遺産物語
がががががががががが。
うるさい、ものすごい音がする。バギーでの移動を始めてはや5日、途中途中の休憩をはさみながらの移動ではあったが、目的地にはいまだ到着せず移動中はまぁなんとも不快な音を立てながら低速で走る何とも居心地の悪い乗り物での移動を繰り返していた。
まさかこうもバギーの中が揺れるもんだとは思わなかった。
なんというか、このバギー自身急いで作り上げたものだから、乗る方のことをそこまで考慮していない設計になってしまった。
適当に組み合わせた骨組み、使えそうなシーツに大きめの革、多少のクッションになりそうな綿やら何やらを詰め込んで作った即席シート、ジャンクショップから安手で買い取ったエンジンとボロボロの壊れかけのバギーを何とか直して使えるようにしたのである。
もはや乗り心地は最悪のものと言っていいだろう。まぁしかしほぼタダ同然で作ったものなので使えるだけ良しとしよう。
そもそもこのガタガタの荒れ地で移動方法が車というのがあまりにも合わな過ぎる。しかも別に舗装された道ってわけでもない。ごつごつしたひたすらに荒い道である。
「まさか、ここまでだと思わなかったなぁ。早く仕事終わらせよう…。」
ここ最近の休憩といえば野宿、野宿、野宿である。携帯食料も底を尽きかけ民家を探そうにもそのようなものは何一つ見当たらない。
せめて鹿とかイノシシなんかがいれば自分で獲って食べることができるのだが、そんな動物の気配一つすらしない。
「これは問題だよなぁ。確かに荒地ではあるけれどこうも何もないもんなのか…?」
次の国まであとどれ位かかるか分かったものではない。
地図通りならばもうすぐ着くはずだが、このだだっ広い荒地にそんな影は一つもない。
「もしかしてすでに遺産の影響下にあったりするんだろうか…?」
それらしい事柄をいくつ考えても仕方がない。ありえる可能性なんてこの世の中、探せばいくらでも出てきてしまう。
「考えても無駄か、まずは目的地に着いてからだな…。」
少年はぶつくさと独り言をつぶやきながらテントを張り一晩を過ごしたのだった。
翌日、空は晴天、晴れ晴れとした雲一つない良い天気である。
「うー、もう朝か。」
寝ぼけ眼の少年は目をこすりながらテントの外へと這いずっていき自分の車の安否を確認する。
「よし、今日も大丈夫。」
それだけ確認すると少年はテントをたたみ荷物をまとめ車へと積んでいく。そのまま運転席に乗り込みハンドル左下の鍵穴のようなところに指をあてると車のエンジンがヴオンとうなりをあげ始め、それと同時に車の周りから突然淡い光が漏れ出していく。
「さて、いくか」
少年はゆっくりアクセルを踏み始めると慣れた手つきでギアを変え、目的地である魔女の国を探しに車を走らせていった。
先ほどの休憩から移動して数日、ここ最近の移動で一番長めの移動になっている。
しかし、こうも長い移動をしているというのに一向に次の国が見えない。地図を確認し直してみるがもうそろそろ次の国が見えてきても良い頃合いなんだが。
「これはあれだ。遺産の可能性がでてきたな…。」
遺産、はるか昔の時代にだれが作ったかわからない異物である。しかしこの遺産というものは全く厄介なもので、遺産を所持した者に対して何かしらの超常的な力を与える、というものだ。まぁその超常的な力にはいろいろ代償があるわけなんだが。
僕はそんな遺産を集めることが目的としているが遺産は一個や二個って数じゃない。
そもそも遺産には種類がある。いったい何種類あるかわかってはいないが、こっちがわかっている遺産は、竜、魔女、神話、英雄、と四種類の遺産が確認されている。
しかし確認されている遺産以外にもまだまだ遺産はある。そんな遺産を集めるのがまぁ僕の仕事なわけで
「はぁ…。くそ、まだ見つからないか…。」
地図上ではすでに目的地についていることになっている。本来であればもうすでに目的地の門の前ほどにいるはずなのだが、それらしき、というかもはや国のくの字すら見受けられない。
「……これが遺産の影響なら少なからず何かしらの解決策があるはずなんだけど」
取りあえずあたりを見回すも何もない。
あたりはだだっ広い荒野があるだけ。そもそも人も動物も見当たらない。というかこうも荒野しかないという景色そのものがおかしい。さらに言えば遺産が本当にあるのかどうかも怪しい。もっと根本的にいえば依頼がもしかするとデマだったとか、渡された地図が別の地図だったとか、そもそも本当に国があるんだろうかという気にすらなってくる。
確かにこの地図は僕の育ての親である魔女からもらった物で、だいぶ胡散臭い地図ではある。
へたしたらこの地図自体に何か仕掛けでもしているのかもしれない。もしそうなら仕掛けがあること自体教えてほしいものだったけど。
地図に仕掛けがしてあったとしても現状、魔女の国にたどり着けるかどうかは怪しいところではある。事態に何かしらの変化が起きるのなら試してみる価値がないわけではないが、
ともかく車を一度とめて地図とにらめっこを開始する。
「んー、しかし変わったところはないな。太陽にすかすとか?違うなぁ。」
いろいろ試してみるもののこれといった変化は見当たらない。
……いささか地図とのにらめっこにも飽きてきた。しかたないので昼にするとしよう。あたり一面荒地の殺風景な場所ではあるが、まぁそれなりの景色だと思って楽しむことにしよう。
運転席にて片手で済む食事をしながら今後の事と現状の整理をしていく。といっても後にも先にもまずは魔女の国をみつけることだ。
まずは周りを見渡してみる。なんでもいい、何かあればいろいろ試すことだってできる。何もしないよりかはその方がいい。
しかし見渡せば見渡すほどここ一帯は何もない。生き物一つ草ひとつ。あるのはひび割れた地面ぐらいで…。あれ違うな。ひび割れた地面は一か所しかないな。というかそのひび割れを中心に何もないようにも見えるな。
これはもしかして、あのひび割れが入口?もしそうなら入るしかないが、この手作りバギーはここに置いとくことになるな。結界さえ張っておけば数日は持つし大丈夫かな、まぁまずは近づいてみて判断しよう。
片手間の食事を終えて再びバギーを動かしてひび割れに近づいていく
遺産物語