TS主人公が三千世界にて破壊と百合ハーレムでエンジョイタ〜イム!THE 1st ワールド
初めての小説投稿ですので、温かく見守ってくれると嬉しいです。この小説は、FC2様でも投稿しております。
プロローグ
今の若者は叶う訳が無いと分かってても、諦めきれずにその願望をいつしか実現したいと思っている筈。
それは……
“2次元に行って、チート貰ってハーレムを築きたい”
何故その思想が現代で流行り出したのか?
理由は数え切れない程あるが、大体の要因は以下の通り:
・毎日が詰まらない。
・決められた人生に納得がいかない。
・心と精神が疲れた。
・人生に飽きた。
・刺激が欲しい。
・現実での社会の人間関係が複雑。
・何時まで経っても恋人が出来ない。
・自分の好きなキャラの死亡フラグを回避させたい。
要約すると2次元は3次元の人にとっての理想郷である。
でも例外な人達も居る。
・2次元に行きたくない。
・行っても向上心が無く、原作主人公の足を引っ張る。
・早く3次元に戻って、普通の生活をしたい。
3次元の2019年の日本で暮らしている26歳の青年――邪堂院 天斗(じゃどういん てんと)はアニメ、漫画、ゲームの女キャラが大好きでたまらない。
ストーリーで女性キャラ(敵、味方、モブ関係なく)が死ぬと、悲しみに暮れ、夜も寝れなくなる。
そして1週間が経てば、精神も治り、夜も寝れる様になった。
もし異世界に行けたらどんなに良い事か!
その願いが叶えれば彼女達を救って、嫁にしたい!
彼は週末、いつものように神社に出向く。それは、アニメの女性たちが“幸せになるように”と祈るためだ。
彼は財布から500円玉を賽銭箱に入れると、しっかりと合唱しながら十分もの間自分の願いを頼んでいた。
“現実の世界に飽きたので、どうか2次元の世界に行かせてください”
と目を閉じ、心の中で3回唱えてから帰路に着く。
何故天斗が現実に飽きてると云うと、理由が二つある。
・彼女が居ない。
・周りに恵まれていない。
※ ※ ※
その願いを繰り返してどのくらい経っただろうか?1年?いや2年半位もう過ぎたと思うその頃、今日も天斗が神社から帰って昼御飯を食べ終えてアニメを見ようとしたところ、玄関のチャイムが鳴り出した。
「全く誰だ、折角良いところなのに!」
と愚痴りながらドアを開けると、訪問販売員のような黒いスーツ姿の若い女性がポリ袋に入った枕を抱えて立っていた。
天斗は違和感を感じつつ
「あのすいません、何の御用件でしょうか?」
と問い掛ける。
するとその女性は待ってましたとばかりの様に営業スマイルを浮かべ、
「お忙しいところすみません。この世界に飽きていませんか?この“永眠枕”という枕を使えば夢が叶うかもしれませんよ」
と天斗に枕を見せ、そして勧める。
天斗は驚きを隠せず、
「何故あんたは俺が2次元に行きたいって分かるんだ?後この枕で寝れば本当に行けれるんだろうな!それとも只の詐欺師か何かか?」
と思わず訊いてしまう。
相手が美人だからか、天斗は携帯が入ってる方のポケットに手を突っ込みながらも警察に通報するか否か戸惑ってしまう。
そう、彼の欠点は女性に対して態度が甘くなってしまうことである。
女性はそういう彼を見ると首を振りながら、
「警察に通報したら、2次元に一生転生出来なくなりますよ。それに私は二次元の管理者なので、詐欺師なんかと比べないで欲しいです。この枕の事ですけど、私独自の作品です。既に9999人をもこの永眠枕で2次元に送ってますからね。貴方で1万人目、そういう貴方にはもれなく特典が待っております。さぁ、その箱に入ってる紙を取ってください、引いた番号があなたの願いを叶えられる回数です」
そう言いながら二次元の女性管理者が天斗の目の前に紙がいっぱい入ってる四角い箱を差し出す。
天斗はその箱に右手を入れ、数秒後に1枚の紙を取り出して開いた。
書かれた番号は“666”
「これって悪魔の数字じゃねぇか!でも俺にはそんなに沢山叶えたいもん無いんだよな!」
天斗は顎に手を添えながら呟く。
「ならばとっといておけばいいんじゃないですか?貴方の仲間達にも使える訳ですから。それじゃ欲しい特典を早速言ってください」
二次元の女性管理者が急かす。
「一つ目は超再生、二つ目は超回復、三つ目は黒炎、四つ目は黒雷、五つ目はコピー能力、六つ目は空間跳躍、七つ目は触れた対象を女体化する能力、八つ目は創造眼、九つ目は不老不死、十個目は仙豆を一万粒、十一個目は王の財宝、十二個目は奪取、十三個目はイチャイチャ百合契約書、十四個目は重りを軽いのから重いのまで沢山、十五個目は無効、最後は絶対忠誓書」
残り650回
「コピー能力と奪取能力は10回までに制限して、貴方の憑依先はハイスクールD×Dの堕天使レイナーレで、最初の世界はランダムです。堕天使の進化方法の説明書は机の上に置いときました。無効の効果は感染無効と憑依無効二つだけです。全て無効にしたら、面白くありませんので。16歳まで願い二回と重りと王の財宝と超再生、無効そしてイチャイチャ百合契約書と絶対忠誓書以外の能力は封印させていただきます。もちろん堕天使の力も封印させていただきます。では今日の夜にこの永眠枕で寝てください。それでは新たな人生の旅を」
そう言い終わり、天斗に枕を渡してから去って行った。
「まぁ、1回だけ信じてみよう」
※ ※ ※
夜11時半
既に説明書を暗記し、疲れ果てた天斗はベッドに置いてある永眠枕に頭を乗せて眠りについた、“3次元よ、もう一生戻ることはない”という心の想いを残して。
後日
『ニュースをお伝えします。二日前の謎の死亡事件に続き、今日の午前8時に東京都荒川区の住宅街で新たな20代男性の遺体が発見されました。警察によると死因は不明だそうです。……』
1.1 新しい家族
〜1993 年 4月 日本 東京都 新宿区〜
何も無い処から突如空間が現れ、その中から布に包まれた赤ん坊が天野一家の自宅の前に送り出された。
「オギャー、オギャー、オギャー(ここは何処の世界なんだ?っていうか喋れない!体も小さくなってる!誰か〜)」
数分後、
「あら!どうしてこんな処に赤子が放置されてるのかしら?可哀想に」
そう言うと茶色の長髪に眼鏡を掛け、首に一人の若い女性が赤ん坊を抱き上げて、“天野”と貼ってある表札の家に入って行く。
鍵をバッグの中から取り出し、
「雪君、多紀ちゃんただいま」
とその直後にバタバタと男の子と女の子が2階から降りて、それぞれ女性に駆け寄り、
「「おかえり、ママ」」
とそれぞれ女性の脚に抱き付く。
「二人とも良い子にしてた?」
「「もちろん良い子にしてた(よ)」」
と雪輝、多紀二人が顔を上げて答える。
「オギャー、オギャー、オギャー(三人で喋ってないで、俺の事も気づいてくれよ!俺は空気なのか?)」
雪輝が女性に抱えられて泣いてるレイナーレに気づくと、
「この子は誰?」
多紀も知りたさそうに頷く。
すると女性はため息を吐き、
「この子はね、玄関の外の前に捨てられててね、捨てた親は何を考えているのかしらね。そうだ!今日は雪輝ちゃんの誕生日よね!これで多紀ちゃんと同じ7歳ね。パパ
夜早く帰って来るから、誕生日ケーキを買って貰おうか。雪君は何がいい?」
「え〜とね、僕は苺チーズケーキが良い!」
雪輝が両手を広げ、元気いっぱいに答える。
「え〜、私はチョコレートケーキの方が良いのに〜」
多紀が口を尖らせて捻る。
「多紀ちゃんは御姉ちゃんなんだから、我慢しなさい。後今日は貴方の誕生日じゃなく、雪君の方だからね」
女性が多紀に注意する。
「ハ〜イ」
「それじゃ、パパに電話してくるから」
三人が話をしてる間に、ソファに置かれたレイナーレはと云うと、
(天野雪輝!“未来日記”の世界にでも来たのか?だとするとヤンデレストーカーキャラ我妻由乃も現れるんだよな!天野多紀?そんな登場人物居たかな?登場人物が普通の世界でごく普通に生きてるっていう可能性も有り得るし。考えても仕方ない、これから先の道は一歩ずつ進むしか無いって事か。沢山考え事をしてたら眠くなってきた)
そう思いながら眠りに落ちた。
女性が電話を掛け終えて戻って来て、目を瞑りすぅ〜すぅ〜と穏やかな息を立て寝ているレイナーレを見て、
「あらあら、ミルクも飲まないで寝ちゃったわね。疲れちゃったのかしら。貴方達、早く手を洗って来なさい、もう少しでパパが帰ってくるから」
「「はーい」」
しばらくすると“ガチャ”と玄関からドアが開き、外からサラリーマン姿の笑顔を浮かべた優しそうな若い男性が家に入ってくる。
「お〜い、礼亜、雪君、多紀ちゃん、父さんケーキを買ってきたよ〜」
「「パパ〜、お帰り(なさい)」」
「あらお帰り九郎、それじゃ、みんなで雪君のお祝いを始めましょうか」
パンパン
「「「「いただきまーす」」」」
※ ※ ※
パーティーを楽しんだ後、天野一家4人でレイナーレの処遇について話し合った結果、彼女はその家族の一員に加わる事になった。
何故レイナーレが新しい家族に迎えられたかと云うと、孤児院に預けるのも可哀想である事と天野夫婦が子供好きである事、何より雪輝と多紀の二人の子供が前から妹が欲しかったから。
4人で一緒に音を立てずに、レイナーレの寝ている部屋に入るなり、観察したり、頬を指で突っついたり、頭を撫でたりしながら楽しい夜を過ごした。
因みに名付けられた名前は“天野夕麻”であった。
1.2 夕麻の誕生日会
1997年 4月9日 日本 新宿
あれから4年が経ち、天野夕麻は4歳になり、天野雪輝と天野多紀はそれぞれ11歳になった。
4歳児は普通反抗期になるのだが、精神年齢が大人の夕麻にはそれが全くない。
夕麻は去年、天野夫婦と共に新宿の付近にある3年保育の幼稚園に連れていかれ、そこで教育をうけることになる。そして今年で2年目になる。
夕麻は今朝、保育園に通う前、部屋の鏡の前で自分の容姿を見つめる。
黒く首の両側までまっすぐ伸びてる髪、少しつりあがってて、アメジストの色をした目、身長はちょうど1m。
(おっ、なかなかの美幼女じゃないか!やっぱりかわいいは正義だ!それにしても、30歳が4歳のふりして周りの幼稚園児とコミュニケーションを取らなきゃいけないのはきつすぎる。早く卒業したい!)
そう、日本の制度は“集団行動”である。集団行動できない人は社会では淘汰される。この世界の日本でも変わらない。だから、夕麻の精神年齢がいくら高くても他の幼稚園児と団体にならなければならない。
夕麻ははっとして幼稚園の服装に着替え、靴をはいて家の前に止まっている黄色のバスのところまで行くと、
「おはようございます」
と女性の先生に頭を下げ、挨拶する。
「はい夕麻ちゃんもおはよう」
とその先生も微笑みながら、夕麻に挨拶をする。
「それじゃお母さん、行ってきます」
「いってらっしゃい、気をつけてね」
バスのドアが閉まり、幼稚園にむかっっていたのであった。
※ ※ ※
その夜、5人で夕麻の誕生日会を祝ってる時、天野夫婦が夕麻の誕生日に何が欲しいと訊いたところ、
「多紀と一緒に日本少林寺拳法を習いたい」
との事。
そして、
「こら、いつも言ってるでしょう、多紀をお姉ちゃんと呼びなさいって!」
と礼亜が指摘する。
「わかったよ、かあさん。(体は子供だけど、精神年齢はもう30歳なんだよね。自分より年下の子供に“御姉ちゃん”って呼ぶのもね)」
これを隣で聴いていた九郎はというと、
「まぁまぁいいじゃないか。夕麻ちゃんまだ子供なんだし、ね?」
とフォローを入れる。
夕麻の隣に座っている多紀は前者に抱き付き、頭を撫でながら
「その方がお互い仲深めるんだよね。夕麻ちゃんいい子いい子」
と純粋に笑う。
(いい歳した童貞のおっさんが子供に“いい子いい子”ってされるのは恥ずかしいよな。でも役得だぜ。多紀は絶対に美人の素質があるしな。だから俺はお前を手放したくない)
そう思いながら、夕麻も抱き返しながら、相手の体に頭を埋める。
「二人とも仲が宜しくて結構だ」
九郎がうむうむと頷く。
(そういえば天野九郎の中の人の声好きなんだよね、そうだ!)
夕麻が思い付いた様に
「父さん、ネタやって欲しいんだけど」
と九郎に頼む。
「どんなネタなんだい?」
「じゃあ一つ目はドヤ顔で“フハハハハ!我が世の春が来たぁぁぁぁ!!”って言って」
「良し行くぞ“ フハハハハ!我が世の春が来たぁぁぁぁ!!” 」
パチパチパチパチパチ
「「凄い、凄い!」」
「本当に悪役みたいな顔になってる!」
多紀も夕麻と一緒に拍手する。
「二つ目はこれで」
「オッケー“死を意識するから、生を実感できる”」
「次は三つ目、はい」
「“完全平和のために必要なものが、もう一つあった……!人を思いやり、理解してやる強い心だ”」
「私に交代させてくれない、夕麻?お願い」
と透かさず多紀が夕麻に両手を合わせてお願いする。
「俺の好きな多紀の為ならどんなお願いをされても応えるよ」
と夕麻が譲る。
「夕麻だ〜いすき!チュッ」
と他の3人が気付かない内に夕麻のほっぺにキスするが、後者はわざと頭を回して口の方を向ける。
前者は目を大きく開ける。
そして口同士が合わさるハプニングが起きた。
それだけでなく、夕麻は大胆的にも相手の口の中に自分の舌を入れ、舌同士で交じり合う。
数秒後何事も無かったかの様に続きを始める。
「“不可能を可能にする男かな、俺は”」
「“意味もなく戦いたがる奴なんざ、そうはいない。戦わなきゃ守れねえからたたかうんだ!”」
「母さん、父さん達一体何の話をしてるの?」
雪輝だけが追い付けず、礼亜に尋ねる。
「お母さんも最初は分からなかったけどね、この前リビングでパパの声が聞こえたと思ったら、多紀ちゃんと夕麻ちゃんがDVDプレーヤーで観てたアニメだったんだよね。そうそう、名前は確か、ガンダムだった様な気がするのよね。如何、雪君もそのガンダムのアニメに興味があるのかな〜?」
と礼亜が興味津々に雪輝に問う。
雪輝は考えてから、
「僕はアニメに興味はあるんだけど、でも」
と夕麻と多紀を交互に見ながら、顔を赤くしながら言う。
「あらあらシャイなんだから雪君は。そんなんじゃ彼女出来なくなっちゃうわよ〜」
と礼亜がからかう。
「そんなのお母さんには関係ないじゃないか!ほっといてよ!」
といきなり怒り出しながら、席から立ち上がり自分の部屋に入って行く。
直後、“パンッ”っと音が4人の居るリビングまでに響く。
シーーーーーーーーーーーン
「本当あいつのこういうところ嫌い。何で異性の事になるとヘタレるのかな?」
と多紀がイライラしながら呟く。
「まぁまぁ、大きくなればその内変わるでしょ」
と九郎。
「御免なさいね、夕麻ちゃん。折角の誕生日会が台無しになちゃって」
礼亜が夕麻に謝る。
夕麻は首を横に振りながら、大丈夫という意思を伝える。
「じゃあ、今日はこれで解散解散」
と九郎が手パンパンと叩く。
そして礼亜は食器を洗いに行き、他は各自の部屋に戻る。
因みに多紀と夕麻は一つの部屋を共用している。
1.3 入学式1週間前の日常
更に2年という月日が流れ、西暦1999年。
雪輝と多紀は13歳になった。
(もう一度西暦1999年を過ごさなきゃいけないのか!他の小説では男が女の体に憑依、或いは転生し、成長するにつれて精神が体に引っ張られるとあるが、俺にはその現象が感じられないし。寧ろ百合思考がだんだん強くなっていく一方なんだよな。でもその方が良い。もし精神を引っ張られたりでもして、男を好きになってしまうと死にたい気分になる)
この世界に転生して、危惧してた事は起きなかった。
何故なら男性を見ても惚れないし、逆に女性には惚れてしまう、特に多紀を毎回見る度に心臓がドキドキしてしまう。
※ ※ ※
現在多紀と夕麻はそれぞれ重りを付け、他の生徒達と共に日本少林寺拳法を2年も習い続けている。
多紀は両手に合計300g、両脚に400gの重りを付けていて、夕麻は両手に合計100g、両脚に200gを装備中。
風呂とシャワー以外は取り外し禁止。
そして今の重さに慣れたら、それを新しい重りに替えて、またその繰り返し。
「今日のメニューは先ずランニング15週、そして蛙跳び5週、そして二人一組で逆立ち次に組手だ、開始!」
担当の指導先生が言い終わった後に、首に掛けてあった笛を“ピーッ”と吹く。
それを合図に4歳から15歳までの生徒達が4列に並んで走り出す。
“いち、にー、いち、にー……”
40人位の子供が一斉に掛け声を掛ける。
夕麻が天斗だった頃は毎日公園でランニングを7週続けている。
最初はランニングするという概念が頭には無かった。
家で食べて寝ての繰り返しで体重が増え、体じゅうが脂肪だらけ。
仕方なく1年間走り続ける事で体重が元に戻った。
それから太るのが怖くなったのか毎日ランニングを欠かせない様になった。
そしてその習慣は今世にも受け継がれている。
6時間後、メニューが全部終わり、それぞれの保護者達が迎えに来る。
礼亜も夕麻と多紀の前に来て、
「多紀ちゃんと夕麻ちゃん今日もがんばったね〜、お疲れ〜」
と二人の頭を撫でる。
続いて礼亜は自分の左手首に付けてある腕時計を見て、
「まだ午後の2時半だし、三人で新宿のデパートに行こうか、お米や野菜、お肉も足りなくなっちゃってきたし。新しい服とかも買わないといけないしね。それに来週の今日は雪君と多紀ちゃんは中学生になって、夕麻ちゃんはピカピカの小学生になっちゃうのか。お母さん一人じゃ両方の入学式に行きたいんだけどね〜。お父さんにも頼むしかないか」
と最後には考え込む様に言う。
「お母さん、私と雪輝はどの中学校に入るの?」
多紀が礼亜に問う。
「そうだね、市立桜見という名前の中学なのよね〜」
と礼亜が答える。
(2回目の幼稚園生が終わったら、次は2回目の小学生か!前世の小学校の時は結構やんちゃしてたな。最初は苛めに会ったけど、やり返したらピタッと止まちゃったし。3年生になってからやっとクラスのみんなと分かり合える様になった。最後6年生の卒業式の時はもう会えないと考えると、何かもう心の中のピースが欠けたような感覚に陥った感じ。転生した今でもその感情は忘れられない)
と夕麻は多紀の手を繋ぎ、空を見上げながら過去の思い出を振り返る。
ぼーっとしてる夕麻を見ながら、
「どうしたの、何か悩みを抱えてるんなら私に言って。相談に乗るからね」
と多紀が心配そうに覗き込む。
(他の小説だと主人公が次に放つ言葉は“ううん大丈夫、何でもない”って言うんだよな。こういうの読んでるとイライラするわ!なら俺は違う、心で思ってる事をきちんと伝えなければ!)
「多紀、今彼氏居るの?」
夕麻が勇気を振り絞って多紀に訊く。
同時に手に汗を握る。
「いや居ないけど、そもそも私は男に興味無い」
多紀が嫌な顔をしながら答える。
夕麻はふぅと息をしながら落ち着く。
「はいはいお話はここまでねぇ。家に帰ってから続きをしましょうねぇ。ああ、言い忘れていたけど、夕麻は6歳だから月見輪小学校で1年生ね」
礼亜が宥める。
10分後やっとデパートに到着した。
3人で服買ったり、スーパーで食材や米を買ったりした。
そして3人の手には沢山荷物が握られていた。
出て来た時はもう4時を過ぎていた。
荷物が重すぎて夕食の支度には間に合わないから、タクシーを呼んで3人を家まで送って貰った。
タクシーの後方の席で夕麻は疲れたのか既に多紀の膝の上に頭を乗せ、寝息を立てていた。
「多紀ちゃんも今日はつかれたでしょ!夜は夕麻ちゃんと一緒に風呂に入りなさい、気持ちいいから」
「いいアイディア!私もちょうど夕麻と入りたかったんだ!」
そしてその夜、5人が食事を終え、風呂の時間になった。
夕麻と多紀はさっそく服を全部脱ぎ、風呂に入ったのであった。
1.4 浴室でのシチュエーション
電球のオレンジ色の灯りが浴室全体を照らしている。
そして浴室全体が風呂から出ている湯気に包まれている。
その風呂の中には1人の幼女と1人の少女がお湯に浸っている。
「ああ、気持ちいい!疲れが取れる〜」
そう言いながら、多紀は体と両手を上に伸ばす。
夕麻は思わず多紀に釘付けになる。
体の中に渦巻く炎が夕麻を駆り立てる。
次に夕麻は咽喉を“ゴクッ”と鳴らす。
サラサラとした真っ直ぐな黒い髪。
一つはずっと見てるとブラックホールの様に吸い込まれそうな左の黒い瞳。
もう一つは心がとても爽やかになる右のサファイア色の瞳。
モデルみたいな体系。
白いけどツルツルで健康的な美肌。
ふっくらとした太もも。
同年齢より発育している胸。
最後はプルンプルンとした唇。
脳裏に浮かぶ単語は“妖艶”。
全体的にいうと精神年齢と合わせて魔法使いになった夕麻にとってはとても魅力的な女性である。
何を思ったのか夕麻が突然目を瞑り多紀に頭を近づかせ、唇を重ねようとするが、後者が右の人指しを縦にして前者の唇を受け止める。
指にキスしたと気づいた夕麻は目を開け、溜め息を吐いて多紀に尋ねる。
「俺も実は多紀と同じで男に興味ないんだ。でも女性には興味はある。多紀は俺に対して興味あるのか?俺は多紀が恋しくて堪らない、ずっと一緒に居たい!言ってる意味分かってるよね?」
「うん分かるよ!だって私も夕麻と過ごしていく内に貴女に惹かれちゃったから。だからこそデパートに向かう途中に“私は男に興味ない”って言ったんだ!私も夕麻がどっかに行ってしまったら、精神崩壊しちゃう」
と多紀。
「じゃあ何故キスは駄目なんだ?」
夕麻が不服そうに問い出す。
「最初の時は夕麻の悪戯で反応出来なくてやられて、恥ずかしい思いをしたんだよ。今もまだキスする準備は出来てないんだ、御免ね。でも抱きついてきたり、膝枕とかは良いからね」
と夕麻に謝る。
「俺も無理に多紀に迫って御免。これからは気をつけるよ、俺の大事な多紀」
と夕麻も多紀に謝罪する。
それから15分が経ち、二人は風呂から出てシャワーの準備に取り掛かる。
「キスさせなかった代わりに私の頭から脚まで洗って」
と多紀が頬を赤らめながら夕麻に頼む。
「分かった、多紀を誰よりも綺麗にしてやるぞ!」
夕麻がやる気を出す。
「有難う、期待してる」
多紀が笑顔で微笑む。
夕麻がその笑顔に魂を奪われそうになる。
(本当、この家族に拾われてて良かった。前世では体験出来なかった事が今世では沢山体験出来て超役得だ!)
