幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 二話
初恋
「今の、同じクラスの一ノ瀬聡じゃない?」
「なに? 自分が濡れてまで結に傘を渡すなんて。これ結のじゃないでしょ? こんな黒い傘」
「つき合ってんの?」
「えっ? 彼氏?」
きゃーと口に手を当てて喜んでいる。
「違うよ。ただの幼なじみだよ。小学校まで近くに住んでたの。今はどこに住んでるのかも知らないもん」
私は勝手に面白可笑しく恋バナにしようとしている彼女たちの会話を遮り、「またね」と銀杏並木の下を通り、自転車置き場へと向かった。聡の傘をかごに入れ、レインコートを羽織る。
自転車通学の私に傘をよこすなんて相変わらずの馬鹿だ。
小さいころから馬鹿だった。
よく考えないで行動するから、いつも聡のお母さんに頼まれていたのに。
「結ちゃん。聡のことよろしくね。結ちゃんはしっかり者だから、とても助かるわ」
歩いて幼稚園に通っていた私たち。行きは母親の送りだったけど、帰りは同じ方向の園児たちが先生に連れられて並んで帰る。いつも聡は途中のコンビニに入っていこうとしたり、立ち止まっては何かを拾っていた。先生に怒られるのが聡だけなら構わないけど、並んで歩いていた私も一緒に怒られた。
だからあいつが寄り道しないように、聡の手をギュッと握りしめて通わなければならなかった。あいつの面倒を見るのはごめんだった。だけどいいこともあったっけ。
聡のお兄ちゃん。
慎ちゃんは聡と違って落ち着いていて大人だった。カッコよかった。勉強もできたし足も速かったから、いつも運動会ではリレーの選手だった。騎馬戦では大将だった。(すばしっこさでは聡のが勝っていたかもしれないけど)
慎ちゃんは女の子にとっても人気があった。
そんな慎ちゃんに、家にまで行って堂々とバレンタインにチョコレートを手渡せたのは聡のおかげだった。
聡には安いブロックのチョコレートを溶かした義理チョコ、慎ちゃんにはちょっと高いチョコレートで手作りをしていた。
転校すると聡に言われたときも、聡はどうでもよかった。むしろ、もう面倒を見なくていいとせいせいした。
慎ちゃんと離れてしまうのが悲しかった。
私の初めての恋。そして失恋──
邪魔。
ほんとに邪魔。
あの頃は私より小さかったのに、入学式の日に声を掛けてきたあいつのでかくなっていたこと。詰襟を着て私を見下ろすあいつは黒いヌリカベのようだった。
今もそのでかい図体が私の邪魔をする。
ヌリカベの向こう。窓際の席に座る佐々木蓮。
中学のとき、サッカー部のキャプテンで生徒会長だった佐々木君。佐々木君を追って……というわけではないけれど、偏差値を10も上げてこの高校に入った。そして、まさかまさかの同じクラス。
窓辺に座る佐々木君の柔らかそうな髪の先が、差し込む陽のひかりに透けて輝いている。
私は頬杖をついて窓の外を眺めるふりをする。後ろからそっと、見つめたいだけ見つめることのできる至福の時間。
「…………」
ヌリカベが邪魔。
幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 二話