めくるめく
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海岸の地形に沿って、大きく右に曲がる国道を走る車と一緒に、幅の広い歩道を目一杯使って走り抜ける夏のこぞうたち。汗と流れる熱のような楽しさは、その時、その場所でしか感じられなかった記憶の感情として付着する。金平糖のように散らばった色と、全方位に向けた尖りが、少しも欠けるところ無く心の内にぶつかっては転がる。大小の違いはあっても、その数は多い。そして、多い分だけ、容れ物としての心の内を満たす。この満たされ方がその思い出を特別なものとする。器の外から彩る色々、手に持てば感じる重み、無邪気に振ればしゃかしゃかと音を立て、蓋を開ければ甘い匂いに口元が緩む。
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防波堤の上に座り、明かしあった昨日の秘密(夜中まで起きて読んだ漫画、書いては消しての恋文の草稿)を抱えあって、飛ばしたスニーカーの片っぽだけが残される。裸足を撫でる海風の温度が去り、脱いだ靴下を振り回して黙る。寄せては返すの合間に次の遊びを考える。ボタンを外したシャツをバタつかせて、引いていく汗に冷える体が勿体なく、むやみやたらに動かす視線と、飛んで行くうみどり。配り終わった雨たちと、反射で出来る現象が思い付きを幸福な兆しと見なして、ここから走り出すきっかけを与える。「アイツも呼べばいいよ」、とコイツが言ったんだ。こそこそ話の終わりの事はいつも覚えていないのに、ありありと再現できる一瞬に込められたやり取りが導く。夕刻近くの視界を埋めた雲の頭に帽子を乗せる。「入道」と書かれた二文字に大きな花マルは咲いたのか、どうか。
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歌でも歌えよと男子、勝気な女子が袖を通した三月の神社。狛犬の足下で待ち合わせる時間には、箒を手に持つ神主が見上げる晴れ間が隠れたり、現れたり。寒気と暖気の行方を左右する大きな流れには、ほんのり赤い頬の願掛けが結ばれる。厚手のマフラーに触れる声は口を動かし、答える大人が照れて幼くなる。隠れた尻尾を丸めて返し、恋を射止める画策と直感が進める筋道を照らすストーリー。前のめりになりそうな形状をした、それはこっぽり。手に持ったり、やっぱり履いたり、気分によって変えるのが私の日々。そこに手を貸すのが僕の心がけ。そういう未来を想像して、手と手を繋いだ姿を見たら。
ぴゅーいと高音で吹かれる。それが噂。
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鯉が泳いで空を漂う頃には、瓶に詰めたこの雪の景色が水になって、生まれる生命が真横に泳ぐ。丸い世界をぐるぐる回る。光は小さなその身に反射する。a、b、cと名付けた後は、ノートを開いて記録する。◯月◯日、何時何分、天気は晴れ。季節は四つ。一つ生まれた。
水温は一定に保つ。じゃなきゃa、b、cが進まない。空のバケツをがらがらと引きずり、外の庭の蛇口を向けて流す量はばだばだと流れる音がだんだんと近づいて、覗き込む顔が見えるまで。わくわくが抑えきれないいつもの顔が見えたら、歯をむき出しにした顔の真似。西遊記の孫悟空。最近覚えた名前。
浸して浮かぶ瓶の不思議は、横に寝転んだ姿で続く世界の謎。大きいサンダルが脱げないように、二本の足をうんと伸ばす昼の日差しが斜めを向いた。衛星はクルンと回って今の位置。あれは月だというのだそうだ。a、b、cと教え合う。
ぼくも大きくなるんだそうだ。
めくるめく