今は昔、海の唄。
勇敢なる宇宙飛行士に敬意を込めて。
今は昔、
そう昔の話さ。
どれくらいかは覚えてないけど、
とにかく、
気がついたらヒレがなくなってたんだ。
エラもうろこも、もちろんお尻のしっぽね。
だけどそんな事は些細な問題。
つまり言いたいのは僕らは昔、
海の中を泳いでたってことさ。
大事なのはそこなんだよ。
今は昔、
僕らは月が大好きだった。
今でも好きだけど、昔はもっと大好きだった。
夜の珊瑚礁を優しく照らすお月様。
満月の夜はみんなで夜更かし。
パパもママも一緒に踊ったりしてさ。
懐かしい思い出。
そう、昔の話さ。
今は昔、
一人の女の子が泣いてたんだ。
それも決まって満月の夜に。
みんなはその子を不思議がったり、怖がったり。
でも僕は何故かほっとけなくて、
ある夜、声をかけたんだ。
「こんばんは、素敵なお嬢さん。」
「僕と一緒に踊りませんか」
その時初めて知ったんだ。
彼女の真珠の涙を。
その秘密も。
遠い遠い、悲しい想い出。
もうとっくに昔の話さ。
それから僕は月を目指したんだ。
ガラスのボウルに海水を詰めこんで、
それを頭にかぶってさ。
よたよた、よたよた。
ウミヘビの従兄弟がくれたんだ、
おいしい、おいしい。
真っ赤な木の実。
その時からかな、ヒレが小さくなって。
そのうちみんなもついてきて。
ケンカしたり、仲直りしたり。
でもあの娘は海の中。
今じゃ昔の、静かな海で。
今は今。
僕はこれから月にいくのさ。
ガラスのボウルに空気を詰めこんで。
それを頭にかぶってさ。
ふわふわ、ふわふわ。
みんなはきっと悲しんじゃうけど、
理由は聞かないで、それは野暮だよ。
海にはもう帰れないしね。
今は昔の、勝手な約束。
そう、僕はわがままなんだ。
今は昔、海の唄。
しばらくして、落ち着いたら修正します。