退屈彼女

睡密堂古書店 作

つまらない。
つまらないつまらないつまらないつまらない。
ああ、退屈。

食事を摂るのも億劫だし、飲み物を飲むのも面倒。
声も出し方を忘れるくらい、喋ってもいない。
耳に流れ込んでくるのはすべてノイズ。
溜め息さえ出し方を忘れた。
そもそも息をするのも面倒なんだから。

「あぁ……」

とりあえず声を出してみたけど、掠れた音はそれこそノイズ。
9階の部屋の外はノイズ、中でもノイズ、私もノイズ。
私はノイズを生み出して自分の耳にダメージを与えた。
なんて酷い事をしてしまったのだろう。
と、耳に謝るのも癪に障る。
とにかくつまらない、そんな私が耳ごときに謝るなんて、耳がこの退屈を紛らわしてくれるのなら土下座でもなんでもしてやるけれど。
この役立たずの耳は、ノイズばかり拾ってくる。
なんてつまらない。

手を動かすのが億劫なので、指を曲げてみる。
強張った関節がギシギシと鈍く痛んだ。
くだらない。
痛みは私を喜ばせない、そういう癖はない。
もしもそれで喜べる性質だったら、とりあえず今はこのつまらなさを忘れられるのに。

ーーああ、つまらない。

ベッドの中で私は思う。
とりあえず目の前のテーブルにある、豆を挽いて淹れたコーヒーを飲んで、有機栽培で作られたお高い野菜をふんだんに使ったポトフを食べて、レコードから流れるお気に入りのナンバーを聴き終えたら。
お気に入りの服を着て……それから、そうだ。

窓を開けて、出かけよう。

退屈彼女

退屈な時には読まないで下さい。

退屈彼女

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-02-07

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted