虚脱
「それでいいと思うの?」
「何が?」
今朝、東宮マイコは僕にそう語りかけた、彼女の
「さいきん、“何か”がたりない、それが“何だか”思い出せないの」
思わせぶりだ、彼女はいつもそうして僕に話させる、まるで僕のすべてに、自分のすべてを投影して、すみからすみまで世界を見通すようだった。彼女の、ほ乳類でたとえれば、リスやうさぎのような、どんぐり型の輪郭を風がなぞる、彼女の長いかみが絹のようにしなやかに脈うって揺れた。木漏れ日が、大きな木の根元へさしかかる、朝がやってくる。
「ほら、朝がきただろう、君は何もかわらなかったよ」
「……そう、そうね」
たしかに、明かに、かろうじて理解できることは、東宮マイコは明らかに気にしている、昨日の一件を、僕が珍しく風紀委員長と親しくはなしていたことだ。しかし、マイコはそうして僕を必要とするくせに、そのわけについては語らない、だがそれでいいと思った。彼女は女形の吸血鬼、そして僕はグール、吸血鬼の血がなければ生涯を送ることができず、マイコは時折、人の血が足りなくなると僕をたよる、そう、だから、二人だけの校舎裏、秘密基地にやがて、朝がくる。
虚脱