いじめ

下地一

  1. 一章「日常」
  2. 二章「傷」
  3. 三章「自分」
  4. 四章「怒り」

ある日を境に日常が崩れた「僕」はどう行動するのか-------。

一章「日常」

ピピピとアラームが僕の重い頭を揺り起こす。
また一日が始まる.....
支度をしていつも通り七時に家を出る。
学校に行く足取りが重い...今日はどんなことをされるのか。
想像するだけで気が重くなる。
靴を脱ぎ上履きに履き替えるために下駄箱に近づくが、下駄箱に違和感を感じる。
下駄箱を開けると、上履きが無くなっていた。
仕方ないので来客用のスリッパを借り教室に行く。道中みんなが僕と視線を合わせないがいつものことだ。
教室に着き席に座る。特にすることもないので宿題の確認をするが、時間が余ったので本を開く。
開いたその時、後頭部に衝撃を感じる。歪んだ視界の中にニヤニヤと笑う奴の顔が映る。
またか、そう思いながら頭を抱えどうにか歪んだ視界を戻そうとする。
その瞬間お尻にあったはずの椅子の感触が無くなる。
体を支えるものが無くなり、バランスを崩しその場に転ぶ。
そう、これが僕の日常。
ようやく感覚の戻ってきた頭で考える。平和的に揉め事を起こさずこの場を切り抜ける方法を。
そうこうしているうちにホームルームのベルが鳴る。
横に飛んでいった椅子を戻し席に着く。
ホームルームが終わり宿題を提出し一限目の準備をするためカバンの教科書を取り出す。
相も変わらず落書きだらけで字があまり見えない。仕方ないので教科書の写しを先生から受け取り授業を受ける。
そんなことを四時間繰り返しているうちに昼休みのベルが鳴る。
外に駆け出していく者、とりあえず教室から離れる者、様々いるが僕はそんな人を横目に図書室に向かう。
道中奴らにちょっかいを出されるが無反応で返すと、面白くなさそうにその場をあとにする。
図書室につくと面白そうな新刊や興味を持てる本を探し歩き回る。
何度か回っているうちに手元には二冊の小説があった。
その本を持って図書室の窓際、日の当たりやすい位置に座り一番上の本を開く。
次第に時間は経ちそろそろ教室に戻ろうと本を戻し図書室をあとにする。
それが日常の最後だとも知らずに。

二章「傷」

部屋を出たところで奴らがまるで待ってましたと言わんばかりに立ち塞がるが、無視して立ち去ろうとする。
その瞬間背中に衝撃と苦痛が走る。何事かと後ろに振り返ると奴が足を前に突き出してニヤニヤとしていた。
そこで初めて蹴られたのだと自覚する。だがここで何かしらの反応をしてしまうと面倒事になりそうだと思い直り
立ち去ろうとする。
その時、「何無視してんだよ!!!」と言う声が聞こえた。が、僕にはそれに返答する時間がなかった。
今度は地面を見ていた。
そこで初めて痛みに気づく。痛い。どこが。足が。背中が。腹が。腕が。頭が。痛い。
とてつもない激痛の中反応してはいけないと、平静を取り繕う。
だが、そんなことをしているうちに僕の視界は右に左に回ってゆく。
しんどくなってきた頃、視界の回転が止まる。
終わったのか...そう思いながら教室に戻ろうとするが、足に力が入らないのでとりあえず保健室にいく。
「どうしたの!?」と保健室の先生に心配されるが、階段で派手に転んだと嘘をつく。
何故正直に言わないのか、助けてと。いじめられていると。
そんなの分かりきっている。奴は表向きには善良な生徒なのだ。
もとが暗い僕の話を信じ奴に罰を与える教師はここには居ない。
いじめられているならば相談しろと言うポスターが目に入るがそんなのは綺麗事だ。分かりきっている。
ズキンと胸が痛む。蹴られた傷が思ったより大きかったのか。そう思いながら、治療が終わり保健室をあとにする。
教室に戻ると教師が駆け寄ってきて階段で転んだにしては大きな傷だから帰りなさいと言ってきた。
これ以上無理をしても得はないなと思い、分かりましたと帰る支度をする。
その最中何度が痛む足を蹴られたが無視して支度をすませ、学校をあとにする。
ただいま。誰も居ない室内にこだまする。どうも出来ないので自室で横になり親の帰りを待つ。
ガチャリ、玄関の扉が開く音がする。
「大丈夫?」と母が僕の部屋に入って来たその瞬間驚いた様子で母が駆け寄ってくる。
そして、どこかに電話をしたあと「病院に行こうか」と優しい声で僕に言葉を投げかける。
やめてくれ。以前いじめを話した時は担任の教師に言うだけで何もしなかったのに。
今更、優しい声を投げかけないでくれ。そう思いながらも身体は正直なので頷き病院に行く事を了承する。
病院に着くと夕方のためか人が少ない気がする。着いてすぐ待たなければ行けないかと思い椅子を探すがすぐに診察室に通される。
僕を見た医者は少し驚いた後落ち着いた声で「レントゲン写真を撮ろうか」と言い放つ。
レントゲンを撮った後はとてもスムーズだった。出てきた頃には片手片足にギブスというなんとも痛々しい格好になってしまった。
一週間は家で安静に、そして完治は二ヶ月と診断書を渡す際に一緒に言われる。分かりました、ありがとうございますと会釈をし病院を出る。
家に戻り宿題をし、横になる。
目を閉じ落ち着き眠りに着く。次の日が来ないようにと願いながら。