容器から出たリンスの液体を両手につけて、続いて多紀の髪の毛をゆっくりと丁寧に洗っていく。
夕麻は時々多紀の長い髪の毛を自分の鼻の前に持ってきては飽きること無く嗅ぐ。
背中にシャンプーをつける時は擽ったり、後ろから抱きついたりして多紀成分を堪能する。
多紀の笑い声が浴室中に響く。
夕麻は自分で洗い始めた時には多紀は既に浴室の外に出て、服を着始めていた。
(あーあ、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうんだよね。俺もとっととシャワー終わらせないと!次の人が待ってるんだし)
自分も全身を洗った後夕麻は新しい服へと着替えた。
1.5 2年前の回想、そして起こり得る未来
1999年4月7日 入学式2日前 日本 新宿 昼
「中学の入学式前にこの<ドラッグオンドラグーン>の続きをプレイして、全エンドをクリアしなくちゃ!残りはEエンドだけ」
多紀がテレビに繋いでいるPlayStation2に<DRAG-ON DRAGOON>というソフトを読みこませ、スタートボタンを押して起動させる。テレビの画面が明るくなり、オープニングが始まる。夕麻も隣に座って観賞する。
本来はPlayStation2は1年後の2000年に、<ドラッグオンドラグーン>は4年後の2003年に発売予定だけど、でも今はまだ99年。
誕生してないものを何故多紀が持っているかというと、夕麻が王の財宝の中から取り出したからである。この二つの他にも<ナルト>、<ナルト疾風伝>、ナルトの劇場版ストーリー全般、<ドラゴンボール超>、仮面ライダー平成1作目から19作目の本作と劇場版などのDVDが王の財宝の中に入っていた。
夕麻は最初に王の財宝を展開したのは4歳の誕生日の2週間前である1997年3月の下旬。当時、夕麻は何もやることがなく退屈していたところ、王の財宝の中身をあさっていた。中には架空武器や色々なライダーベルト、ゲーム機、遊戯王カード、アニメやゲームの登場人物の衣装などが見つかった。
調べている内に一通の白い封筒とPlayStation2が地面より高さ95cmの空間の中から同時に夕麻の座っているベッドに落ちた。夕麻は封筒の方を拾い上げ、開封すると二次元の管理者からの手紙だった。
手紙の内容を要約すると、1つ目は王の財宝の中のものは全部夕麻への贈り物、どう使うかは夕麻の自由。
2つ目はこの世界は日常系アニメ<未来日記>、<School Days>、<クラナド>と夕麻の前世の世界が入り混じっているということ、他にはさらに4つの世界とは関係のない女性キャラ達が存在していること。
3つ目は<未来日記>では、あくまで登場人物が存在するだけで、12個の日記はこれからも存在しないから、安心していいということ。
4つ目は、この世界で近い未来に災難級の事件が起きること。
夕麻はそれらの内容を読み終えると、深刻な顔つきになった。特に最後の“災難級の事件”について頭から離れられない。
「1匹のへタレ雪輝と1匹のクズ主人公と1匹の不良が集まった混合世界か!それにしても、災難級というのは、人類がゾンビに襲わられることなのか?それとも地球が宇宙人に侵略されるとでもいうのか?4つのどれのストーリーの中にもそんなイベントは無かったはず。うーむ」
夕麻がぼーっと考えている内に、多紀が入ってきたことにも気づかなかった。
そうしている内に多紀はしゃがんで夕麻の背後に忍び寄り、“わ〜っ”と驚かすと、後者は跳ね起きて後ろを見ると、
「なんだ、多紀だったのか、驚かすなよ」
と手紙がベッドにひらひらと着地したにも関わらず、いつもの様に多紀の体に抱きつき、そのままのかっこうでベッドに倒れた。仰向けに倒れている多紀がベッドに置かれてあるPlayStation2が目に入ると、
「この重たい箱はなに?」
と夕麻に質問をぶつける。
夕麻は何も考えず、何も包み隠さず、ダイレクトに
「これはPlayStation2っていうんだよ。」
と回答する。
「PlayStation2?PlayStationなら知ってるけど」
と多紀。
「PlayStation2もPlayStationと同じゲーム機なんだよ、後3年も待てば発売される。」
と夕麻が、前世の記憶を堀り返す。
「じゃなんで夕麻はそのPlayStation2を持っているの?」
「転生したからなんだよ。そして神様みたいなのから特典をもらって。多紀は分からないか」
「分かるよ、最近流行ってる小説だよね。沢山の人がそういうのを書いてるよ。私の友達もみんな読んでる」
と多紀がそのまま情報を伝える。
「転生小説は2007年から流行出したはず。ということは2007年以降の人達がこの世界に転生か或いは憑依してるということになる。俺を入れて1万人かそれ以上の人数が転生してるんだ。この世界に転生者が無数にいても不思議ではない」
と夕麻が分析する。そして冒頭に戻る。
※ ※ ※
『本当に、本当にありがとうございました!』
それを聞いて、やっと全エンドを制覇した多紀といえば
「一番ひどかったのはラストのエンディングなんだよね。ドラゴンが飛行機に撃ち殺され、ゾンビみたいなウィルスが新宿に広がって、最後は全人類が終わっちゃうっていう展開。でもゲームの中だけだから、現実には起こらないよね、大丈夫だよね!」
と力が抜けていく。
夕麻は、
「でも起こらないとは限らない」
と2年前のあの手紙を見ながら返事をする。
(本当に、Eエンディングがこの世界でいう“災難級の事件”ということになるのだとしたら……)
夕麻は5歳にしては似合わない、険しい顔で真っ黒になったテレビ画面を見つめ続けていた。
1.6 入学式の日(夕麻編)
1999年4月9日 日本 新宿 朝
今日はちょうど日本全国の小学校と中学校の入学式の日。
そして入学生を歓迎するかのように、桜の木が手を振るように揺れる。風もまた彼らを祝福するかのように“ヒュ〜ヒュ〜”と歌うように音を出しながら通りすぎていく。太陽がまるで全人類の母のように行き来する人達を暖めてくれる。
夕麻も今日でちょうど6歳。雪輝と多紀はもう13歳。
礼亜と夕麻は月見輪小学校の方の入学式へ、九郎と雪輝、多紀は市立桜見中学校の入学式に向けて出発する。
強い風が吹き、夕麻の制服の黒いスカートがめくれる。
(スカートって本当に慣れないな。スースーするし、何も履いてないって感じだしな。今度からはインナーパンツを頼むしかないか)
そう思いながら、夕麻は両手でスカートの後ろをおさえる。
それを見た礼亜は夕麻の心を読んだかのように
「あら、夕麻ちゃんはまだスカートには慣れないのかな〜?」
と茶々を入れる。
それに対して夕麻は
「お母さ〜ん、これから一生スカートになんか慣れることはないって」
と甘えるように受け答えをする。
二人で歩きながら談笑しているうちに、とうとう月見輪小学校の校門を通って校舎の中まで入ってきた。
「あら、今日は人いっぱいだね〜」
と礼亜が素直に感想を述べる。
礼亜が言う通り、今日は親と子供がぞろぞろとたくさん外から学校に入ってくる。学校の校舎の中の様子は朝の満員電車のようでもある。
それを夕麻は、
「見ろ、人がゴミのようだ!」
と心の中で思ってるとある名台詞を意識せず口走ってしまう。
「何この子!」
「常識っていう言葉も知らないのか!」
「親からの教育はどうなっているのかしら?」
と周りからひそひそ話が聞こえてくる。
礼亜は手で夕麻の頭を下に押しながら、自分も一緒に謝罪する。
(やっちまったな!)
と夕麻が顔を赤くする。
受付後、礼亜と夕麻を含む親子達が壁に貼ってある紙の通りに自分の教室に入っていく。夕麻と礼亜は2階にある“1-3”と書かれた教室に足を踏みいれる。ちなみに全学年は各6組で振り分けられている。。教室の中ではとうに40人もの児童が座っていた。男子が25人、女子が15人。しばらくすると、白い制服を着用し、白い髪の後ろに黒いリボンを結んだ、外見がドラッグオンドラグーン3のゼロと全く同じ容姿をした女性が教室に入り、教壇の上に立つ。彼女が原作のゼロと違うところは、右の目が存在してることと、左の腕が義手じゃないことである。
「これより入学式を始めるので、1-3組は体育館に移動します」
※ ※ ※
入学式が終わり、1-3組を含めた各組と、その保護者達が撮影を終了し、教室に戻っていく。
担任の先生の名前は零 薄紅(りん うすべに)、17歳、中国から来た女性である。日本語は日本人と同等。
連絡事項が全て終わり、
「それでは、これで終わります。また明日、元気にみんなが学校に来るのを待っています。全員立ちましょう」
「さようなら」X42
零 薄紅が教壇から降りて、教室を後にする。
「じゃあ、夕麻ちゃん帰ろうか」
と礼亜が夕麻の手を繋ぎ、職員室の反対側の階段へ向かう。
(記憶を失ったゼロなのか、転生者なのか、それともこの世界の人間なのか?どっちにしろ、この先生は只者ではないと直感がそう訴えている!)
夕麻が振り向きながら、零 薄紅の後ろ姿を見つめる。
それを感じとったのか、零 薄紅も夕麻の方を見て微笑む。
「先生があんまりにも美しいので、うっとり見惚れてしまいました!」
1.7 入学式の日(雪輝、多紀編)
九郎が雪輝と多紀を連れて、市立桜見中学校の校舎の中まで来ていた。
中では夕麻の小学校と同じように人が溢れかえっている。
受付の所でも親がたくさん並んでいる。
(礼亜と夕麻ちゃんはもう小学校に着いたのかな?)
考えてるうちに、九郎は自分の腕時計を見ると、
「おおっといけない!僕は受付に行くから、二人は自分のクラスに行っててくれないか?」
二人が頷きクラス表を見ると、雪輝は1-5に、多紀は小学校の夕麻と同じ1-3に向かう。雪輝がクラスの中に入ると、一人のピンク色の髪、ピンク色の瞳の少女が彼の胸にダイブする。
「ユッキー、会いたかったよ〜」
「由乃離してよ〜」
と雪輝は自分に抱きついてる由乃を引き剥がそうとする。
彼女の名前は我妻由乃。小学3年生の頃に雪輝がいる学校に転校してきた。この世界では、どういう理由で雪輝を好きになったのかは分からないが、兎に角彼に一途。
続いて、
「よぉ、雪輝!相変わらず我妻に好かれてるな」
と伊藤誠が西園寺世界と一緒に雪輝の座席のところまでやってくる。
「雪輝はこういう優柔不断な性格直した方がいいんじゃない?」
と西園寺世界が注意する。
そう、この二人も雪輝と小1からの腐れ縁。家が近くで、行き帰りも同じ方向で、会っていくうちに知り合った。友達になった後、誠は1週間五回くらい雪輝の家に遊びにいくようになった。果たして、誠の真の目的は雪輝の姉と義妹が可愛いからだとかなんとか。真相は闇の中。
まだ誠が小学生であったある日、彼が天野家でハイテンションに為りすぎて多紀に痴漢をしようとしたところ、ちょうど通りかかった夕麻に発見されて、義姉妹二人にコテンパンにされた。それからというもの、誠は天野家には訪れなくなった。それ以来多紀は誠のせいで自分の
父親以外、男性恐怖症になったのである。
「お前ら、俺の事を忘れてる訳じゃないだろうな!」
と前の二人よりイケメンの男がこの団体に加わる。
「「朋也(君)!」」
岡崎朋也、雪輝と誠の親友である。
雪輝が小学1年の頃に、学校の昼休みに3人の高学年に苛められていた。理由は彼らは雪輝の性格が気に入らなかったから。柔らかいソフトボールで雪輝の顔面や腹に向けて投げ続けた。近くにいた岡崎朋也は最初なにかの遊びだと思っていたが、雪輝の「もうやめてよ〜」という悲痛な叫びを聞いて、苛めだと分かりきや、1対3で相手を圧倒的に負かした。そして二人は友達になった。雪輝が誠に朋也を紹介して、今に至る。
※ ※ ※
雪輝が自分の教室に入ったと同時に、多紀も自分のクラスに入っていく。
「おい、多紀!こっちだ」
と左側から声がかかる。
多紀がそっちに向けば
「美歌もこの学校に来たんだ!しかも同じクラスか、今年1年間よろしくね」
「ああ、私の方こそよろしくたのむ」
具志頭 美歌(ぐしかみ みか)、絶世な美女、アルビノ、髪型はお団子、灰色の瞳、透き通るような白い肌、男勝りな性格で、天野義姉妹と一緒のところで日本少林寺拳法を習ってる生徒の一人である。その二人と顔を合わせていくうちに友達になり、多紀と夕麻の誕生日にも行くようになった。
「そういえば、今日は夕麻の小学校の入学式か。もっと6年遅く生まれてくれば、夕麻と一緒に小学校にいけたのだがな。そうだ、夕麻が此間、携帯で私に愚痴ってたぞ。多紀がキスさせてくれないってな!多紀、お前は本当は夕麻のことをどう思ってるのだ?」
「夕麻のことは、最初は本当の妹のように思ってたけど、初キスを奪われて、体の中をビリっと電流が流れた感じになった以来、なにか夕麻に対する心のモヤモヤが消えないの。夕麻には“恥ずかしい思いをした”って嘘を言ったけど、本当は唇同士が触れた瞬間、体中にビリッときて、下から水が漏れて、その快感に依存しちゃうことが怖いんだよ。でも私の夕麻を他の誰かに寝取られるのはもっと怖い」
「この依存症は絶対に悪いことではない。なら何故男女同士、夜の営みをする必要があるのだ?適度にやればいいじゃないか。何故なら私だって夕麻と毎度キスしたら、多紀と同じ状態になってしまったからな!」
と美歌がさも当然に話す。
それを聞いて、多紀は頭が真っ白になる。
しまった!と美歌が解釈しようと口を開いた瞬間、
「はい、入学式が始まるので、二列に並んで体育館に入場します」
と先生が入ってきて、説明をする。
※ ※ ※
入学式の間も、教室に帰ってから先生が注意事項を伝えてる時も多紀はずっと全てが上の空であった。
帰宅の時間になり、美歌が慌てて弁解するも多紀に無視される。
「多紀ちゃん、どうしちゃったんだい?まさか初日で苛められたのか?」
と帰りに九郎が不思議そうにする。
「それは絶対にないよ。お姉ちゃんがいじめられたら、返り討ちに遭うのは絶対に相手の方だよ」
と雪輝が弁明する。
「なんでもない」
と多紀が無表情で声を出す。
家に着くまで沈黙が続いたのであった。
1.8 美歌の境遇
私の境遇について話そうか。
私の父と母はどちらもエリート思考だ。父はとある企業の社員。母も父と同じ会社で働いてて、いつの間にか付き合って、デートして、最後は結婚していた。
3年後に私の兄が生まれた。生まれたばかりの兄はなぜか他の赤ん坊と違い、泣くことも我が儘も一切なかった。名前を具志頭 拳斗(けんと)と名づけられたのだ。兄はとても優秀だった。1歳で口は上手く回らなかったけど、難しい言葉は大体言えたらしい。
兄が3歳時に私は誕生した。名前は具志頭 美歌。生まれてきた時は、父や母、兄弟や親戚など周りの人とは見た目が違っていた。彼らは、黒髪、肌色の肌、黒茶色の瞳に対して、私は、白髪、透きとおるような白い肌、灰色の瞳だ。私のような人間は世間から“アルビノ”と呼ばれている。容姿が違うだけで父と母に除け者にされていた。でも兄だけは私を溺愛していた。自分が言うには“シスコン”らしい。意味を聞くと、シスターコンプレックスの略で、自分の姉や妹に対して、異常に執着することだそうだ。
兄が7歳で小学校を卒業した時、私はちょうど4歳だ。兄のことをマスコミに知られ、同時に私が“アルビノ”って事も知られてしまったのだ。毎日、記者達が押しかけてくる。悪戯電話も度々かかってくる。
兄が9歳で中学校を卒業時、私が6歳で小学校1年生の頃だ。みんな最初は好奇心で色々尋ねてくるけど、時間が経過すると共に周りから孤立され始めた。私は喋れる人がいなかったら、心にポッカリと穴があいて、とても寂しい感じに陥った。先生達にその事で助けを求めると、知らんぷりされた。先生達が言うには、“調査したけど、そのようなことは見つからない”とのこと。仕方なく父や母に相談したところ、「それはお前の存在そのものが無価値だからだ」や「相手だけじゃなく、あなた自身にもたくさん欠点があるでしょう?お互いさまだとは思わないの?」と言われる始末。私は心の中でふつふつと怒りがこみ上げてくる。大人達に対する不信感、世界に対する絶望感、何より世界そのものを破壊したいという衝動に駆られる。
私が11歳後半に、1人の友達と運命の人に出逢った。それは武道館で私と一緒に日本少林寺拳法を習っている女の子二人だ。
この二人はいつも手を繋ぎ、楽しそうに話してた。笑顔が私にとってとても眩しかった。私はそれらが羨ましくて、この二人とは絶対に友達になりたいと思った。
正午になり、みんなで食事をする時間。私意外はいつの間にかグループが出来ていた。私は相変わらず一人、なんか哀しいなぁ。私は座る場所を探して、自分の弁当を開けようとしたところ、
「あの此処座ってもいい?」
と頭上から声がかかる。
私は頭をあげると、あの女の子二人だ。
声をかけてきたのは、私と同年代の子だ。
小さい子はなんと私にスキンシップを求めてきた。
私は嬉しそうになるのを堪え、
「もちろんいいぞ」
と勧める。
そして、私達三人は色々な話ではずんだ。
私と同年代の子の名前は天野多紀、11歳。
とても綺麗な子だ。
そして小さい子は天野夕麻、ニックネームは自称レイナーレ。
とても小さい子とは思えないほど賢い。兄と似たような感じがする。
私が多紀と話してる時、夕麻はいつも私の膝に頭を乗せてくる。
そうしてるうちに、私と多紀は親友になった。
ある日、私は天野家に遊びに行った。
アニメ見たり、ゲームやったり、殆どが日本語だけど、知らないものばっかだ。
途中多紀がトイレに行った。私と夕麻が取り残された。
夕麻は私に近づくと、
「友達になったしるしにキスしよう」
と誘ってくる。
どうせキスしても減るもんではないと思い、唇を重ねた瞬間全身にビビッと電気が走るような感じに襲われ、両脚の間が濡れてしまった。頭が真っ白になってるにも関わらず、夕麻は私の口の中に舌を入れてきた。あの快感さは一生忘れることはないだろう。嗚呼、もっと感じたい!そう夕麻に言うと、
「じゃあ、このイチャイチャ百合契約書にサインして、俺の女になってよ、レズの意味的で。どうする?」
とペンとノートみたいなのを差し出してきた。
家族で兄以外心配してくれる人もいないし、将来私を嫁にしてくれる男性もいないだろうと思い、ペンを手に取って、真っ白な紙に自分の名前をサインする。すると、体が光り、すぐに元に戻った。夕麻にこの光はなんだと聞くと、
「契約した人にはもれなく二つの能力が附いてくる。1つは決まって不老不死。もう1つはランダムで、契約した者の脳の中にその情報が入ってくる。それで美歌、2つ目の能力は何だ?」
「種族が二翼天使になったらしいのだが。熾天使にまで進化できるらしい。」
「人前では決して翼を出さないでくれよ!今は二人だけの秘密だからな!後これ、携帯電話をあげるよ、連絡を取り合おう」
と夕麻が見たことがない携帯を渡してくれた。私はそれを大事にバッグの中にしまった。
まもなく多紀がトイレから出てきた。
あっという間に時間が経ち、帰る時間になった。
夕麻と離れたくないと寂しく思いながらも、私は自分の家に帰ってきた。
私は鏡の前に立って何の変化があるか調べてみた。容姿は元と変わらないアルビノ。次に二翼を広げてみた。すっごく白くでかい翼だった。
※ ※ ※
あれからまた1年ちょっとが過ぎ、私は13歳になり、中学生になる時期である。その間、私と夕麻は携帯で連絡をとりあって、会う度にキスをしたのだ。何故なら、夕麻が言うには、多紀成分も良いけど、美歌成分も飽きないらしい。今はもうすっかり恋人関係だと私は思う。夕麻は女性にしか興味がないらしい。
入学式の当日に、私は母と一緒に市立桜見中学校に来た。
私のクラスは1-3だ。私は一人でその教室に入って待機していた。15分くらいだろうか、多紀もこのクラスに入ってきた。多紀しか友達がいないからか、私は彼女にむかって、
「おい、多紀!こっちだ」
と呼びかけた。
多紀もこっちに気付き、
「美歌もこの学校に来たんだ!しかも同じクラスか、今年1年間よろしくね」
と嬉しそうに手を振ってきた。
「ああ、私の方こそよろしくたのむ」
と私も手を振り返す。
私は夕麻との色々な事を思い浮かべながら、
「そういえば、今日は夕麻の小学校の入学式か。もっと6年遅く生まれてくれば、夕麻と一緒に小学校にいけたのだがな。そうだ、夕麻が此間、携帯で私に愚痴ってたぞ。多紀がキスさせてくれないってな!多紀、お前は本当は夕麻のことをどう思ってるのだ?」
と多紀の本心を探ってみることにした。
「夕麻のことは、最初は本当の妹のように思ってたけど、初キスを奪われて、体の中をビリっと電流が流れた感じになった以来、なにか夕麻に対する心のモヤモヤが消えないの。夕麻には“恥ずかしい思いをした”って嘘を言ったけど、本当は唇同士が触れた瞬間、体中にビリッときて、下から水が漏れて、その快感に依存しちゃうことが怖いんだよ。でも私の夕麻を他の誰かに寝取られるのはもっと怖い」
と多紀の予想外の答えが返ってきた。私も夕麻を寝取られるのは怖い。でも多紀は私の親友だしな。
「この依存症は絶対に悪いことではない。なら何故男女同士、夜の営みをする必要があるのだ?適度にやればいいんだ。何故なら私だって夕麻と毎度キスしたら、多紀と同じ状態になってしまったからな!」
と言った後、私はしまったと慌てて、手で口を覆ってしまう。
折角夕麻と二人だけの秘密を言ってしまうとは。
それを聞いた多紀は目が急に目のハイライトが消えた。
私がそれから多紀に何を言っても、ぼーっとするだけで、何も聞いてくれなかった。
私は親友をなくしてしまうのだろうか。
1.9 多紀がキスを克服する
入学式が終わり、夕麻と礼亜が家に帰る途中に、夕麻がまた直感で何か感じとる。
(どんな事が起こるんだ?お父さんや多紀に何か事故でも起きたのか?それは絶対ない)
と夕麻は雪輝以外の人達を心配しながら帰る。
10分後、家に到着し、礼亜が鍵でドアを開けようとすると、逆に閉まってしまった。
「あら、九郎と雪君と多紀ちゃんもう帰ってきたんだ、早いね〜」
ともう一回鍵を反対側に回し、ドアノブを引いて、礼亜と夕麻二人で家に入っていく。
「「ただいま」」
「「おかえり」」
「あれ?多紀は何処?」
夕麻が辺りを見回しても多紀の姿が見当たらない。
「多紀ちゃんなら、部屋にいるよ、でも学校から出てきた時に、様子がおかしいんだよな。聞いても、教えてくれなくてね」
と九郎。
「じゃあ、俺が部屋に行って、説得してくる」
と階段を駆け上がる夕麻。
(直感が発動したのは多紀に関しての事だったのか)
夕麻は“コンコン”と自分と多紀の共有部屋を2回ノックし、ゆっくりとドアノブに手を伸ばす。
(普通この展開だと、ヒロインが落ち込んでる時は必ずドアをロックしてるんだよな。はぁ、困った。でもグズグズはしてられない。そういう性格は俺の性には似合わないからな!では、1,2,3!)
