シロヒメの日本ぷりゅぷりゅ話なんだしっ❤
Ⅰ
「シロヒメー、よいこだねんねしな~♪ うーまもはくばもかわりなく~♪」
「確かに馬も白馬も変わらない……というか白い馬で白馬なんですけど」
白馬の白姫(しろひめ)が歌う無茶苦茶な歌詞に、今日もアリス・クリーヴランドは脱力させられる。
すると、
「ぷりゅ……」
「ええっ!?」
目を見張るアリス。
なんと、白姫がいまにもこぼれ落ちそうな大粒の涙を浮かべていたのだ。
「あの、そのっ……」
アリスはあわてふためき、
「ご、ごめんなさい。そんなキツく言ったつもりは……」
「ぷりゅ?」
「だって、白姫の歌をおかしいみたいなことを言ったから泣いたり……」
その直後、
「ぷりゅーっ!」
パカーーーーン!
「きゃあっ」
容赦なく顔面を蹴られたアリスは悲鳴と共に吹き飛んだ。
「な、何をするんですか!」
「こっちのほうが『何言ってんだか』なんだし」
「ええっ!?」
白姫は不機嫌さむき出しの顔で、
「なんで、アリスに何か言われたくらいで泣かなきゃなんねーし。なめんじゃねーし」
「な、なめてはいないですけど……」
アリスはあたふたしつつ、
「じゃあ、なんで涙を流したり……」
「流して当然なんだし」
そう言って白姫が前に出したのは、
「本……?」
「ただの本じゃないんだし。大傑作なんだし」
アリスが受け取ったその本のタイトルは、
「『スーホの白い馬』――」
「そうだし」
白姫のプレッシャーに押されるようにして、アリスはその本の表紙をめくる。
――そして、
「うっ……うう……」
アリスは白姫に負けじと号泣していた。
「こ、こんな……ひどすぎます……」
「そうなんだし」
白姫もあらためて涙を浮かべ、
「人間はひどいんだし。欲望のままに馬をもてあそんで」
「それは……」
言い返せない。
確かに、本の中での一部の人間のふるまいにはひどいものがあった。
「でも、いい人もちゃんと……」
「それだけじゃ足りないんだし!」
白姫はぷりゅんぷりゅんと怒りをあらわに、
「もっと人間は馬に優しくするべきなんだし! じゃないと、馬の健気さがむくわれないんだし!」
「それは……」
その通りだとアリスも思ってしまう。
「でも、どうすれば……」
「作るんだし」
「えっ」
「こんな傑作を! もっと作っていくべきなんだし!」
白姫は声に熱をこめ、
「というわけで、アリス、作るんだし!」
「えっ……ええ……?」
白姫の勢いについていけないままアリスは、
「む、無理で……」
「ぷりゅーっ!」
パカーーーーン!
「きゃあっ」
またも蹴り飛ばされるアリス。
「なにが無理なんだし! 馬を大事にする気がないんだし?」
「そういうことではないですよ!」
アリスはあわてて、
「そんな、その、傑作を作るなんて……」
「ぷりゅ」
白姫は納得したというように、
「確かにアリスには無理なんだし。アリス、アホだから」
「アホじゃないです」
そこははっきり否定して、
「普通はそんな簡単に傑作なんてできませんよ」
「ぷりゅー」
表情を険しくする白姫だったが、
「……作るんだし」
「だから……」
白姫は力強く言った。
「シロヒメが作るんだし!」
「えええっ!?」
「シロヒメなら作れるし! 傑作なお話を! だって賢いから!」
「確かに賢いですけど……」
「だったら、できるし! 馬であるシロヒメが馬の良さを伝えるお話を作るんだし! 日本ぷりゅぷりゅ話なんだし!」
「日本ぷりゅぷりゅ話!?」
そして――
白姫による『日本ぷりゅぷりゅ話』の創作が始まった。
Ⅱ
昔々――
あるところに優しいヨウタローがいました。
ヨウタローは愛馬のシロヒメをかわいがるとってもいい人間でした。
ある日、ヨウタローが畑を耕していると、
「ぷりゅぷりゅ! ぷりゅぷりゅ!」
「? 何かあったの、白姫」
家の裏で鳴いているシロヒメに気づき、そちらに行ってみると、
「ぷりゅぷりゅ。ぷりゅぷりゅ」
「そこを掘れって言ってるの?」
「ぷりゅ」
ヨウタローはシロヒメに言われた通り、その場所を掘ってみました。
すると、なんと大判小判のたくさん入った壷が出てきました。
賢い白馬のシロヒメは、いつもかわいがってくれるご主人様に恩返しをしたのです。
次の日、話を聞いた隣の家のアリスが、自分にシロヒメを貸してほしいと言ってきました。
親切なヨウタローはその頼みを断り切れず、アリスはシロヒメをつれて自分のうちへ帰りました。
欲張りなアリスはさっそく小判の入った壷を見つけさせようとしたのですが、大好きなご主人様から離されたシロヒメは怒って言うことを聞きません。
それでも、あまりにアリスがしつこいので、
「ぷりゅぷりゅ」
と、ある場所で鳴いてみせました。
欲張りなアリスは、さっそくそこを掘ってみます。
すると、
「きゃあっ」
出てきたのは、ゴミばかり入った壷でした。
さらに、
「ぷりゅーっ!」
パカーーーーン!