三章「自分」

ハッと目覚め時計を確認する。
八時だ、まずい。
急いで支度をしようとした時思い出す。そうだ、しばらく休めと言われたのだった。
急いでいた自分が馬鹿らしくなり再び横になる。とりあえず一週間は家で安静にしろと何故か医者に言われてしまった。
することもないので、座ったまま目を閉じ自分と向き合う姿勢を作る。
ピチョンと水滴の落ちる音がし、自分の顔が薄っすらと現れる。そして、問いかけてくる。これでいいのかと。
これでいいも何もこれ以外に穏便な過ごし方など無いと首を横に振る。
穏便な日常のためにいじめを受け入れると言うのかそういった三十分間の自問自答の末に残った答えは二つ。
復讐と忘却。今までの僕は忘却を選んで無視を続けた。その結果がこの有様だ。
ならば復讐でもするか。いや、それだと奴らと変わらない。
どうにかしていじめを表に露呈させる必要がある。だが、肝心の方法が浮かばない。
そんな事をしているうちに一週間。
休みの期間が終わりを迎えた。

四章「怒り」

ギブスは相も変わらず痛々しいが久々の登校だ。
結局答えは出なかった。
今までどおり終わるまで耐えるしか無い。仕方ない。
そう思いながら重い足取りで学校に向かう。
校門の前に着き入ろうとしたその時、視界の端に影が映る。奴だ。
奴は僕の肩に腕を回し、少し首を締めながら腹を小突きこう問いかける。
「親や先生にチクってねぇだろうな?」
そんな事するわけがないと否定し、そろそろ離してくれと手を払う。
奴はそれが気に入らなかったのか腹を少し殴って去っていく。
これでも気づかない教師はどれだけ無能なのだと呆れを覚えながら教室に向かう。
教室に着くと気まずそうなクラスメートの顔がチラホラと。なるほど現場を見ていた人が居たのか。
ひとまず慣れないギプスでの一日が終わり帰ろうとすると少し話があるから音楽の教室に来てくれと名もよく知らないクラスメートに言われる。
どのような話か気になったので音楽の教室に行く。
着いたものの誰も居ない。居ないものは仕方ないので壁に飾ってある人の顔の絵を見ながら待つ。
ガラガラと言う音と共に扉が開かれる。そこには奴が居た。
何の用かと問うと「念には念を入れて徹底的に告げ口出来ないようにしに来た」と言い放ってきた。
その時、ズキンと胸が痛み声が聞こえてきた。
「それでいいのか」「子供のいじめには親も教師も無力だ」「怒りは無いのか」「やり返せるチャンスだぞ」
そういった全く関係ないことだったり支離滅裂なことだったりが声になって僕の心に突き刺さる。
沸々と胸の底から何かが湧き出てくる。怖い。
これに飲まれると自分を保てなくなるのではないかと恐怖を感じていた。
その時、鈍い痛みが腹に刺さる。
それまで抑えていた何かが僕の心を、体を飲み込む感触がした。
気がついたら僕は奴の顔をギプスの付いた腕で力いっぱい殴っていた。
奴は「えっ?」と拍子の抜けた声を出し後ろによろめく。
ポタポタと奴の顔から何かが落ちる。その時「痛い!!!!!」と奴が喚いた。
だが、僕は何も感じなかった。僕は泣き叫ぶ奴に馬乗りになり何度もギプスの付いた腕を奴の顔に振り下ろす。
二度、三度と振り下ろしていくうちにギプスを付けていない方の手がうずいてくる。
次はギプスの付いていない方の手で奴の腹を何度も何度も殴る。
「ゥエッ」と嗚咽を漏らす奴を見ても何も感じなかった。
が、次第にやってしまったという後悔に苛まれ急いで家に帰ろうと音楽の教室を後にする。
家についた僕は明日からどうしようと包丁を持ち目を閉じる。
グサッ。嫌な音が聞こえ体温が無くなっていく。
そして意識も........

いじめ

いじめ

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted