先生のからだはウエハース
先生、知っていますよ、わたし、先生のからだが、ウエハースでできていること、噛んだらサクッと、音がするんでしょう、先生、どうか一度、かじらせてくれませんか。
(廊下、だれもいない廊下は冷たく、寒い。スーツを着ている先生、放課後、ネクタイが少し歪んでいる。吹奏楽部の音色、打楽器、弦楽器、管楽器。金属バットにボールが当たる音。笛の音、サッカー部か陸上部。いろんな音がきこえる廊下に、いま、先生とふたり)
「はは」
(小さく笑う先生、わたしの制服のリボンに、手を伸ばす)
先生、ここ、学校です。
「知ってるよ」
(そう言って先生は、わたしの制服のリボンを人差し指でそっと撫でてから、手をおろした。ほんとうはわたし、先生にリボンをほどかれても、かまわなかった。いいの、先生、わたし、先生が好きなのだから、そのままリボンで首を絞められたって。いいの。持っていた教科書を先生は胸に抱え直して、わたしを見据える)
「だめだよ、かじったら、ぼくのからだ、再生しないから」
そんな。
「たとえば、みぎうで。かじられたら、そのまま、きみの歯形が残って、かじられた部分はきみのおなかで、消化される」
それは、つまり、先生のからだが、わたしの一部になると。
「きみって随分、ポジティブだね」
(にやりと微笑んだ先生は、先生という皮をかぶった、なにか得体の知れないもののようだった)
先生のからだはウエハース