デート・ア・ライブ 七罪コンフェッション
デート・ア・ライブ第3期が始まりましたね。先日、遂に七罪編が完結しました。いやぁ、とにかく七罪が可愛くて可愛くて仕方がありませんでしたし、何より七罪が士道たちの仲間にちゃんと加わる事が出来て感動しました。これからも七罪の成長を見守りたいですね。今回のお話は、そんな七罪への愛の衝動が元となって生まれたお話です。
健気さ
二月のとある休日。その日、天宮市に雪が舞い降りていた。
目を覚ました士道は、洗面を済ませた後家の外に出てみた。灰色に染まった重たそうな空からは、白い結晶がひらひらと降りてくる。
「本当に降ってる……」
士道がそう言葉を発すると、白い吐息が空気に溶けていった。
しばらく雪が降る様を観察していたが、途端に自分が上着を羽織っていないのを思い出して、身震いして家の中に引き返した。
外履きを脱いで廊下を進むと、琴里が階段を下りてきているところだった。
「おはよう琴里」
「おはよう、士道」
彼女は軍服を身に纏っている。
おもむろにチュッパチャップスを口に放り込んだ。朝っぱらから甘いものを摂取するのはいかがなものかと思うのだが……と士道は思いつつも、
「もしかして、今からフラクシナスに行くのか?」
「ええ。ちょっと仕事が立て込んでいてね」
そう言いながら、琴里は玄関に向かった。
「そうか、気をつけてな」
琴里の背中にそう声を掛けると、
「善処するわ」
と、琴里の返事があり、
「ありがとう、おにーちゃん」
とも返ってきた。そして琴里の姿は玄関の向こうに消えた。
琴里を見送った士道は、朝食を作るためにリビングへ向かった。
ひとまず朝に関しては他の精霊が来る予定は無いので、士道は自分の分だけ作る事にした。
やがて、食卓にはごはんに味噌汁、スクランブルエッグ、野菜サラダ、漬物というとても健康的なメニューが顔を揃えた。
「いただきます」
誰もいないリビングはとても静かだ。普段なら精霊が集まってゲームやらなんやらをしているので、とても賑やかなのである。
テレビ番組の音声と時折通過するスクーターの音だけがリビングに聞こえてくる。
そうして士道が朝食を終えて食器を洗い始めた頃、インターホンが鳴らされた。
手をエプロンで拭き玄関に向かう士道。扉を開けると、そこには七罪が立っていた。
「おお、七罪。おはよう」
「……おはよう、士道」
寝起きだからか、やや不機嫌なオーラを醸し出している七罪。
「……何よ。そんなに私の寝起き姿が変なの?」
「そんなこと無いって。ほら、上がれ」
七罪は士道に勧められるままに玄関を上がりリビングにやって来た。
ソファに腰を下ろすと七罪はリモコンを手に取り、お気に入りの番組を物色し始めた。
「七罪、あのドラマだったら録画してあるから見るか?」
「見る」
七罪は簡潔に答えて、録画したドラマを見始めた。
彼女が見ているドラマは、以前四糸乃におすすめされて視聴を開始したタイトルだ。
七罪が霊力の封印を経て仲間になってからというもの、特に四糸乃と仲が良い。
二人で定期的にお茶会を開いたり、はたまた(ラタトスクサポートのもと)デートをしたりと、自他ともに認めるずっ友である。
およそ一時間ほど――時刻は八時半、ドラマが終わった。
「うーん……」
七罪が大きく伸びをした。すると、彼女のお腹からぐぅぅぅ……と可愛い音が聞こえてきた。
「~~~~~~!!」
七罪は声にならない声を上げると、テーブルの下に潜ってしまった。
士道は苦笑して、彼女の方へ歩み寄った。
「お腹空いてるのか、七罪」
「違う!」
テーブルに潜ったまま視線だけ士道に向ける七罪。そして頬を赤く染めて答えた。
「良かったら食べていかないか」
士道が優しく微笑むと、七罪はテーブルの下から這い出てきて、上目遣いに答えた。
「食べる……」
「よしっ!」
そう言って士道は七罪の頭をわしわしと撫でた。そして士道が台所に引き上げていくのを見て、七罪はそっと呟いた。
「……士道のためにセットしたんだから。バカ」
