多久さんの事件簿【オジサンは漫画家編】14

Shino Nishikawa

多久さんの事件簿【オジサンは漫画家編】14

「なんで‥俺のアンパン、食ったんだよ。」
高校生の多久は泣いた。
「俺じゃないよ。」「‥俺でもないよ。」

「僕だよ。ごめん、お兄ちゃん。」
ナツが言った。

多久は、リンチルとマロと三つ子で、ナツという弟もいる。
小さな頃から、大変な思いをして生きてきた。
ナツは本当の子だが、多久とリンチルとマロは、養子である。
本当母親は、3人を生んで、死んだ。ハワイの日系人だった。

育てのお父さんのことは、小下さんと呼んでいる。
お母さんは、まるで男みたいな顔だ。


幼い頃、トイレはボットン便所で、リンチルは、よくおもちゃを落としてしまっていた。

小学生の頃、ボットン便所は、和式に変わった。
その頃、よく、お父さんの弟が、泊まりに来ていた。

「誰?あの人。」
「お前達の、オジサンだ。」
お父さんの小下さんは、言った。
小下さんは、靴屋を営んでいる。


「オジサンてぇ、仕事がないんだろ?」
リンチルが聞いた。
「あるよ、仕事なら。」

「はい。」

「何、コレ。」

「俺が描いた漫画。」

「漫画は、お母さんが、読んじゃダメだって。」
「ふーん、じゃ、返してもらう。」

オジサンは、漫画を取った。

「なー、あの漫画、読みたくない?」
夜、マロが聞いた。
「うん‥。」
多久は言い、リンチルは天井を見た。

「オジサン!!漫画、読ませてよ!!」
リンチルが言った。
「うるさいなぁ。」
オジサンが、時計を見ると、まだ、朝の4時だった。

「ダメ!!うるさい。」

「ぶー。」
リンチルは、また寝た。

朝6時。マロがトイレに行くと、和式便所の隅に、漫画が置いてあった。

「ああっ。」

『なぁ‥、オジサンてぇ、和式便所で、漫画読んでるんだぜ。』
『おえ。』
マロと多久は、話した。

「すごいじゃん、コレ。」
漫画を読んだリンチルが、オジサンに言った。
「だろ?来いよ。」
オジサンは、書きかけの漫画を見せてくれた。

「わぁぁ。」

「リンチルも、大人になったら、漫画家になれよ。」
「うん!!‥なれるかなぁ‥。」
リンチルは少し泣いた。
「なれるって。」


キャハハハ!
「何やってんの!」

和室では、もう1人のオジサンが来て、和式トイレで漫画を読む真似をしていた。

「あ、悌(てい)。来てたんだ。」

「亨(とおる)君。便所に、漫画を置いたってホント?」

「うん。これだろ。」

「あ、それ、俺も読みたい。」
多久が言った。
「はい。これ、あげるから。」
亨サンは、漫画を10冊くれた。


10年後。
亨サンと悌サンが描いた漫画が、アニメ化されることになった。
亨サンは、本当に有名人だ。

ボーリングの世界大会のメンバーに、リンチルが外されそうになった時、亨サンが、ボーリング協会に連絡してくれ、リンチルはメンバーになれた。

悌サンは、多久が所属するマントヒヒクラブのバスケ大会に、よく来てくれる。
「多久、負けろ!!」
そういうことを言うのは、悌サンしかいない。

悌サンも、亨サンと一緒に漫画を描いているので、物語の人になりやすい。
試合の最中に、突然泣いたりして、周りに迷惑をかけた。


2人のアニメは始まり、たちまち大人気アニメになった。
映画化が決まる。

その話の主人公は、医学部に行っていたが、お金が無く、医者になることを諦めた青年、上山テロウだ。
テロウは、病院で、清掃員をしている。
そんな中、病院で起こる事件を解決していくという話だ。
ヒロインは、刑事のミヤビさんだ。ただ、この人はかなり気が強い。
いつも、赤いスーツを着ている。

