Reincarnation saga(リーンカーネーション・サーガ) [~魔法と輪廻と猫耳の物語~]

通学中の不慮の電車事故で死んだ僕が目を覚ましたのは、剣と魔法と猫耳の異世界だった。
魔法至上主義の世界で魔法が使えない「無色」として生まれた僕には、魔法とは違う能力
「支配空間(Rule space)」が備わっていた。
異世界転生物語がここに始まる。

◇幼少期編◇

[プロローグ~終わりと始まり~]

暗い・・・
ここはどこだろう・・・
確か僕は、朝通学の為、電車に乗っていたはず・・・今日は昨日の部活の入部テストで上級生にしごかれたせいで朝起きるのがすごくだるかった。
入部希望者が多かったため、振いにかけられたということらしい。
結果、不合格・・・まあ、初心者だったし、経験者優先ということか・・ちなみに受けた部活はサッカー部だった。
そんな訳で今朝は、筋肉痛の体をなんとか起こして出かけたけれど、結局、家を出たのは、登校に間に合うかギリギリの時間になってしまった。
急いで電車に飛び乗り、まどろんでいたら電車が急停車して・・・その後の記憶が無い・・
僕は、暗い中、目を凝らし続けた。何とか暗闇にも少しなれて、周りが見え始めた、状況は、まだ電車の中、
僕は自分の意識がはっきりしているか再確認した、「椿 真次」(タチバナ マサツグ)高校1年の16歳、4月半ばで16歳なのは、誕生日が
4月4日の早生まれだからだ。両親は平凡なサラリーマンだが
夫婦仲は良くない・・二つ年上の兄との4人家族だ、兄とは仲は悪くないと思う。
次に自分の体を確認する。
右手、左手は動くが、足に感覚がない?僕はゾッとした、座席に挟まれている!
よく見ると周りにはたくさん人がいて、呻き声が絶え間なく聞こえる!
事故?!
いったいどんな事故だ?!
何かにぶつかったのか?!
アナウンスは無い?
なぜ暗かったのかは、どうやらトンネルの中だったかららしい・・トンネルといっても市街地の道路の下を
通るような短いものだったはずだ・・
不意に腰のあたりに激痛が走る、手を当ててみるとべっとりと血がついていた!
ヤバい!怪我?!
体に力を入れて身動きしようとしたが、いうことをきかない?!
全身に寒気が走り、意識が薄れてきた、僕は死ぬのか?!
せっかく、公立の自分の実力からは少し高めの高校になんとか勉強を頑張って入学したというのに・・・
中学生時代は人見知りが激しい性格もあって、親しい友人がぜんぜんいなかったし、そんなだから、多少いじめのターゲットにもなって、
まったく新しい環境で、友達を作れたらと思い、地元ではなく、ちょっと離れた、高校を受けたのに・・
もう、死ぬのか・・・
そんな事を思ったが、もう考えられないぐらい意識が薄れて・・・目を閉じた。

[リーンカーネーション]

次に目を開けた時、天井が見えた、白に何か模様みたいなものが見える?
あれ?
助かったのか?
ボーとした頭で考える。
もしかして、ここは病院かな?
どうやらベット?の上らしいが・・・
横を見てみる。
???ベットに格子がついている?
まあ、病院のベットには手すりがついていたりするが、明らかに自分の目線より高めの「木製の格子」が見える。
病院で木製ベット?というのも変な気がするが?
その格子に手を伸ばして、僕は息を呑んだ、自分の手が自分の手じゃない?
というか、かなり小さくぷっくりしている?!まるで赤ちゃんの手?しかもかなり色が白い。
僕は自分の顔の前に手を出してみた。
腕の長さが短い?僕の体格は普通の標準的な日本人の16才の男子168センチだ、体つきも中肉中背で、手足も普通だから
この長さはどう見ても短くて小さい?
動転したというか焦った!
思わず声を出したが出した声にもビックリした、声がまともに出ない、喋ろうとしても上手く舌がまわらない
「ウァー・アー」というような声しか出ない?
体を起こそうと首を持ち上げようとしたが、重くて持ち上がらない?
まるで自分の体じゃないようだ!
なんとか、目線を自分の体(首から下)を見てみる事ができた。
驚いた・・・なにかタオルケットのようなものをかけられた体を見ると腹が出ていて足が短い?
僕はどうやら・・・赤ん坊?なのか?
っということは・・・もしかして・・一度死んで生まれ変わった?
何か昔やってたテレビで前世の記憶を持ったまま生まれ変わった人や高僧がいるというテレビがあったけど・・
もしかしてそれか?
そんな事を思っていると、ふいに誰か僕の顔を覗きこんできた!
まだ若い女性だ。
どうやら僕がビックリして、動き回ったり声を出しているのを気にして見ているようだ。
僕もどうしたものか判断がつかないので、思わず見入っていると、その女性は、ふいに僕の体を抱き上げて、何かを話しはじめた。
言葉が理解できない?
どうやら日本語ではない?だからと言って英語?でもないし・・韓国語ともフランス語ともニュアンスも違う感じだ。
まあ、韓国語やフランス語でも何を言っているのかわからないけど・・
女性は、微笑みながら、何か語りかけ、僕を揺らしはじめた。
どうやら僕がむずがっていると判断し、あやしているらしい。
その女性を今一度良く見てみる。
かなり綺麗だが、かわいらしい感じの人だ。
色白でほっそりしていて、何処かはかなげな印象だ、もしかして、今の自分?のお母さんなのかな?
だけど良く見ると、髪の色が青い?染めているのかな?目も青色だ・・日本人じゃないのかな?
でも顔のつくりは、それほど彫が深くないので、日本人のようにも見える。
もっと驚くことにその人の頭には猫耳?がついていた!
コ・・コスプレ?!
よくよく見ると服装の感じも中世の貴族風?の白と淡いベージュを基調としたドレスのような服装のようだ。
といってもゲームとか、映画でしかみたことはないが。
そんな風に見えた・・・
コスプレして子供をあやすって・・・大丈夫かな?
なんて事を考えていると、だまって見つめているのが、赤ん坊が落ち着いたと判断したのか、揺するのをやめて、
なにやら話かけながら僕をベットに戻した。
タオルケットを掛け直して、近くに置いてあった椅子に腰かけ、どうやら読みかけだったらしい本に目をおとす。
「読書家」なのかな?
僕は、少し落ち着きを取り戻し、今の状況を考えた。
その時、風で窓が揺れる音が聞こえた、するとそれに反応して耳が動いた?
耳が動く?
おそるおそる、手を顔の横にあるはずの耳の位置に持っていくとそこに耳はなかった・・
手がちょと届かない位置、頭の上の方に耳があるようだ・・・
どうやらあの母親と思しき女性と同じ位置に耳があるらしい・・・
ということは、あの女性はコスプレをしていない・・ということか・・・
ここは、どこなのか・・僕は途方に暮れた・・・
だが、今の状態では、自分ではどうしようもできないので、様子を見るしかないと腹に決めた!
決めた途端、すごい眠気が襲ってきた・・そういえば・・赤ん坊ってよく寝てたな・・なんてことを
思いながらいつの間にか眠ってしまった。

[リオン]