と夕麻は決心し、ドアノブを回し、勢い良く開ける。
「良かった!ロックしてなくて安心した」
と夕麻がほっとした瞬間、多紀に押し倒される。
「多紀、俺としてはこのシチュエーションは凄く好きなんだけどさ、何でさっきまで落ち込んでたのに、今は笑顔n」
とたんに、夕麻は多紀に唇を奪われる。
(やっと多紀が積極的にキスしてくれたぜ!)
と夕麻は大興奮。
それから我慢出来なくなったのかお互いがお互いのスカートの中に手を入れて触る。
10分後、二人とも床に倒れたまま、深呼吸をする。
夕麻が最初に沈黙を破る。
「多紀、いつもはキスを拒絶するのに、何で今日は俺を押し倒してまで求めてきたんだ?」
「今日の入学式に、美歌と一緒のクラスになったんだ。そして話してる内に夕麻の事になって、美歌が、私が貴女にキスを拒絶してるから、貴女と彼女が会うたびに、二人で求め合ってるって聞いたから。今日その話を聞いて、私はもう夕麻に見限られたんじゃないのかなと思って、どん底に落ちた気分。夕麻がさっき帰ってきたから、貴女の気持ちを確かめたくてキスしたんだ。良かった、夕麻に拒絶されないで。これからは、もうキスは拒絶しないからね。だって、夕麻とのキスはすっごく気持ちがいいから。そうそう、私以外に他の女子と関係を持ってもいいから。」
と多紀。
「ありがとう、多紀。愛してる」
「私も、夕麻を愛してる」
※ ※ ※
夕食後、部屋の中で夕麻の携帯が鳴り出した。
取り出して見ると、美歌からだ。
「もしもし、美歌どうした?」
「多紀はもう大丈夫かなと思ってな。私の言葉で多紀を傷つけたかもしれないから」
「それならもう大丈夫。美歌のおかげで、多紀はキスを克服したから。なんなら、変わってやろうか?」
そう言いながら、夕麻は自分の携帯を多紀に渡す。
多紀と美歌が楽しそうに談笑してるのは、言うまでもない。
1.10 入学式から一週間後
1999年 4月16日 日本 新宿 朝
今日、夕麻は白いTシャツに制服の黒いコート、下はスカートに中はインナーパンツ。
(嗚呼、これでスースーしなくて良かったぜ!)
夕麻は教室に入り、席に座る。
(前世の影響なのか、朝にランニングしないと本当に全身がスッキリしない)
夕麻は帽子をとって、赤いランドセルを机に置きながら、そう考える。
「おはよう、夕麻。何を考えてるの?」
夕麻に声をかけてきたのは、入学式の次の日に自己紹介で知り合った女子である。
名前を猪八重 照美(いのやえ てるみ)。彼女も転生者である。容姿は、茶色のセミロングのヘアーで、童顔で、体型は痩せ型。前世は普通の女子高校生。彼女も夕麻と同じように永眠枕で寝て、この世界に転生したのである。何故知り合ったかというと、入学式の次の日にみんなが自己紹介に入って、夕麻の番になり、教壇に立ち、特別な紹介を始めたからだ。
「俺の名前は天野夕麻、通りすがりの1年生だ!覚えなくていい」
と夕麻が平成第10作目のライダーみたいな台詞で自己紹介を終えた。それで、猪八重 照美は同士を見つけたかのように、夕麻と友達になろうと決心した。照美は前世で一番好きなライダーはディケイドだった。
彼女は自分のアルバイトで溜めたお金でガンバライドのカードをたくさん集めたり、CSMのディケイドライバーを買って、遊んだり、2019年に発売されたネオディケイドライバーを新たに購入して、友人に自慢したりした。
そして、夕麻とディケイドの話をしたり、前世のことも話し合ったりして、無事友人になった。
「よう、照美。俺は前世で毎日ランニングをしてたんだ。そして汗をたくさん掻けば、体全身が軽くなってスッキリするんだけど、今は、走ってないから、なんかサッパリしない」
と夕麻が照美に訳を話す。
「なーに、そんなの大丈夫だって。私だって、前世は買い物いっぱいしたくてたまらないんだけど、今世はできやしない。嗚呼、もうすぐ国語の時間!また明日に話そうね」
と照美は自分の席に戻っていく。
夕麻も自分のランドセルから国語の教科書とジャポニカノートとボールペンを取り出して、待機すると思いきや、教科書をパラパラとめくる。まず習うのは、ひらがなをあ行からわ行まで書けること。
(嗚呼、ひらがな本当に簡単すぎて、欠伸が出るぜ!)
2分後、“ガラガラ”と教室の扉が開き、担任の零が入ってきた。
「これから、先生とみんなでひらがなを勉強していこう」
夕麻は簡単過ぎだと思いつつも、授業中にちゃんと黒板に書いてある内容をノートにコピーする。
そうして、次の3時間の授業も終わり、12時30分になり、給食の時間。
メニューはスパゲティ、ミカン1つ、ガラス瓶の牛乳1本、ういろう。
※ ※ ※
昼休み1時頃
学校の校庭に児童達が色々な遊びをしている。
夕麻は照美以外友達がいない。どうすればいいか?答えは簡単。校庭に行って、団体と一緒に遊べばいい。夕麻はどこのチームと遊ぶか考えこむ。
(楽しそうなところはないかな?ん?あれは)
夕麻がそのところを見ると、15人ずつボールの投げ合いをしている。当たった人は外野に行く。中には5人くらいの女子も混ざっている。
(あれはドッチボールじゃん!良し、そこに行こう)
「おーい、俺も入れてくれ」
と夕麻が手を振りながらそのチームに近づく。
「おお、また女子が来たぞ。入れ入れ」
「この新入り強いぞ!投げたボールを全て取ってる」
楽しい時間は刹那に終わった。
そして、夕麻は最後の授業に向かう。
1.11 夢かそれとも現実か
全ての生物が滅んだかのような都市。
朝になっても、夜になってもシーンと静まりかえっている。
風が吹き、葉っぱやチラシが乗せられてはまたゆっくりと地面に落ちる。
毎日走ってるはずの車やバスは持ち主達に捨てられたかのように道路のあちこちに佇んでいる。
その道を歩いてるパジャマ姿の幼女が一人いた。
「せっかく寝たと思ったら、こんな訳も分からない処に飛ばされるし、一人も見当たらないし、道路はボロボロだし、建物も地震の後のように崩れてるし。どうしろっていうんだ!まさかこの世界で救世主になれっていうんじゃないだろうな、いつになったら、多紀のそばに帰れるんだ?」
夕麻は一人でぼやきながら、適当な場所へ向かう。
「どうせ車やバイク、バスが沢山放置されてて、使う人もいないだろうから、俺が報酬としてもらってもいいよね!」
と王の財宝を開き、家電掃除機のように、交通用具を全部吸い取る。
「これで道は綺麗になった。携帯をかけても圏外。次はパジャマを他の服と取り替えよう」
夕麻はそう決めると、早速洋服の店舗を捜索する。
夕麻は何件かの店に入り、6歳児の男の子の方の服を取って着用する。着用してるのは、上に白い長袖、下は青いジーンズ、靴は黒のシューズ。そしてサングラスもかける。
「この世界は何なのか調べる必要がありそうだ」
と夕麻が言いかけた途端、
「その必要はない」
と突然背後から声がしたと同時に、何かに斬られそうになる。
「あっぶねぇ!誰だ、いきなり俺を殺そうとした奴は!」
と夕麻は直感を頼りに攻撃を避け、相手と向き合う。
白い髪に長いツインテール、白い服、白く短いズボン、白い靴、肌の色は人間と同じ。そして何より特徴的なのが赤い目に赤い炎を出しているところ。手には禍々しい巨大な鎌。
「お前は、WRS!何故俺を殺そうとする!」
夕麻は戸惑いながらも相手に質問する。
「私の名前はシング ラブだ。殺す理由については、お前に教える必要は、無い!」
シング ラブが鎌を振りかざす。
夕麻は慌てて王の財宝から100本を越える剣や槍、斧などの武器を一斉にシング ラブに向けて撃ちだす。
「甘い、甘過ぎる!」
とシング ラブが手にしている鎌を器用に振り回し、次々に向かってくる武器を叩き落としていく。
夕麻は叶わないと分かっていながら、自分の近くに落ちている武器を適当に拾い、シング ラブにぶち当たっていく。結局、戦闘経験が0の夕麻がラスボス補正のシング ラブに勝てるはずも無く、相手の普通のキックにより宙に吹き飛び、地面に叩きつけられ、仰向けの姿勢で倒れる。
「とどめだ!DEAD END」
シング ラブの前方に赤い円状に6発の気弾が現れ、一斉に夕麻を叩きつける。
「俺はもう、此処で終わってしまうのかよ。多紀とも、美歌とも、イチャイチャし足りてないし、他の世界での百合ハーレムの夢も実現しちゃいない。本当、悔しい……」
夕麻は右手の指を広げながら上に挙げて遺憾そうに呟く。その直後、6発の気弾が直撃する。
「後12発喰らうがいい!」
夕麻は、生身で合計18発の気弾を受けた。
「雑魚は、所詮雑魚だったということか、失望したぞ」
シング ラブはがっかりしたように爆発の中心を見る。
※ ※ ※
爆発後に煙が晴れた後、服がボロボロ状態の夕麻がうつ伏せになっていた。だが、体に傷は見当たらない。
超回復発動!
「そう簡単に死んで堪るかってんだ!」
夕麻は起き上がり、ピンピンとしていた。
「ほう、まだ生きているとはな。お前は他の雑魚とは一味違うようだ。他の雑魚共は私のちょっとした力で直ぐに壊れてしまうのでな。さっきは失望したとは言ったが、この言葉は撤回しよう。お前とはやりがいがあるから、月の宮殿に連れて行く」
「ちょっとm」
夕麻が言い終わらないうちに、シング ラブに手刀を当てられ、意識がだんだん遠くなっていく。そして視界がブラックアウトする前に、聞いた言葉はというと、
「ふっふっふ、良いおもちゃが手に入った」
1.12 現実と夢の交差
1999年 4月20日
「俺は、お前の玩具じゃあない!」
夕麻はガバッと布団から上半身を起こしながら叫ぶ。
「ん〜、いきなりどうしたの、夕麻?」
と多紀が目を擦りながら、夕麻に問いかける。
「多紀もあいつに捕まったのか?」
と夕麻が混乱する。
「捕まった?あいつ?変な夢でも見たんじゃないの?」
と多紀が不思議そうにする。
「そうなんだよ!気付いてたら、誰もいない街に俺一人しかいないし、しかもあの世界は何処だと思う?」
夕麻が鼻息を荒くしながら、多紀に聞く。
「まさか、夕麻が昨日プレイしてたブラックロックシューターっていう世界?」
多紀が聞き返す。
「そうそう、それだよ!普通に歩いてたら、ラスボスのホワイトロックシューターの攻撃を喰らって、ピンピンしたけど、手刀でやられて、目を覚ます前に聞いた最後の言葉に鳥肌が立っちゃったんだよ」
「どんな言葉?」
「それは、“ふっふっふ、良いおもちゃが手に入った”だって」
「それでも、夢に変わりはないよ。夕麻も早く寝ないと、遅刻するかもしれないよ。じゃあお休み」
そう言うと、多紀はまた背中を夕麻に向けて寝てしまったのである。
(良かった、夢で。ん?でもちょっと待てよ!夢の中でしか存在しない物は、現実に帰ってきたらなくなる。検証してみれば必ず分かるはずだ)
と夕麻は嫌な感じをしながら、王の財宝の空間を開けると、そこには夢の中で拾集した交通用具や武器が消えることなく、そのまんま残っていた。
※ ※ ※
夕麻がシング ラブと戦っている頃、外野では6人の女性が観戦していた。
「ワン、天野夕麻の戦闘力についてどう思う?」
零 薄紅は自分の隣にいるワンという背中に戦輪を背負い、黄色の髪にヘアバンドを付けた赤い瞳の少女に意見を求める。
「あの6歳児は戦闘経験が無さすぎだ。それでも仲間に引き入れたいのか?」
「人間が滅びる未来を阻止するには、転生者の仲間を増やすしかない。天野夕麻は、私が転生者だって一発で見抜いている。彼女の潜在能力は凄く高い。」
と零 薄紅が分析する。
「零お姉様が知らないあかの他人を褒めるなんて、ずるいですわ!私の事も褒めて下さいまし!」
と十字型の大槍を背中に、豊かな金髪に華美な容姿を持ち、ダイナマイトな胸の美女が自分の胸を零に押しつけながら捻る。
「はいはい、帰ったら、褒めるよりもっと気持ちいい事をしてやるよ、ファイブ」
零はファイブの顎をくいっとあげながらもう一つの手でファイブの胸を鷲掴みにする。
「はぅん、お姉様いやらしい、でも素敵」
「ファイブと零、そこまでにしておけ」
とワンが注意する。
「でも、あの子仲間になってくれるかなぁ〜?」
青い大剣を手に持ち、水着マフラーのような服装に青いショートヘア、そして青い
瞳の少女が考え込む。
「トウ、まぁなんとかして仲間に引き込むさ」
零が言う。
「あいつ、もし零姉さんの勧誘を拒否でもしたら……人形にでもしちゃおかな、ウフフフフフ」
鋏を片手に、紫色の長い髪に、紫色の瞳にだるそうで猫背な少女が不気味に笑う。
「スリー姉様、いつも思うけど、その笑い方やめてくれない?」
鉤爪を装備し、茶色のツインテールに、緑色の瞳の少女がうざそうな表情をする。
「フォウ、私達が喋っている内にあの二人消えたぞ。天野夕麻は現実に帰ったか。私達も現実に帰るぞ」
零がそう言うと、6人も消えていった。
1.13 遠足(前編)
1999年4月23日
今日は朝から天気が快晴。何より月見輪小学校の全学年にとって最初の行事である遠足が始まる。児童達にとっては、楽しい一日である。月美輪小学校の近くにあるビルやアパートのベランダから見渡せば、リュックをしょった児童がぞろぞろと学校の校舎に入っていくのが分かる。
夕麻も起きてから、まず多紀のほっぺにキスし、耳元で「おはよう」と小さな声で囁く。多紀も続いて起きる。夕麻は、次に先週の20日の金曜日に配られたしおりを読み返しながら、荷物をリュックに詰め込む。しおりに記された持ち物は、雨具、おべんとう、すいとう、しおり、おやつ、しきもの、ハンカチ、ティッシュ。
「私が小学生の時も、よく遠足行ったなぁ」
と多紀。
「遠足はどんな感じだった?」
と夕麻が多紀に感想を求める。
「結構楽しかったなぁ、友達と一緒に弁当の中身を交換とか。ああ、まだ時間あるけど、夕麻急ぐよ!」
夕麻は弁当と水筒以外を詰め込んでから、二人は学校の制服に着替えて下に降りて、礼亜と九郎に挨拶する。
「「父さん、母さんおはよう」」
「「夕麻ちゃんと多紀ちゃんもおはよう」」
「はい、弁当と水筒ね。朝食は夕麻ちゃんの大好きな茶碗蒸しよ!」
と礼亜が机に湯気が出ている茶碗蒸しを台所から運んでくる。
「母さんありがとう、自分で運ぶから」
夕麻は自分で茶碗蒸しを机の上に運んで、
「頂きます」
と言い、スプーンで口に運ぶ。
多紀も夕麻の向かい側で美味しそうにご飯を食べている。
「ごちそうさま、美味かった」
と感謝を述べて、夕麻が弁当と水筒をリュックに入れて、玄関で靴に履き替え、
「行ってきます」
と手を振る。
「気を付けるのよ」
と礼亜が心掛けされる。
「シュッ」
という声を出しながら、響鬼のまねをしながら家を出た。
多紀も続いて家から出た。
※ ※ ※
「おはよう、多紀、夕麻」
と美歌が手を振りながら、多紀と夕麻に寄っていく。
「「美歌もおはよう」」
「夕麻は今日、学校で何かあるのか?」
と美歌が夕麻に質問をする。
夕麻は美歌にしおりを見せ、
「今日は月見輪小学校全学年の遠足だ」
と回答する。
「へぇ、遠足か、懐かしいなっていっても1年しか経ってないか」
美歌がしおりをパラパラとめくり終わり、夕麻に返す。
「そういえば、多紀は何の部活に入るのか決まったか?」
夕麻との会話を終わり、多紀に話題を振る。夕麻も多紀の方を見る。
「まだ少林寺拳法習ってるから、帰宅部だね。そういう美歌はどうなの?」
「もう学校の前に着いたから、行かなければ」
夕麻はそれぞれ多紀、美歌と繋いでる手を離し、二人とハグした後、月見輪小学校に入っていく。
1.14 遠足(後編)
夕麻は校舎に入ると、児童達がロッカーで自分達の上履きを履いているところだった。
夕麻も自分のロッカーで靴を脱いで、上履きに履き替えて自分の教室へ目指す。
教室のドアを開けると、遠足のために、各グループに分けられた子供達が楽しそうに話しあっている。因みに1グループは6人で分けられている。
(俺も精神年齢がこのぐらいの時は純粋に他の子達と遊んでたな。でも成長するにつれて、周りの人達とは話さなくなった、いや話せなくなったというべきか。その影響でコミュ症になり、友達を作る方法が分からなくなってしまった。親に“周りの人とコミュニケーションを取りなさい”って言われても既に遅し。話そうとも話す内容が出てこない。たったのその事で親にガミガミ怒られ、しまいには勝手に失望する。親にとって子供とは一体何なのだろうか?