「お待たせ」
先ほどのやり取りから三十分ほど経過した。椅子に行儀よく座った七罪の前に、士道は食器を置いた。その中身を見て七罪は怪訝そうに呟いた。
「どうして親子丼……?」
「そんな事言うなって。実は、四糸乃が最初に家に来た時振る舞った事があるんだぞ。その時と同じ味付けだ」
「四糸乃に? その時と同じ?」
「ああ。そうだ」
士道が四糸乃の話題を出した事で、七罪の表情が一変した――不機嫌そうな顔つきからデレっとした年相応な女の子の表情に。
七罪は士道特製親子丼を夢中で食べ進めた。反対側の椅子に座りその様子を眺めていた士道は笑みを浮かべた。
最初に出会った時、彼女は大人のお姉さんの恰好をしていた。その後、本当の姿が四糸乃と同じくらいの少女だと知った。
その事で七罪と争った。彼女は“本当の自分”を見た士道を強く拒絶した。だが、士道は決して七罪を見捨てなかった。
勿論困っている精霊を放っておけなかったのも事実だ。だけど、もう一つ理由があった。
自身へのコンプレックスを持った女の子を見捨てる事が出来なかったのである。
琴里は、白いリボンを付けた“無邪気な自分”へのコンプレックスが原因で“強い自分”となるために黒いリボンを身に着け、今はラタトスクの最前線で戦っている。
そんな経験があったからこそ、士道は、七罪を放っておけなかったのである。
いつの間にか七罪は親子丼を食べ終わっていて、口元をティッシュで拭いているところだった。
士道が笑みを浮かべてじっと見つめている事に気づいて、きっと視線を鋭くした。
「……なに。いっぱい食べる女の子なんて気持ち悪いとでも思った?」
「いや。――七罪と出会った時の事とか、色々思い出してた」
「……‼」
士道の言葉で七罪の表情が真っ赤に染めあがった。
気持ちを落ち着けるためか、彼女はお茶を一気飲みするとまくし立てた。
「なに余計な事思い出してくれてるのよ! というか忘れてよ! 思い出すだけで霊力が逆流するから……」
そう言って七罪は俯いてしまった。士道からは紅葉色に染まった七罪の耳たぶが見えた。
士道は席を立つと七罪のそばに歩み寄り、そっと頭を撫でた。七罪ははっと顔を上げた。
そして、七罪の瞳を真っすぐ見つめながら、優しく言葉を紡ぐ。
「余計なことじゃないって。俺は、七罪と出会えて本当に良かったと思ってる。だから、自分を否定するな。――その時は、お前の事を誰よりも肯定してやるから」
「本当に……?」
「ああ、本当だ」
「本当の本当に?」
「本当の本当だ」
「本当の本当の本当に?」
「本当の本当の本当に、だ」
七罪は一瞬俯いてしまった。
「七罪?」
士道に名前を呼ばれて、七罪はもう一回顔を上げた。そして士道の服の襟を掴んで引き寄せると――。
士道が呆然と頬を押さえているのを見て、七罪はぶっきらぼうに言った。
「……他の精霊に現を抜かしたら、またあの時みたいにしてやるんだから。ただし四糸乃を除いて」
「あはは……」
士道は苦笑するしか無かった。
七罪がさらに言葉を重ねそうになかったため、士道は食器を片付けるためリビングに向かおうとする。
しかし、七罪が士道の服の裾をつまんだ。そして、言葉を発した。
「……士道、大好き」
そう言い残して、七罪は猛ダッシュで部屋を出ていった。やがて玄関が勢いよく閉まる音が聞こえた。
呆然とその姿を見送っていると、代わりに琴里がリビングへやって来た。いつの間にかリボンは白にチェンジしている。
「なんか七罪が物凄い勢いで出ていったけど、どうしたのだー、おにーちゃん?」
「ああ、まあな」
訳が分からないといった様子で首を傾げる琴里。
その後、司令官モードの琴里に詰問されて大変な目に遭うのはまた別のお話である。
~終わり~
デート・ア・ライブ 七罪コンフェッション
いかがでしたでしょうか。七罪という、また一風違った性格の女の子を描き出すにあたり、一つ一つ丁寧に考えて書いたつもりです。それでは、また別のお話で会えることを楽しみにしております。