駅のホームから転落してしまい、慌ててふちに手をかけた。たくさんの人に手を踏まれているので、痛いなあと思ってふと下を見やると、そこは一面の虚無だった。どうしてこんなに虚無でいっぱいなのかはわからないが、たくさんの死体や花が蒸発して出来た跡であるのは確かだった。そしてこの上を電車が走っていることにも得心がいった。やがて踏まれ続けるうちに指がちぎれたので、真下をたゆたう虚無の拡がりを、一瞬、想像してから、虚無は拡がるのではなく、濃ゆくなるのだ、と気づいた。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-02-14

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