小学3年生の時に、とある転校生が自分のクラスに転校してきて、みんなが話しかけると反応するけど、通常時は自分から積極的には話しかけない。当時の俺には理解不能だったが、時代の流れと共にやっと解った。)
夕麻が考え込んで内に、
「ゆうまちゃん、こっち」
と右手を一人の女の子に引っ張られ、グループのところまで連れていかれる。夕麻の所属してるグループは夕麻を含め、女子が三人。もう一人の女子が夕麻に
「きょうのえんそくたのしみだね、ゆうまちゃん。えんそくってどんなんだろうな」
と囁く。
「それは行ってからの楽しみだよ、麗(うらら)ちゃん」
夕麻が麗という女子に言う。
他のグループの男子からは、
「あのはんだけじょしが三人ってずるいな」
「おれもあのはんにはいれたら」
「こっちのはんにじょしいないし」
どの位時間が経ったのだろうか、零 薄紅が教室に入ってきた。
「はい、静かに。これから遠足に行くから、みんないい子に並ぼうね」
2分後、各クラスが2列で、各先生が先頭で全員代々木公園へと出発する。
※ ※ ※
約40分かけて、月見輪小学校全学年と各担任の先生が代々木公園に到着した。先生の説明を受けて、低学年から高学年の児童がまず訪れる所はサイクリング。一人ずつ自転車を借りて、1週をする。
夕麻も一台の自転車に跨り、ペダルを漕ぐ。前世では自転車に乗ると1秒で直ぐにこけてしまう。大学生の頃にはやっと漕げるようになった。その影響を受けて、今世ではこけなくなった。両側が木だらけで頭を上げれば一面緑色の葉っぱ。“緑色は目に優しい”という言葉を思い出して、夕麻はずっと緑色の葉っぱに目を向ける。
一周回ってから、自転車を自転車置き場に戻す。
今度は班でフラワーランドに入り、歩きながら各種類の花を見学する。
「うぁ、このあかいはなすごくきれい」
「このはないいにおい、なんかいいきもちになる」
何人かの児童が花が咲いてる処に近づいて、花びらに触れる。自分達の鼻を花に近づけて、匂いを噛む者までもいる。
(花を植えてる人達も大変なんだよな。花が好きじゃないと、こういう仕事に就こうとも思わないんだよね。まぁ、感謝でもしておこう)
と夕麻が考付く。
※ ※ ※
丁度12時になり、子供達のお待ちかねの昼食の時間。各自リュックの中から敷物を草の上に敷き、弁当を取り出して食べ始める。夕麻が他の子達自分の弁当箱を開けると、一段目が野菜饅頭が一つと肉饅頭が一つ、二段目がミニトマトとキャベツのサラダとソーセージ2本と目玉焼き一つ。
「ゆうまちゃんのおべんとう、なんかとくべつだね」
と麗が夕麻の弁当を見て、呟く。
もう一人の女子もうんうんと頷く。
「特別の方が美味いんだよ」
夕麻がそう言いながら、野菜饅頭と肉饅頭を交互に食べ始める。
夕麻の弁当箱にあるソーセージも他の人のより大きい。
最後のトマトを食べて、完食。
昼には班行動で午後の3時半まで自由行動をして、午後の4時には学校に帰り、最後には下校した。
昼には班行動で午後の3時半まで自由行動をして、午後の4時には学校に帰り、最後には下校した。
1.15 寝落ちしたら、また別の世界
1999年4月24日
昨日遠足が終わり、今日はまたいつもの日常に戻る。
夕麻は朝ご飯を食べて、一人で月見輪小学校に行く。道路では色々な種類の車が夕麻を追い抜いていく。歩道でもサラリーマンや私服を着た若者から老人が道を行ったり来たりしていた。そして、夕麻はそれらを眺めながら学校に到着。いつもの様に教室のドアを開けると、クラスメート達が疲れているのか、欠伸をしてる者が結構いる。夕麻が自分の席につき、自分の隣に座っている照美に挨拶する。
「よお照美、昨日遠足だったから、皆疲れてるんだよね。照美は、どうだった?」
「おはよう夕麻ちゃん。昨日は思い切って遊んだから、今日疲れが溜まっちゃったんだ。しかも1時間目から体育。しんどいよ〜」
と照美は自分の机に顔を突っ伏す。
「嗚呼、そういえば1、2時間目は体育の授業だったか、いや〜、すっかり忘れてたわ」
チャイムが鳴り、零 薄紅が入ってくるなり、
「もうすぐ体育の授業が始まるから、女子と男子はそれぞれ別れて着替えましょうね」
※ ※ ※
2時間続いた体育の授業がようやく終わり、15分間の休憩時間になる。
夕麻も流石に疲れが溜まってきたから、校庭に行かず教室にいる事にした。
照美は、夕麻と一緒に話をしたかったけど、他の女子達に連れていかれてしまった。夕麻も誘われたけど、もう歩く体力も無く、断った。クラスの男の子達も全員教室から出て行った。残されたのは夕麻だけ。
「15分間、好きな事をやってれば直ぐに過ぎていくし、ただ何もせずに待ってるだけだと、とても長く感じるんだよな。パソコンやらせてくれたらなぁ」
夕麻は欠伸をし、瞼が重く感じ、ウトウトしそうになる。
(寝たくなくても何故か寝てしまう。舌を噛んでも、我慢しようにも、体がいうことを聞いてくれない!まぁ、15分間だけなら問題ないか)
夕麻は睡魔に負け、座ったままガクッと眠ってしまったのである。
気付いたら、4日前と同じ様に夢の世界に飛ばされてしまった。
右向いても左向いても周りが木だらけで、時間帯は夜。現実と違って、疲労感が嘘の様になくなっており、体がすごく軽い。
(
何だこの感じは。心の中がざわめくぞ!ん?あそこに赤い光が見える、速く行かなければ俺の大事なハーレム要員が殺されてしまう)
夕麻は自分の直感に従い、重りを外し全速力で駆けていく。
「間に合ってくれよな〜!」
※ ※ ※
木の上には堕天使が3人、そして対面してるのは巫女服の女性が一人、赤髪の女性が一人。3人の堕天使が自分達の魔法で作った光の槍を赤髪の女性に向かって投げるが、後者に弾かれてしまった。
「弾いただと!」
胸元が大きく開き、黒のボディコンスーツをまとった大柄の女性の堕天使が驚く。
「笑ったわね、私の下僕を笑ったわね」
赤髪の女性が静かに怒りを覚える。
「あらあら、怒らせる相手を間違えたようですね、おばかさん」
巫女服の女性は口を少し吊り上げて、相手を嘲笑する。
赤い髪の女性が赤い弾で攻撃が放たれようとしたその時、
「今だ!」
と夕麻が三人の堕天使の後ろに現れて王の財宝を展開し、三人の堕天使を収納して攻撃をかわす。赤い弾は空ぶって消滅。
(この夢の世界は、ハイスクールDxDの世界か。赤い髪がリアス グレモリー, 巫女服が姫島朱乃、俺が助けた三人はそれぞれミッテルト、カラワーナ、ドナシーク。ドナシークは男だからいらないしな、どうしようか)
夕麻が考え込んでる間に、リアスの声で思考が中断される。
「貴女は何者?それに目的は一体何なのかしら?」
夕麻の現在の格好は黒の服に黒のズボン、顔には女聖闘士の仮面を装着している。
「俺はただの人間だ。目的は目を覚ます前に、この世界を楽しみたいだけだ」
「この世界?どういう意味ですか?」
と今度は姫島朱乃が訳が判らないという顔をする。
「今の俺は学校で寝ていて、この世界にいる俺は夢の中の俺だ。あんたらみたいな美少女と話するのは楽しいが、俺も急いでるんで。代わりにこれを餞別として受け取ってくれ」
夕麻は特別製の睡眠弾のピンを抜いて、リアスと朱乃の処に転がす。
コロンコロンシューッ
二人とも気が付いた時は既にそのガスを吸っていた。悔しそうな顔を夕麻に向けてから、二人は気絶した。
「12時間の間お休み」
と夕麻は二人を後にし、教会へ急ぐ。
1.16 原作主人公との戦闘準備
後一歩で教会の中に入ろうとしたところ、
「夕麻、夕麻起きて。もう直ぐ授業が始まるよ」
照美が夕麻の肩を揺らす。夕麻は目を覚ます。
(折角いい処だったのに。でも授業が始まるからしょうがないか)
「有難う、照美。起こしてくれて」
夕麻が照美に感謝する。夕麻の疲れも大分とれた。
給食や昼休みも終わり、5時間目の授業が始まる。内容昨日の遠足についての感想文。
「はい、今日の最後の授業は作文を書こう、題名は遠足。何文字でもいいので書いてみましょう。紙配られたら、後ろに回してね」
夕麻にも作文用紙が配られ、夕麻も後ろに回す。
「みんな、もう紙はあるよね。では始め」
1時間後
「みんな、お疲れさま。では班長さん、集めてくださいね」
それから、黒板に明日の事を説明し、下校時間になる。
「ただいま」
夕麻が靴を脱ぎ部屋に入ると、多紀と美歌がテレビでアニメを観ていた。
「多紀と美歌はもう学校の授業終わったんだ、早いな。中学一年生の授業はどうだった?」
夕麻が美歌の膝の上に座りながら、二人に質す。
「今は社会と理科が少し苦手かな」
と多紀。
「私は技術と家庭だな」
と美歌。
「それより俺が帰ってくるまでの間、何のアニメを鑑賞してたの?」
と夕麻が問う。
多紀と美歌が顔を見合わせ、
「「まだハイスクールDxDの4話(だ)」」
「じゃあ俺も観よう」
と夕麻も観ることにした。
4話が終わり、5話が始まった。
「この天野夕麻って夕麻と全く同じ名前だよね」
「胸もなんか大きいなぁ、なんか夕麻が成長すればこんな感じだしなぁ」
「露出度もけっこう半端ない」
「性格は悪いけど、嫌いではないな」
多紀と美歌がお互いに感想を言い合い、楽しんでいる。夕麻といえば、観てるうちにまた寝てしまったのである。
※ ※ ※
夕麻が目を開けると、視界が普段より高くなっている。後ろがむずむずし、手で背中を触るとフサフサした何かが生えていた。頭を下に向ければ、大きく膨らんでる胸、そして乳首と陰部以外ほとんど露出しているボンデージ衣装。
(まさかとは思うけど、違って欲しいなぁ)
そう思いながら、夕麻が慌てて王の財宝から鏡を取り出し、自分を写すと、ハイスクールDxDのアニメに出てきたレイナーレそのものだった。
」(やっぱりそうきたか。俺も将来堕天使形態になったら、こんなボンデージなっちゃうのかねぇ。とにかく服装を変えないと、どれにしようか)
夕麻はそう思いつつ人間形態に戻り、王の財宝からゴクウブラックの服装を取り出して着替える。衣装はタートルネック・長袖の黒いインナーの上に灰色の武道着姿、足には白いブーツ。鏡を持ってもう一回自分を写す。
(あんな露出の服装は、悪役には似合わないというか俺は好きじゃない。こういう服装を着た悪役は小物で直ぐにやられるフラグなんだよなぁ。どうせならもっと威厳のある悪役の服装にしたい。ゴクウブラックは好きだし、服装も好きだからこれにした。ん?なんか兵藤一誠が綺麗事をほざいてやがる、では主人公を潰しに行くとするか)
夕麻はそう考えながら、兵藤一誠とアーシアが居るところに向かう。
1.17 兵藤一誠の敗北と死
一方、教会のもう一つの場所では…
「私のために泣いてくれる、私は…もう…何も ありがとう」
そう言い終わった直後、一誠の頬に触れていたアーシアの右手が無気力になり、地面に垂れ、涙を流したまま息を引き取った。
「アー…シア、何でだよ、何で死ななきゃなんねぇんだよ!傷ついた相手なら誰も。悪魔だって治してくれるくらい優しい子なのに!なぁ神様、居るんだろ!この子を連れて行かないでくれよ、頼む、頼みます!この子は何もしてないんだ、ただ友達が欲しかっただけなんだ!俺が悪魔になったから駄目なんすか、この子の友達が悪魔だから無しなんすか!なぁ頼むよ、神様」
兵藤一誠がアーシアの体を抱きしめながら、泣き叫ぶ。
(そろそろ俺の出番だぜ)
そうと決まった夕麻は一誠の前に姿を現し、両手で拍手しながらあの名台詞を口にする。
「感動的だな。だが無意味だ」
その言葉が一誠の精神を逆撫でし、
「夕麻ちゃん、いやレイナーレ!」
と夕麻に向けて叫ぶ。
「俺の今の名前は天野夕麻だ。俺はお前の様な鈍感なラノベ主人公は大嫌いなんだよ!ただの凡人なのに、主人公補正がかかってから周りの女子にちやほやされやがって!ヒロイン達に好かれてるのに、その感情に気付かないとかさ!」
夕麻が一誠にアンチ発言をかます。
「ラノベ主人公?主人公補正?お前の言ってることが全然解んねぇよ。お前は本当にレイナーレなのか?なんか口調も変わってるしな!」
一誠が訳が分からないという顔をする。
「言ったろ、俺は天野夕麻だと。この世界は俺にとっては夢だ。そしてこの世界に存在してるお前達は俺にとってただの幻影でしかない。それに、お前の名前には“誠”って漢字が入ってるんだよな。伊藤誠みたいにnice boatになれば良かったのに…って一回この体の持ち主に殺されて、お前の友達アーシアも殺されてしまっちゃってさ。お前の絶望はまさに俺の託望。良く言うじゃん、“他人の不幸は蜜の味”って。これ、俺の好きな言葉なんだぜ!」
夕麻が一誠に向けて悪態を吐く。
それらの言葉を耳にした兵藤一誠は、とうとう怒りが頂点に達する。そしてもう一度アーシアの遺体をそっと床に置いてから立ち上がり、夕麻と対峙する。
「テメェを完全に見損なったぞ、レイナーレ!そうやって他人の命を踏みにじって楽しいのかよ!あんなに優しいアーシアまで殺してといて、罪悪感はねぇのかよ!この子は関係なかったはずだ!答えろ!」
(答えろ!って言われてもなぁ。はっきり言って、俺が殺した訳じゃねぇしな。様子を伺って、アーシアの遺体も回収しないと。可愛いアーシアを兵藤一誠みたいなクズ人間に渡して溜まるかっつんだ!そうだ!今はゴクウブラックの服を着てるから、ゴクウブラックの台詞を言ってみよう)
夕麻がそういう考えを思い付くと、背中に赤い光で形成された翼を展開し、空中に舞い、魔法で体から赤いオーラを放出させる。
夕麻は何故魔法が使えるのかというと、この世界のレイナーレが魔法を使えるからである。でも現実で目を覚ましたらまた使えなくなる。
「所詮は悪魔風情。俺が奏でる言葉の気高さを理解できるはずもないのだ。
俺の志、美しさ、そう、俺という存在の全てがただひたすらに孤高」
「分かったよ、テメェみたいな悪魔とは話し合っても解り合えないってな!テメェの様なサイコパスビッチは倒して、アーシアを返してもらうぞ〜!」
“想いなさい、神器(セイクリッドギア)は想いの力で動きだす。”
「返せよ!」
“その想いが強ければ強いほど加熱される”
「アーシアを、返せよ!」
“応えは、くれる!” 『ドラゴンブースト!』
「アーシアを、返せよ、ウォォォアァァァァ!」
一誠は左手から緑色の玉が填められた赤い籠手が召喚され、赤と緑の輝きを放っている。そして高くジャンプし、夕麻を殴ろうとする。
(今の俺は赤だ!赤は通常の3倍!)
夕麻は高揚状態になりながら、一誠の数々の攻撃を軽々と避ける。
「クズ誠、お前の攻撃は単純すぎだ。」
一誠は夕麻の呼び名に反応せず、ただ相手を倒すことに集中する。
「
クソ、当たれよ!」『ブースト!』
「威力が上がっても、当たらなければどうってことは、ない!」
夕麻が今度は一誠のパンチを頭でかわして、隙を狙って魔法で作った巨大な左手で後者の体を力いっぱい握りしめる。
「グァァァァァ!」
一誠は苦しそうに叫ぶ。
「神器(セイクリッドギア)が無ければお前は何も出来ない、ただの無能なんだよ!赤龍帝はお前自身の力じゃねぇんだよ!自分の本来の力に頼ってこそ、強者ってことだ!」
夕麻は一誠に説教する。
「クッソー、はなせよ〜!」
「分かったよ、今放してやるよ」
ブシュッ!
「ガッ、テッ…メェー!」
夕麻が早めに右手で用意してあった魔法で作られたナイフで一誠の男の象徴の処をぶっ刺した。刺されたところから、ポトポトと血が止まらずに出ている。続いて、野球のボールを投げるように一誠を壁に投げる。
「おら、よ!」
ドーン
「グッハ!」
ズルズル
壁には一誠の背中の血が塗られていた。
「ざまぁ無いぜ、なぁクズ誠よ!」
夕麻が一誠の髪の毛を掴み、何回も壁にぶつける。疲れたのかそれとも飽きたのか、夕麻は人さし指と中指で一誠の両目に触れる。そして
「アアアアアア!」
そう、夕麻は相手の両目を潰し、隻眼にしたのである。一誠は地面でのたまり打つ。夕麻は一誠には目もくれず、横たわってるアーシアに近づき王の財宝を展開し、彼女をその中に入れる。
「俺のことを好きになれない奴は邪魔なんだよ。だから、アーシアの次はお前の神器(セイクリッドギア)を奪ってやるよ!」
夕麻はもう一度一誠の髪を掴み、耳元で囁き、一つ目の願いを叶える。
(他人の体内から直接直接神器(セイクリッドギア)を取り出せますように)
「じゃあ、死んでもらおうかな」
そして夕麻は一誠の体内から赤龍帝の籠手を取り出し、同時に後者は二度目の死を迎えた。
「夢の中だったから、あっけなかったのか」
そう呟きながら、夕麻は一誠の死体を上に投げ、自分の魔力で形成されたかめはめ波もどきで消し飛ばした。次に聖母の微笑と赤龍帝の籠手を王の財宝の中に放り込んで、違う服に着替える。最後にラジオを出して、歌のカセットテープを入れ、音量を最大にし、魔力を回復する。
1.18 第2ラウンドの戦闘
勝利者が変わってバタフライ効果が発動したのか、木場祐斗と塔城小猫の到着時間がアニメ版より少し遅くなった。
木場祐斗と塔城小猫がそれぞれ一誠と夕麻が戦った処にたどり着くと、戦闘はとっくに終了していた。地面には戦いの跡があり、壁の一部には血の痕跡が残ったり、あちこちが凹んでいたり、天井には穴が開いていた。一番肝心なのが教会中にものすごい音量の音楽が響き渡っている。
木場祐斗は
「兵藤君、いるかい?いるんだろ!いたら、返事をしてくれ!」
と力いっぱい叫ぶ。
「……いるなら、早く出てきてください。まったく」
塔城小猫も一緒に兵藤一誠に呼びかける。
「部長も来るのが何故だか遅いね」
その時、急に音楽が止まり、二人の向いてる方からガシャガシャと音をたてながら頭から足までに中世騎士の女性の鎧を纏った人物が姿を現す。その姿は、Fate/Grand Orderに登場したモードレッドが着用してた鎧そのものであった。右手には燦然と輝く王剣 クラレント、反対の左手には勝利すべき黄金の剣エクスカリバーを所持している。
「貴方は一体何者ですか?堕天使の手下ですか?」
と塔城小猫が警戒態勢に入る。
一方、木場祐斗はというと、騎士の両手に持っている二本の剣を見て、ダークサイドに堕ちたような感じになる。続いて近寄り難い雰囲気を醸し出し、顔の表情も険しくなり、殺意と憎悪に満ちている。
(この二本の剣は観たことはないが、僕の感じだと間違いなく聖剣だ!)
塔城小猫も木場祐斗の異変に気付く。
「此処は僕にやらせてくれないか?」
と木場祐斗が塔城小猫に自分の意志を伝える。
「分かりました」
塔城小猫が相槌を打つ。
すると、女性の騎士が言葉を口にする。
「そんなにこの二本の聖剣が憎いのか?木場祐斗、いや“イザイヤ”!」
「チッ」
木場祐斗が舌打ちしながら、魔剣創造(ソード バース)で魔剣を創り出し、女性騎士に特攻していく。
「最初に言っておく、俺はか〜な〜り強い!」
女性騎士もゼロノスの台詞を真似て突撃する。
「「ハァァッ!」」
カキン!カキン!カキン!
(この女、思ったより強い、ならば!)
純粋な力比べでは、女騎士の方が圧倒的に強い。木場祐斗はそう考えながら魔剣創造(ソード バース)で創った魔剣の特殊能力を発動させる。それは、触れた聖剣を取り込んで、魔剣の威力をパワーアップさせる。
「貴方は僕が思ったより強い、だから特殊能力を発動させてもらうよ!もうすぐその聖剣とやらを見なくてすむ!」
女騎士の二本の聖剣が祐斗の魔剣に触れた瞬間、手に持っている聖剣が取り込まれてしまった。
「ダニィィィィ!俺の聖剣が〜」
(今!)
