多久さんの事件簿【悌の場合】17

Shino Nishikawa

多久さんの事件簿 【悌の場合】17
『また、夏が来る。』

「アチッ。」
悌は、ペンを握りながら、頭をかいた。

『アイツの影響で、漫画家になってから、もう10年たつ。』

「あ、抜けてる。」
悌は、仰向けになり、漫画を確認した。
「めんどくせっ。‥でも、書きなおすか。」

ふぅぅ。「しける‥。」
悌は、テラスでタバコを吸った。

「満月か。」

ピンポーン
「ん?あいつかな?」
ガチャ
「ただいま。」
「早かったね。打ちあわせ、どうだった?」
「別に、普通だよ。ただ、長松さんが辞めることになった。」
亨サンは、ちゃぶ台に座った。
「うっそ、マジで?」
「うん。」

「はい、お茶。」
「ありがとう。」

「いやぁ~、まさか、長松君が辞めるとはね。」
「俺もびっくりした。」

『妻が病気で‥。俺が、先生と働いている事、喜んでいるので、末永くお願いします。』
亨は、長松との出来事を思い出した。
『おい、これ何?』
『すみません、自分です。』
『勝手にやらないでくれ!』

「漫画、見せてよ。」
「うん。」

「ふ~ん。‥あはは、金田一、これ、何やってんの?」
「どれ?」
「このシーンさ。箸なんかくわえちゃって。」
「それ、箸じゃないよ。」
「じゃ、何?」
「ポッキー。」
「クク‥金田一、相変わらずバカだよな。」

亨サンは、ヤカンの所に移動し、言った。
「あのさ、テロウのこと、金田一って呼ぶの止めてくれないか?」
「どう見たって、金田一だろう。」

アハハ!
悌は、笑っている。
亨サンは、少し怒りながら、カップ麺に湯を注いだ。


『仕事。事務所に寄るから、先に行くね。』
朝、亨サンのメモが置いてあった。

「彼女かよッ!!」

悌は、ヤカンに火をかけ、コーヒーを淹れた。
カップを持って、ベランダに出る。
「桜‥。」
今日は、水曜日だが、甥である多久のバスケの練習試合を見に行く約束になっていた。


その頃、多久の弟、プロボーリング選手であるマロは、事務所の女性社員と、本年度の契約について話していた。
女性の話はなかなか終わらないので、マロは、腕時計を見て、イライラしていた。
『もうこんな時間‥。』

「すみませーん。」
顔を出したのは、弟のリンチルだ。
多久、マロ、リンチルは、三つ子である。

「はい?」
「あの、長嶋さんに、電話です。」
「私?」
「はい。」

リンチルは、マロの隣に座った。
「どう?」
「俺の‥去年の成績が‥、悪かったらしくて。」
「そうなんだ。俺も‥これ以上落ちたら、引退って言われてるから。」

2人は、外に出て、歩きながら話した。
「でも、リンチルはいいよな。」
「何が?」
「ボーリング辞めても、行く所があるじゃん。」
「ないって。」
「ある。多久ちゃんのとこ。」
「ないよ。俺なんか、全然ダメだから。」

その頃、多久は、真剣にバスケ練習をしていた。

マロとリンチルが体育館に到着した時、多久は、スタッフの美並さんと話していた。

「誰、あれ。」

「じゃあ、また。」
多久は2人に気づき、美並さんと話すのは止めた。

「来たんだ。」
「今の人、誰?」
「スタッフの岩手さん。」
「そうなんだ。」
「名前が、似てるんだね。」

「うん‥。」

多久が美並さんを気にかけるのには、理由がある。
この前、倉庫で、美並さんが下着姿になっているのを見てしまったのだ。
いわゆる、自慰というヤツだ。

「ごめんっ。誰にも言わないから。」
多久は急いで外に出た。

ガラガラッ
「いいよ?」
美並さんがケロリとした顔で言ったが、多久には耐えられないことだった。
それ以来、多久は、美並さんを気にかけている。


「そうなんだ。変態だね。」
リンチルが言った。

「リン、多久、マロ!」
「あ、悌さん。」

「ちょうどよかった。これから練習試合なんです。」
「そっか、間に合ってよかった。」

試合が始まった。
「ガンバレー!!」
前半が終了し、多久達のチームが1点リードしている。

多久達は、ホワイトボードを持った男マネージャー兼コーチのまわりに集まっている。

「俺、行ってくるわ。」
「え、いいのぉ?」
「うん。」
リンチルが聞いたが、マロが行ってしまった。

アイドルっぽい女の子が出て来て、歌を歌いだした。
アリアナグランデのSide to sideだ。
まわりでは、チアガール達が踊っている。

悌とリンチルは、唖然として、その姿を眺めた。
マロも戻ってきた。
「グンパーってなんだろうな。」
マロが言うと、リンチルと悌は、ついに笑ってしまった。

後半、多久は、3ポイントを強引に決め続け、点差を10点まで広げてくれた。
「多久、いいぞぉ!!」

しかし、紫のユニフォームを着た敵チームのB選手が、多久の背中に触った瞬間、多久は倒れこんでしまった。
「ええっ!!」
多久は霊能力者だ。

「多久!!大丈夫か!!」
悌は、コートの中の多久に駆け寄った。
悌が多久に触れた瞬間、悌まで倒れこんだ。

「ええ‥。」
マロとリンチルが心配そうに見ている。
悌の視界はくるくると回り、ついに悌は、気を失った。

「はっ。」
悌は気づくと、マンションの一室に来ていた。

「多久‥。」
多久は、ユニフォーム姿のまま、泣いている女の子の背後に立っている。

女の子は、何かを洗っている。
それは、その子の左手だった。
「おい、大丈夫か。」
悌が駆け寄ったが、その子はうつむいたままだ。

「ダメだ、聞こえてない。」
多久は言った。

悌はうなだれて、マンションの中を歩いた。
「ここ、この子1人で住んでいるのかな?」
「あー‥。そうみたいだね。」

「変だね。」
悌は、部屋を見て回り、棚を開けたり、布をめくって下を見たりした。

多久は、ソファーに座り、テレビをつけた。

ガチャ
悌がドアを開けると、そこには、最近有名な若手バンドA-zuriのポスターが貼ってあった。

「あ‥。」

他には、妊娠の本とか、子育ての本が置いてある。

「捨てられたってことかな?」
悌は、多久に聞いた。
「かもね。」

ドンドンドン!!
「誰だ?」
ドアの外には、ヤクザのような男が来ていた。
どうやら、金をせびりに来たらしい。

「ないよ!お金なら‥。」
女の子は言った。
「愛もない。愛もない。愛もないけど‥。」

「こんなもの!」
女の子は手を放り投げた。

「ああ!」
女の子は手を追い、倒れこんだ。

「大丈夫か!」
悌は、女の子に触れようとしたが、触れられなかった。

「もう行こう。」
多久が玄関のドアを開けると、ヤクザの男が座り込んでいた。
「どうしたんですか?」
「ああ、うん。」
「出ましょう、ね。」
悌が男を立たせた。

ヤクザの男は、女の子に連れられて、一度、業界に行ったのだ。
それでハマってしまった。
そのクールさに惚れたのだ。

女の子は死ななかった。
A- zuriのボーカルに一度は本気で愛されるほど、彼女は強く、知性があった。

彼女は障害者として、スポーツをしたり、仕事をして、有名になった。


「それにしても、お前、すごい世界に入ってんだな。」
多久が起きると、悌が覗き込んで言った。

多久さんの事件簿【悌の場合】17

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