私の名は「リオン・ウィード・ヴォルタール」この国の近衛騎士団の「風雷騎士団」に所属する騎士だ。
この国には4つの騎士団が存在する。
4つの騎士団とは「地震騎士団」「水龍騎士団」「火炎騎士団」「風雷騎士団」だ。
これは、この世界の四大元素魔法「地・水・火・風」に基づく。
それぞれの騎士団員は、その属性魔法に沿った騎士団に所属するのが普通だ。
まれに、この四大元素魔法に含まれない、「光」や「闇」系魔法を操るものもいるがかなり少数で、そういったもの
は、どこの騎士団に所属するかは、自由となっている。
といっても、風属性だから水属性の騎士団に入ってはいけないという規定もないのだが。
だが、自分は、自分が使用できる風属性の魔法を活かすため、魔法剣術学院卒業後、通例通り、
「風雷騎士団」に入団した。
近衛騎士団は、その名の通り、王族の身辺警護を兼ねた騎士団だ。
自分は、今、王に呼ばれて、謁見の間に向かっている。
この国の王は「エリック・ウォーター・ペンドラゴンⅤ世」だ。
水属性の魔法を駆使し、公益国家である、この国「エルウィン王国」を治め、思慮にたけた「賢王」で
有名だ。
この国は、海に面した海洋貿易を主とした国柄もあり、代々の王は水属性魔法の王が
多い、水系の血族といっても、例外もあるし、水系以外の属性を持った王も過去にいた。
そんな王の第四王妃に、3日前、第四王子がお生まれになった。
王子には騎士団から側近が必ず一人つくのが通例だ。
騎士団長からその側近への推薦をした旨を聞いていたので、今はその命を受けにいく途中だ。
この側近は、各王子にもっとも近い存在となる為、大貴族から抜擢され、その王子が王についた時には、
近衛団長や摂政などになることが多い重要なポストだ。
これに選ばれたということは出世間違い無しと同時に、王位争奪のゴタゴタに巻き込まれるということにもなる。
光栄なことだが、王位争奪に巻き込まれることを考えるとかなり憂鬱になる。
まあ、自分の生まれはやはり、王家以外の5大貴族と呼ばれる「ヴォルタール家」の出なので、こういうことはありうるとは
思っていたが・・・
ちなみに5大貴族とは各属性魔法に高けた貴族でそれぞれの4大属性+1の貴族を指している
火の「サラマンダー家」、地の「イディオム家」、風の「ヴォルタール家」、水の「ウィンディー家」
光の「スターリング家」を指す。
それぞれ、属性に合った魔法を使う事で有名だ。
「リオン!」
ふいに声を掛けられた。
振り返ると同僚の「ヴァレリ」だった。
ヴァレリは同じ「風雷騎士団」の同期であり、友人だ。
フルネームは「ヴァレリ・フォン・ギュンター」
「リオンこれから謁見か?」
「ああ、この間お生まれになった王子の側近になるように騎士団長から言われたてたから、その件だろう」
「そうか!お前もこれで出世間違い無しだな!
なんせ、側近はそのまま、王子の役職の補佐になるのが通例だからな。
今のエリック陛下の側近だったマルケル様は今は摂政だからな。
でも、第四王子殿下では王位に就くのは難しいかな。
それでも、大体、王のご兄弟は大事な役職に就く事が多いから、やはり出世すると考えた方がいいか。」
などと言ってきた。
自分もそう思っていたので頷く。
「要職に就いた時は、俺も起用してくれよ!」
なんて、軽口を言ってきた。
「ああ、期待しててくれ」
と、軽口で返して、笑い合う。
すると、ここでヴァレリが周囲を伺い声をひそめた
「ところで、第四王子殿下なんだが・・よくない噂がある、出産に立ち会った侍女の話なんだが・・
王子はどうやら「無色」らしいんだ」
「無色」とはごく稀に色素が無い真っ白な人の事を指す。
この世界では、魔法元素の影響が大きく作用し、あらゆるものがその魔法元素に左右された色合いを
持って存在している。
火の属性なら「赤」、地の属性なら「黄」、風の属性なら「緑」、水の属性なら「青」、光の属性なら「金色」、
闇の属性なら「黒」という具合だ、これは、普通の動物もその影響を受けていて、それぞれの属性の色を持っている。
例えば人に限らず馬であっても「赤毛」ならば火属性を持ち、時には本当に火を噴いたり、
炎を纏(まと)って走ったりする。
今の火炎騎士団団長の愛馬も炎を纏(まと)って走るので有名だ。
ちなみに自分は「緑色の髪に緑色の目」、ヴァレリもやはり「少し薄い緑色の髪と緑色の目」だ。
無色はどの元素魔法の影響も受けていない事を指す。
噂だと、「無色」は体も弱く、魔法も使えないので、早死にすると言われている。
王家でこの色は「禁色」である。
強さを求められる王がまったく魔法が使えないとあっては、威厳に関わる。
おのずと声を潜めて聞き返す。
「それは本当かヴァレリ!」
「あくまで噂だ。だが本当なら陛下はどうするんだろうな?
お前も側近になるんだったら・・・これは出世ではなく・・左遷なのかもしれないぞ」
親友は、真顔で心配そうに私を見つめた。
私としては・・・どんな任務でも受けたらしっかりこなすつもりだが・・・
大貴族間の駆け引きもあり、他の貴族から「厄介ごとを押し付けられた恐れもあるな」と考えた。
「まあ、陛下からこれから直接お話があるそうだから・・・聞くだけ聞くさ。
命令されたら断れんだろうが・・・。
でも、第四王子殿下の母上は、第四王妃「メアリ」様だ、メアリ様は他の王妃様達より、陛下からご寵愛を
受けていることで有名だ。
血統的にあまりに近くて、正室(第一王妃)にはなれなかったが・・・
その方のお子で自分の息子だ・・・無下にはしないんじゃないか。」
そう、メアリ様はエリック王の姉のエヴァ様のご息女、エヴァ様は王より10才年上で隣国のカストラート王国の貴族に
嫁いでいる、メアリ様は、その長女で、エリック王の姪にあたる。
この国では近親婚は禁止していないが、血統が近いと、天才か欠陥を持った者しか生まれないとされ、好まれていない。
するとヴァレリは、
「そうは言っても「無色」はどうだろう?
実際、初めて陛下が第四王子を見に行かれた際、王子を見た瞬間かなり落胆していたご様子だったらしいし、
それきり、第四王子の所に行かれていないご様子だ。」
「まだ、3日目だし、陛下もお忙しい身だ、そうとも限らないだろう」
「メアリ様がご出産するまでは、必ず毎日、メアリ様の所に通っていたのにか?」
私は言葉をつまらせた。
「まあ、ここで陛下の気持ちを考えても埒があかない。
実際、これからお会いするのだからそれと無く陛下のお心を探ってみるさ。
もうそうろそろ行かないとまずいから、この話は、また夜にでも話そう。」
私は話を打ち切り歩き始めた。
その足取りは、少し重かったのは言うまでもない。

謁見の間の前の衛士に謁見に来た旨を伝え、しばらく、謁見の間の扉の横にある長椅子に座りながら
考えにふけっていると、ふいに扉が開き、招かれた。
謁見の間には、いつもなら、陛下と王妃様が玉座に座り、横に摂政が控えていて、衛兵が何人か横に控えて
いるはずだ。
だが今は、陛下と摂政しかいない。
衛兵までいないとは・・・これはただの謁見ではないなと心の中で感じながら前に進んだ。
玉座の前にきて、片膝をついてこうべをたれ、発言する。
「風雷騎士団、リオン・ウィード・ヴォルタール、ただ今、参りました。」
すると陛下が
「かしこまらなくてもよい、おもてをあげよ」と申された。
顔をあげると、少し暗い表情の陛下の顔と無表情の摂政の顔が見てとれた。
陛下とは、初対面では無い、近衛兵ということもあり、よくお見かけするし、闘技大会でも自分は
前大会で優勝しているので、何かにつけて、お声掛けいただいてはいる。
「リオン、今日からお前を我が第四王子「リーン・ウォーター・ペンドラゴン」
の側近警備及び教育係りに命ずる。
ただし、王子の事は他言無用とする。
くれぐれも王子の様子などは、外部に漏らさないよう細心の注意を払うよう。」
私は驚いた。王子の様子は他言無用・・・これはどうゆう事だろう?
すると摂政の「マルケル・ド・フランシーヌ」が発言した。
「ここからの話は、絶対に外部に漏らさないよう細心の注意をするように」
と前置きし、話始めた。
「リーン殿下は「無色」である。
リーン殿下は本来なら第四位の王位継承権があるが、魔法能力の有無でこれははく奪される。
場合によっては、養子にだしたり、お亡くなりになる場合もある。」
私は、絶句した、「お亡くなりになる」・・・とは「いなかったことにする」「殺害する」ということか?
自分の息子を・・・あまりにも残酷だ・・・だが、力を示せない王族では・・この王宮で生きていくのは
難しいとは確かに思う・・だが殺すことはないのではないかと思ってしまう。
どうりで、人払いがされている訳だ・・これは下手をすると自分が王子を殺す任務をさせられるかもしれないと
思い、やな汗がでた。
これは、今一度確認しておかないと思い発言してみた。
「一つお伺いしてもよろしいでしょうか」
すると摂政のマルケルが
「なんだ、申してみよ」と言った。
私は思い切って聞いてみた。
「この件は、メアリ王妃殿下もご存じなのでしょうか?」
すると摂政が答えようとしたとき、陛下が手を挙げそれを制し、発言した。
「このことは、メアリには話てはならん。
お前はあくまで、リーンの新しい側近として振る舞うように、朝には必ず前日の様子を「摂政」に報告する事を命ずる。」
とおしゃった。
私は、これは・・・場合によっては本気で王子を亡き者にしかねないな・・・と思い、陰鬱な気分になった。

謁見の間を出た私の足取りは重かった。
栄転どころか・・・
子供の監視とは・・・気が滅入ってきてしまった。

[部屋]

