多久さんの事件簿【空の事件】13

Shino Nishikawa

多久さんの事件簿【空の事件】13
「今日、少し早くないか?」
友太が聞いた。
「そう?いつも通りだよ。」
「いや‥。」
「おい、ちょっと早すぎる。」
「‥。」
小松にも注意され、操縦をしていた、鹿野は目を落とした。
横に座る田立は、にっこりとして、鹿野を見た。

「大丈夫?」
「うん。」

鹿野には、妻がいる。
妻がいることは、とても大事なことだが、ヘリの操縦をする者にとっては、致命傷になりかねない。
とても厳しい世界なのだ。優しいと、危険な世界だ。
人助けに大切なのは、緊張感である。

鹿野は、昨日も、妻とのことを、田立に自慢していた。

休憩室での出来事だ。
ラジオでは、洋楽が流れている。

「この曲、知らない。」
「そう?」
鹿野は言い、田立はお茶を飲んだ。

田立は、その曲を知っていた。
ジャスティンビーバーさんの、Whatドゥーユーミーンだ。

「いい曲だよな。」
田立は、目元をゆるませた。

「そんなに偉いの?」
「え、何が?」
「この、歌がだよ。」
「まあ、俺達よりは偉いでしょ。」

「ふん、人の命も救えない奴が、どうして偉いんでしょうかぁ!」
鹿野は言い、田立は目を落とした。

言い返したいが、鹿野とは、同じチームだ。
救助や訓練で、ロープに手違いをされれば、命とりになってしまう。


ヘリの中で、田立は、ぼーっと、田舎の景色を見ていた。
なんとなく予感できた。
今日は、最期の日だ。

「奥さんがよく言ってるんですよぉ、殉職すれば、手当がでるって。」
「え‥。」
鹿野は、旋回した。

「ちょっと、待てって。」

「おいおい、何やってる。」

「ダメだ、鹿野、代われ!!」

「鹿野、死んだら、奥さんに二度と会えないぞ。」
鹿野は泣いていた。

鹿野は、とても優しい男だった。
奥さんは、鹿野の前ではしっかりしていたが、浮気をしていたのだ。

ヘリは落ちた。

「ああ‥、ああ‥。」

鹿野は、トイレをもらしてしまった。
それは、奥さんが絶対にいけないと言っていたことだった。

「大丈夫だから。」
田立は、鹿野の手をとった。

「みんな、生きてるか!死んでいる者、いないな。」

何人かは、目を閉じている。

「ちょっと、嘘でしょう!!」

「小松!!返事をしろ!!」

「あ‥。」
「生きているか?今、連絡をするから。」

ポキッ

「え‥?」

誰かの首の骨が折れた音だ。

「木か‥。」
田立は、言い聞かせた。

田立は、連絡をした。
「すみません。墜落しました。」

『隊員は?』

「何人か、息をしていません。」

横を見ると、鹿野が、血だらけになっていた。
膝に、ナイフがある。

「鹿野。鹿野。どうしてそんなことを。」

「生きても‥仕方がない。」

「どうして。そんなことない。」

「鹿野。」

「おい、小松。友太。」
みんな返事をしない。

田立は立ち上がろうとしたが、動かなかった。

田立は、首の骨を折っていたのだ。

「ええっ?じゃあなぜ、今まで動いたんだろう。」

田立は眠り、死んだ。



多久は、目を覚ました。

多久の子供の頃の夢は、パイロットだった。


多久は、マントヒヒクラブのユニフォームが、馬鹿みたいに思えてしまった。

多久さんの事件簿【空の事件】13

多久さんの事件簿【空の事件】13

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