映画作りには、沢山の人が手伝いに来てしまった。

『みんな、いらない人だ。映画作りなら、他の場所で教えてくれる。』
亨サンは、悌に言った。

『そうだな。この映画は、俺達の物だから。』

そう言いつつも、みんなに絵の描き方を教える悌を見ると、亨サンは、脳がヒンヤリとしてしまった。

本当にみんな、絵が下手くそだった。

麻美さんは特にそうだ。
麻美さんには、5才と2才の子供がいる。

亨サンは、麻美さんには、もう辞めてほしかった。

「亨サンッ。」
デスクでぼーっとする、亨サンに、菜々子さんが話しかけた。
「え?」
「これ。」
「おお‥。」
それは、漫画だった。

「何コレ。」
「私が書いたんです。」
「漫画書いてたんだ。ふーん。」
亨サンは、漫画をパラパラとめくった。

「どうですか?」
「どうですか、って?」
「だから、良いか、悪いかです。」
「えっ‥でも、出版できてるんだったら、いいんじゃないの?」
「えー、そうかな。」
菜々子さんは、ニコニコ笑った。

「てかさ‥自分の漫画があるんだったら、そっちに集中すればいいじゃん。」
「だって、亨サンの漫画が一番好きなんだもん。」
菜々子さんは、亨サンの肩を小突いたので、亨サンは突き返す感じで、ニヤニヤと笑いながら、菜々子さんの肩を押した。

その様子を、麻美さんが、影から見ていた。

夜。
「おお、まだいたの?」
社長専用室で寝ていた悌が、スタッフに声をかけた。
「はい。」
「もう帰りな。終電逃げちゃうよ。」
「はい‥。」
スタッフ達は、そそくさと帰る準備をした。

