幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 6話
卒業式
「小林亜里沙が一ノ瀬君に第二ボタンをもらいに行ったって!」
昇降口で靴を履く私に、とっくに帰ったはずの成美が知らせに来た。
なんでわざわざ私に言いに来るのか……。
成美に佐々木君のことは話していなかった。誰にも話したことはない。でも、聡のことも小学生まで一緒に遊んでいたことくらいしか話していない。聡を好きだなんてひと言も言っていないのに。
幼なじみが恋をするなんて少女漫画の読み過ぎだよ。聡は私に絡んでくるけれど、それは単に幼なじみで気心が知れているから話しやすいに過ぎない。確かに話しやすい。成美に話せないことでも、聡になら話せることもある。
──話しやすすぎるンだよね。緊張感がなさすぎるンだよね。人前で私の……触ったりするし! 私を女として見てないだろ。
私が好きなのは佐々木君。中学の時から変わらずずっと好き。
中学の卒業式では勇気がなくてもらうことができなかったボタンを今日こそもらうんだ。ずっとずっと思ってきたこと。
昇降口を出るとみんなが最後の別れを惜しんでいた。後輩にむしり取られて制服のボタンがひとつもない女子もいる。佐々木君は人気があるからもうボタンはないかもしれない。
人込みから離れて私はひとり、銀杏の樹の下で佐々木君を待っていた。
どうしよう……。どきどきしてきた。
佐々木君は東京へ行ってしまう。たぶんもう、会うことはないだろう。今日で佐々木君とはさようなら。
それでもかまわない。記念にボタンだけもらおう。
そう想うとやっぱり寂しい。涙のにじんできた瞳を昇降口へと移す。
まだ佐々木君は出てこない。
代わりに聡が出てきた。あいつも東京へ行ってしまう。そのまま東京で就職したらもう会えないかもしれない。そう思うとちょっと胸が痛んだ。
「元気でね」
そう言おうと思って銀杏の樹から離れると、聡が近寄ってきて手を差し出した。手の中にはボタンが……。
聡の制服に目をやる。制服には第二ボタン以外は全部ついていた。
ということは、これは第二ボタン……? なんでわたし?
小林亜里沙にあげなかったのだろうか。ぼんやりとボタンを見つめたまま何も言えずにいると佐々木君が昇降口から出てきた。
心臓がトクンとなる。
幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 6話