僕が意識を取り戻して?2日目の朝。
どうやら僕は昨日あれからずっと寝ていたらしい・・・
お腹がかなり減っている。
昨日は、夕方ぽかった・・・それから、飲み食いしてないとは!
確か赤ん坊は、3時間置きぐらいに授乳しないといけないんじゃなかったっけ?
我ながらよく平気だったと思う。
それともこの世界では、これが普通なのかな?
そうこう考えにふけっていると、例の母親らしい女性と見知らぬ男女がが入ってきた。
女性の方はメイド服のような格好だ。
僕の世界のメイド服だから本当にメイドなのかはわからないが・・・
この格好はまさに猫耳メイド!
ちなみに髪と目は赤だ。
男性の方は中世風というか何かRPGに出てきそうな貴族風の服装だ。
こちらの髪と目は緑だ。
ちなみに男性にも猫耳!
これは間違いなくこの世界の人間の耳は猫耳のようだ!
「うわー、どんな進化をしたらこうなったんだろう?
やっぱり、ネコ科が進化したとかなのかな?」
なんてことを考えていると男性の方が近づいてきた。
あれ?もしかして、父親かな?
男性は何か、母親と思われる女性に対して礼をしてからこちらに近づいてくる?
夫婦にしてはかなりよそよそしい雰囲気だな?
そうすると、なんと、僕にも何か話かけ、礼をしている。
あれ、もしかして・・・えっとここの家の家臣?とか?
だったらこの家って結構な家柄だったりするのかな?
何か話をし終えると、母親と思しき女性と連れ立って退出していった?
なんだったんだろう?挨拶?かな。
すると今度は、メイドさんが近づいてきて僕を抱き上げた。
哺乳瓶らしきものが近づいてくる。
腹がへっていた僕は無我夢中で、かぶりついて呑みほした。
メイドの女性は少しビックリした様子だった。
僕としては味はミルクだけど・・何かものたりない感じがした。
でもお腹はいっぱいになったようだ。
体が小さいから当たり前か。
歯も生えてないようだし・・今はしょうがないとあきらめた。
僕の満足げな様子を見て、メイドの女性は、僕を元のベットに戻した。
僕は、お腹も膨れたのでやっと落ち着いくことができた。
よくよく周りを見渡してみるとかなり広めの部屋のようだ。
少し離れた場所には天蓋つきの大きなベットが見える。
どうやら母親の寝室?らしい。
状況的に見て、自分は母親の寝室の真ん中あたりの赤ん坊用のベットに寝かされたいるらしい。
不思議なことに、昨日、ほとんど身動きできなかった体が少し動く、もしかして立ち上がれるのかな?
幸い今は、メイドさんはシーツを抱えて出ていき、母親と思しき女性は、先ほどの男性と一度退出したようなので、
今、部屋の中には自分ひとりだ。
僕は思い切って、手すりに手をかけて、体を起こしてみた。
昨日よりかなり体が軽い。
つかまり立ちができた。
自分の体を見てみる。
服装はタオル地のジャンプスーツを着込んでいるようだ。
色は水色。
ふと背後に自分の体が当たった感触がした。
あれ?
そんなに体は大きくないから背後の格子に当たらないと思ったんだけど?
不審に思い振り返ると・・・
腰のあたりから何か白い縄のような・・?
「しっぽ!」が生えていた。
真っ白い毛でおおわれた、まるで猫のような「しっぽ」だ!
こ・・これは・・猫耳にしっぽか・・・まーこの耳だからありえるとは思っていたが・・・この世界の人はやはりみんなこうなのかな?
今度誰か入ってきたら、確認しておかないと。
取りあえず、しっぽのことは置いておいて、周りを見渡してみる。
窓が二か所とドアが一か所、家具らしきのもは天蓋付のベットと壁際に鏡付のドレッサーが見えた。
それと今、自分の乗っている赤ん坊用のベットか・・・
なんだか家具が少ない気がするが、考えるにここの家はかなり大きく、この部屋は、本当に寝室だけにしか
使われてないのだろうと判断できた。
まず、自分の容姿を確認したい衝動にかられたので、ドレッサーまでどうにか行けないものか考える。
今の体でこの高さ、1メートルぐらいのベットを降りられるかな?
取りあえず、ゆっくり、格子を乗り越えてみる、以外に体を支えられる。
ベットの角にしがみつき、その足にしがみつきながら、降りることが何とかできた。
床には絨毯が引いてあり、このまま這いつくばっていっても怪我はしなそうだった。
さっそく、ドレッサーに向ってハイハイし、ドレッサーの前に置いてあったイスによじ登って、恐る恐る、鏡を覗いてみる。
おお!
そこには真っ白な猫耳と真っ白い髪と肌、目は大きく灰色の目の女の子?に見える赤ん坊より少し育った感じの
子供の姿が確認できた。
顔はどうやら母親似らしい。
まあ、男の子は母親に似るってゆうからな・・
よくよく自分の手などをみると、昨日の赤ちゃんの手から少し、しっかりした感じの手になってきているような気が
する・・・もしかしてこの世界の人間は、自分の世界の人間より、成長が早いのかもしれない・・
自分の容姿が確認できたので、今度は外の様子が気になった。
体の向きを変え、イスを降り、今度は窓に向かって這っていく。
窓の下までこれたが窓枠まで1メートルぐらいの高さがある。
つかまるところもないので、上るにはこの体では無理がありそうだった。
あきらめて、部屋の中を再度見回す。
すると赤ん坊のベットからは見えにくい位置に肖像画が飾られていた。
誰の絵なのか気になったので絵の前までいって、眺めてみる。
絵はどうやら男性と女性の肖像画のようだ。
女性の方は、あの母親と思しき女性でウェディングドレスのような真っ白な衣装にティアラを載せていた。
男性の方は中世風の格好に大きなマント、そして頭には王冠が!
まさに「王様」の格好だった!
これってもしかして僕の父親?
顔などをよく見てみる。
顔はかっこいいというより、彫が深く、男らしい感じで顎髭が生えている、髭と髪と目の色は、母親より濃い青色とゆうより藍色に見えた。
背丈は、女性に比べてかなり高めか?
体つきは、かなりガッチリした感じに見えた。
見たところ、今の自分とは全然似ていない感じだ。
本当に父親かな?
でもこの人が父親ならもしかして自分は王子なのか?
王子っていったいどんな生活なんだろう?
なんだか、これから楽しみな気持ちになってきた♪
他に確認できるものが無いか部屋を見渡すと、ベットの脇に昨日、母親が座っていたイスがあり、
その上に本が置いてあった。
これは!
この世界の手がかりになるかも!
イスまで近づき、イスの上で本を開いてみる。
一見アルファベットに見えたが・・・でも自分が思い当たる単語とか文法とかは確認できない・・
うーーん?これは解読不能か・・・
取りあえず、パラパラとページをめくっていくと所々挿絵が入っていた。
絵の感じは、ファンタジーぽい。まー髪の色が色々だったり猫耳にしっぽだし・・まんまファンタジー
なのだからしかたないか?
挿絵は騎士がドラゴンを退治していくストーリーのように見えた。
?もしかしてこの世界にはドラゴンがいたりするのか?
どうやって戦うんだろう、やはり魔法とか剣?
そういえば、先ほどの男性や肖像画の王様の腰には剣が下がっていた。
魔法はあるのかな?
この挿絵では、魔法を使ってドラゴンに攻撃しているような絵があるけど・・
呪文とか必要なのかな?
呪文なしでもいけたりして・・・
ちょっと気になったので自分の手をマジマジと眺めてみた。
するとよく見ると自分の周りだけ、色が白い?一瞬、白く見えた!
あれ?っと思って目を凝らす。
(この時、誰か僕の目を見ていたら猫の目のように動向が縦に狭まったのが確認できただろう。)
すると確かに自分の周りにぼんやりオーラのようなものが見える。
手に集中するとそのオーラが広がったように見えた。
これって・・なんだ?ほんとにオーラかなにか?なのかな?
今度は、部屋の中を目を凝らして見てみる、すると虹色の空気の流れのようなものが確認できた。
その中をまるでシャボン玉のようなものがゆらゆらと浮遊している!
さっきまでそんなものは視えなかったのに!
そのシャボン玉に手を伸ばし触れようとしたら、シャボン玉は消えてしまった。
弾けたのではなく、自分のオーラ?に触れた箇所だけ消えたのだ!
シャボン玉はその一部が欠けたあと、弾けて消えてしまった。
なんだ?シャボン玉なら触れたら弾けるのは解るが欠けたあと弾けた・・・
手に集中して、オーラ?が広がったのなら自分の体に集中したら自分の体を中心にオーラが広がるのでは?
と考え、今度は、薄めを開け自分の体にオーラ?(気)が集まるイメージをしてみる。
すると、体から半径1メートルを円にしたようなオーラの領域が出来上がった。
その中には、なぜか、シャボンも虹色の流れも入ってこない。
これってなんだ?
魔法が使える前兆なのかな?
しばらくそのままでいると、なんだかすごく疲れてしまい。
集中が切れたと思ったら、景色は、普通の状態に戻っていた。
もう、虹色の流れもシャボンも視えない。
これは・・・自分の元の世界では見たことがないな・・・
話せるようになったら誰かに聞こうと心に決め、かなり疲れてしまったので、ベットに戻ることにした。
ベットまでいったはいいもののどうやって登ろうか思案していると、メイドの女性が替えのシーツを抱えて、
ドアを開けて入ってきた。
メイドの女性は、ベットの下でベットにつかまり立ちして見上げている僕を見つけると何事か叫んで駆け寄ってきた。
駆け寄ってきて、抱き上げると何かひとしきり話かけ、ベットの上に戻してくれた。
僕がメイドの女性見つめていると、メイドの女性は笑いかけ、頭を撫でてベットに寝かしつけられた。
僕は、なんだか疲れてしまっていたので、そのまま、眠りに落ちてしまった。

[リオンとメアリ]

私『リオン・ウィード・ヴォルタール』は今、メアリ殿下の離宮を目指して歩いている。
離宮といっても、この「ペンドラゴン城」の城壁内に作られたものなのでそれほど離れていないし、
他の王妃の離宮や王宮内の部屋にくらべるとずいぶんこじんまりしている。
これは、メアリ王妃が豪華な生活をあまり好まないからと、他の王妃に遠慮してという2つの
要素からそうなっていた。
だが、このエルウィン王国は、他国との海洋貿易でかなり潤っている。
他の国への物資の中継地点という立地の利点もあり周りの国々より利益を得ているのが現状なので、
メアリ王妃以外の王妃はかなり贅沢な暮らしをなされている。
したがって、メアリ王妃の行動はかえって他の王妃にとって疎まれる結果となっていた。

しばらく歩くとその離宮「メアリ宮」が見えてきた。
メアリ宮は、二階建てで少し広めの庭には花々が咲き誇っている。
特に目立つのは、白い花の数、メアリ王妃は淡い色合いを好むので、白や、水色の花が目立つ。
門をくぐり。両開きのドアの横についている呼び鈴を引っ張る。
しばらくして、ドアが開いた。
前もって、騎士団の従者に伺う旨を伝えていたので、すぐに扉が開いた。
扉が開いた時、思わず目を疑ってしまった。

出てきたのは、執事でもメイドでもなく、メアリ王妃本人だったからだ。
度胆を抜かれて急いで、お辞儀をし、名乗る。
「メアリ王妃殿下、お初にお目にかかります、私は、「風雷騎士団」のリオン・ウィード・ヴォルタールと申します。
このほど、リーン・ウォーター・ペンドラゴン王子殿下の側近及び教育係りの命を受け本日参上いたしまた。」
なんとは、慌てずに名乗りを挙げることが出来、胸を撫でおろす。
そんなそぶりを見ていたメアリ王妃は、気さくに
「そんな、かしこまらなくていいですよ。
今日は、リーンの為に来てくれてありがとう。
リーンは生まれて間もないからそんな、急に教育係りなんていらないに・・・
メイドで十分だと思ったんだけど、マルケルが決まりだからってうるさいのよね。
リオンさんもそんなに固くならずに気軽にリーンに接してあげてね。」
と言ってきた。
これは、さすがに驚いた。
そんな一国の王妃や王子に気さくに振る舞えなどと言われるとは思いもよらなかった。
私は、「そうは言いましても王妃殿下・・・」
言葉は途中で遮られた。
メアリは「私のことはメアリで良いですよ」
と言ってきた。
私はあっけにとられた・・・
「えーーそれでは、メアリ様・・でよろしいですか?」
メアリはにっこり笑い「はい、これからよろしくおねがいしますね。リオンさん。」
と手を差し出してきた。
王族から家臣に対して握手を求めることは、この国、いやこの世界で聞いたことがない・・・
でも私はとっさに手を差出し、メアリ様の手を握り返していた。
不思議な人だと思わずにはいられなかった。

そんなやり取りをしていると、パタパタと屋敷の奥からかけてくる数人の人影が見えた。
「メアリ様~、私がお出迎えしますから!
お願いしますから、私達、使用人より先にお客様の応対をしないで頂けませんか~」
と息せき切ってメイドの女性二人と、執事と思われる初老の男性が走ってきた。
「そうですぞ!
メアリ様!
エルウィン王国王妃ともあろうお方が直々にお客人の対応にお出になるとは!
爺(ジイ)は嘆かわしゅうございます!」
と赤い髪のメイドと黄緑の髪の初老の男性が交互に言ってきた。
ちなみにもう一人のメイドなにも言わずついづいしている。
「まあ!だってせっかくリーンの為にいらしてくれたんだから、待ちきれなかったのよね。」
と悪びれもせずに笑顔で使用人達に応対している。
するとメアリ王妃は振り返り私に
「そうそう、リオンさん、紹介しますね。
うちでお手伝いして頂いている人たちです。
こちらの男性は、執事の「アレクシア」」
すると男性は、綺麗な隙のないお辞儀をした。
つづいて赤毛の女性に手を向け、その隣の青い髪の女性もつづけて紹介する。
「こっちの女性二人は、メイドをしてもらっている「アメリア」と、「シア」よ。」
すると女性二人はそれぞれ、お辞儀をしながら、「アメリアです。」「シアです。」と名乗った。
私は、再び腰を折り、礼をして名乗った。
「私は、「風雷騎士団」のリオン・ウィード・ヴォルタールです。
このほど、リーン・ウォーター・ペンドラゴン王子殿下の側近及び教育係りの命を受けて参りました。
皆様、これからよろしくお願いいたします。」
すると、執事の男性が、
「リオン様、私ども使用人にそのようなかしこまった挨拶は不要です。
われわれこそ、今後ともよろしくお願いいたします。」
と返してきた。

