形のない道
それはある暑い夏の日のことでした。
それはとてもとても暑い日の事です。
それは、その夜におこりました。
その晩、羊飼いの少年・クラムボンは布団に入ってもなかなか寝付けませんでした。
読売ジャイアンツの優勝報道にとても興奮していたためです。
そこで彼は、落ち着こうと、家の外にでました。
外はじめじめして蒸し暑く、そよ風も吹いていませんでした。
クラムボンは家族が涼しく眠れるよう、キムチ色のタオルをプルンプルンふり回す事にしました。
そしてその時です。
「キムチタオルを振ってワシを呼んでいるのは、君じゃな?」
クラムボンが後ろを振り返ると、畜生じみた顔をした男が目の前に立っていました。
「いいえ。私は呼んでません。」クラムボンははっきりと言いはなちました。
「いや、お前の心にはワシと同じような畜生道の魂が宿っておる。そのけがらわしい心がワシを招いたのは、間違いないのじゃ」
クラムボンは男の言う事を理解し、自分のこれまでの行いを振り返りました。
思えば、いろんな事をしてきました。
牧場の羊を落とし穴に落とした時、村はずれに住む年寄りのお坊さんは悲しそうな顔をしていました。
隣の牧場の羊に、法律では禁止されている薬剤を投与した時、その牧場のオーナーは手錠をはめられた状態で、恨めしそうにこちらをにらんでいました。
それらを振り返り、クラムボンは、畜生じみた顔をした男の弟子になる事にしました。
「俺を、いや、私をあなたの聖なる畜生道のはしくれに加えて下さい!」クラムボンは思わず叫んでいました。
男はこう答えました。「手始めに君の羊たちを土に還してやりなさい。手に職をつけているようでは、畜生道は極められないよ。」
「あなたを信じた僕が馬鹿でした。やっぱりあなたはおかしいです。」クラムボンは言いました。
「ふははは!もう遅い!牧場へ行ってみろ。羊はワシがみ~んな処分しておいた(笑)」
クラムボンがは信じられず、すぐさま羊たちの様子を見に行きました。羊たちは心肺停止状態で、体には「私がやりました」と、クラムボンの筆跡で文章が書かれていました。
さらに、畜生じみた顔をした男は「おぬしにはワシの命に逆らった罰を受けてもらう」といいました。
「お主には畜生道は歩ませぬ。だがもっと、もっと苦しい道を歩んでもらう。」
畜生道より苦しい道… クラムボンには想像もつきません。クラムボンがうなだれていると、どうでしょう。一つの細い道が目の前に現れました。
しかしそれは、道という表現がただしいのかわからない、あえて命名するならば、形のない道と呼べるものでした。
上下左右が存在するのかさえ分からず、白濁した光の先には薄ら笑いを浮かべた羊の群れがクラムボンを見つめていました。
クラムボンは理解しました。この道は黄泉の国へと続いているのだと。
そして、誰もいなくなった。
形のない道
よい子のみんな。クラムボンのようにならないようにしようね。
タオルは振り回しちゃだめだよ。
怖いおじさんがきちゃうからね。
あんな変人に関わったらだめだよ、食べられちゃうよ。