SNR Chapter1 ~ 道標(みちしるべ) ~ Vol.6 「誰がために鐘は鳴る」
皇達が大木を見つけて、探偵社に連絡を入れる数十分前・・・
源は自分の椅子にふんぞり返っていた。何を考えているのか分からないみたいにボーっとしているような、虚ろな感じであった。ふと動き出したと思ったら何故か地図を取り出して調べだしたようだ。
と・・・その矢先に事務所の電話がけたたましく鳴り響いた。
「はい。源探偵社です。」-源は電話口に立つ。
その電話の主は滝田だった。
「お疲れ様です。滝田です。大木を確保しました。どうしますか? このまま事務所に連れて帰りましょうか?」-軽快な声だ。
源は少し考え込んだようだったが、すぐに返答した。
「いや、それには及ばないぜ。そうだな、20分程でそちらに向かうからそのまま待機していてくれ。くれぐれも皇には手を出させるなよ。あいつは熱くなると何をするか分からないからな。」
用件だけを伝えて電話を切った。
そしてすかさずアドレス帳を調べ、どこかに電話をする。
「はい。こちら信条ですが。どちら様でしょうか?」
「源だ。大木の居場所はわかったぜ。『ブロッサム』だ。場所はわかるよな? これで約束は果たしたぞ。さてそっちの情報も貰おうか。」
何やら怪しい会話が始まる。相手は信条という女性らしい。
「あら!あなたでしたの。そうなの、わかったのね。ふふふ・・・これでアレは私のものよ。さーて仕方ないので教えてあげますわ。ジオノイド社の内部情報でしたわね。こんなの社内に忍び込んで資料室をあされば朝飯前ですわ。社長の時任(トキトウ)はかなり強引な方法でここまで会社を大きくしていますわね。そのために何人もの社員達が闇に葬むられたみたい。もちろん口封じのためね。その証明になる資料は私のほうで確保していますわ。そうね~10分後に喫茶『周防(スオウ)』で落ち合うっていうのは如何かしら?」
「分かった。10分後だな。すぐいくさ。」-ここで電話を切る。
そして足早に支度を整え目的地である「喫茶 周防」に向かって行った。
信条は約束通り喫茶店で待っていた。
「あら、早かったのね。これが私の手に入れた書類よ。苦労したんだから~。」-鼻高々に言う。
「・・・やっぱりか。思った通りだ。これで・・・」-ぶつぶつ呟く。
「それじゃ私は失礼するわ。やっと見つかったんだから早く白状させなきゃね。」-と伝票を置いて立ち去っていった。けっこう図々しい女だ。
信条がいなくなって一人の時間が訪れる。少しの時間が流れた。そして何かを決心したように、足早に店を後にする。
「悪いな皆。これから所長ではなくて一人の男として行かなければならない。全ては俺の責任だ。恨むなら俺を恨め。後で謝罪ならいくらでもしてやるぜ!」
しかし何のために単独行動をするのか、何故このような発言をしたのか今はまだわからないままであった。
そして、向かった先には(株)ジオノイド 本社前。
(株)ジオノイドは中堅の製薬会社であった。しかし、現社長の時任が就任して以来急成長を成し遂げた会社として今はメディアにも取り上げられる程有名な企業になっていた。もちろんそれだけではなく、過労死等の労使関連の問題も抱えており、幾度となくメディアには叩かれていたようだった。
もちろん本社だけに、守衛がいるほど厳重な警戒体制だ。
ここは正面にある玄関しか入り口が無い。
ここで正面から行ったらもちろん捕まるのがおちだ。
そこで以前、情報屋から入手した会社の見取り図を手に取り、丹念に調べてみた。ある意味用意周到なようだ。
そして、見取り図を良く見てみるとゴミの搬出口が地下にまで繋がっているではないか。
しめた!ここからいけるぞ!と早速、マンホールから地下へと降りていった。やはり下水の匂いはたまらない。しかしこんなことではくじけない。そう奴に遭うまでは。
そしてなんとか社内に侵入した。
慎重に足を進める。エレベーターでは行けない。
人に遭遇する確率が高いからだ。仕方ないので階段で行こう。
その前にこの格好をなんとかしなければ・・・。通行証すら無い。と・・・扉が開く音がした。そっと物陰に身を隠す。
彼はここの社員のようだ。彼は俺を他の社員と思っているらしい。
とりあえず、フレンドリーに話しかけてみる。
「お疲れ様~、今日も仕事はきついよな~。」
「そうだな~。ん? IDはどうしたんだ? なくしたら大変だぞ。」-IDなんているのか。
「ここにあるぜ~。」-と背広を広げて見せた。
そして胸元のホルダーに銃があるのを確認すると社員は腰を抜かしたようにその場にへたれこむ。
「おとなしくIDを渡してもらおうか。そうすれば命までは取らないぜ。と、このことは誰にも喋るなよ。」-社員は静かに何度も頷く。
そしてキツイ一撃が社員のミゾオチを直撃。社員はもがいて気絶した。
ついでに、彼のスーツを拝借する事にした。
そして、怪しまれる事も無くエレベーターで最上階まで上がる。
もちろん社長室の前には秘書室がある。
始めは穏便に済まそうとした。
「すいません。社長に用があるのですが現在、社長はおられますか?」
「おられますよ。どちら様でしょうか?」-綺麗な声で応対している。
「大木が来たといえば分かると思いますが・・・」-さぞ驚くだろうな・・・
「少々お待ちください。・・・(電話を掛けている)はい。わかりました。すぐにお通しします。」
「社長はお会いになるそうです。どうぞ」-俺は許可を貰い社長室の重厚なドアを開けた。
「おお! 戻ってきたのか! ん・・・。大木と聞いていたから通したが、お前は大木じゃないな。誰だ?」-すかさず俺は銃を抜き時任に銃口を向ける。
「忘れたとは言わせないぞ! 雄一(ユウイチ)って言う名前を。覚えているよな?」
「雄一・・・? 誰だ? わからないな。」-野郎トボケてやがる!
「とぼけるな!そういう態度なら俺にも考えがあるぞ!」
「ほう、どうするというのだ?」-もう許せん!
「こうするのさ!」-すかさず一発おみまいする。
弾丸は時任の顔をかすめていった。
その銃声を聞いて何事かと言う感じで秘書達が部屋に駆け込んでくる。
「どうしました社長! はっ、あなた何しているんですか! すぐに通報しますね、社長!」-意外に冷静な秘書達だ。
「まあ、まず落ち着きなさい。私はこの方とお話がある。それに、今事を荒立てたらいらぬ腹まで探られる恐れがある。君達は下がって待機していてくれたまえ。」
時任の指示を聞きしぶしぶ秘書達は退室する。
「話が途中になってすまないね。雄一・・・。ああ思い出したぞ。あのまぬけか。それがどうした? お前まさか・・・あの時の!?」
「そう! そのまさかさ!」-やっとか・・・
もう後には引けないな・・・。
そう思った瞬間だった。
SNR Chapter1 ~ 道標(みちしるべ) ~ Vol.6 「誰がために鐘は鳴る」