そんなやり取りを見ていたメアリ様は何か思いついたように
「そうだ!リオンさん!
朝食まだでしょ!
是非食べて行ってくださいな!
うちの「シア」の料理はとってもおいしいのよ!」
と言ってきた。
すると名指しされたメイドが
「うん。料理には自信があります。」
と無表情で答えた。
私は慌てて、
「本日は、メアリ様とリーン様にご挨拶にお伺いしただけですので、そのようなお気遣いはしていただかなくても・・」
と語尾が消えかける途中で、メアリ様が
「良いじゃありませんか。
最近、お客様も来ることが無くて退屈してたのよ。
騎士団のこととか最近の城下のこととか聞かせてほしいわ。」
と言ってきた。
私は少し考え、離宮に閉じこもりっきりで、かなり退屈しているだろうと感じたので、
食事をご一緒することを了承した。
「わかりました。私の知っている事でよければ・・・
あまりご婦人が興味がある話はありませんが・・・」
と少し、言いよどむと、
「ほんとうですか!
わー城下とか、全然でかけられないから楽しみだわー」
と嬉しそうにはしゃいだ。
私は苦笑し、メイドと執事に案内されながら食堂に向かった。

私は、食堂に案内される途中、どうしても、王子に先に挨拶してから食事をとりたい事を伝えた。
メアリ様は、快く了承し、王子が寝ている、ご自分の寝室に案内した。
メイドが慌てて、王子をお連れしてくると言っていたが、すぐに済むからとメアリ様に押し切られていた。
寝室に到着し、リーン王子を見た瞬間、私は解っていたこととはいえ、驚きを隠せずにいた。
話に聞いていた通り、リーン王子は「無色」だった。
本当に、まったく、魔法属性が無いのか確かめるべく、
近くまでいき、挨拶をしながら観察する・・やはり魔法力による圧迫感は感じられない。
魔法力がある子供は、子供であるがゆえにコントロールが出来ず、魔法力を放出する為、
圧迫感のようなものを感じるものだが・・
そういったものは感じることが出来なかった。
だが・・逆に自分の魔法力が減った気がした・・ような違和感があった。
しかし本当に、髪も肌も抜けるように白い、顔はメアリ様似でとても可愛いらしい、とても男の子には見えなかった。
私は、こんなかわいらしい子供をもしかすると殺すことになるかもしれないと思うと気が滅入った。


[ルール・スペース(Rule space)]

ここに来てから半年がたった。
僕は今、3、4歳児ぐらいの大きさまで成長している。
やはり、この世界の人間の成長は自分の知っている世界の人間の成長よりかなり早いようだ。
言葉もだんだん理解し、片言なら喋れるようになってきていた。
どうも、文法的には、英語に似ているようだ。
文字もどことなくアルファベットに似ている。
読み方はかなり違うようだが・・・
母親と思われた人は、やはり、「母」であった。
名前は「メアリ」、性は「ウォーター・ペンドラゴン」
予想道り、王妃のようだ。
自分はやはり王子で四番目の王子。
名前は、「リーン・ウォーター・ペンドラゴン」。
腹違いの兄が3人いることがわかった。
未だに見たことが無いのが不思議だが・・・
腹違いの兄弟とはそんなものかとも思った。
後、それにもまして、父王の「エリック・ウォーター・ペンドラゴンⅤ世」に全然会わない・・
いくら四番目の息子だからって全然会いに来ないのは不自然に感じた。
そして、メイドが二人「アメリア」と「シア」、執事が一人「アレクシア」さん。
後、剣の先生だという青年「リオン先生」がいる事がわかった。
今日は、その「リオン先生」から初めて、剣を習う為、手に小さな木刀を持っている。
この世界では、騎士や魔法師を目指す子供は、5歳で「ペイジ」という見習いとして「魔法学院」に入り、
13歳で卒業後は、「エクスワイア」という従騎士として騎士に使えるか、さらに上の学校である「魔法剣術学院」か
「魔法師学院」に進んで、従士とならずに騎士爵や爵位を目指すらしい。
王家の者は従士とならず「魔法剣術学院」に進むのが常識らしい。
それにしても、生後半年の子供に剣を習わせるのはあまりに早すぎだと、母や執事達は、「リオン先生」に
抗議していた。
本来なら早くても3歳、遅ければ5歳の「魔法学院」に入学してからということらしい。
これは、僕は後から知ったのだが、「リオン先生」は僕に早く身を守るすべを身に着けてもらいたかったらしい。
子供相手にするにはかなり厳しい指導だと感じた。
ここでの剣術は、自分が知っている剣道とはかなり違っていた。
剣だけでなく、蹴りや掌底や組技まである、本当になんでもありの実戦重視の剣術だった。
リオン先生の生家は、魔法剣術に長けているとのことだった。
魔法剣術も基本の剣術が出来てこその「魔法剣術」とのことで、みっちり、しごかれた。
だが、僕は、その稽古の中で、元の世界では感じなかった体の軽さを実感していた。
まさにネコのように空中で体が回転し、地を獣のように駆けることが出来た。
この素早さは、この世界の人間なら当たり前なのかとも思ったが、案外そうでもないらしい。
僕は極めて敏捷性があるとの事だった。
「リオン先生」は、他に仕事があるらしく、剣の稽古はいつも午前中で、昼すぎからは、母とメイドさんから
勉強を教えてもらっていた。
勉強は読み書きと、算数だった。
読み書きは普通の子供と変わらないようだったが、算数は、さすがに元が高校生。
しかもこの間まで猛勉強していたとの事もあって、かなり物足りなく、「魔法学院」で習う数学
や魔法式を教えてもらった。
これには、母やメイドはかなり驚き、天才だと大喜びした。
自分としてはなんだかズルをしているような感覚だったのでかなり気が引けていたが・・
その中で、魔法に関して、自分は魔法が使えない「無色」である事を知った。
この事を話す時、母はかなり迷っていたようだった。
自分としては、元々魔法なんて無い世界から来ているので、生きる分には、魔法は、必要ないのではと思っていたので、
「母さん気にしないで、魔法なんかなくたって生きていけるよ!」
と本気で答えていた。

しかし、それだと気になるのは、あの集中すると発動する「白いオーラ」だ。
この事について、それと無く母に聞いてみた。
母が言うには「魔法を発動する時に、オーラの色が濃くなったり、広がったりする現象がある」との事だった。
ということは、なんらかの魔法が発動していると、考えられると自分は思った。
できればもっと詳しい人に聞きたいと思ったが、
「「リオン先生」は魔法も使うけど・・・事象とか原理とかそんなには詳しくなさそうだし」
他にもっと詳しいそうな人物は、この屋敷の中にはいなさそうだった。

そんな日々が3年ほど過ぎた。
僕の体格は6、7歳児ぐらいの大きさになっていた。
見た目は、少年ではなく、少女にしか見えない。
しかもとびきりの美少女!
かなり、母に似ている。
これは・・我ながらどうしたものか・・以前の世界での外見からかなり
かけ離れてしまった。
猫耳で白髪と言うこともあるが・・
鏡を見るたびにビックリするのが我ながらどうしたものか悩ましい・・
髪の長さもこの国の王族は成人とみなされる7歳までは伸ばすとの話なので、
今は背中の中ほどまで伸びて、毛先を揃えている。
じゃまなので、三つ編みにしてひとまとめにしてはいるが、
これはこれでかなり可愛い感じになってしまっていた。
男ものの服装はしているが・・・
それはそれで活発な少女のような印象しか与えない・・

そんなある蒸し暑い夜だった。
僕は、生後半年ぐらいから自室をあてがわれてそこで寝起きしていた。
深夜、不意に窓の方から人の気配がした。
自室はこの屋敷の二階で、今日は蒸し暑かったので、窓を開けて寝ていた。
その気配に窓の方を確認したが、何もいない・・・
どうしても気になったので、意識を集中して視てみる。
集中すると、部屋に虹色の空間が広がっているのが確認できた。
その中に真っ黒い人影のようなものが視えた!
人影はゆっくり近づいてくる。
手には何か黒い刃物のようなものが視えた!
リオン先生からは感じなかった殺気のようなものを感じて、僕はベットから跳ね起き、身構えた。
その様子を黒い影はあっけにとられた様子で見ていたが。
黒い影は自分の存在が「視えている」と気づき、一機に間を詰めてきた。
僕は、逃げる方向を遮られ、身構えるのが精いっぱいだった。
子供にしては、いくら素早い方だといっても、訓練された暗殺者のプロには到底かなうはずもなかった。
魔法を付加されたとみられる黒い刃が眼前に迫った!
だが、刃は、僕には届かなかった。
僕の眼前で刃は弾けて消えた!
黒い影も静止している。
目を見張ると僕が無意識につくりだした、白いオーラの空間の中に
黒い影は、右腕から肩にかけて、完全にその部分だけ「停止」していた。
白いオーラの中の腕は、真っ黒な衣装で、黒い手袋をはめているのが確認できた。
それに比べて、白いオーラの外の体は黒くぼやけて、もがいているように視える。
その黒い影は手を引き戻そうと力を入れているようだったがビクともしない。
僕は、思わず黒い影の右手親指を両手でつかみ、ねじるように自分の全体重をかけてひねって投げ飛ばした。
黒い影が勢いよく壁まで吹き飛び、壁に当たった。
盛大な音が屋敷中に響きわたる。
すると、人が駆け上がってくる音が聞こえた。
「殿下!殿下!ご無事ですか!」
その声を聴く前に黒い影は、右腕を抑えながら、窓から姿を消していた。
ドアが荒く開け放たれ、母と執事とメイドが入ってくる。
僕は生まれて初めて(前世も含めて)の生死をかけた戦いが終わって力が抜けていくのを感じていた。

翌日の早朝「リオン先生」が事の顛末を聞くとすぐ、つき従っていた従士に今後、この離宮を
交代で警備するよう命じていた。
リオン先生はに不審者にきづいて、とっさに相手の親指をつかんで投げ飛ばしたことだけ
を伝えた。
なぜか、自分の白いオーラについては話をする気になれなかった。
リオン先生は稽古には厳しいが、基本的には優しく、いい人だ。
しかし、時折、厳しい目で、自分を睨んでいる事がある・・・
何か、僕や母に隠し事をしているのではないかとつい勘ぐってしまっていた。