祐斗は両手で魔剣の柄を握り、女の騎士が怯んでる隙に斬りかかった。女の騎士の鎧がバラバラに砕け散って、彼女の素顔が晒される。それは、バーダックの最終決戦用の服装に戦闘ジャケットを着こんだ姿の夕麻だった。勿論ズボンと靴もバーダックのと同じである。
祐斗がまた魔剣を振り上げようとした時、
「待ってください」
と制止する声が聞こえる。
「話は聞きました。貴女が一誠を殺したという例の堕天使レイナーレですね?」
と小猫が確認する。
その間に夕麻が4回バク転し、ラジオの処で着地する。
「いかにも。クズ誠は俺がこの手で殺してやったよ!先ほどの一回も入れて、二回もな!」
「二回とは如何いうことなんだい?」
祐斗は嫌な予感をしつつも顔を歪ませ、夕麻に問いを投げかける。
「人間のあいつを殺し、先ほど転生悪魔としてのあいつも殺し、体も消し飛ばした。ほら」
夕麻は王の財宝から赤龍帝の籠手を取り出し、祐斗と小猫に見せる。
「どうだ、イザイヤ?愛しい彼を失った気分は」
夕麻が祐斗をからかい、挑発させる。
祐斗は完全に冷静さを失い、夕麻に向かって我武者羅に攻撃する。小猫も加勢する。
夕麻はまたラジオで音楽を再生させる。流れてくる音楽の名前は『ソリッドステートスカウター』小猫の方を見ながら叫ぶ。
「俺は女性とは闘いたくない!」
だが相手に無視された。
夕麻は小猫の足蹴り攻撃を交わしつつ、祐斗との戦闘に集中するがゆえに後ろからキックを喰らい、地面に突っ伏す。祐斗がそれを見よがしに魔剣で倒れてる夕麻に突き刺す。
「間に合え!」
と夕麻が魔力で手に形成された刃(魔光刃)が真っ直ぐに伸びて、祐斗の脇腹の部分を貫いた。夕麻はゴクウブラックの技を模倣したのである。続いて夕麻は小猫の蹴り出した脚を掴み、
「小猫ちゃんの脚は滑らかで大好きだ」
と夕麻が言いながら、小猫の脚を下から上まで舌で舐めまわす。
小猫は顔を赤くしながらも、夕麻の顔面にパンチをする。夕麻は慌てて祐斗の体を盾にし、パンチを受けて二人一緒に1m位吹っ飛んだ。
「貴女は本当に気持ち悪いです。最悪」
とポケットからハンカチを取り出して、夕麻に舐められた部分を拭く。
「小猫ちゃん、有難うよ。これから何をするか分かるよね?ヒントはアーシアだぜ」
と夕麻が光の翼で3m位の空中に浮き、涼しい表情で小猫に呼びかける。
「しまった!」
「それでは」
と言いながら、夕麻が祐斗の胸に手を突っ込み、魔剣創造(ソード バース)と聖剣創造(ブレード ブラック スミス)を取り出して王の財宝の中に仕舞い、カラワーナ、ミッテルト、ドーナシークの三人を中から引っ張り出す。光で形成された巨大な手で祐斗を空中に放り投げ、
「塵となれ、イザイヤ。か〜め〜は〜め〜波!」
と夕麻が魔力でかめはめ波モドキで祐斗を消した。
爆発音でカラワーナ、ミッテルト、ドーナシークの三人が目を覚ました。爆発の衝撃で辺りがガラスのように割れ、一面が白い空間に包まれた。
1.19 白い空間での対話
「此処はどこっすか!」
「私達は死んだはずじゃ!」
「レイナーレ様?!」
ミッテルト、ドーナシーク、カラワーナは自分達、そして上司がも居ることに驚く。
「よぉ、ミッテルト、ドーナシーク、カラワーナ。」
(確かカラワーナの中身は全裸だったはず。何か全身からいい匂い考えただけでムラムラする。)
夕麻は顔を赤くしながら、カラワーナに歩み寄る。
「いっ、一体どうなされたのですか?レイナーレ様!」
とカラワーナが後ずさる。
すると夕麻が
「そこに立って、絶対に動くなよ!」
と低い声で言い聞かせる。
「し、しかしですね?」
とカラワーナがたじろぐ。
「しかしもかかしもない、これは上司からの命令だ!いいな、動くなよ」
夕麻が口調を強くする。
「は、はい!」
「じゃあ、まずはそのボディコンスーツを脱げ!」
カラワーナが自分の服を両手で掴み、ブンブンと首を振る。
「脱がないっていうなら、俺が替わりに脱がせてやるぜ!」
夕麻がカラワーナの両手を解き、スーツを脱がそうとする。
「「「なっ?!」」」
三人の堕天使が困惑する。
「ドーナシーク、なんか知らないけど姉さまってバイだったっすか?」
「いや、私達が知っているレイナーレ様は健常なお方だった筈。此処にいるレイナーレ様は何故か雰囲気が確実に違う。口調もカラワーナより男だ、それにあの格好はレイナーレ様の好む露出度の服ではない。私の言ってることが分かるな?ミッテルト」
「それじゃ、私達と同じ空間にいる姉さまは違う人っていうことっすか?!」
とミッテルトが、カラワーナの服を脱ごうとする夕麻をみて動揺する。無理もない。自分達の慕っている上司が知らない間に性格が変わるどころか外見が似てるだけの他人に為り替わっているのだから。
「そうよドーナシークとミッテルト、此処にいる彼女は私と姿が同じだけの他人よ!」
ドーナシークとミッテルトの近くの何もない処から突然、レイナーレがほぼ全裸で堕天使の姿で現す。
「「「レイナーレ様(姉さま)!」」」
夕麻もカラワーナのスーツから手を離し、レイナーレの方へ向く。
「この白い空間が現れた時からもう分かってたよ。今、この夢で俺が憑依しているこの体の元々持ち主のレイナーレさん」
と夕麻がレイナーレに語る。
「なんだと?それならレイナーレ様の体から出て行け!」
とカラワーナが光の槍を形成して夕麻に向かって戦闘態勢に入る。残りの二人もカラワーナと同じように夕麻に対して警戒する。
「やめなさい!貴女達じゃ彼女には勝てないわ」
とレイナーレが自分の部下に言い聞かせる。
「何故そう言い切れるのですかな?レイナーレ様」
とドーナシークが問う。
「うっふっふ、それは彼女が一誠が覚醒した状態でも普通に勝てたからよ」
そう彼らに伝えると、夕麻と一誠が戦って勝った映像と自分が一誠と勝負して負けた映像を三人に見せる。
「姉さま、その映像はどこから持ってきたっすか?」
とミッテルト。
「それはね、自称二次元の管理者っていう女性からもらったのよ」
次にレイナーレが夕麻の前世の殆どを三人に語りだす。
※ ※ ※
三人がレイナーレの話を聞き終えた後、
「そうだったっすか?ウチらの死を悲しんでくれるなんて天斗君愛してるっす!」
ミッテルトが夕麻に抱きつく。
「じゃあ、俺の女になってくれ!」
夕麻がイチャイチャ百合契約書をミッテルトに差し出す。
「ここに自分の名前を書けば、不老不死とランダム能力一つが与えられる。代償はただ一つ、一生俺の女になり続けることだ」
ミッテルトとカラワーナがお互いに顔を見つめ合い、レイナーレに首を向く。
「もう直ぐこの空間も消えるわ。だから、ミッテルトとカラワーナ、この契約書に名前を書きなさい。さもないと貴女達も消えるわ。」
「はい!」 「分かったっす」
契約書には一人目の名前“具志頭 美歌”が署名されていた。
二人は自分の名前を契約書にサインした。そして二人の体が光り、十秒後には光が消えた。能力を貰った証拠である。
「私はどうすればいいのかね?天野殿」
とドーナシークが尋ねる。
夕麻は絶対忠誠書をドーナシークに渡し、後者がサインをする。
「じゃあ、私の三人の部下を頼んだわよ」
「嗚呼、この三人を強くしてみせるさ!」
「レイナーレ様はサインされないのですか?」
とカラワーナが質問をする。
「身体が無い状態でサインしてもエラーになっちゃんだよ」
夕麻がカラワーナに説明する。それを聞いた三人は涙ぐむ。
「仕方ねぇ、俺がレイナーレの“至高の堕天使”の意志を受け継いでやるよ」
「そうして頂戴。時間がそろそろ来たから、もう逝かなきゃ」
レイナーレが透明になって最後は消えていく。同時に夕麻達も透明になって現実の世界に帰っていった。
1.20 9ヶ月間の出来事
夕麻がミッテルト、カラワーナ、ドナシークを現実の世界に連れて来てから、9ヶ月が経った。その間に起こった話をしよう。
夕麻が夢から目を覚ますと同時に、天井から大きい空間が開いて、その中からミッテルト、カラワーナ、ドナシークの三人がベッドに落っこちる。それを観た多紀と美歌は口を開けてポカーンとしていた。夕麻が多紀と美歌を三人に紹介する。
「よろしくっす!」
「よろしく頼むぞ、二人とも」
「よろしく、多紀殿、美歌殿」
とミッテルト、カラワーナ、ドナシーク。
「本物だ、声も全く同じ!」
多紀がミッテルトとカラワーナをペタペタと触りながら呟く。
「夕麻殿、聞きたいのだが何故に多紀殿は私との距離をとっているのだ?」
とドナシークが分からないという表情で夕麻に問う。
「嗚呼、それは多紀の弟の友達が彼女の尻を触ろうとしたところ、俺に見つかって多紀と一緒にボコボコにした後に、男性嫌いになったのさ」
夕麻が説明する。
「夕麻が寝ただけで、アニメの中の人物が現実に登場するなんて理解不能だ」
と美歌が自分の額を押さえる。
夕麻が美歌に、夢の中で起こった事を包み隠さず話す。自分が一回目は三人を救助し、リアスと姫島朱乃を睡眠弾で気絶させ、二回目はアニメの中のレイナーレになり、兵藤一誠や木場祐斗との戦闘で圧倒的に押して勝利した。最後はレイナーレに会い、三人と契約し、現実に連れてきたという終始。
「聞き忘れたけど、ミッテルトとカラワーナが貰った能力は何だったんだ?」
と夕麻が好奇心に満ちる。
「ウチは透明化の能力っす!」
「私の能力は八門遁甲だ!」
「それってナルトのマイトガイが使ってる技だよな!チャクラじゃなくても問題ないのか?」
「問題なく使える」
とカラワーナが即答する。何故ナルトのことを知っているかというと、能力をもらった時にその情報も頭の中に入ってきたからである。ちなみに絶対忠誠書は不老不死と能力はもらえない、だからドーナシークは損した形で夕麻に忠誠を誓った。
夕麻達の家に空き部屋はもうないから、堕天使三人は美歌の家に住む事になった。
夕麻は5月、6月、7月は学校で数学と国語のテストをしながら音楽や図工、家庭科などの授業を受ける。苦手な科目は音楽と図工。音楽は苦手というか小学一年生の音楽には興味を示さない。夕麻が好きなのは自分をハイテンションにしてくれるアニメの音楽。図工が苦手なのは、絵を描くこと。丸やバツしか描けない。どんなに練習しても全く駄目。
休日は、近くにデートの名目でピクニックや遊園地に行ったり、お互いに感情をより深め合った。7月の下旬は誰もが期待している夏休み。しかし、悪い知らせは夏休みには必ず宿題があること。でももう一つ良いことはなんと夏休みから小学校や中学校にプールが開催されること。夏休みに、夕麻は書初めや国語や算数のテキストをテキパキと三日間終わらせて、プールに行ったり、美歌の家で美歌やミッテルト、カラワーナと互いにディープキスを交わして、果報者な生活を過ごしている。カラワーナも八門遁甲に相応しい体になるために、毎日一つ500gの重りを4つ体につけて、体を鍛えている。9月には、一つ850gの重りをつけて、第一門開門を開けるようになった。11月には一つ1.5kgの重りをつけて、第二門休門を開けるようになった。
その後は、クリスマスツリーを飾って、12月25日の夜には、天野一家と堕天使3人と美歌でワイワイ騒ぎ、1月にはカラワーナが一つ2kgの重りをつけ、第三門死門を開けるようになった。
夕麻も一つ500gの重りをつけ始める。
そして2000年2月に入る。
1.21 百合のバレンタインデー
2000年2月14日 日曜日、バレンタインデー。他の国では男性が女性にチョコをあげるけど、日本ではその逆。
前世ではバレンタインは天斗にとって無縁だった。小学生の時も中学生の時も高校生の時も、本命のチョコだけじゃなく、義理のチョコさえもらえなかった。俗にいうモテない系の人間である。もらったのは天斗が覚えている限り、たったの一回。それも自分の母親からもらったのである。チョコを夕麻にあげる人がいないから、毎回自分でコンビニで買って、寂しく一人で齧って、店員に哀れな目線で見られる。それで、大人になっていく内に天斗はバレンタインに興味が無くなってしまった。会社で同僚に「今日は何の日か知ってるか?バレンタインデーだ」
と言われても、天斗はクラウドみたいに
「興味ないね!」
と返す。
「なんだその反応は!お前と話しするとしらけちまうよな。だから童貞ってやつは」
と同僚がチョコを手に持ちながら吐き捨てて去っていく。
「リア充め、俺だって彼女が欲しいよ!あれ?そもそも俺に彼女いたっけ?胸のポケットに何か入ってるぞ!」
そう疑問を抱えながら、胸のポケットに手を入れて取り出すと、4枚の女性の写真であった。写真の裏には、それぞれ名前が書いてあった。それは、“ミッテルト” “カラワーナ” “天野多紀” “具志頭 美歌”。天斗が写真を見つめながら胸が締め付けられるように痛くなる。そして頭の中に夕麻の記憶が入ってくる。
「多紀、美歌、ミッテルト、カラワーナ。邪堂院 天斗としての俺はもう死んだんだ!今の俺は天野夕麻だ!」
と叫ぶ。
「おい邪堂院、大声を上げられたら他の人に迷惑だぞ!静かにしろ」
と主任が注意する。
「幻影が俺に指図するな!」
と天斗の体が崩れ、6歳の夕麻の姿が現れる。
「ば、化け物だ!」
とオフィスにいる全員が外へ逃げていく。
会社の周りも真っ黒になり、夕麻がベッドから目を覚ます。時刻は8時30分。隣に目を向けると、多紀も丁度目を覚ましていた。
「多紀ちゃん、夕麻ちゃん、美歌ちゃん達がもうすぐ来るわよ!さぁ早く起きて」
と礼亜がドアを開けて夕麻に声をかける。
「分かった!直ぐ行く」 「了解」
夕麻はせっせと服を着替え、歯磨きをして朝食にする。
ピンポーン
「はーい!」(来た来た)
多紀と夕麻が玄関のドアを開けると、美歌と三人の堕天使とドナシークの左手に両手で繋いでる女性が立っていた。アジア人とヨーロッパ人が混ざった様なハーフの顔、茶髪でカジュアルな外ハネミディアムヘアーに茶色の瞳に眼鏡、唇の右下には他人を魅了しそうな小さいほくろ。着てる服はチャイナドレス。
「「「「「おじゃましまーす(するっす)」」」」」
ドナシーク以外、全員チョコレートを作る材料を持参してきた。
(へぇ、ドナシークにも彼女が出来たんだな)
と思いながら、その女性に
「どうも初めまして、天野夕麻です。お姉さんはドナシークさんの彼女でいらっしゃいますか?」
と挨拶しながら確認する。
「ええ、そうよ天野ちゃん。私の名前はアンボーンよ、タイでは“隠された幸運”という意味よ、素敵でしょ?」
アンボーンがしゃがみ、夕麻の頭を右手で撫で撫でしながら聞く。
「お姉さんの名前素敵ですね。日本語がとても上手ですね。何処で学んだのですか?」
「日本に来てから自分で一生懸命習ったのよ。」
「タイの方って、日本の文化大好きですよね」
「ええ、そうなのよ」
「じゃあ、これからもドナシークさんを宜しくお願いします」
「ええ、私もそのつもりよ」
とアンボーンが微笑む。
「夕麻、今日はお前に私達の本名のチョコを作ってやろう」
とカラワーナが夕麻に向けてニコッとする。
「そうっすよ。今日は夕麻ちゃんという恋人のために最高のチョコを作ってあげるっす!」
とミッテルトがはしゃぐ。
多紀と美歌もお互い視線を交わし、夕麻の顔を見つめながら表情を 緩める。
「ありがとう、俺は自分でチョコが作れないから、コンビニに行って来る」
と夕麻はコンビニに行く準備をする。
※ ※ ※
夕麻は近くにあるコンビニの中に入り、チョコを探す。
(うーむどのチョコにしようか、あった!)
夕麻が見つけたのは、黒茶色の色をした女性と両側には同じ色の翼らしき形をしたチョコレートと白い女性と頭の上に丸い輪、肩には白い翼らしき形をしたチョコレートが並べてあった。
夕麻は黒茶色のチョコレート二つと白い方のチョコレート一つと女性同士がキスしてる形のチョコを四つ買って家に帰った。
「ただいま」
と言いながら夕麻はミッテルト、カラワーナ、美歌、多紀にそれぞれチョコを配る。
昼の三時にはチョコも出来上がり、全員揃って食べる。
「ミッテルト、カラワーナ、美歌、多紀の作ってくれた本命のチョコやっぱ美味い。来年も食べたい」
と夕麻が感想を述べる。
「アンボーンの作ってくれたチョコも美味しいぞ」
とドナシーク。
夕方になると、美歌達が夕麻達に別れを告げ、帰っていった。
1.22 人類滅亡の予言
2000年4月1日、小学校や中学校は全て終業式を迎え、既に春休みの後半。
9時になると、夕麻と多紀が一緒にソファでアニメを見終わると、次にコマーシャルが15分間くらい流れ、オカルト番組に入る。
「今日の番組の内容は何かな?ワクワクするね、夕麻」
と多紀が年齢相応に振舞う。
「嗚呼、良い内容だといいんだがねぇ」
と夕麻がため息をつく。
「どうしたの、夕麻?溜息なんか吐いたりして」
多紀が心配しそうにする。
「なんか直感がこれから放送するのは良い内容じゃないって訴えかけてくる。多紀が観たいのなら、一緒に観ようじゃないか、始まった、始まった」
『今日もオカルト番組を皆様にお届けしたいと思います。今日の内容は、ジャジャン!未来予言!そして今日のゲストはなんとあの、百発百中予言が当たるという噂をされる、千里 未来様(65)にお越しいただいて参りました。千里さん、よろしくお願いします』
と司会者言い終わった途端に、千里未来が下から舞台に上がり、
『こちらこそ、よろしくお願いいたします』
と司会者にお辞儀をする。司会者も勿論お辞儀をし返す。
『あの早速ですが、最近千里さんは何か予知されませんでしたか?』
と司会者が単刀直入に質問をする。
『そうですね、最近何個か予知しましたね』
『それでは、テレビを御覧になっている皆様にお教え願えますか?』
『すなわち“人類の滅亡”です。』
と予言者千里未来はきっぱりと言う。
『冗談ですよね、いくらエイプリルフールの日だからって。止してくださいよ』
『私は至って本気です。私は一昨日寝てる時に、3年後の未来にタイムトラベルしました。そして観た光景はとてもおぞましいものでした。日本とある処で謎の奇病が発生し、致死率は100%。昨日は2004年にタイムトラベルし、そこでは赤い目をし、凶暴化とした感染者達が普通の人間を襲い始めます。さらにその奇病は何年後かにとあることで全世界に広まります。最後に西暦3000年頃には人間はもう絶滅して、レプリカントとなる者達が人間の代わりに存在しています。もっとその先の西暦5000年くらいに宇宙人が地球侵略をしてきます』
『人類が滅亡した世界で、地球は簡単に宇宙人の手に落ちちゃうじゃないですか!』
と司会者は思わず声を荒げそうになる。
『それについては心配無用です。何故なら西暦1万年に宇宙人は自分達が造った機械生命体とやらに滅ぼされるからです。』
と未来が説明する。
『そして機械生命体が地球の支配者になっちゃうってことですか?』
『彼らはほぼ地球を制圧してるから、そうなりますね。でも機械生命体と敵対する勢力もいます』
『それは機械生命体の勢力が分裂したってことですか?』
『いいえ、ほんの一部しか分裂していません』
『ではその敵対勢力とは幾つあるのでしょうか?その構成員達は何者でしょうか?』
『まず、その勢力は二つあります。一つはレジスタンスという組織です。もう一つはヨルハという組織です。両組織の構成員は全員アンドロイドです』
『あの疑問に思うのですが、アンドロイドって人間が造ったのですよね』
『ええ、そうです。アンドロイド達は人類のために5000年間機械生命体と戦い、地球を奪還しようとするのですが、敗北し続けます』
『最後に決着の行方はどうなったのですか?』
『機械生命体のネットワークで、アンドロイドの殆どが奇病の様な赤目になってしまい、精鋭アンドロイド二人組と戦い滅びました。もちろんその二人組も少なからず感染し、一人はオリジナルタイプに殺してもらい、もう一人は反目の対象と一緒に機械生命体の黒幕を倒します。最後は一騎打ちをして両方倒れて終わりです。』
と言い終えたところで一息ついて水を飲み干す。
『貴重な情報ありがとうございます、それでは本日はこれを持って、オカルト番組を終了いたします』
番組を見終わった後は夕麻がリモコンでテレビを消す。
(カイムとアンヘル、そしてあの真っ白い母体がこの世界に現れなければ、人類は滅亡しなくてすむ。でも現れた場合はどっちにしろ死からは免れない。前世でも2012年に終末予言なんてあって、俺の周りでもこれが話題になってたな。結局その予言は外れたけど。でも二次元の管理人が紙に書いてあったのは本当だしな。待つしかないってことかよ!)
夕麻が考えていると、多紀が心配そうに両手で夕麻の袖を掴む。
夕麻は多紀を安心させるように言い聞かせる。
「大丈夫、その時は俺が全力で護ってやる」
その日以来、この“人類の滅亡”予言は日本だけではなく、全世界にも炎上することになる。それに対して人々の間では賛否両論に別れて、ツイッターやユーチューブで言い争うことになる。ちなみにこの世界でのツイッターやユーチューブは90年代に設立されたのであった。
1.23 駅での出来事
2000年4月5日木曜日朝8時半に、多紀の携帯に電話がかかってきた。
このまま 歩き続けてる 今夜も真っ直ぐ 一人の足跡たどって 果てしない だけど君だけは笑顔絶やさずに
「もしもし、嗚呼美歌。今日は時間あるかって?もちろんあるよ。家にいたら、暇で暇でしょうがなくて。夕麻を連れて10時に秋葉原の電気街口で待ち合わせ?ミッテルトとカラワーナさんも来る?ドーナシークさんは彼女とデートするから来ないと。昼食と夕食も外で?分かった。じゃあまた後で」
と話を終えてから携帯を切る。
5分後に夕麻がトイレから部屋に戻ってくるのを見計らって、多紀が
「先程美歌から電話が掛かってきて、10時に秋葉原の電気街口で待ち合わせだって。ミッテルトとカラワーナさんも来るよ。ちなみに昼食と夕食も外で一緒にするから」
と夕麻に伝える。それを聞いた夕麻は、
「分かった、お母さんに言っとく」
と階段を下りて礼亜に事情を説明する。
9時前に多紀と夕麻はそれぞれ外出の準備をする。
夕麻は灰色の長ズボンに白と黒の模様の囚人服の様な服を着て、コートは王の財宝から取り出したキングダムハーツの13機関のメンバーが身に着けている黒いコート。多紀はミニ丈プリーツスカートに灰色の長袖の服。
そして9時になると、二人は靴を履き終えた後に
「「行ってきます」」
と礼亜に言ってドアを開ける。
「二人共、気をつけていくのよ」
※ ※ ※
多紀と夕麻は新宿駅に着き、秋葉原までの切符を買う。多紀は大人料金の170円の切符を購入し、夕麻は子供料金の80円の切符を購入する。続いて二人は改札口で切符を入れてから秋葉原方面と書かれている方の山手線の駅に行き、そこで電車を待つ。待ってる間に、夕麻は自動販売機でカフェオレとCCレモンを買い、カフェオレを多紀に手渡す。
二人で飲みながら談笑していると、突然髭面に汚い服を着た40代の男性が発狂する。
「後三年で神は人間に審判を下す!人間は神にとって、只の失敗作だったんだよ!人間はな、神に見捨てられたんだよ!人間は存在することすら神に認められない!だからこの世界に存在する全ての宗教は無意味だ!恐怖、絶望、死滅、それらが人間に残された道なのだよ!ハッハッハッハッハッハ!」
そして彼は6人のJR職員に取り抑えられ、
「精神科へ運ぶぞ!」
と運ばれていった。
野次馬達も散っていく。
「夕麻、さっきの人の目なんか赤くなかった?」
と多紀がおそるおそる夕麻に聞いてみる。
「確かに赤かったな、やばいくらいに」
と夕麻が答える。そしてある確証を得るために、年相応の振りをして近くにいる駅員に質問してみる。
「あの、おじさん」
「ん?どうしたの、お譲ちゃん?」
と駅員が頭に?マークを浮かべる。
「さっきのへんなことをいってたおじさんって目赤くなかった?」
「うーむ、赤くなかったな。おい佐藤、さっきの奴の目赤かったか?」
「いいえ先輩、通常の黒だったのですけどね」
「っていう訳だ、お譲ちゃん。幻でも観たんじゃないのか?夜はちゃんと寝た方がいいぞ」
「おしえてくれてありがとう、おじさん」
と夕麻は礼を言い、多紀の処に戻る。
「夕麻、何話しかけてたの?」
と多紀が興味津々になる。
「多分俺の推測だけど、普通の人じゃ赤目が観えないらしい」
「えっ!」
多紀が驚く。
「例えると、霊能力が備わっていて、幽霊が見える人とそうでない人がいるよね。そういうこと」
「なるほど!」
そして電車が来たから、夕麻と多紀はそれに乗って出発する。
1.24 電車の中でハプニング
電車の中で席が空いてないから、多紀と夕麻は立ってるしかない。夕麻の要望により、左手で手すりを掴み、右手は多紀の左手と繋ぐことになった。夕麻は立っている内に船を漕いでしまった。
「んっ、んっ、あぁ〜ん!」
(ん?誰か唸ってるぞ!まさか多紀!)
