東京港13号地

 灰色の海は足元のコンクリートと同じくらい硬く冷たい表情で、うつらうつらと歩いている私の友人を見つめていた。
「おでんでも食べに行こうよ、ねぇ」
 最近埋め立てられたこの辺りはまだなぁんにもないただの広い空き地で、何にも防がれることのない海風が吹き付けた。十月下旬といってももう冬に片脚を突っ込んだような気温だし、今日に限って強く吹く風が仮設の大橋を不気味に鳴らせた。
「ねぇ、もう帰ろうよ、そろそろ日が落ちるし危ないよ」
 そう声をかけても、友人は止まりそうで止まらない歩みを続けている。もうこのまま自分だけ帰ってしまおうか、薄く汚れたスニーカーのつま先を見つめながら立ち止まれば、強風に髪をぐしゃぐしゃにされた友人が振り返った。
「昔、ここに大砲があったらしいよ、幕府軍の」
 風に流されて半分くらいしか聞き取れなかったが、どうでもいいことであるのはよくわかった。もうすぐで沈み切る夕日を浴びながら大股で近づいて、友人の手を取った。
「ほら、もう帰るよ」
 ずっとポケットに入れていた私の手は、カメラを握っていた友人の手に比べればまるでカイロのように温かいだろう。
「おでん食べたい」
 そう笑う友人越しに、私は初めて海に太陽が沈み切るのを見た。

東京港13号地

東京港13号地

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-02-10

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