「きゃーーっ」
シロヒメに蹴られた欲張りアリスは、自分の掘った穴に落っこちてしまったのでした。
ぷりゅたし、ぷりゅたし。
「う……」
話を聞き終えたアリスは、
「な、なんですか『ぷりゅたし、ぷりゅたし』って」
「めでたしめでたしということなんだし」
「何もめでたくないですよ……というかひどすぎますよ」
「ぷりゅ」
白姫はうなずき、
「確かにひどすぎるんだし。アリスは本当にひどくて……」
「いやいやいや」
アリスは首を横にふり、
「そういうことじゃありませんから。白姫の自分に対する扱いが……」
「ぷりゅー?」
「なんですか、欲張りアリスって。自分、欲張りじゃないですよ」
「えー、欲張りだしー。だって、いつもシロヒメにあれこれ言うしー。『いじめはやめろ』とか『普通にしろ』とかー」
「それは言いますよ、普通に」
「ほら、欲張りだし」
「う……」
確かに白姫にあれこれ求めすぎるのは『欲張り』なことなのかもしれない。
「いまだってヨウタローの代わりに自分が主役やりたいって言ってるし。欲張りだしー」
「言ってません、そんなこと」
ヨウタロー――白姫の主人である花房葉太郎(はなぶさ・ようたろう)は騎士見習いのアリスにとっても仕えるべき相手だ。
「とにかく、もうすこし違う話のほうが……」
「なんでだし? 馬に優しいといいことがあるというすばらしいお話だし。『ここ掘れぷりゅぷりゅ』なんだし」
「なんですか『ここ掘れぷりゅぷりゅ』って」
「まー、シロヒメにはまだまだ引き出しあるけどー。賢いからー」
「はあ……」
「というわけで、ここはストレートに行くし」
「ストレートに?」
「そうだし。『馬のおんがえし』だし」
Ⅲ
昔々――
ある山の中をヨウタローが歩いていました。
「ぷりゅー! ぷりゅー!」
「ん?」
助けを求める馬の声が聞こえ、ヨウタローはそちらに向かいました。
すると、
「かわいそうに……」
罠にかかって動けなくなっているかわいそうな白馬がいました。
優しいヨウタローはすぐに罠をはずし、足のケガも手当てしてくれました。
「これからは気をつけるんだよ」
「ぷりゅー」
白馬はうれしそうにしっぽをふって、去っていくヨウタローを見送りました。
その晩のことでした。
一人で暮らしているヨウタローの家に誰かが訪ねてきました。
「こんな遅くに誰だろう」
戸を開けてみると、そこに透き通るような白い肌をしたかわいい女の子が立っていました。
「道に迷ってしまって……一晩ここに泊めてほしいんだし」
優しいヨウタローはもちろんその女の子を家に入れてあげました。
女の子は言いました。
一晩泊めてもらうことのお礼をしたいと。
「いいよ、お礼なんて」
「よくないし。お礼したいんだし」
「本当に大丈夫だよ」
優しいヨウタローはなかなか女の子の言うことにうなずこうとしません。
すると、
「いいから、お礼させるし! じゃないと先に進まないんだし!」
「ご、ごめん……」
女の子が怒ったので、ヨウタローはようやく言うことを聞いてくれました。
「ちょっと待ってほしいんだし」
「う、うん……」
「こっちの部屋にいる間、決して中は見ないでほしいんだし」
そう言うと女の子は隣の部屋に入って戸を閉めました。
そして、そのままずっと出てきません。
ヨウタローは気になりましたが、
(見ないでって言われたし……)
素直なヨウタローは、言われたことをちゃんと守りました。
そのまま――翌朝。
「って、なんでのぞかないんだしーっ!!!」
「うわあっ」
眠っていたヨウタローは、女の子の怒る声に飛び起きました。
「こういうときはのぞくのがお約束なんだし! わかってないんだし!」
「ご、ごめん……」
「まったく。シロヒメ、ちゃんとお礼の準備したのに」
「お礼の準備……?」
戸が開かれた隣の部屋――そこには、
「ええっ!?」
何もなかった部屋の中が、たくさんのオブジェや照明で飾り付けられていました。
そして、部屋の真ん中にはステージが。
「ぷりゅー。シロヒメのライブにようこそなんだしー」
「えええっ!?」
「シロヒメ……実は昨日ヨウタローに助けてもらった白馬なんだし!」
「そ、そうなんだ……」
「というわけで」
シロヒメはステージの上でくるりとかわいらしく回り、
「お礼なんだし。シロヒメ、ヨウタローのためだけに特別ライブするんだし」
「え……ええぇ~?」
「シロヒメの新曲『ぷりゅっとLOVE』なんだし!」
そして――
シロヒメの素敵なお礼はその日の朝から夜までずーっと続いたのでした。
ぷりゅたし、ぷりゅたし。
「………………」
絶句させられるアリス。
「あ、あの……」
おそるおそる、
「それって、何の恩返しにもなってないんじゃ……」
「ぷりゅーっ!」
パカーーーーン!
「きゃあっ」
「なんてことを言うアリスだし。シロヒメの精いっぱいの優しさに」
「いまの白姫が優しくないです!」
涙目でアリスは言い返し、
「だって、明らかに葉太郎様も困ってたじゃないですか!」
「そんなことないし。大喜びだったし」
「それこそ葉太郎様の優しさですよ……」
「ぷりゅー」
不満いっぱいの顔をする白姫だったが、
「まー、いいし。まだまだ恩返しはあるし」
「まだあるんですか……」
「あるし」
白姫は得意そうにうなずき、
「続いてのお話は『うまじぞう』なんだし」
Ⅳ
昔々――
頭にかぶる笠を作って暮らしているヨウタローがいました。
ある冬の日、町へ笠を売りに行くと、その帰り道に雪が降ってきました。
ヨウタローは雪が積もらないうちにと足を速めました。
すると、道の端に並んでいる馬のお地蔵様が目に入りました。
お地蔵様たちの頭には雪が積もり始めていて、とても寒そうでした。
優しいヨウタローはその頭の雪を払って、売れ残った笠を一つ、また一つとかぶせてあげました。
すると、一つだけ笠が足りません。
ヨウタローは、
「笠がない代わりに……せめてこれを」
そう言って、自分の白い仮面をお地蔵様につけてあげました。
その日の晩のことでした。
「ん……?」
家の外から聞こえてくる歌声に、ヨウタローは目を覚ました。
「ぷりゅりゅぷーりゅぷりゅ、ぷーりゅりゅりゅぷりゅりゅ~♪」
それは『ナイトランサーのうた』でした。
そして家の前に、
「ぷりゅ」
「うわっ!」
そこに立っていたのは、ヨウタローが仮面をつけてあげた馬のお地蔵様でした。
「みんなを代表してシロヒメが来たんだし」
お地蔵様のシロヒメはぺこりと頭を下げ、
「優しくしてくれて、ぷりゅがとうなんだし」
「そんな……たいしたことは」
「たいしたことあるし。だから、シロヒメ、お礼を持ってきたんだし」
そう言ってシロヒメが渡したのは、
「槍……?」
「そうだし。あと、これ」
シロヒメはつけてもらった仮面をヨウタローに返しました。
「ごめん……やっぱりこれじゃ笠の代わりには」
「違うし」
白姫はふるふると首を横にふり、
「これはヨウタローがつけるのが一番似合うんだし」
「えっ」
「それに槍と……シロヒメ」
「それって……」
「ヨウタローは正義のヒーローになるんだし!」
そして――
ヨウタローは白い仮面の騎士・ナイトランサーとなって大活躍したのでした。
ぷりゅたし、ぷりゅたし。
「………………」
またも絶句してしまうアリス。
一方、白姫は得意顔で、
「いいお話だしー。まさに傑作なんだしー」
「い……いやいやいや」
アリスは残った気力でかろうじて首を横にふり、
「いろいろ、おかしすぎますから」
「ぷりゅー?」
「まず……」
アリスはなんとか自分を落ち着かせ、
「馬のお地蔵様って……あるんですか?」
「あるし」
「………………」
「じゃあ、アリスはないって言えるし? 確かめたんだし? 世界中まわって馬のお地蔵様がないってはっきり……」
「い、いやいや、それはわかりましたから」
白姫の追求を避けるようにアリスは首をふり、
「なんで笠の代わりに……仮面を」
「持ってるからだし」
「………………」
確かに――
実際の葉太郎は白い仮面を持っている。
そして、レディの危機には、それを顔につけてさっそうと現れる。
白い仮面の騎士・ナイトランサーとして。
「持っていても……笠の代わりには」
「仕方ないんだし。他に代わりになる物がなかったから」
「………………」
「文句あるし?」
「な、ないですけど……」
文句――というかツッコみたいところはいくらでもある。
恩返しでなぜか騎士になってしまうというのもかなり無理があると思うが、それを言うことをアリスはもうあきらめた。
「じゃあ、これでもう終わりということで」
「ぷりゅーっ!」
パカーーーーン!
「きゃあっ」
「なに、付き合うのが疲れたからテキトーに終わらせようみたいなこと言ってるし」
「そ、そんなことは……」
ある。
相変わらずの白姫のするどさをアリスは思い知らされる。
「じゃー、次行くしー」
「ま、まだあるんですか……」
「あるに決まってるし。日本ぷりゅぷりゅ話だから」
「うぅ……」
『だから』の意味がまったくわからないアリス。
白姫は構わず、
「続いては、またしても感動の名作なんだしー」
「ま……またしても?」
Ⅴ
昔々――
あるところに山で暮らしているヨウタローがいました。
ある日、ヨウタローは山で不思議なものを見ました。
なんと一本の竹が光り輝いているのです。
気になって仕方ないヨウタローは、持っていたナタで竹を切りました。
すると、
「ぷりゅー。ぷりゅー」
「うわぁ……」
竹の中に、珠のようにかわいらしい白馬の女の子がいました。
ヨウタローはその子を家に連れて帰り、ぷりゅや姫と名前をつけました。
ぷりゅや姫はヨウタローにかわいがられて、とってもすくすくかわいく育ちました。
そして、ある日――
ぷりゅや姫はヨウタローに言いました。
「今日まで育ててくれて、ぷりゅがとうございました」
「どうしたの、あらたまって?」
「……ぷりゅんなさい」
「えっ」
「シロヒメ、実は月の国のお姫様だったんです」
「ええっ!?」
「だから月に帰らなくてはだめなんです」
そこへ、
「お迎えに参りました、ぷりゅや姫」
月からの使者のアリスがやってきました。
「でも……シロヒメ、もうすこしヨウタローと一緒にいたいんだし」
「だめですよ。大人になったら月に帰るというのが決まりです」
「誰が決めたんだし?」
「誰って……えーと……」
「そもそもなんで、シロヒメ、竹の中から生まれたんだし? 月の馬はみんなそうやって生まれるんだし? だいたい月に竹があるんだし?」
「それは……えー……」
「アリス、何もしらないんだし! アホなんだし!」
「アホじゃないです!」
「とにかく、何も知らないアリスと一緒に帰りたくないんだし。あやしいんだし」
「あ、あやしいって……」
「あやしいに決まってるし。ひょっとするとシロヒメを誘拐するつもりかもしれないし」
「そんな……」
すると、そこにヨウタローが、
「まあまあ。嘘はついてないみたいだから」
「ヨウタロー!」
ぷりゅや姫は今度はヨウタローに怒りを向け、
「ヨウタローはどっちの味方なの! シロヒメが行っちゃってもいいって言うの!」
「そんなことは思ってないけど……来てくれないとアリスが困るみたいだし」
「葉太郎様……」
「ぷりゅーっ!」
パカーーーーン!
「きゃあっ」
「なに調子に乗ってるし。ヨウタローが自分に優しくしてくれたとか思ったんだし」
「だ、だって……」
「ヨウタローは誰にでも優しいんだし! カン違いすんじゃねーーーし!!!」
「きゃあっ」
「ま、まあまあ……」
怒るシロヒメをなだめて――ヨウタローは言いました。
「僕も行くよ」
「ぷりゅ?」
「僕もぷりゅや姫と一緒に月へ行く。それなら何があっても安心でしょ」
「で、でも……」
ぷりゅや姫は驚き、
「帰ってこれないかもしれないんだし」
「わかってる」
ヨウタローは笑顔のまま、
「でも、ぷりゅや姫のためだから」
「ヨウタロー……」
本当に優しいヨウタローでした。
「わかったし。シロヒメ、ヨウタローと月に行くし」
「うん」
「よかったです……」
「あっ、アリスはここで留守番だし」
「えっ?」
「当たり前だし。シロヒメもヨウタローもいなくなっちゃうんだから、留守番する子がいるんだし」
「あの、でも、自分は月の使者で……」
「いいからやるしーっ!」
パカーーーーン!
「きゃあっ」
こうして――
月に行ったぷりゅや姫とヨウタローはそれからも仲良く幸せに暮らしました。
月の模様が白馬の歌っている姿に見えるのは、そこにいまもぷりゅや姫がいるからかもしれません。
ぷりゅたし、ぷりゅたし。
「………………」
絶句する他ない。
「あ、あの……」
「なんだし?」
「………………」
何を言っていいのやら。
「とりあえず、まず、また自分の扱いがひどくありませんか?」
「ひどいし。仲良く暮らしてるシロヒメとヨウタローの仲を割こうとして……」
「だから、そういうことではなくて」
これ以上言っても無駄なことはわかりきっているが、
「それと……なんですか、月の模様が白馬の歌ってる姿に見えるって」
「見えるし」
「いや、ウサギとかは聞いたことありますけど」
「ウサギがいるなら馬もいるし」
「いる……んですかねえ」
「ちゃんと歌もあるし」
「歌?」
「はーくば、はくば、なにみてはねる~♪ ぷりゅぷーりゅおーつきさん、みてはーぁーねーる~♪」
「う……」
もはや何も言えなくなってしまう。
白姫はまたも得意満面で、
「もー、シロヒメ、傑作なお話ばかり作ってしまうしー。まー、シロヒメが出てくる時点で傑作に決まってるんだけどー」
「はあ……」
「これで子どもたちももっと馬を大事にしてくれるようになるんだし」
「なりますかねえ……」
「なるし。馬のかわいさやけなげさがいっぱいにつまったお話を聞いて……」
そこで――白姫の言葉が止まった。
「白姫?」
「……しまったんだし」
「えっ」
「確かにかわいさやけなげさは伝えられたかもしれないけど、大事なことをまだ伝えきれてないんだし」
「大事なことって……」
「もちろん『賢さ』だし!」
白姫は声に力をこめ、
「シロヒメ、かわいいだけでなく賢いんだし! そこも大事な魅力なんだし!」
「その賢さをもっといいことに使ってもらいたいですけど……」