一気に目が覚め、夕麻が右側に頭を傾けると、多紀のスカートの中に手が突っ込まれて、触られていた。
(俺の多紀に痴漢するのは誰だ?絶対許さねぇ!)
夕麻は怒りを感じながら、その痴漢の手を力いっぱい握る。
「いった〜い!放して〜」
と女の声がした。
(あれ、男のゴツゴツした手じゃない!)
「ごめん、じゃなくて何で多紀のスカートの中に手を入れてんだよ!」
と夕麻がその女性に質問を投げかける。その女子は多紀と同じくらいの身長で、燃えるような赤い長髪に、碧眼、美肌、多紀と同じ美脚にクールな顔立ち。赤毛はもちろん地毛。
その女子は夕麻を無視して多紀の顎をクイッと持ち上げながら、
「へ〜、貴女の名前は多紀っていうんだ〜。可愛いなぁ〜、女の私でも惚れちゃうよ〜」
と女子が多紀に賛美を送った後に、
「あっ、そうだ〜。多紀ちゃん〜、何処の学校に通ってんの〜?」
と思い出したように多紀に問う。
「市立桜見中学校だけど?」
と多紀が不思議に思いながらも答える。
「そう〜、また会おうね〜チュッ」
と多紀の唇に自分の唇を重ねて去ろうとすると、夕麻が
「何勝手に人の唇にキスしてんだよ!」
とカッとする。
すると、その女性は初めて夕麻の存在に気付いたように
「あらあら〜、そこのおませちゃんも口付けして欲しいのかな〜?でも〜、私が好きなのは中学生位の年齢から35歳までの年齢の女性なんだ〜、ごめんね〜」
とおちゃけてみせる。
「そういう意味じゃない!多紀は俺の最愛な女なんだ!大切な女を他の奴に譲れる訳がないだろ!」
と夕麻が回りの怪しい視線にも気にせず、堂々と胸を張って言い切る。
多紀も顔を赤くし、夕麻の足を軽く踏む。
「へ〜、良く大勢の人の前で恥ずかしがらないで言えたもんだ〜。まぁ〜そろそろ私も降りなきゃいけないし〜、また今度お話をしようね〜」
とドアの前に歩いていき、西日暮里の駅に着くと電車を降りていった。
電車が再発車した時は、席に座っているバンダナを頭に巻いているオタク達がひそひそ話しをする。
「百合最高!」
「二次元でしか起こらない事がリアルタイムで観れるなんて!神様ありがたやありがたや」
「幼女と少女がもう一人の少女をめぐっての争奪戦!う〜、考えただけでお腹いっぱい!」
多紀には聞こえなかったけど、夕麻にははっきりと聞こえていた。続いて夕麻がオタク達に接近していく。
「さっきの幼女が俺達に近づいてくるぞ!」
「可愛いなぁ、もう俺、ロリコンになっちゃいそうだよ」
夕麻が彼らの前に立つと、
「お兄さん達、秋葉原で降りるんだよね?」
と訊く。
「そうだけど、お譲ちゃんもまさか秋葉原で降りるのか?」
「嗚呼そうだ、俺達と後三人で秋葉原を一日観光する予定だ」
「俺っ娘、キター!」
「お前は黙っていろ!いやーごめん、こいつはこうやって直ぐに調子に乗るから」
「いや、全然大丈夫。むしろ見てて楽しい。そうだ、このフィギュア達を貰ってくれないか?一人二つで」
と夕麻が3人のオタクに尋ねる。
(俺はフィギュアを集める趣味はないけど、王の財宝の中にあったから、オタクの人達に大切にしてもらおう)
出したのは、ブラマジガール、ミク、ジャンヌオルタ、セイバーオルタ、セーラーサタン、FF7のティファ。
「「「ありがとう!」」」
『次は秋葉原、秋葉原、お出口は左側です。Next Station is ……』
9時35分に電車が止まり、五人が電車を降りて、電気街口で別れた。
1.25 ゲームセンターで
9時50分、美歌とミッテルト、カラワーナが秋葉原の電気街口に現れた。3人を発見した多紀は、ピョンピョンしながら手を左右に振り、
「お〜い、こっちこっち!」
と大声で叫ぶが、人が多くて三人には聞こえていなかったらしい。
それを見た夕麻は多紀の腕を引っ張って、人混みを掻き分けて、三人に近づいて一番背が低いミッテルトのお尻をパシーンと叩く。
「いった〜、誰っすか!ウチの尻を叩く奴は!……って夕麻に多紀じゃん!驚いたっすからね」
とミッテルトが自分の尻を押さえ、後ろを振り向くと、立っていたのは多紀と夕麻だった。美歌とカラワーナもミッテルトの声で振り向く。
「私が大声で叫んでも美歌達が聴こえないから、夕麻のおかげで会えたんだから」
と多紀が口を尖らせる。
「聴こえない私達が悪かった、でも珍しく口を尖らせた多紀は可愛いなぁ、そう思うだろう?夕麻」
とカラワーナが夕麻に同意を求める。
「勿論、俺の多紀はどんな仕草をしても可愛い。そして俺の花嫁になった美歌、ミッテルト、カラワーナ、あんたらも同じように可愛い」
と夕麻は同意し、同時に三人を褒め称える。
「夕麻にそう言われると照れるっすよ」
とミッテルトが嬉しそうにする。美歌とカラワーナも同じ表情になる。
多紀は少し顔を曇らせる。それに気付いた夕麻は、
「どうしたんだ、多紀?いきなり暗い顔をして」
と夕麻が多紀の顔を窺う。
「夕麻も見たよね、私が夕麻のイチャイチャ百合契約書に自分の名前を書いたら直ぐに消えてエラーになっちゃうんだよね。それも5回くらい。私も美歌達のように不老不死になってずっと夕麻の傍らで支えたいっていうのに!」
と多紀が怨ずる。
「多紀、お前は俺の初恋の女だ!だから、イチャイチャ百合契約書にお前の名前が無くても、俺はお前を絶対に手放さないからな!まぁ、今はそんな事考えないで、一緒に秋葉の町を楽しもう」
「うん、夕麻の言う通りにする」
と多紀は頷き夕麻と二人で前の三人と並んで歩く。
五人がまず着いたのはゲームセンター。中には格闘ゲームやシューティングゲームにクレーンゲーム、測定ゲーム、ダンスゲーム、レースゲーム、太鼓の達人等。ゲームセンターでは人がいっぱいで埋まっていて、殆どが10代から30代の若者ばかり。そして、左の方向のクレーンゲームの所からカップルの声が聞こえる。
「アタシ、このミッキーマウス欲しいな、もしゲット出来たら、なんでも言うことを聞いてあげちゃうぞ!」
「えっ、マジで?!やってやるぞ」
右側にはダンスゲーム。ダンスゲームでは台が二つあり、どっちとも一人の眼鏡をかけた男性と一人の女性が踊っていて、左の男性は音ゲーを、右の女性はダンスを楽しんでいる。そして二人とも踊り終え最後のポーズを決めると、周りから盛大な拍手が送られた。
「私はこれにしようかな」
カラワーナはパンチングマシンの前に立ち、百円のコインを入れてゲームを開始する。
「腕が鳴るな!」
とカラワーナが自分の指をポキポキと鳴らす。
ミットが上がると、カラワーナは一発目のパンチを繰り出す。
バッコーン!
ミットが倒れ、画面に“980.99”と表示される。
「この高身長の女性すっご!」
「なかなかやるな!」
二回目は“998.23”と表示され、この成績がこの日の一位となる。
ミッテルトと多紀がそれぞれ百円を投入して、機動戦士ガンダム連邦vs.ジオンのアーケードゲームを始める。ミッテルトが選択したのはトリコロールのガンダム。多紀が選択したのは宇宙ではガンタンク、地球ではジム。ミッテルトの方はダメージを沢山喰らいながらも、なんとか多紀のフォローがあったおかげで次のステージへ進んでいく。しかし、最終ステージのボスのシャアの駆るジオングに翻弄されて、ゲームオーバーになった。
「悔しいっす、最後のステージで負けちゃうなんて」
とミッテルトがぼやく。
「
ただのゲームなんだから、悔しがることはないって」
と多紀がミッテルトの頭を撫でながら励ます。
夕麻と美歌は二人で“ハウスオブザデッド”というシューティングを楽しんでいた。
「ええい、このこの!ゾンビが沢山ぞろぞろと沸きやがって」
と美歌がうんざりする。
弾が切れたと同時に沢山のゾンビに囲まれて、ゲームオーバーになった。
「嗚呼、手首も疲れてきた」
美歌がブンブンと両手を上下に振る。
「俺も美歌と同じだ!」
夕麻はそう言いながら、自分の手をもう一つの手でほぐす。
時間があっという間に過ぎて、ちょうど12時になった。
五人はゲームセンターを出て、メイド喫茶に向かった。
1.26 赤で統一されたメイド喫茶店
「秋葉のメイド喫茶ってたくさんあるんだったな、どこにしようか?」
と美歌がアキバガイドブックを手にしながら、残りの四人に訊いてみる。
他の四人でアキバガイドブックを覗きながら、
「前世で俺はメイド喫茶なんて行ったことないから、任せる」
と夕麻。
「メイド喫茶なんてどこでも同じっしょ」
とミッテルト。
「この“大いなる赤の愛”っていうメイド喫茶なんてどう?」
と多紀がガイドブックに載っている一軒のメイド喫茶を指す。
「確か最近できた喫茶だったな。なんていうか、店内は電灯以外赤一色でできていると聞く。普通のメイドの服は白と黒だけど、この喫茶店のメイドの服、スカート、靴は赤色だな。全部店長の興味らしい。店長の名前は赤羽赤矢、45歳だそうだ」
カラワーナが“大いなる赤の愛”の喫茶店の情報について簡単に語る。
「このオッサンさ、赤に執着し過ぎっしょ!名前に“赤”という漢字が二つも入ってるしー」
とミッテルトが店長の拘りに呆れる。
「ミッテルト、他人には他人の事情があるんだし、一々気にしたって意味ないよ」
と多紀がミッテルトを指摘する。
「実はこの店長にはとある噂が立っていてだな、毎日開店中でも閉店後も色んなバイトの女の子と性行為をしているらしいってさ!家でも実の娘や30歳の実の妹とで3pプレイしてるだとか。果ては、女性の客にも手を出していると聞く」
カラワーナが更に付け加える。
「あくまでも噂だろ?だったら、入って確かめてみればいい話だな!相手はただのオヤジだし、なんかしてきたら、美歌とミッテルト、カラワーナで押さえられるし」
と夕麻が説明する。
「夕麻の言う通りだな、では行こう」
と美歌が賛同し、一同は10分くらいかけて看板に“大いなる赤の愛”と書かれている喫茶店に着き、扉をあけて入っていく。
カランカラン
「何名様でいらっしゃいますか?」
一人の赤いメイドの服を着た10代の女子店員が笑顔で夕麻達に尋ねる。
「五人っす」
ミッテルトが五本の指を立てながら教える。
「畏まりました。ではご挨拶を、お譲様方のご帰宅です、お帰りなさいませお譲様方」
とメイドがメニューを五人に渡し、一礼して去っていく。
「それにしても、壁や机、椅子、カーテン、メニューに載ってる物みんなガイドブックの通り、赤で統一されてるんだね」
多紀は周りを見ながら感心する。
夕麻が席に座り見渡すと、ほとんどの客が男性で占められている。中にはメイドと楽しく談笑してる人達もいる。
五人がメニューを捲りながら、手を挙げてオーダーする。
すると赤く、胸の半分を曝け出したメイド服を着て、茶髪で童顔巨乳の女子がテーブルの前まで来て、透き通ったような声で、
「お譲様方、ご注文はお決まりでしょうか?」
と訊きながら、同時に手には白い紙と赤いボールペンを用意する。
他の四人が注文してるなか、夕麻だけがその女の子の美貌と胸に視線が離れられないでいる。
(俺はどうしちゃったんだろう?なんかその子の着ているメイド服を直ぐにでも破り捨てて、そのムチムチボディに乗っかって、でっかい胸を触りながら発情したい!)
『アハッ!あんた女の子なのに、アタシの美貌と胸に魅了されちゃったの?面白いレズビアンちゃんだね!でも駄目だよ!アタシは男にしか興味ないからさ!』
(俺の頭に響いてきた声はテレパシー?!そして他人の心を読めるという“読心術”?!)
『あったり〜!でもご褒美はないからね!』
「夕麻、どうしちゃったんっすか?ずっとメイドさんの胸に目がいちゃって!あ、まさかウチラの胸だけじゃ飽き足らず、よその子の胸も触ろうと考えてるんじゃないっすよね!」
とミッテルトがわざと悲しげな仕草をする。
夕麻がはっとしてミッテルトの方を見れば、後者はニヤニヤしていた。他の三者は優しい目で夕麻を見つめている。
「お譲様、ご注文はお決まりでしょうか?」
先ほど夕麻の頭に響いてきたのと同じ声が夕麻に問う。
「この赤色の餃子と赤い梅ジュースで」
「はい、かしこまりました。少々お待ちください」
と童顔巨乳の女の子が再度一礼してから、去っていく。
少ししてから、違うメイドが頼んだ物を運んできた。
「では、ごゆっくりどうぞ」
ミッテルトはトマトジュースに赤いオムレツ。カラワーナはレッドアイに赤色の茶碗蒸し。美歌は赤いオレンジジュースに赤いチャーハン。多紀は赤いカレーライスに赤いワンタンメン。
食事しながら、夕麻が今日電車の駅で起こった事と先程のメイドの特殊能力の事を話す。
「そういえば、私達も道で一瞬目が赤色に染まった人達を何人か見かけたな」
と美歌が語る。
「赤目になるということは、絶対にそれなりの原因があるはずだ」
とカラワーナが言い出す。
完食後は五人そろってレジで会計時に、奥にある“関係者以外立ち入り禁止”と紙が貼ってあるドアの中から喘ぎ声が聞こえてくる。
「噂通りのようだな、この店はもう店長のハーレムの巣窟と化している」
カラワーナの発言に一同が頷く。
1.27 赤の天使化計画
夕麻達が食事をしてる時、奥にある“関係者以外立ち入り禁止”と紙が貼ってある部屋ではベッドがあり、その上には、全裸の男女が最後の一発を終えてお互い汗だくの状態で抱き合っていた。周りには服やズボン、靴などが散らかっていた。赤いベッドシーツには白いベタベタな液体が染み付いていて、部屋中匂っていた。だがそれはかえって二人を興奮させる。男性の方は背中から赤い翼が二翼生え、女性の方は同じ色の翼が六翼生えた。下の男性器は勃たなくても女性の秘部に挿し込んだまま、男性は愛しそうに指で相手の乳首をツンツンと突付く。それに対して女性は喘ぎながら痙攣し、乳首から“ビュッビュッ”と白い汁が飛び散る。
「ブラッドリー、お前のそのムチムチした体と巨乳、何十年間肉体を貪り合っても飽き足りないくらいだぜ。で、今日はその体でまた人間の男共を虜にしたんだろ?」
「アハハ、嫉妬しちゃった?赤矢。今日アタシ、小さい女の子を虜にしちゃったんだ!その子、アタシを見て、何を考えてたと思う?」
「俺はその餓鬼じゃあるまいし、分かるかっつうの?」
「チッ、つまんないの〜!もうアタシ、気持ちが冷めちゃった!アタシの下に挿しているその肉棒、早く取ってくんないかな?」
と女性の天使の態度が急に一変し、男性の天使に対してぶっきらぼうになる。男性の天使はやれやれと心の中で嘆きながら、子供をあやすように女性の天使の頭をなでなでしながら話しかける。
「ごめんね〜、ブラッドリーちゃん。酷い態度で対応した俺が悪かったよ。だからさ、続きを教えてくれよ〜」
「アハッ、赤矢はいつもそういう時だけアタシを子供扱いするんだから。でも赤矢のそういうところ好きだよ!あの百合っ子の名前、確か夕麻っていったっけ?アタシを見た瞬間、“俺はどうしちゃったんだろう?なんかその子の着ているメイド服を直ぐにでも破り捨てて、そのムチムチボディに乗っかって、でっかい胸を触りながら発情したい!”だって!夕麻と一緒にいた四人の女も夕麻と関係が友達以上だったし、まさかハーレム要員だったりしてね!」
女性の天使もといブラッドリーが愉快そうに会話を弾ませる。このブラッドリーという名前の女性の天使こそが、夕麻達にメニューを渡し、夕麻にテレパシーと読心術を使った、栗色の髪に童顔巨乳のメイドの正体であった。
「あの餓鬼、まさかだと思うが俺のブラッドリーをNTRしようとしてるんじゃないだろうな?それでブラッドリーちゃんは何て返したんだ?」
男性の天使もとい赤羽赤矢がブラッドリーに期待の眼差しをむける。
「“アハッ!あんた女の子なのに、アタシの美貌と胸に魅了されちゃったの?面白いレズビアンちゃんだね!でも駄目だよ!アタシは男にしか興味ないからさ!”って返したけど、アタシが信じられないわけ?!」
「いや、流石俺が見込んだ女だ」
赤矢は緊張が解れてブラッドリーの体の上で寝息を立て、寝てしまった。
※ ※ ※
赤羽赤矢は、元は人間だったが、20年前に大切な妻と娘をレイプ魔に襲われて、抵抗したところ、ナイフで五回刺された。娘はなんとか一命を取り留めたが、妻の刺された五箇所のうち一箇所が心臓で、直ぐに他界してしまった二日後にそのレイプ魔は捕まったが、一ヶ月後には処分保留で釈放された。赤矢は悔しくて悔しくてたまらなく、起訴したが全く相手にされなかった。そう続いていくうちに、赤矢はこの不公平な社会を憎むようになった。
“こんな腐敗した社会なんかとっとと消えてなくなればいいのに!”と。
「私達は、あの方の命令でお前達のような社会や政府に対して不満を感じている人間や犯罪者を探している。そして、その人間達を赤い二翼の天使に変える。それを私達は“赤の天使化計画”と呼んでいる。あの方は近い未来に、人間を静粛しようという考えをお持ちのようだ。お前も愛する妻を殺されて、如何することもできないだろう?なら復讐の力を与えよう。どうだ、我々に加わる気はないか?伴侶もつけてやるぞ!」
何処からともなく赤目に赤い十二翼を展開した男性の天使が現れる。
「あの方?この際どうでもいい、復讐が出来るのなら加わってやるよ!だが、ただで力をくれるっていう訳ではないよな!」
赤矢が赤い天使に問いかける。
「まずはさっきも言った通り、社会や政府に対して不満を感じている人間や犯罪者が第一条件だ。次に天使になりたければ、あの方に絶対忠誠を誓うことだ」
と赤い天使が簡単に説明する。
「だったら、俺は今すぐ人間を捨てて、あの方に忠誠を誓い、その赤い二翼天使になりたい!」
「よかろう!そなたの願い、聞き届けた。ハッ!」
赤い天使が両手を上に翳すと、赤矢の周りに赤い天使文字が出現し、五秒後に赤矢の体内に侵入していく。
「グァァァァ!」
赤矢が自分の頭を抱えてしゃがみ込み、苦しそうに喚く。
「言い忘れたが、これに耐えられないと体が爆発し、人生終了だ」
と天使が追い討ちをかける。
(死んでたまるか!俺は天使になって、社会に復讐するんだ!)
しばらくすると、赤矢の背中に一対の翼が生え、目の色も黒から赤に変化した。
「ようこそ、我ら赤の天使の陣営へ!赤羽赤矢。お前の伴侶となる天使を連れてきた、入れ!」
入ってきたのは、栗色の長髪を後ろに束ねた、童顔巨乳の六翼の女性の天使であった。
「アハッ、アタシの名前はブラッドリー バンドリー」
「俺の名前は赤羽赤矢、赤が大好きな天使だ!」
※ ※ ※
「ふぅ、またあの夢か」
と赤矢が目を覚まし、溜息をつく。
「アハッ、赤矢起きたんだ。はい、スイカジュースだよ」
台所から、裸エプロン状態のブラッドリーがスイカジュースを持って入ってきた。
「裸エプロン姿のブラッドリーも愛おしい、流石は俺の嫁だ!」
赤矢がスイカジュースを半分飲み、残り半分はブラッドリーの背中を流す。
「アハッ、気持ちいい!アッ、アーン」
赤矢はブラッドリーの喘ぎ声で、また自分の息子が元気になった。赤矢はブラッドリーを後ろから抱き、同時にビンビンになっている息子をブラッドリーのお尻の穴に挿し込み、背中についているスイカジュースを舌で舐めとる。息子を奥まで入れたせいで、ブラッドリーの前のところも息子があるようにみえる。赤矢はその出っ張ったところを掴み、自慰行為をする。しばらく二人の喘ぎ声は途切れることがなかった。
1.28 サバゲー大会
喫茶店から出て、夕麻達は30分間秋葉の公園に行き、そこで少しの間くらい歩いて、また次の目的地へ向かう。
「次はサバゲーでも行こうか」
多紀が唐突に提案する。
「ウチやったことがないから、気晴らしにやってみたいっす!」
とミッテルトがそれに賛同する。
「やったことのないものを一度楽しむというのも人生の一つだな!ミッテルト」
とカラワーナがミッテルトの頭部をパンパンと叩く。
「カラワーナ、痛いっすよ!ウチの頭部の細胞が減っちゃったっす!」
ミッテルトがカラワーナを殴ろうとするが、後者に簡単に避けられる。次第に二人の追っかけっこが始まる。
「ミッテルトにカラワーナ、そこまでにしておけ。他人に迷惑をかけるといけないからな!」
美歌が丁度追いかけっこしてる二人に注意するが、彼女らの耳には全く届いてはいなかった。
(俺が男だった頃は、サバゲーはあんまりしなかったしな。会社ではそういう仲間すらいなかった。休みの日は、家に篭ってネット小説読んだり、配信見たりと、とにかく一人の方が多かったんだよな!)