その日の昼過ぎ、昼食の後の午後の勉強を始める前、
僕は、昨日の夜の自分のオーラをどうしても検証したくて、裏庭の人に見えにくい小さな林の中
に赴いていた。
昨日の暗殺者と思われる賊を止めた現象を今一度確認したかった。
僕は目を細め、気を集中する。
すると白いオーラが自分の周り半径5メートルぐらいに広がった。
これは、日々寝る前に練習していて、徐々にオーラの範囲を広げることに成功していたからだ。
ちなみに昨日はとっさだっとので、半径1メートルにも満たない大きさ(80cmぐらい)だった。

自分は、魔法が使えないとは言われてはいたが、このオーラがどうしても気になっていて、僕は日々練習していた。
いつも部屋の中で行っていたので、外で発動するのは初めてだった。
ふっと周りを見渡すと、蝶が飛んでいた。
蝶は緑色の幾何学模様だったが、自分の作りだしたオーラの中に入ると「白色」になって飛んでいた!
また、足元をよく見ると先ほどは青色の花が足元に咲いていたがこれも「白色」になっていた!
母から聞いた話を思い出す。
「世界の生き物は多かれ少なかれ魔法の影響を受けていて、影響を受けている生き物は
影響を受けた魔法属性の色を出しているのよ」と・・・
であるならば、この色が消えた現象は、「魔法力を消し去っている」ということか!
昨日の刺客は、この白いオーラの中に入った為、魔法力が込められた短剣は消滅し、魔法をかけた体が止まったのか?
でもそれだと、今、そこを飛んでいる蝶の説明がつかないか・・・
魔法力を失っていても、生き物としての活動は変わらないように見える・・
僕はおもむろに、足元を見た。
そこには小石があった。
もしかして、生きていない無機物の場合、この白いオーラの中でなら、僕の意志が作用するのではと考えた。
そこで、足元の小石に「動け」と念じた途端、小石は「フシュン」と音を立てて、横にすっ飛んだ!
こ・・これは・・魔法というか・・超能力!念動力!のようだ!
つづいて、さっきの小石の近くにあった小石にも今度は、「浮け!」と念じてみた。
すると小石は自分の目の前まで浮いた!
これはすごい!
今まで、気が付かなかったのが勿体無いと瞬間的に感じた。
次に足元の花を持ち上げようと思い念じてみた。
しかし花はびくともしなかった。
あれほど、小石だと簡単に動いたのにどうして・・・
僕は、もしかしてと思い、今度は、花の周りの土ごと浮かぶイメージをした。
すると今度は、半円に切り取られた形で、土は花ごと持ち上がり、眼前まで浮いた!
「これは・・・無機物は動かす事が出来て、有機物というか生き物は動かす事が出来ないということか・・・
そういえば、昨日の刺客は黒ずくめで黒手袋をしていた・・・
ということは、刺客を止めたのではなく「刺客の着ていた服」を止めたということか?
そして、魔法力を失っていた短剣は僕がとっさに念じた「来るな消えろ!」といった思いで弾けて消えたのか?
もし、相手が素手なら少なくとも指は動いただろうな・・・
また、相手が全身黒ずくめの長そででなかったら、短剣は消し飛ばせても、半径80cm程度の範囲の空間では、動きを止められなかったかもしれない・・・」
と、一人言を言ってみて、背筋が寒くなるのを感じた。
そう考えると、親指の関節を決めているとはいえ、あの体格差を壁まで投げ飛ばせたのもこの力によるものか?
と考えた。
この検証を通して、僕は、この白いオーラ内に魔法力は持ち込めず、無機物ならば自在に操れることが分かった。
「支配空間(Rule space)」・・・
そこまで考えた時、突然、疲労感が襲ってきた。
自分がこの空間を維持できるのは今の所、せいぜい15分程度だったのだ。
それを過ぎると、立っていられないほどの疲労感を感じてしまう。
「これは、訓練しないといけないな・・・」
と一人呟き、この事は、しばらく黙っていようと心に決めた。

[マルケル]

私「リオン・ウィード・ヴォルター」は、摂政の執務室に向っていた。
昨夜、リーン王子殿下が、襲われた事を伝えるためだ。
昨夜の事を頭の中で振り返る。
昨夜、メアリ宮から風雷騎士団の宿舎にメアリ宮の執事から風魔法の遠隔通話で
賊が侵入し、リーン王子殿下が襲われたとの火急の連絡を受けた。
その時は、夜もすっかりふけていた。
早急に自分の部隊(自分も含めて16人)の小隊で、メアリ宮に駆け付けた。
「リーン殿下、メアリ様ご無事ですか!?」
メアリ様がリーン殿下を抱えていたが、怪我らしい怪我はないようだった。
殿下は、気を失っているようだった。
メイドにそっと寝かせてさしあげるよう指示した後、取りあえず、自分の部隊の従士8人を付近の捜索に
当て、自分も含めた、8人で屋敷の警備をする事にした。
自分と副官は、屋敷の中、他の6名を屋敷の外の警備に回した。
結局、暗殺者は発見できず、5名毎に交代で屋敷の警備にあたることにした。

このメアリ宮は、ペンドラゴン城の城壁内にある。
他の離宮は王宮(ペンドラゴン城)の外にあるがメアリ宮だけは、メアリ様が輿入れが決まった際、
特別に城内にエリック王が立てたものだ。
それ程、王はメアリ王妃の事を気に入っている証拠だと噂されている。

そんなメアリ宮は、城の城壁内という事もあり、城事体が警備対象で、各騎士団が交代で警備しているので、
まさか、城内に賊がいるとは思ってもいなかった。

だが・・最近の情勢からそういうこともあると思わずにはいられなかった。
ここ、数カ月、エリック陛下は、体調を崩され、臥せっているからだ。

しかも回復の傾向が一向に見られない。
メアリ様も毎日、私がリーン王子を見ている時、陛下の元へ見舞にいっている。
これは、メアリ様自信の意志でもあるが、陛下のたっての希望でもある。
リーン王子にはお会いになろうとはしないが・・・

摂政の執務室の前まで、行くと警備の者に面会したい旨を伝える。
しばらくすると、入室の許可がでた。
私は、扉をノックし、入室した。
「マルケル様、本日は、火急にお伝えしたい事があり、
予定を入れず、お伺いいたしました。」
そういうと、マルケルは、ゆっくり振り返った。
「リオンよ、大体の見当は付いている。
メアリ宮に忍び込んだ賊の事であろう?」
私は驚いた、リーン殿下の身辺については、極秘とされているので、昨夜の件は
自分を含めた限られた人数しか知らないはずだった。
「なにを驚くことがある?
城内の事で私の知らないことないよ。」
とマルケルはニヤリと笑った。

私は、マルケルが城内外に間者をはびこらせているという噂があることを思い出した。
この摂政は油断ならないと私は、再確認した。
「それでは、話が早くて助かります。
城内に入ったと思われる賊は、我が小隊では、発見できませんでした。
早急に各騎士団に捜索のご指示をお出しいただけませんでしょうか。」
そういった私に対して、マルケルは渋い顔をみせる。
ため息のような息を吐いた後、マルケルは話始めた。
「ここだけの話だが、貴公も知っての通り、今、城内は、微妙な空気となっている。
これは、エリック陛下の体調がかんばしくないためだ。
このまま、エリック陛下が崩御されるのではとの噂もでているほどだ。
次期王の座をめぐっての政局じみた行動が暗躍しているのだ。
昨夜の賊もその政局がらみという節も考えられる・・・
よって、賊の捜索は、こちらで秘密裏に行う。
貴公も昨夜の件は、他言無用とすること。
念の為、貴公の小隊は引き継き、メアリ宮の警備にあたられよ。」
と言ってきた。
私は驚いた、小隊程度の警備では、とても不安だ。
16人を3交代で警備にあたったとして、約5名ずつでの警備だと、本来の近衛騎士団の仕事が行えないばかりか、負担もかなりなものだ。
「マルケル様、我が小隊は、私も含め16人しかいません。
せめて、増援をいただけませんか。」
と上申した。
するとマルケルは、少し考え、
「分かった警備に限り、増員を許す、貴公の所属する騎士団の一個小隊も警備に追加派遣する
ことにする。人選は貴公に任せるが、くれぐれも、警備のみとし、リーン殿下への接触はさけるよう、
厳命すること」
私は、少しほっとしながら
「寛大なご指示、ありがとうございます」
と言ったが、心の中では、納得がいっていなかった。
どうもマルケルの態度に裏があるようにしか思えなかった。

[続・マルケル]

私、「マルケル・ド・フランシーヌ」は、騎士リオンが退出した部屋の片隅の黒い影に向かって
声をかけた。
「シャドウよ。
子供一人も仕留められないとは、腕が落ちたな!?」
すると壁の影が人の形をとって、人が現れた。
「弁解する気は無いが、かの子供は、ただの子供では無い。」
私は驚きを隠さずに、言葉を発した。
「無色だぞ!
無能力者も仕留められないのか!?」
影は無表情で、
「かの子供は、無色であっても無能にあらず。
人知を超えた能力を秘めている。」
と断言した。

私は目を見開いて驚いた。
「何!何か得体のしれない能力を秘めているというのか?」

影は無表情で頷き
「御意」
といってきた。
私はしばし考えこみ、影に対して、
「分かった、密かに観察し、その能力を見極めよ。」
すると影は
「御意」
と返事をすると、また、壁の影に消えていった。

今、王室では、第一王子「エギル・ウォーター・ペンドラゴン」派と
第二王子「アルベール・ウォーター・ペンドラゴン」派に分かれて
次期王位の覇権争いが水面下で起こっている。

エギル王子は、直情型で、思慮に欠けるところがあり、王としての資質はあまりないと噂されている。
だが、エギル王子は、「地震騎士団」の将軍でもあり、
母の第一王妃の「ヘカテリーナ王妃」は、「イディオム家」出身である。
「イディオム家」は、5大貴族の中でも、武器貿易などで莫大な富を蓄えていて、
今一番(発言力)権力がある。
その、「イディオム家」が、エギル王子の後ろ盾となっている。

つづいて第二王子、アルベール王子は、エギル王子とは真逆に近く、魔法に長けて、思慮深く、人望もあり、
「魔法師学院」を主席で卒業した秀才で知られている。
私としては、粗雑で考えの浅い、第一王子が王位に就く事は、この国の為にならないと確信している。
今のエルウィン王国は貿易都市国家として、周辺諸国とは良い関係だ。

