詩集.想いをこの束にして(四束目)
詩集.想いをこの束にして(四束目)
愛の編 十六
寒くなると
触れたくなる
編み込んだ
手袋みたいに
指先まで
沁み込んでくる
優しい声に
落ち着きなく
流れ
移ろう
景色の中で
あの日の
陽だまりに
佇み
いつでも
手招きしてくれる
大切な人に
贈りたいな
包み込める
冷たい風が
入り込む
隙のない
そんな
温かなものを
音にすれば
儚く
消えて
しまいそうだけど
この夜に
伝えたいんだ
「ありがとう
大好きだよ─」
忙(せわ)しなく
行き交う
街の雑踏に
そっと
紛れながら
僕は今
やっと
認(したた)めていた
想いを
贈ることができる
たった今
同じ時の流れに
いられることに
もう一度
ありがとう─
愛の編 十七
何気ない
一言で
いつも
元気づけられたなら
いいな
明日への
灯りを
ともした
案内人みたいに
きっと
頼りに
してくれる
持ち合わせの
ものしか
分かつことは
出来ない
だから
ポケットだらけの
ジャケットを
羽織って
いつだって
一杯の
思い遣りを
詰め込んで
いたいんだ
掌を翻(かえ)せば
その度に
止めどなく
溢れ出す
魔法の言葉で
そっと
包み込んであげたい
「もう
大きなお世話だから─」
もしも
君が
そう言って
頰を膨らませたら
「よかったね。
もう だいじょうぶだ」
僕はやっと
満面の
笑みを浮かべ
ずんずん
先を歩く
その
後ろについて
喜びの
紙吹雪を
撒き散らしながら
みんなに
新しい君の
誕生を
触れ回ることができる─
愛の編 十ハ
目を閉じて
また朝に
蒼天(あおぞら)を仰ぐ
瞼(まぶた)に透ける
眩(まばゆ)い
陽射しを
感じながら
ありがとう
そう
伝えると
それだけで
心が
報われる
気がする
時折
気づく
自分の
息遣いと
不意に
蘇り
重なる
君の笑顔の
面影が
甘酸っぱく
くすぐったい
心地の良い
気持ちを
呼び醒まし
僕は
また
君の指先を
探してる
あのさ
毎日が
記念日なんだ
初めて
君に触れた
あの日から─
愛の編 十九
光で
編み込んだ
虹色の
シャツが
欲しいな
きっと
ボタンを
掛け違えても
様になるよね
曖昧な
気持ちの
擦れ違いでも
目の
眩むくらい
賑やかな
彩りが
僕らを
元通りに
微笑ませてくれる
もう
二度と
放したくない
そんな
言葉が
切ない気持ちと
一緒に
こぼれ落ちて
しまいそうで
袖を通しながら
僕は
泣き出したい
衝動を
やっと
我慢するんだ
僕の
過ちを
素知らぬふりをする
君の
優しさに
幾度
救われたことだろう
ごめんね
ありがとう
そんな
素直な
心を
いつも
纏(まと)っていたいな─
愛の編 二十
隠れ鬼
してた
長い間
ずっと
蹲(うずくま)った
背中の
孤独を嗤(わら)われ
風の
冷たさを
思い知らされ
それでも
ひっそり
身を潜め
待ち侘びてた
誰かの
戯(ざ)れ言でもいい
触れたなら
また
笑えるかもしれない
そう思って
たった
それだけの
ために
じっと
聞き耳を
立ててた
けれど
あの日
突然
肩を
叩かれ
振り返ったら
あなたがいた
懐かしく
変わらない
優しい
笑みを浮かべ
また
大きな
掌を
差し伸べてくれた
「ありがとう─」
やっとそう
言いかけたら
不意に
涙が
溢れて来て
背を向けた
わたしを
広い胸に
引き寄せて
「見ぃつけた。
とうとう─」
そう
囁いてくれた
嬉しさが
言葉にならなくて
「あのね。待ってたの
ずっと、待ってた」
声にならない
その投げかけに
「ただ今─」
まるで
聴こえてたみたいに
また
そう
応えてくれた
今を
耐えて来て
よかった
明日を
信じていて
よかった─
詩集.想いをこの束にして(四束目)