迷子
デパートの中
四、五歳の子供
衣料品の迷路の中を
ふらふらと歩き回っている
ワゴンの前に立ち止まって
少々ごちゃついたその中身を覗き込みながら
子供は手を伸ばして
かたわらの女性の手をつかんだ
「あら?どうしたの。お母さんじゃないわよ。間違えちゃった?」
声を聞いて通路の向う側にいた女性が目を向ける
子供はパッと手を離して
通路の向う側の女性の後ろへ走って行き
女性は軽く頭を下げた
だってあの人もお母さんじゃない
衣料品の迷路の中を歩き回って
目の前のコートの袖をつかまえた
ぷらぷらと腕を振ると
コートの腕も一緒に動く
お手てつないで帰りましょ
ただ思ったんだ
この人の手は暖かそうだなって
お母さんじゃないとダメなのかな?
カラスと一緒に帰りましょ
ぽん、と投げ上げるようにコートの袖を離す
コートの中は薄っぺら
だとしたら
僕の暖かさはどこにあるんだろう?
迷子