幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 五話
おっぱい
だけど……。
水から上がった後の心地よいけだるさにまどろみながら、机に突っ伏し、俺は手のひらを見つめて思い出していた。
結のスクール水着は小4以来だった。制服ではあんまり変わってないと思っていたけど、なんていうか、女の子って……柔らかい。
思わず触っちゃったけど、いい感じだったな、結のおっぱ……「い、痛(つ)っ!」
後頭部に衝撃を感じたかと思うとおでこを机にぶつけていた。見上げると結が教科書を持って俺を睨み下ろしていた。
「何ニヤついてんの!? 変態!」
「へっ、変態はないだろ!? 変態は」
額を撫でながら体を起こすと、
「一ノ瀬と高梨って仲いいな」
佐々木が振り返った。
「幼なじみなんだって? なンかいいよな。そうやってポンポン言い合えるのってさ」
長いまつ毛の目を細め、優し気に笑った。笑顔の後ろには陽の光を受け風に揺れる白いカーテン。
なんて爽やかな笑顔なんだ。男から見てもそう思う。女子が騒ぐはずだ。女の子のようなすべすべの肌。こんな整った顔で頭も良くて、サッカーでは上級生を押しのけてレギュラー。そしてスポーツテストは『S』だ。(そこだけは俺も同じだけど)
「さっきの泳ぎも速かったなぁ。なあ、高梨?」
「えっ!? あ、うん」
「一ノ瀬、いい体してンのな。なあ、ちょっと触っていい?」
俺が返事をしないうちに、佐々木が俺の二の腕を掴んだ。
「おおーすげー! シャツの上からでもよくわかる。こっちは?」
佐々木の手は俺の大胸筋へと移動した。「うわっ、硬った!」そう言って触りまくる佐々木。なにこの図? なんで俺が佐々木に胸を揉まれるの……?
「一ノ瀬って、専門は背泳ぎ?」
「ああ」
「やっぱり。だからラインが綺麗なんだね。背泳ぎはバランス良く筋肉がつくよな。高梨も触ってみろよ」
「えっ!? わっ、私は……」
結に俺の胸をすすめる佐々木に俺は思わず言った。
「俺の胸より結の胸のが柔らかくていいぞ」
佐々木の俺の胸を揉む手が止まる。
「えっ?」
──えっ?
ぱーん。と、小気味よい音が教室に響いた。
結はあれから以前にもましてプイプイするようになった。
卒業式のときも……。
俺は何もしていない。今度は触っていない。何も言ってない。
なのに。
俺は卒業したら東京の大学へ行く。結は地元に就職した。
大学を終えたら戻って来る。それまで結には待っていて欲しかった。だから俺は結に第二ボタンを渡して自分の気持ちを話すつもりでいた。小林亜里沙に「ボタン下さい」と言われたけどそれは断った。他の女の子にも……。だけど結は。
あろうことか俺の第二ボタンを、俺の気持ちである第二ボタンを、
投げた。
ボタンは青い空に弧を描き、校庭の隅の池に、
ぽしゃん。
と、頼りない音をたてて沈んでいった。
女って……。
幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 五話