そこにいただけ

 ある日の昼休み、とあるクラスの男子グループが私に袋入りのスナック菓子を渡してきた。彼らとは同じクラスとはいえ、一度も話したことがなかった。私はお腹いっぱいだったけれど断って気まずくなるのも嫌だし、特に断る理由もなかったのでとりあえず貰っておいた。彼らは机をくっつけて、そこにたくさんのお菓子を積んでいた。私も食べようとして、もらったお菓子のその袋を少し開けたところで、先生方が突然教室の中に入ってきた。
 「お前ら!そこの菓子をどうしたかバレてないとでも思ってるわけじゃないだろうな!?今すぐ生徒指導室に来い!」
私は全く意味がわからなかったが、男子グループの面々と一緒に、私も強制的に連れていかれた。

生徒指導室に入ると、そこには校長先生をはじめとし、何人かの先生方と見知らぬ男性が険しい表情をして待ち構えていた。私達は席に着かされ、何やら険悪な雰囲気だった。まず口を開いたのは私達のクラスの担任だった。
 「お前ら、正直に話せよ。教室にあったあのお菓子の山、盗んだろ?」
_つかの間の沈黙。
 「黙っててもこの人はお前らが盗んでいるとこをバッチリ見たって言ってるんだぞ!」
そう担任が言い放ち、指を向けた先には見知らぬ男性が腕を組んで、うんうんと頷いていた。首にかけられている名札を見るに、どうやらスーパーの店長のようだ。そして、校長先生の口から恐ろしい言葉が紡がれた。
 「この事件は本校にとっても社会にとっても、非常に遺憾な事件です。よって、ここに校内裁判を開催します。」
刹那、自分の血の気が引いて行くのを感じていた。

 校内裁判。それは学校という単位の組織が国から独立した独自の司法権を用い、学校が関わった諸問題を裁判するというものである。しかし、国の司法とは異なる独自の司法ということもあり、その実態はとてもずさんで残酷なものである。いくつかの状況証拠・物的証拠が全校生徒の前で列挙され、校長が刑の内容を宣告し、直ちに執行されるというものである。私とその男子グループの面々はいま、体育館のステージの上に並べられたパイプ椅子に手錠をかけられたまま座らされている。校内裁判が始まり、担任がステージ上にスクリーンを広げ、私達が映っているとされる防犯カメラの映像が流された。生徒達が映像を見終えると、横から例の店長が「これは明らかにこいつらの犯行だろ!」と言い放ち、私達を指さした。一瞬会場全体がざわついたが、お構いなしに校長が登壇し、判決を下した。
 「えー、ステージ上にいる6名は見ての通り明らかに有罪なので死刑に処します。」 
私はこのとき死を覚悟した。過去に行われてきた校内裁判を思い返しても、死刑判決と言うのはそれなりに下されてきていた。それでも私は感覚が鈍っていたのか、いつもは「あーまたか、何やってんだか」などと思い、特に気にも留めてこなかった。しかし、いざこうして自分が死刑判決を下される立場になった時、筆舌に尽くしがたい恐怖が私を襲った。しかもこの件については全く身に覚えがないので、あまりの理不尽さに絶望した。そのとき、一人の声が体育館に響いた。
 「待って下さい!その人は盗みとは何も関係がありません!」
そう言ったのは私と仲の良かった男子生徒だった。校長や他の先生は何事かという表情をしていた。もちろんそれは私自身も同じだ。そのひとことで次々と生徒たちが椅子から立ち上がった。やがて一部の生徒が教職員達へ殴り込みに行き、体育館は生徒達の怒り一色に染まった。そして皆のおかげで私は救われた。生徒達の力が教師に、校長にこれを認めさせたのでした。
 「ありがとう…ありがとう…!」
そう言って泣きながら私は皆に慰めの言葉と、よく諦めなかったという賞賛に囲まれながら、暖かく迎え入れられたのでした。

そこにいただけ

これは2019.02.19に見た夢の内容です。どんなに理不尽なことが身に降りかかっても、誰かと繋がっていればその繋がりが大きな力になるということを教えてくれる夢でした。人との関わりをそっと抱いて、私の周りの人にも少しでも暖かな気持ちになって欲しいから、今日も私は頑張って生きています。

そこにいただけ

2019.02.19に見た夢の内容です。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-02-19

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