詩集.想いをこの束にして (七束目)
詩集.想いをこの束にして (七束目)
愛の編 三十一
宝物だった
王子様の
王冠
チョークで描いた
夢の
青い屋根のお家
広いお庭に
白い犬
赤いチューリップ
わたしがいて
隣には
いつも 王子様
王冠だけは
大切に使った
金色の
クレヨンで
描いた
だけど
大人になって
わたしの
開かずの間から
時々
飛び出してくる鬼
眼をつぶっても
いくら
振り払っても
つきまとい
飽き足らない
心に棲む鬼
泣き出しそうに
なると
手足を絡め
意地悪に笑い
わたしを
がんじがらめにする
だけど
いつからか
あいつは
隅っこに
いるようになった
悲しげに
膝を抱え
「性に合わん」
そう 繰り返し
涙声で
呟くようになった
あなたの
温かく
わたしを
抱きしめてくれる
隙間のない
優しさが
あいつを
端っこに
追いやってくれた
わたしは
やっと
お礼が渡せる
あの日の
憧れのまま
消えない
金色の王冠を
そっと
あなたに
被せることができる─
愛の編 三十二
気づいたら
傍に
いてくれてた
息遣いを
感じるくらい
すぐ近くに
どうして?
そう訊いたら
「当たり前だよ」
ポツリと
それだけ応えて
あなたは
また笑った
ありがとう
いつも
本当に
あのね
赤い糸の話
初めから
結ばれてる
縁(えにし)の
繋がりの
奇跡を
あなたが
信じさせてくれた
ずっと
独りだった
わたしの中の
悲しみや
苦しみを
一緒に
拾い集めてくれるって
幾度も
温かな
その笑顔に
救われて
わたしは
やっと
真っ直ぐに
この指先を
差し伸べられる
頑張って
生きて来て
よかった
今
あなたに
逢えて
よかった─
愛の編 三十三
大きな
大きな
掌を持ちたい
立ち止まって
塞いでる
その背中を
軽々と
押し出して
あげてみたり
哀しみや
苦しみを
容易(たやす)く
握り潰して
あげられる
そんな
大きな
大きな掌
君の
行く先を
妨げるものたちを
一振りで
掃いのけ
不安や
憤りなんか
どこか
遠くに
放り投げてしまう
そんな
逞しい掌
そして
いつも
その
丸ごとを
すっぽり
包み込んでしまうほどの
優しくて
温かな
大きな大きな掌─
愛の編 三十四
淋しん坊が
差し出す
掌は
いつも
涙で
濡れてる
乾かして
くれる
温かな
いつもの
言葉を
待ち侘びて
切ない
心具合を
傾(かし)げたり
持ち上げて
みたり
どうしたら
伝わるのか
絶やさない
そんな
工夫を
あの人は
きっと
笑って
どこかで
見てる
けれど
素知らぬ振りをして
今日も
抱きしめて
くれる
また
魔法の囁きで
わたしを
独りぼっちから
救い出してくれる─
愛の編 三十五
知ってたよ
ささやかな
嘘のこと
ごめんね
こんなに
近くにいるのに
気づいて
あげられなかった
寂しくて
悲しくて
虚しさを
覚悟した
切ないくらいの
投げかけを
謝らないで
もう
泣かなくていい
始めよう
また初めから
何度でも
やり直せる
優しい
眼差しが
その
掌の
温みが
いつだって
愛おしさで
溢れそうなんだ
寄り添うよ
だからね
もっと
独りぼっちの
居場所が
ないくらい
もっと傍においで─
詩集.想いをこの束にして (七束目)