「『ここ掘れぷりゅぷりゅ』にもシロヒメの賢さは出てるけどまだまだ足りないんだし。もっと賢さを前面に押し出したお話が必要だし」
「まだ作るんですかぁ……」
「賢さを見せられる昔話と言えば……とんちだし!」
「とんち……?」
「そうだし」
白姫は目を輝かせて言った。
「『とんち白馬ぷりゅっ休さん』だし!」
Ⅵ
昔々――
ある山のお寺に、ぷりゅっ休さんというとても賢い白馬がいました。
ぷりゅっ休さんは用事があってアリスと一緒に町へ行くことになりました。
山を下り、川向こうの町へ行くため橋を渡ろうとしたとき、
「ぷりゅ?」
ぷりゅっ休さんの足が止まりました。
なんと、橋のそばに、
『このはし、わたるべからず』
と書かれた看板が立っていたのです。
「ぷりゅー」
ぷりゅっ休さんたちは困ってしまいました。
「どうしましょう、ぷりゅっ休さん」
「なんでだし?」
「えっ」
「なんでこの橋は渡っちゃだめなんだし? 危ないんだし?」
「見た目は普通に渡れそうですけどねえ」
「渡っちゃいけない理由が書いてないんだし。不親切なんだし。『ペンキぬりたて』とか書いてあればいいのに」
「そうですねえ……」
「とにかくこの橋を『渡らないで渡ら』なければならないし」
「えっ、そんなことできるんですか」
「できるし。ぷりゅっ休さんのとんちで」
そう言うと、ぷりゅっ休さんは目を閉じて考えこみ始めました。
「ぷりゅめけー、ぷりゅめけー」
「なんですか『ぷりゅめけ』って?」
やがて、
「ぷりゅっ、ぷりゅっ、ぷりゅっ、ぷりゅーん♪」
「何かひらめきましたか?」
次の瞬間、
「アリス!」
「えっ」
「ぷりゅーっ!」
パカーーーーン!
「きゃあっ」
ぷりゅっ休さんに蹴り飛ばされたアリスはそのまま橋の上に倒れこみました。
「なっ、何をするんですか!」
「これでいいし」
「ちっともよくないです!」
「いいんだし! ほら、いまアリス、橋を渡ってないけど橋の上にいるし」
「あっ」
はっとなったアリスは、あらためていま自分が倒れているところを見渡します。
「でも、これからどうしたら……」
「そのままだし」
「そのまま?」
そして、
「ぷりゅーーっ!」
華麗にジャンプしたぷりゅっ休さんは、
「ぐふっ!」
そのまま倒れているアリスの上に着地しました。
さらにジャンプ。
こうして見事にぷりゅっ休さんは橋を『渡らないで渡っ』たのです。
「ぷりゅー。シロヒメ、賢いんだしー」
「ひっ、ひどすぎますよ! 人を踏み台代わりにして!」
「人じゃないんだし。アリスを踏み台にしたんだし」
「同じことです!」
「これなら橋じゃなくてアリスを渡ったことになるし。しかも、先にアリスを行かせることで橋に穴が開いたりしないかどうかも確かめられるんだし。一石二鳥なんだし。賢いんだしー」
「ひどすぎる賢さです!」
「あっ、アリス、動いちゃだめだし!」
「えっ」
「動いたら橋を渡ることになっちゃうし」
「えっ、じゃあ、どうすれば……」
「そのままでいるし」
「えええっ!?」
「他の人もアリスの上を渡れるんだし。一石二鳥だし」
「だから、他の人はともかく自分はどうなっちゃうんですかーーっ!」
そうやって必死に自分のことばかり訴えるわがままなアリスなのでした。
ぷりゅたし、ぷりゅたし。
「う……」
アリスは口もとを引きつらせ、
「い、いままで以上に自分が『めでたしめでたし』じゃないですよ……」
「めでたいし。シロヒメや他のみんなの役に立ってるし」
「イヤですよ、そんな役の立ち方!」
「わがままだしー」
「わがままでは白姫に勝てませんよ……」
「じゃあ、他のとんちにするし?」
「他のとんち?」
「虎退治だし」
「それって……確か屏風の虎をつかまえるっていう」
「アリスをエサにしておびき出すし」
「また自分がひどい目にあってるじゃないですか!」
「えー、なにマジになってんだしー。実際に出てくるわけないしー」
「それは、まあ、絵に描かれた虎ですから」
「違うし。アリスがまずそうでおなか壊しそうだから出てこないんだし」
「なんてひどいことを言うんですか!」
思わず涙がこぼれてしまう。
「もう……さっきからひどいですよ。お話の中とはいえ、自分をひどい目にばっかり合わせて……」
「確かにワンパターン感はいなめないし」
「そういうことではなくて……」
「わかったし」
白姫はアリスを見て、
「次はおいしい役をやってもらうし」
「えっ、本当ですか?」
「本当だし。シロヒメ、嘘なんてついたことないし」
「いやもう、それが嘘じゃないですか」
不安はありつつ、それでもちょっぴりアリスは期待してしまう。
「それで、どんなお話なんですか?」
「それは――」
もったいぶったように間を持たせ、白姫は言った。
「『泣いたしろうま』だし」
Ⅶ
昔々――
あるところにシロヒメとアリスが暮らしていました。
シロヒメはかわいくてとっても人気者でしたが、かわいくないアリスはぜんぜん人気がありませんでした。
当然、友だちもいません。
「自分も友だちがほしいです……」
「ぷりゅー」
優しいシロヒメはそんなアリスを放っておけませんでした。
そこで、
「シロヒメにまかせるし」
「えっ、でも、どうやって……」
「作戦があるし。人気のないアリスが人気者になるための」
シロヒメはアリスに〝作戦〟を話しました。
「えっ! でも、そんなことしたら白姫が……」
「構わないし。かわいそうなアリスを放っておけないんだし」
「白姫……」
シロヒメの優しさに感動するアリス。
そして――
作戦決行の日は来ました。
「ぷりゅーーっ!」
パカーーーーーン!
