らないか?」
「知りません。知っていても、答えたくはない。」
「なぜだ?居場所を知っているなら、教えてくれよ。」
「オホウス様は強い呪術師です。恨まれたら、どうなるか。」
「ふん。兄様が君を殺すはずない。」
「さぁ。狂った愛人は、何をしでかすか分かりません。」
「兄様の悪口を言うなんて無礼だぞ!!」
立ち去りながら、ヲウスはカマキリを睨んだ。
「でも、これは本当です。」

大きな影が来て、ヲウスをつかんだ。
「わあああ。」
カマキリは鎌で顔の前を覆った。

ルルズだ。ヲウスはルルズと共に、また空へ飛び立った。

しばらくの間、空からオホウスを探したが、見つからなかった。
森は怪しい風で震えている。
大きな月が高速で上がってきたので、ルルズも神経を狂わせた。
「満月‥。」

「ルルズ!!」
クワァァ!!神経をおかしくしたルルズは、ヲウスを振り落とし、飛んで行った。
「ああ。」
ドサドサッ。

「痛いっ‥。」

ホー。
フクロウの夫婦がヲウスを不思議そうに見た。
「わぁ、すまない。」

サァァ
「んっ?!」
風の音がし、ヲウスが下を見ると、今まで見た事ない乙女がいる。
乙女は走って行ってしまう。
「ああ‥待ってくれ!!」
ヲウスは枝をつたい、急いだ。

「乙女ー!!どこにいる!!」
ザァァァ
風の音だけが鳴っている。
もしかしたら、幻覚だったのかもしれない。
ヲウスは切なくなり、いつものタヌキの親子の大樹に登った。

タヌキの親子は穴の中で寝ている。
「ごめんな、今晩、ここで休ませてくれ。」
ヲウスは穴の入口に横になった。

乙女は亡霊だった。
美しい乙女は歩いて来て、ヲウスの大樹を見上げ、消えた。

ヲウスがいびきをかき寝ていると、満月がてっぺんに昇り、タヌキの親子がヲウスを起こした。
「んん?」

「はっ。」
ヲウスは穴から出て、さらに登った。

すると、オホウスが何もない空中に座り、月明かりに何か書き物をしていた。
「兄様ーー!!」
ヲウスは叫ぶと、オホウスは面倒くさそうに立ち上がり、呪術で透明な縄をだし、
赤オレンジの灯りがついた鎖を持ち、こちらまで滑ってきた。
「俺を追ってくるな。」
「だけど、父上が兄様に会いたいと申しております。」
「ふん。いずれまた会いに行くさ。でも今は無理だ。」
「なぜだ!!」
「言っても、お前にはまだ分からない。」
オホウスはまた透明な縄をだし、滑って遠くに移動してしまった。

「んん?」
ヲウスは指で輪を作り、場所を確認した。ヲウスはまだ呪術を使う事ができない。
「あそこにいる。」
ヲウスは大樹を下り、オホウスの場所へ向かった。

朝日が昇ってきた。
可愛らしい獣たちが、走るヲウスを見た。
「おはよう、みんな。」
「おはようございます‥。」
しゃべるカメレオンが、木の色に色を変えながら、つぶやいた。

「ふふ。」
ヲウスは少し笑って、また走った。

「はぁはぁ。」
ザァァァ。滝の音がする。
木の影から、ヲウスがのぞくと、そこには裸で滝行をするオホウスの姿があった。
「ひぃぃ。」
ヲウスは顔をしかめ、身を引いた。
オホウスが呪術で、裸の女を出し、精神統一を図っていたのだ。
裸の女は水の中で自由に踊っている。

アオイとイオトからかけられた愛の呪いの魔法は、オホウスの背中まで達していた。

「兄様、何をやっておられる!!早く城に帰ろうぞ!!」
ヲウスに気づいたオホウスは、女を消した。

「帰らない。父上にはこう伝えろ。」

『夜明けに兄が厠に入るのを待ち、捕まえて掴み潰して、手足を引きちぎり、薦に包んで投げ捨てました。』

ヲウスがオホタラシヒコに告げると、オホタラシヒコは頭を抱えた。

「では、もう二度と、オホウスは帰ってこないということか?」
「いいえ、いずれ戻ってきます。兄様は、優れた呪術士ですから。」
ヲウスが言うと、オホタラシヒコは優しげに笑った。

倭建命伝説【オホウス編】①

倭建命伝説【オホウス編】①

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