また、第三王子の「マイア・ウォーター・ペンドラゴン」は、まだ、7歳で今王位につかせる
ことは、得策とは考えづらい。
第四王子は、論外である。

だが、エギル王子は、周辺諸国を平定して、国力を増大すべきと常日頃、発言している。
これは、北の大国「ウルク帝国」が最近、近隣諸国を平定してきていることからの提案ではある。
しかし、「ウルク帝国」と我が国の間には「モンゴール公国」とピザン山脈がある為、
すぐに、我が国への侵略があるとは考えにくい。
まあ、陸路がダメなので海路から攻めてくるという手もあるが、海軍ならば、我が国は、
地上最強を誇っているといっても過言ではない。
その為、我が国からの侵略は、今の近隣諸国との友好関係上、
あまりに危険な思想だと私は思う。
これは、「濡れ衣を着せてでも」失脚して頂かなければならないと考えている。

今回の第四王子暗殺計画は、能力(魔法力)至上主義を常に訴えている
エギル王子に罪を被せ、王国に無用な者を排除する一石二鳥の案だったのだが・・
「なかなか事はうまく運ばないようだ。」
と、私は一人自問した。

[脱出]

僕は、昨日の暗殺の事を考えていた。
ここ数か月、国王の具合が悪く、臥せっていて、容体は悪くなる一方だという話を、
メイド達から聞いていた。
その王へのお見舞いで、最近、母も留守がちなのも気になるが・・・
その為、次期国王の第一王子
「確か、エギル王子だったか?」
が近じか王位につくのではと噂されている。
しかし、エギル王子の評判はすこぶるよろしくない。
それに対して、第二王子のアルベール王子の評判はかなり好評価だと聞いている。
こういった場合、大体王位がすんなり決まるとは思えない・・・
ならば、第一王子派も第二王子派もなんらかの策略を取ってきそうだ・・・
昨日の暗殺未遂は、そういった策略(陰謀?)の一つと取っていいのではないだろうか・・
僕は、父王に疎まれているが、母は父王に好かれている。
これを利用して、
「陛下は一番愛している、第四王妃の子供を次期国王にと考えている」といった噂を流し、
それに対して、不満を持った・・・
おそらく、第一王子派あたりに、罪をなすりつける形で、暗殺する・・・といったような事があっても
おかしくないように思う。
しかも、僕は、無色で無能力とされているのだから、王国にとってもいなくても問題無いどころか、
かえって都合が良いと判断されるだろう。
ならば、僕としては、何とかここから脱出する手段を考えておかないと、みすみす殺されてしまいかねない。
まず、何とか無難にすませられそうな方法としては・・・
「1、母方の親戚に養子にしてもらう、もしくは、預けてもらう。」
「2、魔法学院に入学させてもらう(全寮制である為)」
後、これはあまり使いたくないが・・・
「3、事故を装って、死んだ事にする」
3は、かなりリスクがある・・・
方法としては、城壁の海側を散歩させてもらい、歩いていて、僕が誤って城壁の外に落ちてしまう
というものだ。
これは、僕の能力(Rule space)を使えば、壁や岩に当たることもないし、おそらく、
海の中でも自由に動けるだろう。
ただ、今の僕の能力の発動時間の最長が15分程度だからそれまでに岸につかないと
助からない可能性はあるが・・・
あと、この方法は、ただ脱出するだけで、その後の生活などは行き当たりばったりだ・・
自分の能力などを明かして、リオン先生の実家にでもかくまってもらうのは・・・
無理かな?
下手したら反逆罪などにされる可能性もあるし・・・
事故を装うなら・・・生活などは自力で考えないとか?
まずは、一番無難な、案1を母が陛下の見舞いから帰られたら話してみるべきか・・・
などと考えていた。