「きゃあっ」
村の人たちが見ている前で、シロヒメはアリスをいじめました。
「ぷりゅっ! ぷりゅっ! ぷりゅぷりゅぷりゅぷりゅ……」
いつも優しいシロヒメがそんなことをしていたので友だちのみんなは驚き、
「どうしたの、白姫ちゃん?」
「何かあったの?」
理由を聞かれましたが、シロヒメはそれを無視してアリスをいじめ続けます。
「ぷりゅっ! ぷりゅっ! ぷりゅりゅっ!」
するとついに、
「やめて、白姫ちゃん!」
「アリスちゃんにひどいことしないで!」
みんながシロヒメを止めに入りました。
そして、ボロボロのアリスを介抱します。
「ひどい……こんなになって」
「大丈夫、アリスちゃん?」
「じ、自分は大丈夫で……あっ、やっぱり大丈夫じゃないので心配してもらったほうが……」
そしてみんなは、
「白姫ちゃん!」
険しい顔でシロヒメを見て、
「どうして、アリスちゃんにこんなことしたの!?」
シロヒメは――
「えっ……!」
みんなは驚きました。
なんと、シロヒメが泣いていたのです。
「ぷりゅっ、ぷりゅっ……」
「白姫ちゃん……」
怒っていたみんなはおろおろして、
「どうしたの、白姫ちゃん? どうして白姫ちゃんが泣いてるの?」
「……したくないんだし」
「えっ」
「本当は……シロヒメ、こんなことしたくなかったんだし」
みんなは事情を聞きました。
なんと、いままでのことはシロヒメとアリスで仕組んだお芝居だったのです。
友だちのいないアリス。
そんなアリスが友だちを作るために、わざとシロヒメにいじめられて、そこをみんなに助けてもらうことで友だちになってもらおうとしたのです。
「でも……でも……」
シロヒメはぽろぽろと涙をこぼし、
「アリスのためだってわかってても……それでも大好きなみんなにシロヒメが嫌われるって思ったら……悲しくて……」
「白姫ちゃん……」
「白姫……ちゃん……」
みんなの目にもシロヒメと同じ大粒の涙がこみ上げます。
そして、
「白姫ちゃーーーーん!」
みんな、いっせいにシロヒメに飛びつきました。
「ごめんね、責めたりして!」
「そうだよね! シロヒメちゃん、いい子だもんね!」
「ぷりゅぅ……」
シロヒメもみんなと一緒に泣きました。
こうして、シロヒメはみんなともっと仲良しになったのでした。
ぷりゅたし、ぷりゅたし。
アリスはあぜんと、
「あ、あの……」
「ぷりゅ?」
「自分、結局、ぜんぜんおいしくないんですけど。白姫にいじめられたあげく引き立て役なんですけど」
「それがアリスのさだめだし」
「いやですよ、そんなさだめ!」
「じゃあ、自分でさだめを変えてみるし」
「えっ?」
「いまここでシロヒメにいじめられて……」
「や、やめてください! なんで自分と白姫しかいないここでいじめられないといけないんですか! それに心身ともにもう十分にいじめられてますよ!」
「いじめ!」
はっとしたように白姫が声をあげる。
「そうだし、いじめだし。昔話にはいじめられるかわいそうなヒロインが必要なんだし」
「いや、いじめてるのは主に白姫ですからね?」
「アリスや継母がいろんなひどい方法でシロヒメをいじめて……」
「だから、いじめてるのは白姫です!」
「シロデレラ……は前にやったことあるから。……あっ! 『しろずきん』だし!」
「しろずきん?」
「そうだし。白い頭巾をつけたかわいい白馬のシロヒメがおばあさんのところへおつかいに行くんだし。けど、おばあさんは悪いアリスに食べられてて、そうと知らないシロヒメは『耳が長い』とか『目が大きい』とかいろんないじわるなことを言われていじめられて……」
「ち、ちょっと原作と違う気がしますけど。それに『日本~』って言ってるんですから、外国の話を入れるのはどうかと」
「じゃあ『怪傑しろずきん』にするし?」
「なんですか『怪傑』って。確かに日本の時代劇っぽくはなりましたけど」
「でも、そもそも外国の話だって『日本ぷりゅぷりゅ話』に入れていいんだし」
「いいんですか?」
「外国の文化を取り入れて日本文化はせーじゅくしてきたんだし」
「それは、その通りですけど」
「というわけで、次は日本じゃない国の昔話だし!」
Ⅷ
昔々――
ヨーロッパの小さな町に、シロヒメというかわいい白馬がいました。
シロヒメにはヨウタローというご主人様がいました。お金はありませんが、シロヒメたちは仲良く幸せに暮らしていました。
