幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 一話
はじまり
まただ。
感じる。
ここに。この肩の辺り。いや背中か。
「あなたには悪霊が憑りついてます。お祓いしましょう」
無理やり友人に連れていかれた占いの館。香か化粧か、強烈な甘ったるい匂いに吐きそうになるのを堪えている俺に、ツタンカーメンのような化粧をした“なんたらの母”とやらが、水晶に手をかざしながらそう言った。
青くなって俺から体をひいた友人。こいつ本気か?
お祓いには二万円かかると言う。俺は「ちょっとトイレ」と立ち上がり、友人を置いてその場から去った。
悪霊か……? 俺の背中に悪霊がいるのか。
二万円をもってツタンカーメンのところに行こうか……。
そうも思った。
でも違う。
感じるのは、
熱い視線……。
振り返るとまた彼女と目が合った。
彼女の白い頬がほんのりと赤く染まっていた。彼女の瞳は黒目がちで熱を帯びたように潤んでいる。俺と目が合うとさりげなく下を向き、肩までの髪をかき上げるようにして赤くなった頬を隠す。
これは!?
──高梨結。彼女は俺に、こっ、こ、恋してる!?
小学4年生まで、はす向かいに住んでいた彼女。いわゆる幼なじみ。
幼稚園のときから毎日手を繋いで一緒に通っていた。結のほうからいつもギュッと手を握ってきた。毎年バレンタインには恥ずかしそうに手作りのチョコを家にまで持ってきてくれた。
俺が転校すると告げると泣いていたっけ。
そしてこの高校で再会。
それも同じクラス。席は俺の斜め後ろ。まるで少女漫画のような再会。単に作家の怠慢による手抜きの再会なのか? いやいや違う。これはもう恋のキューピットが用意してくれたとしか思えないシチュエーションでしょ? だけど、彼女にはまだ恋という自覚はないのかもしれない。「幼なじみ」という関係は、そう漫画のように簡単に抜け出せるものではないらしい。
結から俺に声を掛けてくることはない。でも俺を意識していることは間違いなかった。
授業中、視線を感じて振り返ると彼女と目が合う。
何度も。
そんなに見つめていたらクラス中の噂になっちゃうじゃないか……。俺は別にかまわないけど。
その日、彼女は俯くことなく、視線を俺から外して俺の後ろ、窓の外へと移した。
彼女が不満そうに唇をちょっと突き出す。かっ可愛い。
俺には解った。
結は傘を忘れたのだ。あいつは子供の頃から忘れ物が多かった。とくに傘と上履き。月曜日にはよく学校のスリッパを履いていたっけ。学校に置き傘を置いておくのも忘れて、よく「聡(そう)ちゃん、一緒に帰ろう」と俺の傘に入ってきた。
今日も忘れたに違いない。天気予報で80パーセント雨だという日に傘を持ってこないやつ。
しょうがないなぁ。
昇降口で結を待っていた俺は、結がやってくると俺の折り畳み傘を「ほら」と結の胸の前に差し出した。
結は大きな目を丸くしていた。周りの女の子たちがぽかんとしていた。
俺は結の「ありがとう」と言う言葉も待たずに雨の中を走り出した。あいつが今どんな顔をしているか想像すると、身体に降りつける冷たい雨も、俺にとっては祝福のライスシャワーのように心地よい。
肩越しにチラッと見ると、彼女たちが何か話していた。
幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 一話