夕麻がサバゲーに付いて考えていると、サバゲーショップの前に着いた。店に入っていくと、壁に様々な銃が飾られてあった。夕麻達以外にも銃マニアやサバゲー好きな人達がいっぱい集まっている。
「色々な銃があるもんだな!銃マニアじゃないから、正式な名称は分からんな!」
カラワーナが銃を一つずつ目に焼き付けながら呟く。
「俺は銃類を良く間違えるな。ロケットランチャーとバズーカや、アサルトライフルとサブマシンガン、ミニガンとガトリングとか区別が全然つかなかったな。」
夕麻がカラワーナの隣で自分の考えを述べる。
「それは一理あるな!」
カラワーナは夕麻の考えに納得する。
『はーい、これからサバゲー大会を開催致します。参加になられる方はカウンターで参加料を支払い次第、サバゲーフィールドでお待ちください。参加年齢は13歳からになります。参加景品はBB弾一パックになります。観戦はこちらのテレビスクリーンで御覧になれます。費用は無料になります。そして今回の試合は4vs4の勝ち抜き戦になります。優勝者にはこの、黄金の色に塗装された二丁のM17が与えられます』
参加者達が応募して、サバゲーフィールドで待機していた。多紀達は初心者で、自分達の好きな銃をレンタルし終えて他の参加者達と合流した。夕麻は一人だけテレビスクリーンの前に目を向ける。
『ではその前に禁止事項を説明させていただきます。開始直後に敵陣目掛けての乱射、建物越しの曲射、跳弾狙いの壁撃ち、草むらに掃射、ゾンビ行為などといったマナーに違反するような事は止めてください。特殊能力をお持ちの方は、使わないようにお願い申し上げます。スタッフに注意されても聞かない場合、その時点で失格となります。では各チームから一人出てきて、この箱の中から番号が入っている紙を一枚取ってください。』
このサバゲーに参加している人数は全部で40人、チームの数は10チーム。多紀が箱の中に手を入れて、紙を一枚取り開いてみると、8番であった。
『それでは1番vs2番の試合を始めます。1番のチームと2番のチームは出てきてください』
※ ※ ※
『それでは4試合目を開始いたします。では各チームは出場準備をお願いいたします』
3試合が終わり、多紀達の出番が回ってきた。多紀はアサルトライフル、美歌はハンドガン一丁、カラワーナはサブマシンガンを2丁、ミッテルトはハンドガンを2丁装備。対して相手のチームには、“アカメが斬る”のキャラマインになった転生者がスナイパーを装備、二人目は時崎狂三になった転生者、ミッテルトと同じように二丁の銃。三人目はCANAANのリャン・チーになった転生者、アニメと同様に黒いハンドガン一丁。四人目はエンジェルビーツの仲村ゆりになった転生者、装備は銀色のハンドガン一丁。
『試合時間は10分間、相手を全滅するか、或いは人数の多い方が勝ちです。では始め!』
サバゲーフィールドはベトナムのジャングルを再現したもの。周りは緑に囲まれていて、緑色の軍服と緑の自然が一体化したような感じである。ミッテルトが敵を捜していると、同じツインテールの狂三とばったり遇う。
「今から貴女を倒して差し上げますわ!」
「それはウチの台詞っす!」
言い終えると、同時に銃を互いに向け引き金を引く。結果は、二人ともBB弾が当たり退場。
次にカラワーナvsリャン・チー。
カラワーナが左手のサブマシンガンを打つが、ギリギリのところでリャン・チーに避けられる。
「ヒャヒャヒャ初心者さんよ、当たらないってどういうことだ?」
リャン・チーがカラワーナに挑発するが、後者が咄嗟に危険を察知し、体を横に浮かせ地面に倒れる。同時に遠くから撃ってきたBB弾が前者に当たった。
「ちっ、ヒット、ヒット」
リャン・チーが手を挙げてヒットコールを宣言し、フィールドから退場した。
始まった瞬間、カラワーナもマインのスナイパーに撃たれて退場。
美歌と多紀は二人ががりでゆりを仕留めたが、結局はマインのスナイパーに撃たれて試合終了。
『はい、試合終了です。7番のチームが勝ちました』
(流石にスナイパーは伊達じゃないってことか)
夕麻はそう思いながら、レンタル品を返しに行き、戻ってきた四人と一緒にサバゲーショップを後にした。時間は午後4時を回っていた。
1.29 夕麻、未来のカードが入ってるデッキでデュエル
五人はそれから、自動販売機でおでん缶を10本買い、一人二本ずつ。
「おでん缶って美味いっすね♡」
ミッテルトが五秒で飲み干しながら、ベロで口の周りを舐める。
「なんなら、後何本か買ってやろうか、彼女の願いを叶えるのも彼氏としての務めだし」
夕麻はミッテルトを見つめ、微笑みながら尋ねる。
「じゃあ、売り切れになるまでバンバンコインを入れてっす♡」
夕麻はミッテルトの言う通りに、コインを次々に入れておでん缶を購入する。結果的には、十五本出てきてから、売切になった。
「ウチは全部飲み切れないから、みんなにあげるっす」
ミッテルトは一人に三本ずつ渡す。
続いて五人は秋葉のカードショップに入っていく。中には多種多様のカードが売られていた。遊戯王やデュエルマスターズ、ポケモンにヴァンガード。その中で一番流行っているのは、夕麻の前世と同じ遊戯王である。ガラスケースの中には、初期版ブルーアイズや初期版ブラックマジシャン、他にはウルトラレアのカードが置かれている。見渡せば、席にはたくさん対戦者がお互い座ってカードで勝負している。夕麻が各対戦者の机に近づき、カードの種類を見ればやっぱり遊戯王だった。夕麻は自分の両手を両側のポケットに手を突っ込み、カード入れのケースを取り出して、更にその中から遊戯王の二つのデッキを抜き出す。一つはエクゾディアデッキ、もう一つはユベル、ダークアームドドラゴン、ダークホルス、ダーククリエイターなど闇属性を主軸にしたデッキ。それらのカードはまだ2000年には存在しない。この時の遊戯王はまだ攻撃力重視である。しかもこの時のライフポイントはまだ四千。夕麻は対戦していいのかどうか迷ってしまう。
「おいそこの君、俺とデュエルしてみねぇか?」
夕麻が考えごとをしていると、不意に後ろから声がかかる。夕麻が振り返ると、帽子を被り、夕麻と同じくらい歳の男の子が立っていた。
「いいぜ!勝負してやる。どっちのデッキでやって欲しいか決めな」
夕麻はデッキを二つとも裏側にして、両手を前に出す。
「じゃあそっちで」
男の子が指さしたのは夕麻の左手。そしてお互い席に座り、それぞれのデッキをシャッフルしてじゃんけんをする。夕麻はパー、男の子はグーで夕麻が先攻。
「「デュエル!!」」
夕麻はデッキの一番上からカードを一枚引き、五枚の手札に加えて六枚になる。
「俺のターン、俺は『マッシブウォーリア』を攻撃表示で召喚。このカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。 このカードは1ターンに1度だけ、戦闘では破壊されない」
夕麻はカードをフィールドに出して、効果を説明する。
「おいっ、何だそのカードは!見たことも聞いたこともないぞ!」
(なんだってそのカードは後8年で発売されるんだからな)
夕麻はそう考えながらも口に出さず、トラップカードを三枚伏せて、男の子のターンになる。
夕麻の手札残り2枚 LP: 4000 デッキ残り34枚
「俺のターン、来た!手札から『心変わり』を発動!そのやっかいな『マッシブウォーリア』をターン終了まで俺のモンスターになる!そして、『マッシブウォーリア』を生贄に捧げ、出でよ『デーモンの召喚!そして手札にある『レッドアイズブラックドラゴン』と魔法カード『融合』で融合デッキから『ブラックデーモンズドラゴン』を特殊召喚!さらに『死者蘇生』で『デーモンの召喚をフィールド上に戻す。これで終わりだ!『ブラックデーモンズドラゴン』と『デーモンの召喚』で直接攻撃!」
「その時を待っていた!トラップカード『ガードブロック』発動!相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。 その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、 自分のデッキからカードを1枚ドローする。ドロー」
男の子の方は、仕方なく自分のターンを終了し、また夕麻のターンになる。
男の子の手札残り1枚 LP:4000 デッキ残り34枚
「俺のターン、ドロー。場に伏せてあるトラップカード『強欲な瓶』2枚を発動し、更に2枚ドロー。魔法カード『死者への手向け』で『ダンディライオン』を手札から捨てて、『ブラックデーモンズドラゴン』を破壊。『ダンディライオン』の効果発動!このカードが墓地へ送られた時に、自分のフィールド上に綿毛トークン(植物族・風・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する」
夕麻が説明し終えると、トークンカード2枚をフィールド上に置く。それを見た男の子は不思議そうにして夕麻に訊く。
「そのトークンってなんなんだ?また聞いたことのない名前が出てきたぞ!」
「トークンっていうのは簡単にいうと、普通のモンスターと同じってこと。だだしフィールドを離れると消滅する。まぁ一年後には、トークンに関するカードが発売されるからさ。さてそれはさて置き、死者蘇生で墓地の『ブラックデーモンズドラゴン』を特殊召喚し、手札からクリッターを召喚。そして、『ブラックデーモンズドラゴン』で『デーモンの召喚』を攻撃!そしてクリッターで直接攻撃してターンエンド!」
夕麻のフィールド ブラックデーモンズドラゴン1体 クリッター1体 綿毛トークン2体 夕麻の手札残り1枚 LP:4000 デッキ残り30枚
「へっ、お前なかなかやるじゃん、ドロー!、手札から魔法カード『強欲な壺』を発動!2枚ドロー。続いて手札から魔法カード『サンダーボルト』発動!お前のフィールド上のモンスターを全て破壊!」
「クリッターの効果発動!このカードが墓地に送られた時に発動する。デッキから攻撃力1500以下のモンスターを手札に加える、俺が加えるのは『封印されしエクゾディア』!」
夕麻が『封印されしエクゾディア』のカードを男の子に見せてから手札に加え、自分のデッキをシャッフルする。
「エクゾディアデッキだと!『幻獣王ガゼル』を召喚!!『幻獣王ガゼル』で攻撃!絶対に攻撃が通ったぞ!ははっ」
夕麻はこのデュエルで初めてダメージを喰らったかのようにみえたが、夕麻は笑顔を浮かべながら手札の一枚のカードを見せてから墓地に捨てる。
「ちょっとそのカードを見せてもらうよ!なになに『アルカナフォースXIV-TEMPERANCE』、戦闘ダメージ計算時、このカードを手札から発動できる。その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。はぁー?まるでクリボーじゃねぇか!いやクリボーよりやばいのは攻撃力と守備力が共に2000を超えているところ!」
男の子は効果を読んでると同時に、カードを持ってる手が震える。そしてターンを終了した。
男の子のフィールド 『幻獣王ガゼル』1体 手札残り1枚 LP:2300
夕麻は次の2ターン、それぞれスケープゴートとマシュマロンを出して、最終的にはエクゾディアのパーツが全部揃い、デュエルに勝利した。かかった時間は約一時間ちょっとだった。
1.30 三人組のレイプ魔
「やっぱり未来のカードは今の時代にとってチート過ぎたな!流石に除外効果やシンクロやエクシーズとか使ったら、大変なことになりそうだな!」
店から出て、夕麻が思いに浸りながら他の四人にさっきのデュエルについて語っている。
「出したら出したで、店員や他の人達に自分が作ったカードと勘違いされて追い出される可能性もあるしね」
多紀が続いて自分の考えを告げる。
「もしかしたらそれらのおかげで、夕麻が遊戯王のカードを制作する大企業会社からスカウトされたりしてな!」
カラワーナが冗談交じりに物言う。そして、四人は夕麻の方をむきながら“ぷっ”と笑みがこぼれる。夕麻はというと、苦笑いしながら頭を横に振る。
「どうしたんだ夕麻?!こんな顔をして」
夕麻が顔をあげると、美歌の顔がすぐ近くにあった。美歌は今日化粧したからか、普段より一段と綺麗になっている。白く雪のようにしなやかな髪、何より身体からはマシュマロのような香りが夕麻の鼻をくすぐる。夕麻は自分の右手を伸ばし、優しく美歌の髪を手に取って見つめる。
「前世は友達も恋人もいない俺にとって今は夢のようだ。今世は少しだけど友達も出来て、四人の美女をも嫁に出来たんだ!こんなにうれしいことはない!それに俺は前世で決めた事があったんだ!」
夕麻は前世に対する不満をぶちまけ、今世の幸せの喜びを演説するかのように語る。四人は静かに夕麻の話に耳を傾く。
「何を決めたっすか?夕麻」
ミッテルトがすかさず夕麻に疑問をぶつけてみる。多紀達三人も興味深々に夕麻が次に何を言うか胸がおどる。
「もし俺の介入がなければミッテルトにカラワーナ、あんたらはアニメ通りにリアスに殺されて、体ごと木っ端微塵になってた筈」
「うぅ、そうっすね」
「嗚呼、確かにそうなってたな!」
二人はそれを聞いて、悔しそうに拳を握り締めながらも、夕麻の続きの言葉を待つ。
「そう、俺の夢というのは本来物語の中で死んでいく女性のボスキャラやモブキャラを救済し、百合の一員にすることだ!偽善だと思うかもしれないが、それが俺のやるべきことだ」
「夕麻がやりたいようにやればいいよ、私達はずっと夕麻の味方だよ」
多紀が夕麻を励ますが、そこで夕麻が反論をする。
「味方じゃなくて、嫁だよ嫁!俺にとって味方より嫁の方が大事だ!」
「分かったから、落ち着け!夕麻」
カラワーナが夕麻の頬をぺしぺしと軽く叩く。夕麻はやっと落ち着きを取り戻した。
※ ※ ※
五人がレストランを探しながら、あれやこれについて談笑していると、人がかりのいない公園の草しげみの処で、見た目からして明らかにガラが悪い三人組の全裸の男達が、同じく三人組の全裸の少女達と激しくやり合っていた。
それを夕麻達はずっと棒立ちの状態で観察していた。
「やっぱり風俗の女なんかよりこういう中高生のような処女の娘の方が気持ちいいよなぁ、プチプチだし、中はあったかいし、男にとって最高の遊び道具だし、やろうとすればいつでも出来るし、飽きたら捨てる。俺達三兄弟はずっとそうやってきた、そうだよなぁ誠三郎よ!」
一人のチンパンジーみたいな外見をして、全身筋肉の男が一人の少女の裸体の上で気持ち良く寝そべってもう一人の男に訊く。三人とやってる少女達は、白目を剥いて泡を吹き、全身痙攣を起こし気絶していた。
「全く誠太郎兄さんの言う通りだぜ!女なんて所詮子供を産む道具でしかないんだよな!今の女達はその自覚が全くない!誠二郎兄さんはどう思う?」
誠三郎と呼ばれた男は女性に対する不満を口にする。誠三郎の特徴は髪型が坊主、両耳と鼻には小さいピアス、全身にはレタリングタトゥーが刻まれている。背中にはリアリスティック。
「オラのおもちゃ、おめめが白目になってる処がこんなに可愛いんだぞぉ。もっと激しくやって欲しいのかぞぉ?えへへっ、オラと一緒にもっと気持ち良く昇天しようぞぉ!ほらいくぞぉ、よいしょよいしょよいしょ……ってあれ?動かなくなっちゃったぞぉ!にいちゃん、オラのおもちゃ壊れちゃったみたいだぞぉ」
痙攣してる少女が誠二郎の百キログラム近くの体にのしかかられ、続けざまに更なる誠次郎の下半身の息子の猛攻により耐えられなくなり、白目で舌を出した状態で、頭を左に傾きながら息を引き取った。
「誠二郎、お前は直ぐに自分のおもちゃを壊しちゃうんだよな!これで何人目だ?俺達はただ気持ちいいことをしたかっただけなのに、お前が毎回それで相手を殺すから、そのせいで俺達まで巻き込まれて犯罪者になってしまったではないか!今俺達のこともニュースになるし、顔も載せられてるし、はてには警察に尾行されるわで!お前の脳みそはいつになったら使えるようになるんだ?」
草むらにある自分の服を着込みながら誠一郎は呆れた風に兄弟である誠二郎を責め続ける。
「ごめんだぞぉ〜」
誠二郎はしゅんとしながら謝る。それを聞いた誠三郎はフォローを入れる。
「まぁまぁいいじゃないか、誠一郎兄さん。誠二郎兄さんは殺したくて殺してる訳じゃないんだから。第一、道具なんて使い捨てなんだから、気にすることはないって!」
「さっきから、女は道具だのおもちゃだの好き放題に言いやがって、しかもあの誠二郎っていう奴は少女を殺してるし美女大好きの俺にとっては、絶対に許せない!」
夕麻が拳を握りしめ、三人の場所に行こうとしたところ、
「ず〜いぶんと捜しましたよ、三人組さん」
黒髪を左右非対象のツインテールに括り、赤と黒を基調としたドレスを着た少女が三人の目の前に姿を現したのであった。
1.31 時崎狂三
「なんだお前は?そうかお前も俺達三人とやりたいんだな!ほら、お前みたいな美少女を見つめたら、俺の息子がビンビンと勃ってしまったではないか!さぁ美少女よ、俺の息子を舐め回しておくれ!」
誠一郎のズボンの所から男性器が敬礼していた。誠一郎の発言を聞いて、少女は上品なお嬢様のようにうふふっと微笑む。
「ワタクシってそんなに綺麗ですの?」
彼女の表情に誠一郎ら三人組は心を掴まれる。
「こういう妖艶な女は犯したくなるよなぁ!」
「顔が綺麗な肉便器は狂うまで逝かしたくなっちゃうぜ!」
「おもちゃおもちゃ、また新しいおもちゃが来てくれた!後でオラといいことしない?」
三兄弟の言葉に少女は一瞬皴を寄せたが、また笑顔に戻った。三兄弟はその変化には気付けなかったが、夕麻の目からは逃れられなかった。少女の変化に気付いた夕麻は、背中に悪寒が走った。何故なら、夕麻はその少女の名前を知っているからである。少女の名前は“時崎狂三”、種族は精霊。原作で彼女をナンパしょうとした男達の末路は悲惨であった。そして、狂三は夕麻にとって危険度ナンバーワンでもある。狂三の能力“刻々帝(ザフキエル)”と結界“時喰みの城”は決して侮れない。夕麻は狂三を見据えながら、彼女に関する情報を頭の中で整理していた。
先程まで傍観していた多紀達も夕麻の周りに来て、その様子を見守っている。ミッテルトは狂三を見るなり、
「今日のサバゲーでウチと1対1でやりあった人じゃないっすか!」
と驚きを隠せないでいた。
狂三はミッテルトの発言を敢えて無視し、痙攣している二人の裸体の少女と一人の少女の裸体の遺体を確認してから、三兄弟に向き直る。
「三人の少女をこんな状態にしたのは、貴方達三人で宜しいですの?」
「だったらどうした?俺達を喰うのか?それとも警察に突き出すか?どっちにしろ、俺達三人達に勝てるはずないだろうが!」
誠一郎はにやけながら、狂三に対して意気揚々と嘲笑する。それに対して狂三は態度を変えずに余裕な状態で笑う。
「この尼、まだ余裕な顔をしてやがるぜ!俺がその余裕そうな顔を恐怖の色に染めてやるよ、おりゃー!」
誠三郎が狂三に立ち向かっていく。
「
命しらずな男が一人餌食になってしまった」
夕麻はやれやれと仕草をしながら、頭を横に振る。十秒後、誠三郎が狂三の“時喰みの城”の餌食にされてしまった。
「誠三郎!てめぇ、俺の弟を何処にやった?」
誠一郎は弟が居なくなったことを怒り心頭に発する。顔の表情が極限に歪み、冷静を失い我武者羅に狂三に歯向かう。
「貴方の弟さんは、ワタクシの心の中で生きておりますわ。貴方も弟さんと同じようにワタクシの肥料になって下さいまし、きひひひひひ!」
二人目を消してから、狂三は最後の一人誠二郎に歩み寄る。対して誠二郎は全身から汗を噴き出し、露出してる男性器からは尿を放出し気絶した。
多紀達四人は空気中に拡散してる臭いに耐えられず、服や手で鼻を摘む。
「臭すぎっす、コイツの男性器切ってもいいっすよね!」
ミッテルトが手から光の鎌を造りだし、誠二郎の男性器目掛けて振り下ろした。
ブッシュゥゥゥ!
