神の御元へ

最後に聞いた彼の言葉は、なんだからしく無い言葉だった。
 彼は大体別れるときに「さよなら」とか「またな」って言うはずなのに、その時は『アデュー』って言ったんだ。

 その頃はまだアデューの意味も解らず、ただ首を傾げて「じゃ、また」といつもの調子で言った記憶がある。


 あれからすぐに彼はこの世から去ってしまった。 話によると、彼が大好きだった友達を庇って死んだらしい。


 彼の死に酷く悲しいとは思わなかったが、どうも心の中に引っかかりがあった。 きっと最後の『彼らしく無い言葉』だろうとは思ったけれど余り深くは考えることは無かった。



 あれから何年経っただろう。 彼の事もあまり思い出す事がなくなり、仕事が忙しくなって来た頃だ。


 ふと生き抜きがてらに好きな配信動画をぼうっと眺める。 やっぱりこの時間が小さな幸せだ。
 動画内の人々が『アデュー』と言っていた。 多忙な日々で忘れかけていた事だったのに、急激に記憶が蘇っていく。
 そしていつの間にかあの日最後に聞いた『アデュー』の意味を調べていた。


 いつ戻れるか分からない、長い別れを告げる言葉。と言う事。 それに「神の御元へ」という意味の「a Dieu」が語源だと知ったとき、自分は絶句した。

 きっと彼は自分の死期を悟っていたんだろう。 だからさり気なく本当の別れを告げていったんだ。
 早くこの意味を知っていたらなにかもっと言えていたかも知れない。 もっと喋ってたかもしれない。

 でも今更後悔したってなにもならないし、未来へと進めないから自分は小さな声で

 『アデュー』

 と彼に向かって言ったのだった。 いつかまた、会える日まで。


Fin.

神の御元へ

神の御元へ

ブログサイトで書いた掌編です。 びっくりするぐらい短いです。 ほんのちょっとだけ悲しい話です。 応援メッセージなどはこちらへ【oukahina.novel*gmail.com】 ※「*」を「@」に変えてお送りください。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-02-07

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