嗚咽の森

嗚咽の森

しがらみ翔太は小学生。
比嘉小学校の中庭には二階分の高さのある細長い木が一本と赤い屋根の小屋がある。小学校低学年の子供が三人入れる位のこの小屋には ひとりの少年が閉じこもっている。

須崎のみ は小学校職員。
職員室の窓から目の前にある中庭を眺めていると、「新川さんからお電話ですー」と声がして 了解でーす と言い受話器を取った。新川はここ比嘉小学校のミニバスケットクラブの代表ママだ。
はいーうーん、そうですねー等と返事、相打ちを繰り返して出来るだけ早めに話を切り上げた。

内容を整理すると要はミニバスを辞めたいと言い出したので、部員も少なくなってきてるし、実力も市内で最下位争いするようなレベルなのだから人がこれ以上辞めるのは士気の低下に繋がるわよね。そうねやっぱり辞めないように説得してみるわ。
との事だった。私の意見等は求めず、ただひとりで納得して新川は電話を切った。
またプリントの整理をするフリをして窓の外の中庭 しがらみの森 を黙って見た。

新川のミニバスへの想い入れは周りが引くほどのものだった。実力が上がらないのはコーチが悪いのではないかと学校側に訴え、塾に行ってクラブに顔を出せないからと退部を要求した下田さんには クラブの会員の仕事が嫌だから?塾へ行っても良いし、会費払わなくても良いから籍は残しておかない?と退部届けを拒否し続けているらしい。
ただの小学校のクラブ活動にこれほど熱心になれるとは、、
頭がおかしい人なんだな、と私は整理をつけているが電話は頻繁にかけてくるし、他のママからの新川への苦言もへらへらしながら聞かなくてはならない。物理的に迷惑で人を無駄に疲れさす。

キンコンカンコーン、、
チャイムの音が鳴り休み時間になった。私こと杉崎のみ は職員室を出て しがらみの森 に足を踏み入れた。



翔太くん と声をかけて小屋のドアを開け、手を差し伸べた。しばらく間が空いてから小さな柔らかい手が触れ、優しく手を引いてあげた。笑顔で翔太君を迎えてじゃあという風に職員室の隣にある保健室の方へ連れて行った。
クラスに馴染めない翔太君は授業時間中は中庭の小屋の中に閉じこもり、休み時間はみんなが教室から出て来るので生徒がいない保健室で過ごすのだ。

嗚咽の森

嗚咽の森

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-02-10

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