だが、その夜、母は屋敷に帰ってこなかった。
執事の話によると、国王陛下の容体が急変されたとの事だった。
各王子、王妃は緊急に、国王陛下の寝室に集まっているとの話だった。
ちなみに自分は、呼ばれていないとの事だ。
この後に及んでも、自分は毛嫌いされているのかと思うとやるせなくなる。
そんな夜だったので、僕は寝付けないでいた。
すると遠くから、この世界では聞かない機械音?のような音が聞こえてきた。
その音はどんどん近づいてくる。
何の音か気になったので、窓を開けて音のする方角の空を見た。
だが、この屋敷は、城壁内にあるので、遠くまでは、見通せない。
しかたが無いので、上を見上げると不意に爆音がして飛行機?が通りすぎた!
「飛行機」はこの世界には存在しないことを、周りの人の話から聞いていたので、
「そんなバカな!」
と僕は知らずに叫んでいた。
その飛行機というより爆撃機?は真上を通りすぎると城の上に何かを落とした!
僕は「ヤバい!」と思い、とっさに窓から離れ、身を伏せた。
すると、すさまじい爆音と振動と光が外から数回にわたって襲ってくるのを感じた。
その振動が収まるのを待って、窓の外を確かめる。
すると城は半壊し、炎があたりを覆っていた!
まさに、
「地獄絵図・・・だ・・」
と呟いた時、ドアが勢いよく開き、
「リーン殿下ご無事ですか?!」
「リーン王子様ご無事ですか!」
「王子殿下ご無事ですか!」と執事とメイドと警備の従士がそれぞれ叫びながら
入ってきた。
僕は、
「僕は大丈夫です!
しかし、城が大変な事になっています!
早く、母たちを助けに行かないと!」
と叫んだ。
執事達は、顔を見合わせどうすべきか思い悩んでいる。
すると、不意にまた、飛行機のエンジン音が聞こえてきた!
さっきの飛行機は通り過ぎたばかりだから、戻ってくるのが早すぎる!
他にも何機かいるのか?!
僕は、みんなに叫んだ!
「まずい!
また、攻撃が来ます!
みんな伏せて!」
複数機が来るのなら、この離宮も安心ではないと思い、
とっさに僕は能力(Rule space)を最大限、発動させた。
すると、自分を中心にした半径5メートルの球体の範囲に白い光が広がる。
なんとか、ここの部屋はカバーできたようだ。
支配空間内(Rule space)は音が遮断されて静かだった。
僕は恐る恐る周りを確認した。
僕以外のみんなは床に伏せている。
それ以外の周りは窓とそれに付随する壁を覗いて全て吹き飛んでいた!
屋敷が直撃を受けたらしい。
まさに間一髪!
すると、最初の3機(1機だと思っていたが3機だったらしい)が旋回して、戻ってくるのが見えた。
こちらの竜騎士らしいワイバーンが雷の魔法や炎の魔法で攻撃しているのが見えるが、
相手が鉄製の飛行機だからか、効果は確認できない。
恐らく、機体自体にも強化の魔法がかかっているのだろう。
僕は、とっさに、近くの従士に駆け寄った。
近衛騎士団には珍しい黒髪の女の従士だった。
暗殺者対策で、黒魔法が使える従士を派遣したらしい。
そんなことをふと思ったが、今は確認している時間もおしい。
僕はその従士に、
「ダガーをあるだけ貸して!
直ぐに!」
と叫んだ!
従士の女性は驚いて顔を挙げたが、即座に体に巻きつけていたダガーナイフを
5本ほど引き抜き
「殿下、どうぞお使いください!」
と渡してくれた。
僕は、こちらに再度向かってくる飛行機を見つめた。
僕は心の中で呟いた。
『僕の考えが正しければできるはずだ!
僕の能力内でならば物理現象は自由自在なはず!』
敵機を凝視すると、空間内の光の屈折率が変わり、望遠鏡で覗いているように
近くに敵機を確認することができた。
僕は、手に持ったダガーから二列の平行した電位差のある電気的ラインをイメージする。
すると火花が散ってプラズマが走り、2本のラインを形成した。
僕は、そのラインに乗せるようにしてダガーを投げた!
すると「ガガーン」といったすさまじい衝撃音が鳴り響いた!
見ると敵機の向って右側のプロペラエンジン部分が吹き飛んだのが確認できた!
やった!
『レールガン(Railway gun)』(超電磁砲)だ。
さっきの音は、ダガーが音速を超えた為に起こった衝撃波(ソニックブーム)の音だ。
聞いた話だと恐らく初速で3km/s(マッハ9)は出ているらしい。
音速は、秒速340m(340m/s)だ。
拳銃では230 ~ 680m/s、ライフル銃でも750 ~ 1,800m/s程度、だからまさに桁違いの速さだ。
その為、貫通力は通常の弾丸の比ではない!
僕は、つづけざまに残り4本とも他の2機に2本づつ投げた!
再度、激しい音が鳴り響く。
敵機は、燃料にも引火したらしく、海に落ちていくのが確認できた。
後続の3機が接近する気配(音)は聞こえてこない。
恐らく、先鋒の隊が撃ち落されるのを見て、こちらに向かうのを止めたのだろう。
この世界での人間の耳はかなり遠く(2、3キロ)まで集中すれば聞こえるので、それ(2、3キロ)以上離れていると思われた。
僕は、それを確認し、ゆっくりと自分の空間で支えている床と一部の壁を地面に降ろす。
それを執事達は、ビックリした顔で周囲を見ては、僕を見ていた。
床を地面に降ろしおえ、能力を切ると壁が派手な音を立てて倒れこむ。
僕は、それを無視して、直ぐに駈け出そうとした。
だが、その前に、従士の女性が両手を広げ立ちはだかった。
「ちょっと!
じゃまをしないでよ!」
と、つい叫んでしまっていた。
女性は片膝をついて、膝まづくと
「リーン王子殿下、お気持ちはわかりますが、ここは、我らにお任せくださいませんでしょうか。」
と言ってきた。
僕は、その女性を見たあと、周りを確認した。
屋敷は完全に爆風で吹き飛んでいて、所々に警備をしていた人たちが倒れているのが確認できた。
そして、城を見てみると、いくつかあった塔はすべてくずれ落ちて瓦礫の山と化し、所々炎が上がっていた。
すると、不意に空から滝のような雨が降ってきた!
誰かが風と水の複合魔法を使っているらしい。
海の方に竜巻が見えた。
どうやら、海水を巻き上げて、雨を降らしているようだ。
この状況では、母がいたであろう王室がどこだか確認できない・・・
僕は途方にくれ、その従士の女性を再度見、
「あなたは、母さんの居場所がこの状況でもわかりますか?」
と茫然とした顔で聞いていた。
するとその従士の女性は、
「私の黒魔法は探査に優れています。
瓦礫の下や隠れた敵を探すのが私の任務でもありますので、
どうか、私にお任せ願えませんでしょうか。」
と言ってきた。
僕は、少し考え、
「分かりました、ですが瓦礫の撤去などは無理ですよね?
僕の能力ならば撤去は容易にできます。
ですので、僕も同行させてください。」
すると、従士の女性は他の執事やメイドに目配せし、
「了解いたしました。
ですが、私の言うことには従っていただきますがよろしいですか?」
僕は、どうしても同行したかったので、了承し、頷いた。
すると、女性が
「リーン王子殿下、遅ればせながらご挨拶がまだでした。
私は、近衛騎士団リオン遊撃隊所属の『マリアンヌ・デュファ』と申します。
微力ですが、精いっぱいお役に立つよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
と言ってきた。
僕は
「リーンです。
こちらこそよろしくお願いします。
後、少し時間をください、用意しますので。」
と言い、右手を頭上に広げ、再び空間を展開し、金属が集まるよう念ずる。
すると見る見るうちに半径5メートル内から金属が集まってきた。
(従士や執事達の体からは持ってこないように意識する)
あっという間に、フォークやら剣やらナイフなどが集まって一塊になった。
僕は、適当にナイフを2、30本つかんで、近くに落ちていた皮ひもでくくって小脇に抱えた。
それと大振りのダガーナイフを一本腰のベルトに差した。
これで、弾丸替わりのナイフと、接近戦用の武器が確保できた。
すると、さっきまでの雨がやんでいた。
火もあらかた消火されたようだ。
僕は
「じゃ行きましょう
しっかり、つかまってください。」
と従士の女性(マリアンヌ)の手をつかんだ。
そして、執事(アレクシア)達に振り返ると、執事にむかって
「アレクシアさん達は怪我をした人たちの救助と手当をお願いします」
と言ってから能力を発動し、
自分の周り(従士:マリアンヌ)を含んだ範囲に空間を展開し、
『上方向に重力落下を意識してから城側に向って重力の落下方向を変化させた』
(念動力の継続使用は消耗が激しいらしいく、空間内の法則を変異させた方が消耗が少ないと感じたので)
すると、あっと言う間に、僕たちは50センチ浮いた後、城の方向(横方向)に『落ちて』いった。
自由落下なので、上手く抵抗がつくよう両手を広げる微妙な体勢は念動力でカバーする。
横をみるとマリアンヌの顔が引きつり僕の小さな手を両手でつかんで凝視し、
「で、で、殿下!
こ、これは、いったいなんですかーー!!」
と叫んでいる。
僕は、
「今は、説明している時間がないから後で話すよー!
しっかり、手を握っていてください!」
と叫び返した。
城まで約700メートル、直前で僕は、徐々に重力方向を正常に戻すのと同時に
念動力で自分たちの体に(物体にしか能力は作用できないので体に接触している空気中の分子に)
ブレーキをかけ、地面に着地した。
マリアンヌは、腰が砕けたように、その場にへたりこむ。
『まあ、いきなりバンジージャンプまがいの事を経験させたから仕方がないが・・』
僕は、そんな彼女に悪いと思いながら、
「マリアンヌさん!
ちょっと驚かせてしまいましたが、急いでいたのですみません!
取りあえず、探索魔法をお願いします!」
と焦りながら、叫んだ。
マリアンヌは、少し呆けていたが、ハッとして、こちらを振り向き、頷くと
何やら目を閉じ呪文を唱え始めた。
僕からは、彼女の黒いオーラが濃さを増していくにのが確認できた。
すると彼女は目を見開き城の瓦礫の山を凝視した。
彼女の目(通常は黒色)は虹色に輝いている。
どうやら人のオーラや気配が探知できるようだ。
しばらく、あたりの瓦礫を見た後、彼女は、不意に瓦礫の上の方の四角い箱の形
をした石作りの塊を指さした。
僕もよく見てみると、そこだけ不自然に崩れずに正方形を保っている。
他は崩れているのに、そこだけ、(まるで四角い部屋が)壊れずに残っているように見えた。
僕たちは急いで瓦礫の山をよじ登って近づく。
その塊に手を触れると、魔法力のような力を感じた。
おそらく、中から誰かが壁というか部屋全体に強化魔法をかけていると推測できた。
すると、魔法力の変化が感じられた。
何だが、爆発するような振動?
僕は、とっさにマリアンヌにしがみつついて、能力を発動した。
「マリアンヌさん伏せて!」
その直後、その塊が弾けた。
どうやら塊の中の誰かが、壁を吹き飛ばしたらしい。
あたりにもうもうと煙が立ち込める。
すると、煙の向こうから怒鳴り声?というか言い合っている声が聞こえてきた。
落ち着いた声が
「兄上、もう少し、穏便に魔法をかけて頂けないものですか?」
すると、大仰な感じの声が
「アルベール!なにを悠長な事をいっている、どこぞの敵が攻撃していたのだぞ!
こんなところにいつまでもいられるか!
直ぐに軍を招集して反撃せねばならん!」
とどなり返している。
僕は、そっとその様子をうかがった。
その直後、アルベールと名指しされた人物が僕らを方を振り向き
「そこにいるのは誰だ!」
と叫んだ!
僕はとっさに身を屈めたが、マリアンヌが即座に直立し、
「近衛騎士団リオン遊撃隊所属の『マリアンヌ・デュファ』であります!
未確認の敵の攻撃で、陛下や王子殿下のご様子が心配されましたので、取るものも取りあえず
参上いたしました。」
と即座に応答した。
すると、他の若い男性が
「マリアンヌか!
お前一人か?」
よく見ると、リオン先生だ。
リオン先生は、母の護衛も兼ねて、今日は、母と共に陛下の寝室に出向いていたはずだ。
ということは、ここは、陛下の寝室で、今、怒鳴り合っていたのが、第一王子と第二王子か?!
母は?母さんはどこに?!
無事なのか?
よく見ると、寝台の脇に、一人の女性と、男性が寝かされている!
寝台には陛下らしい男性が、寝台の脇には、白衣を着た初老の男性と、まだ若い女性!
母さんだ!
僕は、がばっと起き上がり、駈け出していた。
マリアンヌが、
「王子おまちください!」
と呼び止めるのも構わずに走り出す。
母の横で膝をつき、顔を覗きこむ。
顔はかなり青ざめて、血の気がない。
腹部に手当の後が見られる。
どうやら出血しているらしい。
僕は、リオン先生を見て、
「リオン先生!
母は怪我をしているんですか?!
ここが陛下の寝室なら、医者も一緒にいますよね?!」
リオンは、静かに首を横に振った。
そうしてこう続けた。
「医者は、その隣に寝ている男性です。
すでに息はありません。
最初の攻撃で、背中に爆風を受けて・・・
メアリ様も陛下を庇い、爆風で飛んできた破片が腹部に刺さり・・
手当てはしましたが・・これ以上、手の施しようが無い状態です。」
すると、母がうっすらと目を明け、僕に笑いかけた。
僕は、思わず手を握り叫んでいた。
「母さん!
しっかり!
こんな事で居なくならないで!」
と叫んでいた。
この世界に来て、無二の愛情を向けてくれた母。
「無色」ということでかなり形見が狭かったことだろう。
でも、やっと、魔法とは違うが、人に認められそうな能力がある事がわかり、
恩返しできると思ったのに・・・
こんな形で分かれてしまうなんて・・・あまりに母が不憫だ。
前の世界では、母との関係は良くなかっただけに、悔しい思いでいっぱいになった。
いつの間にか、止めどなく涙が溢れてきていた。
すると母は、僕の頬に手を当て、
「リーン泣かないで・・・
男の子でしょ。」
とかすれた声で言ってきた。
「リーン、これから言うことをよく聞いてね。
私は、どうやらあなたの成長を見届ける事ができそうにないわ。」
僕は、思わず
「そんなことない!
まだ諦めるのは早いよ!
きっと、他の医者がすぐに駆けつけるから、それまでがんばって!」
だが、母は手を挙げて、僕の言葉をさえぎり
「リーン、自分の事は自分で良くわかっています。
ですから、気をしかっり持って、聞きなさい。
前々から、私の母。
あなたのおばあ様に、あなたの事を養子に迎えてもらえないか打診していました。
正式なお返事はまだ、いただいておりませんが、この国がこの様な戦争状態になるのなら、きっと、引き受けて
いただけると思います。
ここに、親書があります。
これを持って、おばあ様の『エヴァ・カストラート』を訪ねなさい。
カストラート公国は、この国から南にある平原に居をかまえる王国です・・・
麦の収穫時期にはそれはもう一面が黄金色になるとても美しいところですよ・・・
私の故郷でもあります・・・
できれば、もう一度、あそこにあなたと一緒に行きたかった・・・」
僕は、黙って、母の手を強くにぎり返し頷く。
「母さん、大丈夫、きっと一緒に行けるよ。
だから、頑張って!」
と言っていた。
すると母は首を横に振り、胸元から短剣をだし、差し出した。
「これは、婚姻の時、陛下から守り刀としていただいたものです。
私にはもう必要ないものです。
これからは、これがあなたを守ってくれるでしょう。」
と僕の手にペンドラゴン家の紋章(水龍)入りの豪華な短剣を握らせた。
「どうか、あなたの未来が幸せで溢れていますように・・・」
と言った途端、母の手から力がいっきに抜けたのを感じた!
僕は、泣きながら叫んでいた。
「母さん!
まだ、何も恩返ししてないよ!
こんなんで死んじゃうなんてあんまりだ!
母さんがどんな悪い事をしたっていうんだよ!」
僕は、母の胸元に顔を埋めて泣いていた・・・

しばらく、まわりの人達は、僕の様子を黙って見ていたが、
第二王子のアルベールが口を開いた。
「リーン、初めまして、私はお前の上から二番目の兄『アルベール』だ。
メアリ様の最期のお言葉は、聞かせてもらった。
メアリ様の言うとおり、これからこの国は戦争状態にはいるだろう。
お前の様な子供たちは、安全な場所に避難させなければならない。
幸い・・と言うべきか、メアリ様のご配慮でお前の事は、カストラートに連絡済みのようだ。
今は、カストラートへの避難がもっとも良いと思う。
身の振り方はそれから考えても遅くはないだろう?」
と優しく言ってきた。
そして、リオンに向き直り、
「リオンよ!
これから、近衛も含めた隊の招集をかけるが、お前の部隊はリーンをカストラートの
エヴァ様の所まで送り届けるよう命ずる。
近衛騎士団の団長には、私から話を通しておく。」
と言った。
リオンは、胸に拳を当てた敬礼をし、
「了解いたしました。
これよりリオン遊撃隊は、リーン王子を護衛し、カストラート王国に向かいます。」
と返事をした。