「はーい。」
亨サンは、手ぬぐいを肩にかけ、スタッフ達のタイムカードを押した。

「では、帰ります。」
「はい、お疲れ様。」

「何?シャワー浴びたの?」
悌が聞いた。
「あー、うん。近くにシャワールームがあるから。」
「そうなんだ。俺も‥今度、使おうかな?」

「でもさ‥人と同じシャワーを使うなんて、きもくないか?」
「別に、気にしないよ。」
亨サンは、笑った。

「本当はさ、自宅でやりたいよな、こういうの。」
「うーん。まぁ、漫画だけなら、それで十分だろうね。」

「あいつら、何やってたんだろうな?」
「うん。つか、俺なんだよね、全部さ。話考えてんの。」

「しー。」
悌は、人差し指を口に当てた。

「あー、ここか。」
「うーん‥悪くないね。十分だ。」

「で、いくらなの?」
「何。」
「コレ。」
悌は、指をお金マークにした。

「ああ~。時給は千四。」
「安ッ。コレだけやってですか?」
「仕方ないじゃん。こいつらにとっては、楽な仕事なんだから。」

「俺達も帰る?」
「そうだね。」

「電車なんか、乗らないっつーの。」
悌は言いながら、タクシーに乗った。
「はい、コレ。」
お会計時に、悌は、ゴールドカードを出した。

タクシーの運転手は、何度か、カードを通したが、ダメだった。

「そういうことするの止めろ。すみません。」
亨サンは、お金を渡した。

次の日。菜々子さんは、出勤しなかった。
『自分の漫画かな?』
亨サンは、少し嬉しくなった。

何も出来ない麻美さんは、こちらを睨んでいた。
「どうしたんですか?」
亨サンは、聞いた。
「うまく描けないなら、スクールに入ったら?」
麻美さんは、うつむいた。

「でも‥。」
「どうして来たの?」
「えっ、だって‥誘われたから‥。」
「そっか。」

亨サンは、赤い顔で、長々と、麻美さんと話している。

悌は、亨サンを見た。
悌は、お手伝いのお爺さんと、画面を見ている所だった。

「どした?」
悌は、亨サンと麻美さんの所へ行った。
麻美さんは、泣いてしまっている。

「大丈夫だぞ。」
悌は、麻美さんの頭をなでた。

「どうしたんだ。」
お爺さんまで来た。
「お爺ちゃんはいいの!」
悌は言った。

麻美さんは、別の男性スタッフと、会社から出て行った。

5日後。
悌は、出版社にいた。

亨サンは、知り合いの漫画家と話していた。
偶然、店で会ったので、亨サンから話しかけたのだ。

「先生のような漫画家なら、一軒家を買ったら?」
「うん‥。」

日高オサム先生が住むマンションで、AV撮影が行われてしまったのだ。

ピロロロ

その頃、悌のスマホにも、電話がかかってきていた。

『鈴木菜々子さんが、亡くなりました。葬儀は、明後日の2時からです。』

「え?だって、最近まで、元気に働いてたよ?」

『それが、昨日、体調を崩されたようなんです。』

「嘘‥。」
「どうしましたか?」
オサム先生が聞いた。

「人が亡くなったんです。」
「ええ?知り合いの方ですか?」
「ええ、うちのスタッフです。」


「起きろ!起きろ!」
悌は、亡くなった菜々子さんに向かって叫んだり、顔を軽くパチパチしたりした。


亨サンは、菜々子さんのお母さんに挨拶した。
「娘も、先生と働けて、喜んでいると思います。」

「あの‥これ。あの子の残した漫画です。」
お父さんが、亨サンに、書きかけの漫画を渡した。

葬儀にも、2人は出席した。
「漫画もらった。お父さんから。」
「え‥。菜々子、漫画描いてたんだ。」
「うん。出版していたんだ。『青苺娘』っていう漫画。」

「その漫画、書きかけなんだよ。」
「どうすんの?」
「書いてあげるだろうね。俺が。」

亨サンは、菜々子さんの漫画を描き上げた。


「ん?」
通夜の後、家を出る時、お母さんのパンプスの中に、ヘアゴムが落ちているのを、亨サンは拾った。それは、麻美さんの物だ。

「他のスタッフも、来ましたか?」
「いいえ。」
「そうですか。」


後日、麻美さんに、亨サンは問い詰めた。
「これさ、菜々子さんの家に落ちてたんだけど。」
「あっ。」
麻美さんは、ヘアゴムを取った。
「なんか知ってる?菜々子さんのこと。」
「しーりません。」
「いや、おかしいんだよね!突然亡くなるなんて。」

「先生って、現実では、推理ができないの?ってか、菜々子は病死だから、事件じゃない。」

酷く言い争う声が聞こえた。

「え?」
悌は振り向いた。

亨サンは、麻美さんをビンタし、麻美さんが手をあげようとしたので、悌は、腕をつかんだ。

「ダメだって。」

「ふん。」

「ちょっと、待て。もらすなよ。」
亨サンは、麻美さんに言った。
「何?」
悌は、顔をしかめ、亨サンを見た。

「大丈夫、ナプキンつけてるから。」
麻美さんは、どこかに行ってしまった。

「お前、頭は大丈夫か。」
「ごめん。」

「だけどさ、菜々子ちゃんのこと、あいつが殺したと思うんだよね。」
「あーそうか。」
悌は、膝を持ち、うなだれた。

「とりあえず、仕事する?」
「うん。」

しばらくして、麻美さんが来た。
「先生の漫画さ、血ーだら真っ赤だらけだけど、そんな大袈裟なことしなくたって、人は殺せるんだからね。」

「あー!!もう!!」

「おい、通報するか?」
悌は聞いた。
「うーん‥。どしよ。」

「ごめん。」
亨サンは、社長室で、泣いた。

「大丈夫?」
悌は、社長室をのぞいた。

「うん‥。」

麻美さんのことは、通報しなかった。

亨サンの会社は、インターホン制だ。

その代わり、次に麻美さんが来た時は、鍵をかけた。
麻美さんは、子供や、両親、旦那を連れてきたが、同じようにした。

心が痛かったが、仕方のないことだ。


「あいつ、死ねばいいな。」
悌は言った。
「うん‥。」

「警察に連絡するか?」
「だって、証拠がない。」


後日、アフレコに、多久、リンチル、マロも、声優として呼ばれた。

「違う!!違うっつってんだろ!!」

3人は、亨サンを見た。

「じゃ、どうして、呼んだんだよ。」

「ばか野郎!!」
悌は大声で言い、マロの頭をはたいた。
「いって。」

「はぁ‥。」

「俺達は、命がけなんだからな。お前達のボーリングやバスケとは、訳が違う。」
亨サンは言った。
「分かりました。」

3人は、アフレコを続けた。

映画は完成し、大ヒットした。

多久さんの事件簿【オジサンは漫画家編】14

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