歌が好きなシロヒメには夢がありました。
町一番の大きな教会に人を集めて、みんなに歌を聞いてもらうことです。
教会の天井は高くて、歌声がとてもよく響くのです。
でも、ヨウタローの家は貧乏だったので、シロヒメも暮らしのために一生懸命働かなければなりませんでした。
とても、教会を借りて歌の会を開くことなんてできません。
「ごめんね、白姫。うちにもっとお金があったら、白姫にまで働いてもらわなくてよかったのに」
「ぜんぜんいいんだし。シロヒメ、ヨウタローといられるだけでとっても幸せなんだし」
そうです。シロヒメは幸せだったのです。
だけど、その幸せはずっとは続きませんでした。
ヨウタローがとても重い病気にかかってしまったのです。
「ごほっ、ごほっ……」
「大丈夫、ヨウタロー?」
「ごめんね、白姫に看病までさせちゃって」
「いいんだし。シロヒメ、賢いから看病もちゃんとできるんだし」
「ごめん……」
「もー、ヨウタロー、あやまってばっかりだし。早く元気になって、またちゃんとシロヒメのことかわいがってくれるんだし」
「……うん」
ですが、シロヒメの願いもむなしく、ヨウタローの病気はどんどん悪くなっていきました。
そして――
とてもとても寒いある夜のこと。
「白姫……」
「なに、ヨウタロー? なにか食べたいものある?」
「白姫こそ、ちゃんと食べないと……」
「シロヒメはいいんだし。おなかすいてないから」
それは嘘でした。貧しさに看病の苦労もあって、白姫はここ数日ほとんどまともに食事を取れていませんでした。
「白姫に……お願いがあるんだ」
「お願い?」
「うん。最後に……やってもらいたいことが……」
「だめだし!」
「えっ」
「『最後』なんて絶対だめだし! そんなお願い、シロヒメ、聞かないんだし!」
「……そうだね。ごめん」
「普通にお願いすればいいんだし。ヨウタロー、シロヒメのご主人様なんだから」
「じゃあ……お願い。シロヒメに連れていってもらいたいところがあるんだ」
「出かけるんだし!? だめだし、そんな身体で!」
「どうしても行きたいんだ」
「ヨウタロー……」
「お願い」
「………………」
迷ったあと、白姫は言いました。
「……無理しないって約束してくれる?」
「うん」
「………………」
じっと見つめてくる瞳に負けて、シロヒメはヨウタローを乗せて家の外に出ました。
「ごほっ、ごほっ……」
「ホントに無理したらだめなんだし! 絶対だし!」
「うん……」
そして、シロヒメとヨウタローがたどりついたのは、
「ここって……!」
シロヒメは驚きました。
そこは、シロヒメがずっとその中で歌いたいと夢見ていた大きな教会だったのです。
「さあ、入ろう、白姫」
「で、でも……」
おろおろしながらも、シロヒメはヨウタローに引かれて中に入りました。
広い教会の中には誰もいませんでした。
ヨウタローは、神様の前にひざをついて祈りました。
「どうか、これからも白姫をお守りください」
「……!」
まさか――シロヒメは思いました。
このために教会に来たかったのか? 神様がシロヒメを守ってくれるように――
自分が……いなくなったあとも――
「それと」
ヨウタローは言葉を続けました。
「もう一つお願いします。どうか僕たちにしばらくこの場をお貸しください」
「ぷりゅ?」
首をひねるシロヒメにヨウタローは笑顔を見せ、
「夢だったんでしょ? ここで歌うのが」
「ぷりゅ!」
思ってもいなかったことを言われて、シロヒメはとても驚きました。
「で、でも聞いてくれる人が……」
「僕がいるよ」
ヨウタローはおだやかに笑って言いました。
「僕だけじゃ……だめかな」
「ううん!」
シロヒメは首を横にふりました。
そのきれいな目から涙がきらきらと飛び散ります。自分が苦しいときでも愛馬のことを想ってくれるヨウタローの心に、シロヒメはとても感動していました。
「シロヒメ、うれしい! ヨウタローが夢をかなえてくれて!」
「そう」
ヨウタローもうれしそうに微笑みました。
そして――
シロヒメはヨウタローの前で心をこめて歌いました。
「ぷーりゅんなーいと♪ ほーりーなーいと♪ ほーしはー、ひーかり~♪」
その歌声は広い教会の中いっぱいにこだましました。
「ぷーりゅーりーのみーこーは~♪」
