小銭のおっさん


数ヵ月くらい前からアタイん家の近くにマンションが建ち始めてて 週に3回くらいだけどこの現場にちょくちょく行かさせてもらってたんだよ

でもここでバイトしてたとかじゃなくて 自動販売機のジュースが100円で売ってるからっていうセコい理由だけどwww 

しかも珍しく当たりつきの販売機だからね

ここへ来た時は誰それ関係なく すれ違う現場の奴等に『お疲れちゃん』って挨拶してんだけど 現場には関係ねぇ奴が何度も来るから気になってんのか アタイがジュースを選んでたら誰かが後ろから話しかけてきたんだよ

声だけでは誰ってのは分かんなかったけど でもすぐに『小銭のおっさん』だって分かった

しょっちゅう見かけるおっさんなんだけどさ いつもポケットに手を突っ込んで小銭をじゃらじゃらさせて歩いてくるから覚えてんだよ 

印象深かったし名前もしらねぇしと思って勝手に『小銭のおっさん』ってあだ名をアタイの中でしてたんだよね

おっさんが『おっ よく見かけるお姉ちゃんだな』って笑顔で話しかけてきたんだけど 予期せぬ出来事だったから『おっ 小銭のおっさんじゃん』ってとっさに言ってたwww

てか毎回なんだけど おっさん自動販売機に来てもお金を入れないでボタンだけ押してって感じで奇妙な行動をしててマジ不思議な奴なんだよ

そんでジュースを取り出す振りだけして いっつも片手に持ってるずっと使ってるようなペットボトルの水道水をガブ飲みしてっからねwww

小銭あんだけあんのに毎回ジュース買わねぇから さすがに周りの現場員にも『買わねぇなら早くどけよ』とか『買わねぇんだから向こういけよ』とかいつも馬鹿にされてた

この日をきっかけに小銭のおっさんと会うたんびに5分くらい話してって感じの仲になったんだけさ つい先日マンションが完成しておっさんを見ることはなくなったよね

最後の日は初めて自動販売機にお金を入れて缶コーヒーを買ってから アタイもだけど周りの奴らもビックリしてたよwww

そしたらおっさんが『姉ちゃん 寒いからこれ飲めよ 元気でな』つって温かい缶コーヒー投げてくれて 軽く手をあげて『じゃぁな』って軽トラに乗って帰ってたのが最後の姿だった

この日であの現場にアタイも行かなくなったんだけどさ 今日ってかさっきだよ

某デパートで偶然に小銭のおっさんと会ったwww

いきなし『よっ 姉ちゃん!』って声がして振り向いたら 入り口付近の喫煙所でタバコ吸ってるいつも通りの作業着のおっさんがいた

でも今日は小銭をじゃらじゃらさせてねぇし いつもパンパンのポケットも空っぽだったんだよ

不思議に思っておっさんに『あれ? 小銭の音がしないけどどうしたん?』って聞いたら 持ってる紙袋を見せてきて『あのお金でこれ買ったんだよ♪』って嬉しそうにしてた

なんか可愛いラッピングまでされてっから『おぉ 可愛いね! プレゼント?』って言ったら 急におっさん目をうるうるさせながら『そうだよ 娘のためにね』って表情が変わってたんだよ

アタイが『これは絶対に喜んでくれるだろうね! すごいじゃん!』つったら おっさん右目から小粒の涙を落としててさ なんか様子が変だから気になったよね

そしたらおっさんが小さい声で

『もう 娘はいないけどな でも俺の心の中にはあいつの元気な姿が今もいるんだよ』って話してくれて 実はおっさんの娘は12年前に病気で亡くなってしまってたんだよね

今も生きてたらアタイくらいの歳らしくてさ おっさんのイメージだけで娘が喜びそうなプレゼントを選んだつってた

オルゴールと香水だった

毎年プレゼントを買ってるみたいでさ その日のためにおこずかいでもらってる130円は使わずにポケットの中で貯金してたんだよ

水道水を飲んででも周りの奴に馬鹿にされても 娘へのプレゼントのために自分のルールはしっかり守ってた素晴らしい父親の姿があったよ

帰りにあのマンションの前に行ったんだけどさ まだあの自動販売機はそのまんま残ってて そう言えば小銭のおっさんいつもコーラのボタンを押してたなってふと思い出したよ

本当は水道水じゃなくってコーラが飲みたかったんだろうね

そう思って今度はいつ会えるか分からないけど おっさんへのプレゼントとして5本だけコーラを買ったよ

てかあんだけ当たらなかった自動販売機だったのに 最後の5本目で当たりがでてすげぇビックリしたwww

きっとこの1本は頑張ってるおっさんへ神様からのプレゼントかもしれないね

小銭のおっさん

小銭のおっさん

完結しました。ありがとうございます。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-02-02

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