多久さんの事件簿 霧ヶ峰に温泉旅行編⑤ 7

Shino Nishikawa 作

多久さんの事件簿【霧ヶ峰に温泉旅行編⑤】
プルルルル
真っ暗な部屋で電話が鳴った。
「もしもし。」
電話の相手は、鼻をすすった。どうやら泣いているようだ。
「ええっ。」
松は、苦笑して言い、黙った。

電話の相手は、呼吸を整え、話し出した。
「今、どこ?」
「俺は家だよ。」

ふぅ、電話の相手は、泣いた後のため息をついた。

「大丈夫?」
「無理。」
「えっ。」
松はまた黙った。

「今から家行ってもいい?」
「ダメ。」
松は苦笑して答えた。

電話の相手はマーキンである。
松は電話を切ったが、マーキンは来てしまった。

ピンポーン
松がインターホンの映像を見ると、マーキンが心細そうに立っていた。

松はマーキンを家にいれ、ファンの方からいただいた、高級茶づけを出した。
マーキンは、「ま、仕方ないしな。」と言い、茶漬けを食べた。
「ん、何?」
「いや、いいよ。」

マーキンは食べ終わると、赤いソファーに横になった。
「ワインあるよ。」
「いい。」
赤いソファーには、お洒落なクッションが置いてある。
ファンからもらった物だ。

「いやいや、飲みなよ。」
松は無理に、グラスに赤ワインを注いだ。
一人では、酒をあまり飲まないからだ。

マーキンはグラスの赤ワインを一気飲みした。
「はぁ~。」
「落ち着いた?」
「白はないの?」
「白?あるよ。」
松は引き笑いした。
「持ってくる?」
「うん。」

松は白を持ってきた。マーキンは、ラベルを読み上げ、自分のグラスに注いだ。
「あれ。松は?」
「いい、俺は。」
松は、グラスの赤ワインを飲みながら言った。

「さっき、仕方ないって言ったじゃん。」
「ああ、うん。」
マーキンは酔ってうなだれていたが、顔を上げた。
「なんのこと?」
「え、言った?」
マーキンは完全に酔ってしまっていた。

「寝るよ。布団あるから。」
松に支えられ、マーキンは、ふらふらと布団にむかった。

横になると、マーキンはまた泣きだした。
「もうダメかな。」
「え、何が?」
「かぐちゃん、のこと。」
「大丈夫でしょう。」
「はああ、もうダメだ。」

「つか、かぐちゃんだけじゃないじゃん。」
松は笑った。


前の日の午前3時。
トウナ、伸、大ちゃん、クーン親子、ミンク、ハクが、山賊の下へ向かっていた。

伸は、トウナに聞いた。
「あの、今日の死体さ、昨日、俺達がしゃべった人達だったよね?」
「うん‥。」
トウナの顔は青ざめていた。
「え、幽霊ってこと?」
「そうだろうね。」

大ちゃんは、一歩後ろを歩いていたが、話を聞き、青ざめていた。
ミンク達は、死体を見ていないので、笑いながら歩いている。



午後4時。山賊の本拠地が見えてきた。
「あった‥。」
トウナは、愕然としながら言い、影に隠れた。
「ホントだ。」
ミンクはうずくまり、ハクが背中をさすった。

トウナは朦朧としてきて、倒れそうになり、伸が支えた。
「とりあえず、ここで見守りましょう。」
大ちゃんが言った。

真ん中に立っている、真っ黒に焦げた木。
山賊達は昔、3人の男を燃やした。

3人は、大人になっても、遊んでばかりいるので、地元の困り者だった。
でも、地元の人達は、3人のことが好きだった。

名前は、日々都、遊飛(ゆうひ)、枡氏(ますし)という。

「あのさぁ、日曜日、俺の知り合いの山に行かない?」
地元で医者として、フリーペーパーなどに出ている、東島が3人を誘った。
「いい‥ですけど、俺達だけですか?」
3人は、顔を見合わせた。

「いや、俺の友達も来るよ。」
「うん、じゃ、いいですよ‥ね?」
「うん‥な?」
「うん。」
3人は、東島達と山に行くことを了承した。

「でもアイツ、おかしいよな。」
枡氏が言った。
「うん‥。」
「だってさぁ、この前、工事現場で働いているところ、見ちゃったもん。」
「かわいそうにな。」
「付き合ってやろうぜ。もし俺達が死んだとしても、天国に行けると思うから。」
「うん。」

「って待って。俺達、死ぬわけじゃないだろ?」
「いや、わかんねーじゃん。いつ死ぬなんか、誰もわかんない。」
「うん、ま、そうだけどさ。」
遊飛は笑った。遊飛は、なんとなく、ヤマに顔が似ている。

日曜日。
東島と友達1人が、ワゴン車で迎えに来た。

「ん、コーラ。」
「ありがとう、ございます。」
「いいよ、敬語なんて。」
「いえ、でも。」

「あはは、緊張してるんだ。俺達、2人とも、医者だからね。」
「3人は、何の仕事だっけ?」
ピザ屋、カラオケ店、ガソリンスタンドと、それぞれが答えた。

「ふーん、そっか。」
3人は、バンド活動もしていた。
バンドのことは伏せたが、東島と、友達の篠原は、なんとなくビビってしまっていた。

しかし、先ほどのコーラに、強い睡眠薬が入っていたので、3人は寝てしまった。

起きると、山の入口に来ていた。
3人は縛られてしまっている。

東島、篠原の他に、森という若い男と、若い女性2人が、笑いながら3人を見ていた。
「あはは、やだぁ。何されるか分かってる?」
ロン毛の女が聞いた。

3人は縛られ、口にテープされていたので、答えられなかった。
ボブヘアーの女性は、遊飛の高校の同級生だった。
遊飛が血眼で睨むと、女性は、車の影に隠れた。

「ほら、さっさと歩け。」
遊飛は泣いた。
枡氏は遊飛に、『大丈夫か。』とガムテープの中で声をかけると、遊飛は首をふった。
日々都は、東島を蹴った。
すると、森が拳銃を出し、日々都の足に向けたので、日々都はうつむき、歩いた。

山の広場に来ると、3人は中央の柱に縛られた。
『テープだけ取ってもらえますか?』
死を感じた遊飛がたのみ、森がテープをはずした。
ちなみに、東島はムティ、森はリンチル、篠原は多久に似ている。

「テープ、外していい?」
森は、遊飛のテープを外してから聞いた。
「ダメ。」
東島は答えたが、篠原が小突き、「いいよ。」と言った。
3人はこれから死ぬことになるのだ。

「な、今なら後戻りできるぞ。」
森は言ったが、東島と篠原はうつむいてしまった。

「いや、言われるだろ。」
「誰に言われるんだ。」
「警察に。な?」
「うん。」

午前0時。
遊飛はついにトイレを漏らしてしまっていた。

「よし、点火するか。」
東島が言い、篠原と、心をオバケに変えてしまった森が来て、灯油をまいた。

「神様。」
遊飛は星空に拝んだ。
一体、どういう方法か分からないが、日々都は口から血をだし、死んでしまっていた。
「おい、日々都、日々都!!」
遊飛が泣いて言い、
「日々都、どうした。」
枡氏も声をかけた。

「日々都、死ぬ時は一緒だって言っただろう!!」
枡氏が叫んだ。
日々都は舌を噛み、ぐったりしていたが、死んではいなかった。
舌を噛んで死ぬことはあまりないが、日々都はマレだった。

「よし、点火な。」
東島が言い、心をおばけにした森が手をふった。
最後の最後で、篠原は背を向け、泣いてしまった。

ビビっていた、ボブヘアーの女性はなんと、広場のすみで見ていた。

東島がマッチ1本を投げ入れると、みるみるうちに炎につつまれた。

「嘘でしょう?」
遊飛が言うと、ぐったりしていた日々都がつぶやくように言った。
「ホント。」
「俺達、さよならな。」
「さよならじゃねえよ。また会えるし、今度は絶対に、バンドで成功しような。」
遊飛が言うと、日々都と枡氏が泣いた。
「最後にせーのでさ、俺達のバンド名、叫ぼうぜ。」
遊飛が言うと、枡氏はゴホゴホせいた。

「おい、枡、大丈夫か。」
「う、うん。」
「せーの。」

「イツカ!!」
3人はバンド名を叫んだ。
体はどんどん焼かれていくが、あまり感覚がなかった。

顔が焼かれた時、もう終わりだなと思った。
顔が炎に包まれた時、遊飛は、もののけ姫がタタリ神の触手に包まれるシーンを思い浮かべた。

朝。
3人は黒焦げになった。
枡氏はなぜか、前歯が白く残った。
多分、特殊な差し歯だったのだろう。

朝5時。
ヘリが来て、3人の男は捕まった。
ヘリの隊員は、冷静に、3人の遺体をさわった。

ロン毛の女が通報したのだ。
ボブヘアーの女は、森の中に逃げたが、イツカの3人を探しに来た、地元の人達に捕まってしまった。

3人の男は、ヘリの中でぶるぶる震えて泣いた。

その後、広場は黄色のテープが張られ、3ヶ月ほど監視されていたが、5カ月で監視の目から、完全に外れた。


『マッチ一本、火事の元!』
地元の人達は、消防団の見回りを聞くと、いつもイツカの亡霊を見てしまう。

多久さんの事件簿 霧ヶ峰に温泉旅行編⑤ 7

多久さんの事件簿 霧ヶ峰に温泉旅行編⑤ 7

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-02-24

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