ごはんを食べていないせいで、だんだんとシロヒメの目がかすんでいきます。
それでもシロヒメは歌いました。
何曲も、何曲も。
涙をこぼしながらシロヒメは歌い続けました。
すると、そのとき、
「!」
光が――どこからともなくシロヒメたちの上にふり注ぎました。
「ぷ、ぷりゅ……?」
驚いて顔を上げるシロヒメ。
「ぷりゅ!」
なんと――
光の中、翼を生やした愛らしい天馬たちが次々とやってくるではありませんか。
天馬たちはヨウタローを囲むように降り立ちました。
そして、いっせいにこちらを見ます。まるでヨウタローと一緒にシロヒメの歌を待ちわびるかのように。
「ぷりゅ……」
シロヒメはあらためて感動の涙を流しました。
みんなに歌を聴いてもらう。
いま、その夢が本当にかなったのです。
「ぷんりゅんりゅー、ぷんりゅんりゅ~♪ ぷんりゅりゅりゅんりゅん、ぷーりゅんりゅーりゅん♪」
シロヒメは歌いました。
これまで以上に心をこめて。
この感謝の想いがヨウタローに……みんなに――
世界中に届くようにと。
「ありがとう、ヨウタロー」
「うん」
「だけど、シロヒメ、もう……眠いし……」
「うん……」
そして――
翌朝、教会に来た人たちは驚きました。
そこには、冷たくなったヨウタローと、そんなヨウタローを守るようにして寄り添うシロヒメの姿がありました。
どちらももう息をしていませんでした。
それでもシロヒメとヨウタローは――誰よりも幸せそうに微笑んでいました。
「う……うう……」
こらえきれなくなったアリスは顔を押さえて号泣した。
「かわいそうです……なんて悲しいけど素晴らしいお話なんですか……」
「やっぱり、そう思うし?」
語り終えた白姫も目じりに涙を浮かべ、
「題名は『プリュンダースの馬』なんだし」
「そ、その題名はどうかと思いますけど……」
軽く脱力するも、感動は冷めないまま、
「とてもいい話でした。他のみんなにも聞いていもらいたいです」
「やっぱり、そう思うし」
白姫は鼻を鳴らし、
「なら、さっそくみんなに聞かせに行くんだし!」
「えっ『さっそく』って……いまから?」
「そうだし」
白姫は「ぷりゅ!」と力強くうなずき、
「みんな、シロヒメの話を聞いたらよろこぶんだし。間違いないんだし」
「よろこぶはよろこぶかもしれませんけど、そんなに急がなくても」
「急がなくてはだめなんだし。ただでさえ現代は情報にあふれた時代なんだし。子どもたちがよけいなことに気を取られてしまう前に、馬への愛情を植えつけるんだし」
そして白姫は、
「ぷりゅーーっ!」
「あっ、白姫」
いつものようにいきなり飛び出していき、アリスもそれを追いかけるしかなかった。
Ⅸ
「ぷりゅー」
屋敷に帰ってきた白姫は、満足そうな息をもらした。
「やっぱり、みんな大よろこびだったしー。シロヒメのお話にー」
「そ、そうですね……」
ぐったりしながらそれに応えるアリス。
確かに白姫のお話は好評だった。といってもそばでアリスがいろいろサポートをしなければならず、子どもたちにせがまれるまま語り続ける白姫につき合わされて、思いのほか消耗させられていたのだ。
「というわけで、次行くし」
「は!?」
驚きの声をもらしたアリスを白姫は不満そうに見て、
「なんだしー? 子どもたちに馬の大切さを知ってもらいたくないんだし?」
「いや、だって、いま話してきたばかりじゃ……」
「近くの友だちには話したし」
「近くの……?」
「そうだし」
白姫は目をキラーンと輝かせ、
「シロヒメの素晴らしいぷりゅぷりゅ話は世界中の子どもに伝えないといけないんだし。今日はあくまで第一歩なんだし」
「世界中って……それは本か何かで……」
「そんなんじゃだめだし」
白姫は「ぷりゅっ」と肩をいからせ、
「シロヒメが目の前で語るから意味があるんだし。お話の素晴らしさに加えてシロヒメのかわいさを目の当たりにすれば、誰でも馬を大事にしようと思うんだし」
「それは……そうかもしれませんけど」
「というわけで行くしーっ!」
「えっ、ちょっ、白姫!?」
やる気に燃えて飛び出していく白姫を前にアリスは、
「ちょ、待っ……本当に世界中を回るつもりですか? しかも、いまから!? 無茶ですよ、白姫――――――っ!」
今日も悲痛な叫びがむなしくこだまするのだった。
シロヒメの日本ぷりゅぷりゅ話なんだしっ❤