偽物ネームバリュー
あるところに、地底都市があった。それははるか未来の地球の話、比較的暖かい場所に、一つの国があった。そこでは“拡張現実”によって、汚染された地上社会とはまるで別の世界が広げられていた。そこで人間は新たな文明をつくっていた。
「“あなたの名前”偽物じゃない」
「あなたにとっては、そうかもね」
「ふざけないで!!いい加減にして!!あなたは世間で知られた名前をいくつももっているといったのに!!SNSでも、掲示板で、ホームページでも、検索サイトで箸にも棒にもかからないような、あなたの名前、存在、過去、経歴、全てなぞの、偽物じゃない!!!」
「……」
掴みかかる相手にたいして、スーツの男は、ぐいとつかみかかられた相手の男の腕の指の骨と骨との間にえぐるような力をこめて、えりにくみつかれた彼の両掌の力をほどき、簡潔にこたえた。
「いいえ、昨今では、“人気”や“名前”さえも、とても刹那的なものなのよ、だってそうじゃない、だれもがARネットを使える、インターネットを使える、そして人工は減り続ける一方よ、人はねえ、一度見たものは飽きてしまう、だから皆、刹那的な名前や技能を売って、生計をたてているのよ、確かに私は、昨日人気だった私の名前をあなたに売った。けれどそれをうまく扱えなかったのは、今日のあなたの、私の名前の扱い方がいけないという事なのよ、あなたは、人のように、有名な人のように、卓越した技能を持つ人ののように、自分を売る覚悟が足りなかったのね」
そういわれて、男は力をぬいた。相手は女だ、そしてこんな商売、フェアじゃない商売はそこかしこにあふれている。男は思った。人間は、商売についてもう一度考え直さなくてはいけない。それとともに、荒廃していく地球の地上を見つめ、向き合い続けなくてはいけない。ただ、ありもしない後悔を先祖から受け継いだまま、生きなくてはいけない。
偽物ネームバリュー