僕は、うつむいたままどう返事をしたらいいか迷っていた。
その時、アルベールの後の方に違和感を感じた!
目を凝らすと黒い影が視えた!
僕は思わず
「危ない!
伏せて!」
と叫び、近くに置いていたナイフをつかんで投げていた。
レールガンのレールをイメージしている時間がなかったので、自分の投てきの腕プラス念動力だ。
ナイフは、正確に影に吸い込まれ、
「ウ!・・・」
という呻き声が聞こえた。
すると、その他にも影が十数体現れた。
今度は、自分以外の人たちも気づいたようで、
エギル王子が
「何者だ!」
と叫んでいた。
影達は、だんだん実体化していき、姿を現した。
影達はみんな黒装束で頭には黒のターバンを巻いて、口元も覆っていた。
その中で、目だけがギラリと見えていた。
その姿は、中東あたりの暗殺者をイメージさせた。
「敵地で、姿を晒すなんてなんて大胆というかよほど自信がある連中だな?」
と僕は思った。
その中のナイフを右肩に受けた黒装束が、
「まさか・・・こんな子供に我らの術が見破られるとは・・・
まさかとは思うが我らの『爆撃機』を落としたのも貴様の仕業か?」
と、ぞっとするような冷淡な声で言ってきた。
「なんだその『爆撃機』とは?!」
という、エギル王子を無視して、じっと、僕を睨む。
僕は心の中で呟いた。
確かに「爆撃機」と言った!
この世界には「飛行機」すら存在しないのに・・・
まさか・・僕みたいに違う世界から転生した人がいるのか?!
すると、その黒装束は懐から「拳銃」を取り出し、僕に向けた!
僕は心の中で叫んでいた。
「け・・拳銃!
でも自動拳銃ではなく回転式のリボルバーだ」
などと思った瞬間、僕は誰かに抱きかかえられて、風の様に横に移動していた。
首を捩じらせて抱えた人物を確認すると、リオン先生だった。
リオン先生は、僕を抱える直前にダガーを投げていた。
ダガーは狙い違わず、拳銃を構えた黒装束の胸元に当たるはずだったが、
相手は、すかさず、体を捩じってよけていた。
だが、ダガーは相手を通り過ぎた後、後方で弧を描き、まるでブーメランのように
帰ってきて、相手の背中に突き刺さった。
(風の魔法で投げたダガーの方向を変化させたようだ)
それを見ていたアルベールが叫んだ。
「リオン!
第三、第四王子と王妃達を連れてここから離れよ!
ここは、兄と私達(摂政と側近数名)が引き受けた!」
と言ってきた。
リオンは、
「分かりました。
さ!王妃様方!私の後に続いてください!
マリアンヌ!そこにいるな!」
「はい!隊長!」
「私が先導するからお前はしんがりを務めよ!」
「了解です!」
すると、リオンを含めた一団が黒い霧に包まれる。
マリアンヌが、
「皆様!
敵に探知されにくい魔法を掛けました!
周りの方々も認識しずらくなりますので、手をつないで、離れないようにして
ください!」
と叫んだ!
僕らは、瓦礫の山をリオンの魔法で一気に降り、城壁に近衛師団詰所に向かってかけだした。
城跡の瓦礫の山では剣同士がぶつかりあう音と魔法の大音響が聞こえてくる。
第一、第二王子や側近は、かなりな手練れだと聞いていたから大丈夫だとは思うが・・・
どうも、先ほどの爆撃機や拳銃といった、この世界には無かったものが出てきているのが気がかりだった。
近衛騎士団詰所にたどりつくと、そこは野戦病院と化していた。
所々からうめき声が聞こえてくる。
リオンは、
「大隊長!
大隊長はいませんか!」
と叫んだ!
すると、奥の方から大柄な濃い緑色の髪の男性が返事をした。
(ここには、常に近衛騎士団の大隊長四名の内、一名が必ず詰めている)
「リオンか!
無事だったか!
陛下の寝室に同行していたはずだが、陛下や王子達はどうした!」
と言ってきた。
リオンは、
「それですが、今、敵の奇襲を受けて、王子達が応戦中です!
私は、王妃様達を避難させる為に、離脱しました!
ただちに、援軍を送ってください!」
を叫び返した。
大隊長は、
「解った!
おい!ヴァレリ!お前の小隊とここから、集められるだけ集めてただちに援護に迎え!」
と近くにいたリオンの友人で小隊長のヴァレリに命令した。
ヴァレリは、
「了解しました!
おい!ここで動けるものは、私に従って王子達を援護だ!」
と手を挙げて叫んだ。
「ザ!」
と音を立てて、数十人が立ち上がり、ヴェレリに続いて、駆け足で移動しはじめた。
後には、大隊長とけが人と、看護師や医師だけが残っている。
大隊長は、リオンに近づくと、
「今さっき、伝令で国境付近に北の『ウルク帝国』の大軍が現れて、
我が方の国境警備隊と戦闘状態に入ったとの連絡を受けた。
近衛騎士団のドラグーン隊は、未確認飛行物体と交戦後、消息不明だ。
恐らく、生きてはいまい・・・
残りの近衛騎士団は、城の警戒待機だが、他の騎士団は、地震騎士団の『ベルク砦』に招集がかかっている。」
と言ってきた。

僕たちはその言葉に驚いた。
そして、大隊長は、王妃達に向きなおり、
「王妃様方には、ここから一番近く安全と思われる我が風雷騎士団の『アイルゼン砦』
へ避難されますようお願いいたします。
私も王子たちの援護に参加後、騎士団の編成に『アイルゼン砦』向います。
リオン!
王妃様達の護衛と案内を任せるぞ!」
と、言うと詰所から出ていこうとする。
リオンは、あわててその後ろ姿に声をかけ
「大隊長!
私も王子達の援護に参加したいのですが!」
と言ったが、大隊長は
「馬鹿者!
今、人出が足りない中、できるだけの増援をしたばかりだ!
王妃様達の護衛が一人もいない状態にはできない!
お前の隊は王妃様達を護衛して、『アイルゼン砦』に迎え!」
と命令した。
リオンは、苦渋の表情を浮かべたが、思い直し、敬礼し
「了解しました。
リオン遊撃隊は、王妃様方を護衛し、『アイルゼン砦』に向かいます。」
と返答した。
大隊長はそれを確認し、頷くと、王妃達に会釈をし、足早に城の方へ駈け出した。
リオンは、王妃達に振り返ると、
「皆様、これから『アイルゼン砦』までご案内しますが、
我が隊の他の隊員が招集可能か確認してから向かいます。
今しばらくお待ちください。」
と言い、マリアンヌに顔を向けると、
「マリアンヌ!
他の隊員は無事なのか?
招集できそうか?」
と聞いてきた。
マリアンヌは、
「無傷なのは、私だけのようでした。
戦闘に参加可能かどうかは確かめられませんでしたが・・・
確認にメアリ宮に向いますか?」
と逆に聞いてきた。
リオンは、少し考え、一人ごとを言っていた。
「『アイルゼン砦』は近いと言っても女子供の足なら1時間はかかる。
馬・・・はこの人数では無理だから・・馬車が必要だ・・」
リオンは、再度マリアンヌに向き直り、
「隊の連絡の取れそうな人材は無事だったか?」
と聞いてきた。
連絡の取れそうな隊員とは「風魔法」が使えるものを指していた。
マリアンヌは、少し考え、そして
「隊のものではありませんが、執事の『アレクシア』殿なら連絡が取れると思います。」
と返答した。
リオンは頷き、目を閉じ、呪文を口ずさむ、そして応答するよう心の中で念じた。
『アレクシア殿、聞こえますか?
ご無事ですか?』
しばらくして
『リオン殿ですか!?
メアリ様は?陛下は?リーン王子はご無事ですか?』
と返信があった。
リオンは、少し言葉に詰まり・・・
『メアリ様は陛下を庇いお亡くなりになった・・・
陛下も戦闘のショックもあり、崩御された。
リーン王子はご無事だ。』
と返事をし、
『アレクシア殿、すまないが、気落ちしている暇は今は無いんだ!
まだ、敵の攻撃は継続中だ!
今も他の王子達は戦闘中だ!
他の王妃様達はその場から遠ざけることが出来たが、『アイルゼン砦』にお連れしなくては
ならない!
そこにいる我が隊の隊員で動けるものはいるか?!』
執事のアレクシアは
『3名ほどなら・・なんとかそちらに合流できそうです。
その他は、死者が4名、重症者8名です・・・』
と返答した。
『アレクシア殿、すまないが、その3名に今すぐ、近衛騎士団詰所に向かうよう言ってくれ。
後のけが人は、申し訳ないが、アレクシア殿達で、ここまで運ぶか、運べないようならその場で
待機させてくれ。
こちらも重症者が大勢いて、そちらまで手が回らない。
申し訳ないがよろしく頼む。』
『分かりました。
隊員の方々にはそのように伝えます。
それと、一つ、お願いしてもよろしいでしょうか?』
『なんですか?』
『王子に一言・・・・
王子に気をしっかりお持ちになってくださいと・・・
我々執事一同は、メアリ様同様、何時でもあなたにお仕えいたします。
とお伝えいただけませんか。』
『分かった。
必ず伝えよう。
それでは、こちらの連絡も頼む』
といって、リオンは通信魔法を切った。
「皆様!
これから、我が隊の残りの者が合流次第『アイルゼン砦』に向かいます!
しばし、ここでお待ちください!」
と王妃達に声をかけた。

僕らは、リオン隊の残り3名が合流すると、
詰所に有った馬車に乗り込み、移動を始めた。
移動する馬車から顔を出し、城を見ると、以前あったシンデレラ城のような塔はまったくなく、
城壁のみになって、所々煙が立ち上っていた。
もしかしたらこの城を見るのはこれが最後かもしれない・・・
と僕は思った。
ここからでは、王子達の無事は解らないが、自分達を逃がしてくれた事に感謝した。
正直言って、僕は拳銃を向けられた時にはもう能力の発動限界の倦怠感に襲われていた。
たとえ、僕が戦ったとしても、とても勝ち目は無かっただろう・・・
もし、ここに帰ってくることがあったら、兄達の助けになろうと心の中で誓っていた。

Reincarnation saga(リーンカーネーション・サーガ) [~魔法と輪廻と猫耳の物語~]

只今、第二章「少年期」編を製作中です。
更新は、とりあえず、「
小説家になろう」で掲載しています。
続きがきになる方はそちらをご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n7037bj/

Reincarnation saga(リーンカーネーション・サーガ) [~魔法と輪廻と猫耳の物語~]

通学中の不慮の電車事故で死んだ僕が目を覚ましたのは、剣と魔法と猫耳の異世界だった。 魔法至上主義の世界で魔法が使えない「無色」として生まれた僕には、魔法とは違う能力 「支配空間(Rule space)」が備わっていた。 異世界転生物語がここに始まる。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-08

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著作権法内での利用のみを許可します。

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