切れたところから噴水のように血がいっぱい噴き出る。
「痛いよー、痛いよー、オラの大事な分身を返してよー」
誠二郎は、斬られたところを押さえながら絶叫する。
「お前は、俺の大好きな美少女を一人殺したんだ、罪は償ってもらうぜ!」
夕麻が見下ろした状態で言い終わると、脚の重りを外しつま先で思いっきり誠二郎の頭や顔面を蹴る。満足した後、夕麻は三人の少女の姿に耐え切れず二人を優しく王の財宝の中に入れ、遺体の方は両手で優しく抱き、手で肌の触り心地を感じながら体臭を堪能する。
「夕麻お前、死体が好きだったのか!」
美歌が夕麻のやってる事に少し引く。普通の人は死体を好むことなどあり得ないのだから。せいぜい医学部の人体解剖用に使われるだけである。
「俺はただ美人の身体が好きなだけだ、そうそうもしかしたら、抜け殻の体がレプリカントになるかもしれないし、とっておいた方がいいと俺は思う。それで俺の百合ハーレムも増えるかもしれないじゃん」
夕麻と美歌が話してる途中に、狂三が割り入ってきた。
「今日の夕食はワタクシが奢りますわ。主に天野夕麻さんにお話がありますので。来て頂きませんこと?」
夕麻達五人はお互い見合わせて頷く。
狂三は誠二郎を処理し、六人でレストラン探しに行く準備をする。
1.32 転生者組織“ハルマゲドン”
秋葉のバイキングの店にて、六人は一つのテーブルで自分達の盛った料理を食べていた。
このバイキングは一時間食べ放題で、野菜や肉や麺類、お菓子、焼き鳥など豪華な食品が色々並べられている。夜では店の中は賑やかである。店ではカップルや家族連れの人達が楽しく食べている。そしてとある一箇所の席では、
「で、夕麻とは何を話そうというんっすか?」
ミッテルトはみんなが思ってることを狂三に振る。
「では直接に言わせてもらいますわ。天野夕麻さん、私達転生者の組織“ハルマゲドン”の一員になって欲しいのですわ」
狂三はミッテルトを見てから、直ぐに夕麻の方へ頭を向けて話しだす。
「その前に“ハルマゲドン”という組織は何のために設立したの?その目的とは何なのか教えてくれない?」
多紀は夕麻に“あーん”としてもらい、口の中にある物をごくりとお腹に通した後に狂三に質問を投げかける。
「いいですわ。ワタクシ達転生者が所属している組織“ハルマゲドン”はこれから日本に現れるレッドアイやレギオンそしてそれらを超える存在“レッドエンジェル”に対抗するための組織ですわ」
「レッドアイとレギオンは分かるんだが、その最後の“レッドエンジェル”とは良く分からんのだが。ドラッグオンドラグーンのEエンドにこんなのは語られなかったぞ!」
カラワーナが驚き、両手をグーにしてテーブルを叩いてしまう。狂三が事前に結界を張ってあったから、周りの客には迷惑はかからなかった。
「多分それは私達転生者が誕生したから、バタフライ効果で強力な敵が出現したのではないかとワタクシはそう思いますわ。レッドエンジェルというのは、噂によると赤目で背中には天使みたいに赤い翼を生やしているようですわ。彼らにも階級があり、二翼から十二翼までおりますわ。そして人造レッド天使とオリジナルレッド天使に別れています。」
「まだそんなのがあるんっすか、ややこしいっす!」
「貴女のおっしゃる通り、ややこしいですわ。オリジナルレッドエンジェルはあの方という存在の使徒で、人造レッドエンジェルというのはオリジナルレッドエンジェルが人間を天使化したものですわ。人造レッドエンジェルは二翼しかいないですけど、オリジナルの方は四翼から十二翼までいますわ。貴女達が昼間食べにいった“大いなる赤の愛”っていった喫茶店がありましたよね。あそこの店長が人造レッドエンジェルで、メイド達も人造エンジェルで一人だけ六翼のでしたわ」
そこで多紀が口を挟む。
「どういった人間が人造レッドエンジェルになるの?まさか適当に連れてって強制的に増やしてる訳じゃないよね?」
「ワタクシ達の組織によると、主に今の社会や政府に不満をもつ者や犯罪者みたいな反社会の人間達が人造レッドエンジェルにされますわ。人造レッドエンジェルにされた後も自我は残ってるみたいですわ。」
「じゃあ質問を変えるけど、他国でも転生者やレッドエンジェルは存在するのか?」
今度は美歌が口を開く。
「転生者はいますわ。例えば天野夕麻さんの担任の先生やワタクシがそうですわ。レッドエンジェルの方は分かりませんわ」
「最後に聞くけど、何故時崎さんの口調は原作の時崎狂三と同じなんだ?別に成りきらなくてもいいと俺は思うんだけど」
今まで喋ってなかった夕麻が口を開く。四人もつられて頷く。特にカラワーナとミッテルトが夕麻の言葉に心から賛同する。夕麻と以前彼女達が仕えていたレイナーレは外見が同じでも中身は全然違う。だから、同じになる必要も模倣する必要もない。
「ワタクシは何故か知らないですけど、この体に影響されてこうなってしまったのですわ。貴女はレイナーレの体の中にいて、影響なかったのですか?」
「俺には影響なかったな。特に変わってないのは、女性が好きってことだ」
「そうだったのですね。では本題に戻りますが、組織に加入する件はどういう風にお考えですか?」
「俺は組織が嫌いだ!組織というのは、俺の抱いている印象でいうと、“腐敗”でしかない。そして上層部共は自分達のことしか考えてない。こういう奴らから命令されるなんてまっぴら御免だ!だから俺はその一員になることを拒絶する。でも対等な関係同盟なら結んでもいいと俺は思う」
夕麻はすかさず自分の考えをきっぱりと狂三に伝える。
「それもそうですわね、分かりましたわ。これが同盟書ですわ。ここにサインしてくださいまし」
狂三は胸の谷間から同盟書とペンを取り出して、夕麻に勧められる。四人も狂三から夕麻に渡った同盟書を目にする。夕麻がサインし終えた同盟書を狂三に返す。
一時間経とうとした頃に、狂三は六人分の会計を済まし各自家に帰っていった。
1.33 二人の転校生
秋葉一日遊から一ヶ月が経ち、2000年5月5日月曜日。始業式もとっくに終わり、夕麻は小学2年生になり、多紀と雪輝は中学2年生になった。多紀は2-1組のクラスになった。美歌とはクラスが別々になった。カラワーナは月見輪小学校の先生に、ドナシークは市立桜見中学校の先生になった。
その日に市立桜見中学校2-1組のクラスでは、生徒達がギャーギャー騒いでいた。理由は二人の転校生がこのクラスに来るからである。
「聞いた聞いた?今日は転校生二人もこのクラスに来るんだってさ!」
「えっ、マジで?二人もいるの?二人とも女子だといいんだけどなぁ」
「は?何言ってんの?アタシだったら、二人ともイケメンだったらいいのに」
「二人とも何いってんのさ!一人美人で一人イケメンでいいんだよ。その方がみんなにとって公平なんだからさ」
「よく言った!これぞ俺の同志」
そうこうしているうちに、2-1組の担任の先生が教室に入ってくるなり、両手を二回
“パンパン”と叩き、生徒達を静かにさせる。
次に起立から着席の号令がかかる。着席した後には、先生の話が始まる。
「ええ、今日みんなが知っている通り、転校生が二人このクラスでみんなと共に過ごすことになりました」
「先生、転校生は男子ですか?それとも女子なんですか?」
「もし女子だったら、帰国子女だったりして」
「いやいや、外人だったりして」
「俺的に考えて、多紀ちゃん以上に綺麗な子なんていないっしょ!」
「多紀ちゃんは確かに学校で公認の第一位のマドンナだけど、男子に対しては近寄りがたい雰囲気を出してるんだよね」
「はいはい、話はそこまでにして、改めて二人の転校生を歓迎しましょう、盛大な拍手を!」
パチパチパチパチパチパチ……
教室のドアが開き、二人の転校生が入ってきた。二人の転校生を見て、男子達は興奮して「やっふー」と雄叫びを上げ、逆に女子達は多紀以外落胆する。何故なら教室に入ってきたのは、二人とも美少女で多紀の知っている人達だからである。一人はミッテルトで、もう一人は電車の中で多紀に痴漢した少女。後者は多紀を見かけると、ウィンクをする。
「はい、じゃあ金髪の子から自己紹介お願いします」
「ウチの名前はミッテルトっす。オランダから日本に来たっすよ。このクラスのみんなと友達になるのが夢っす!」
「おおお、喋り方がギャルだー」
「ロリ系ギャル?」
「可愛い!」
「頭をなでなでしたい!」
「俺にこんな妹がいたら、“お兄ちゃん”って呼んで欲しいなぁ」
「萌え最高!」
「今直ぐにでもお持ち帰りしたい!」
ミッテルトの自己紹介後、男女問わずミッテルトに目を奪われる。ある生徒はミッテルトに対してメロメロになったり、ある生徒は勢いで下ネタを言ったりで、教室がどんちゃ騒ぎになる。
「みなさん静かに!はい次の赤髪の子、紹介よろしく」
先生がまたしても生徒達に注意し、静かにさせる。
「え〜、私の名前は三合堂 輝世(みあいどう きせ)です〜。興味は可愛い女の子と友達になることです〜。あっそうだ〜、私は中国の少林拳を極めています〜。皆さんどうぞよしなに〜」
「三合堂さんに何か質問あるかな?」
「はい」
「じゃあ、馬場さんどうぞ」
「あの、三合堂組ってがあるんですけど、三合堂さんとはどういう関係ですか?」
「フフ、それ聞いちゃいます〜?その三合堂の組長は私のパパなんですよ〜。で、私はお嬢様ってやつです〜」
他の生徒達は、輝世の出身に驚き、口をあんぐり開けてしまっている。
「まだ他に質問はありますか?」
シーーーーーーーーーン
「では、天野さんの両側の席が丁度空いているので、そこに座ってください」
輝世が多紀の隣に座ると、後者に向かって微笑む。
「また会ったね、多紀ちゃん〜。一ヶ月の間ずっと多紀ちゃんに会ってないから、本当に寂しかったんだよ〜」
「この子は多紀の知り合いなんっすか?」
ミッテルトが輝世が多紀になついてる光景を目にして、多紀に聞いてみた。
「一ヶ月前に夕麻と私が秋葉に行く時に乗ってた電車で会ったんだよ」
多紀がミッテルトに説明する。ミッテルトは思い出したように呟く。
「そうだったっす!あの時夕麻がウチラに教えてくれたっす。極道の娘、何で多紀に執着するっすか?」
「ん〜、何で執着するかって〜?あらあら〜、それは当然私が多紀が好きだからだよ〜」
キーンコーンカーンコーン
授業が始まるチャイムが鳴ったから、ミッテルトは仕方なく自分の席にすわった。
1.34 母の日の前日(前編)
2000年5月11日、日曜日。次の日は12日で、母の日である。明日は月曜日で授業があるから、母親にはプレゼントを用意時間が無くなる。だから、今日の内にプレゼントを準備する必要がある。夕麻は前世の実の母親より、今世の義母礼亜が好きである。前世の実母は夕麻にとって毒親的な存在である。自分が間違っても決して謝ることはない。話してる時はいつも上から目線。天斗だった時の自分をゴミのように扱う。少しでも間違った事をしてしまうと、「ベランダから跳び降りろ」や「お前のような奴は要らない、もうこの家から出て行け!」と言われる始末。その影響で、元々明るかった性格も徐々に根暗な性格になりつつあった。社交能力も低下し、周りの人とも喋らなくなった。新しい学校では、苛めには合ってはないが、友達は出来なくなってしまっていた。大人になっても、周りの同僚に話しかけようとも話す内容が見つからず、失敗に終わった。“母親”という二文字の漢字を見るたびに、怒りを覚えてしまう。それに比べて、今世の義母礼亜は二児の母なのに、この世界に来た夕麻を他人扱いしないで、我が子の様に育てていった。時には優しく、時には厳しいけど、とにかく一緒にいると、凄く安心出来て幸せな気分になる。
夕麻は自分のお小遣いを財布に入れ、多紀と一緒に出かけようとすると、下から一台の黒い車が止まる音がした。
「あら、こんな時に一体誰なのかしら?」
礼亜が玄関の扉を開けると、車の中からヤクザらしき服を着た二人組の男が降りて、後ろのドアを一人の男が開け、中から輝世が出てきた。
「多紀の新しい友達です〜。よろしくお願いします〜」
「あ、こちらこそよろしく。さぁさぁ、上がって。多紀ー、友達がきたわよー」
家の中に入ると、礼亜が多紀を呼ぶ。
「あ、これはつまらないものですが〜」
玄関を通った後に輝世が包みを礼亜に手渡す。
「ありがとう」
礼亜がお礼をする。
「輝世ちゃん、来る時はまず電話してよ」
多紀が降りながら、輝世に注意する。
「サプライズじゃ、駄目かな〜?あ〜、多紀ちゃん、学校にいる時よりもいい匂いがする〜」
輝世が多紀に抱きつき、頭を後者の胸の谷間に埋める。
「おい、またお前か!俺の多紀にまた抱き付きついてるな、離れろ!」
夕麻も降りて、電車の中で多紀に痴漢した女性だと分かると、剥しに行く。
「あらあら〜、こないだのおちびちゃんじゃ〜ん!多紀ちゃんは私のものだよ〜」
「じゃあ、どうやったら諦めてくれるんだ?」
「多紀ちゃんから聞いたんだけど〜、おちびちゃんは日本少林寺拳法が出来るんだって〜?私は中国で少林拳を習ったんだ〜。私とおちびちゃんで勝負しない?負けた方が多紀ちゃんを諦めるってのはどうかな〜?」
輝世が思い付いたように夕麻に提案する。だが、輝世の予想を裏切るかのように夕麻は頭を横に振る。
「まさか〜、おちびちゃんは大好きな多紀ちゃんを諦めて、私に譲る気なのかな〜?」
「そういう意味じゃない。俺が頭を横に振ったのは、あんたみたいな美女に手を出したくないってことだぜ!」
「嬉しいなぁ〜。おちびちゃんが私を褒め称えてくれるなんて〜。でも私を褒めたって何も出ないよ〜」
輝世が頬を赤く染めたかと思ったら、いつも通りの表情に戻っていた。
「じゃあ、あんたが多紀を攻略してもいいけど、同時に俺の百合ハーレムの一員になってくれない?一石二鳥だと俺は思うんだけど」
「ん〜、そうしたいのはやまやまだけど〜、おちびちゃんがどういう性格とかってのもよく分からないしな〜」
輝世が可愛く人差し指を唇に当てて、考える仕草をする。
「私と夕麻は買い物に行くけど、良かったら輝世ちゃんも一緒に来る?」
「うんうん、行く行く〜。多紀が何処に行こうと、私はついていくから〜」
「ストーカーじみた発言をするな、あんたはさ!」
「だって私〜、多紀ちゃんの事が好きで好きでたまらないんだもの〜」
少ししてから、三人は礼亜に挨拶してから、近くにあるデパートへと向かった。
1.35 母の日の前日(中篇)
デパートへ向かう途中に、多紀が真ん中でその両側に夕麻と輝世で一人ずつ多紀の手を繋いでいる。容姿端麗な多紀と輝世の二人が行き来する男達の注目を集められていた。夕麻も可愛いが、着用してる服が男性用であるためか、それかまだ幼いためか男性達に注目はされなかった。
「今日は母の日だから、私と夕麻でお母さんのためにプレゼントを買うんだ。輝世もお母さんのために何か買ってあげるの?」
多紀が輝世に好奇心を抱く。夕麻も輝世に興味津々である。何故なら夕麻にとって、輝世を知るチャンスとなる。
「私が産まれた時に、母親が難産で死んじゃったんだ〜」
「ごめん、輝世に嫌なことを思い出させてしまって」
「大丈夫だよ〜、私の愛する多紀ちゃんがどんなに私を傷付けたって、私は一向にかまわないから〜。でも多紀ちゃん以外だったら〜、私自身が半殺しにしちゃってるかもね〜」
輝世はわざと夕麻に聴こえるように後半の言葉を口にする。それを聞いた夕麻はテンションが低くなり、不愉快な気分に包まれていく。
(俺の好きなタイプなのに、ヤンデレ気質だったとは。まぁ好きなようにやってればいいよ!半殺し?当たらなければどうって事はないぜ!)
夕麻は表では聞こえないふりをしながらも、心の中では不満である。まだまだ輝世の話は続く。
「……私の容姿が母さんに似ているからか、父さんは私に対して親馬鹿になったんだ〜。私は母さんや兄弟がいなかったからとても寂しかったな〜。一ヶ月前に電車の中で初めて多紀ちゃんを見た時は一目惚れしちゃった〜♡ 私って幸せ〜」
「輝世ちゃん、私が思うにはそれは一目惚れじゃないって断言出来るなぁ」
「どうしてなの〜?」
「だって、輝世ちゃんは小さい頃から母親を亡くしちゃったんだよね。何でみんな両親居るのに、自分だけ父親しか居ないんだ?って思ったことは何度もある筈だよね?そして自分もお母さんが欲しくなってきたと。輝世ちゃんのお父さんは一途だから、後妻を取らずに輝世ちゃんを大事に育ててきたんだよね。でも、輝世ちゃんは極道の娘だとばれると、直ぐに絶交されちゃうんだよね。電車で私に会った時は、私に恋したからじゃなく、私にお母さんになって欲しいってことじゃないかな?」
多紀は輝世の告白を直接拒絶するのではなく、輝世の初恋を母親に甘えたいという論理思考に誘導させてみたら、予想以上に上手くいった。輝世にとってはぐうの音も出ない。夕麻は多紀に向けて親指を立てる。夕麻にとって、これで恋敵は消えた。
「そうだったんだ〜。じゃあ〜、多紀ちゃんは私のお母さんになってくれる〜?」
輝世から予想外な質問が投げかけられてきた。多紀は戸惑ってしまう。多紀はまだ14歳、対して輝世も同じく14歳。14歳が同じ14歳に「お母さん」って呼ぶのは通常の人から見たら、おかしな光景である。
「別にいいんじゃない?多紀は輝世に慕われてるんだし。親子になったからって、本当に輝世を自分の子供として面倒看る訳じゃないからさ。親子ごっこだと思えばいいよ」
「夕麻は私の彼氏だから、輝世の“お父さん”決定だね」
「俺は他人(女性)の父親になる気なんて、さらさらないね!なるなら、性的対象だね」(他の小説では、奴隷やスラムの子供や道端で倒れてる子、はては記憶喪失の子をお持ち帰りするってよくある。次に殆どがその子らの兄弟になったり、親になったり、家族になったり、使用人にしたりという関係になる。本当こういうのって俺にとっちゃ気に喰わないんだよ!)
夕麻が心の中で否定している間に、多紀と輝世は親子の関係になっていた。
「母さん〜、絶対私の傍にいてね〜。私〜、母さんのこと愛しているから〜」
「私も輝世ちゃんのことはすきだよ」
多紀が話し終えると同時に、三人は丁度デパートに着いた。
「“母娘”同士でショッピング楽しんできてね。俺も母さんへのプレゼントを買わなきゃいけないから」
「集合場所はどこで何時にする?今は9時半だけど」
「12時に、集合場所はここでどうかな〜、母さん?」
「じゃあ、それで決まりね」
多紀は役に入り過ぎているのか、輝世と完全に自分達の世界に入ってしまっている。
夕麻は仕方なく一人で義母のプレゼントを買いに行った。
1.36 母の日の前日(後編)
お買い物コーナーにて、多紀と輝世は手を繋ぎながら色々な物を見ていた。周りの人達は輝世を奇妙な視線で見ながら、連れの耳元で輝世に聞こえる程度にヒソヒソ話をし始める。
「この子、何友達に母親呼ばわりしてんだろう」
「折角の美人なのに、此処に障害があるなんてなんか悲しいと思わない?」
「その友達も絶対苦労してるだろうに」
輝世は多紀しか眼中にないのか、はたまた敢えて周りを無視してるのか、多紀に向かって口を利く。
「明日は母の日だから〜、お母さんは何が欲しい〜?遠慮しなくていいからね〜。私は十分な程お金持ってるから〜」
「大丈夫だよ、輝世ちゃんは別に私のために気を使わなくてもいいんだよ。自分の好きな物を買えばいいんだから。私は輝世ちゃんのお母さんになったって、貴女には何もしてやれないから」
「ううん違うよ〜。私のお母さんになった時点で〜、私は嬉しいんだ〜。だから〜、その祝いに買わせてよ〜。拒否権は認めないから〜」
「はいはい分かったよ、では輝世ちゃんに任せたよ」
「任されました〜」
輝世は今まで見たことのない程の笑顔を多紀に見せ、スキップしたり口笛を吹いたりしている。
買う物が見つからなかったから、買い物コーナーから出た。しばらくすると、多紀と輝世は花屋を発見した。輝世は多紀に声をかける。
「母さん〜、ちょっと此処で待ってくれないかな〜?私ちょっと花屋に行ってくるから〜」
「じゃあ、私は此処で待ってるから」
輝世は花屋に入ると、花を見て廻っていた。
「お嬢ちゃん、どの様な花をお探しですか?」
カウンターの裏から女性の声が聞こえてきた。輝世が顔を上げると、その女性と目が合った。女性の年齢は約四十歳で、顔には皴が所々ある。体型や肌は若い女性とはそんなに変わらない。
「明日が母の日だから〜、私は大好きなお母さんのために花束を買ってあげようと思うのですが〜、どういうのがいいんでしょうか〜?」
「では、貴女はお母さんにどんな思いを抱いてますか?」
「どうなんだろう〜?ずっと一緒にいたい、放したくないって思いですね〜」
「お母さんを大事にするのはとてもいいことですね。貴女が買うのに相応しい花がありますよ。この花です。名前を藤といい、花言葉は「優しさ」「歓迎」「決して離れない」「恋に酔う」の四つです。如何ですか?」
「じゃあ〜、これにしてください。お母さんも喜んでくれると思うんで〜」
「はーい分かりました。お値段はこちらになります」
輝世は女性にお金を支払って、小さい鉢植えに植えている藤を持って店を出ていく。
「ありがとうございました、またの御利用をお待ちしております」
女性は輝世にお釣りを返した後に、輝世に向かってお辞儀をした。
輝世は多紀の待っているところまで戻ってきた。
「お母さん〜、今日はまだ母の日じゃないけど〜、さっき買ってきた藤っていう花をお母さんにあげる。この藤の花言葉で気に入ったのは〜、“決して離れない”なんだよね〜」
「ありがとう、輝世ちゃんが私のために買ってくれた花、大切にするね!」
多紀は藤が咲いている植鉢を大事そうに両手で抱えながら、輝世にお礼を言う。輝世は多紀のお礼に嫣然と笑う。
「あ、そうだ!私まだお母さんへのプレゼント買ってなかったんだ。輝世ちゃん、一緒に私のお母さんへのプレゼントを選ぼう?」
「はっ〜、仰せのままに母上〜」
「こういうハイテーションな輝世ちゃんも好きだよ」
こうして二人は買い物に行き、12時になると夕麻と合流して昼食をとって、家に帰った。
※ ※ ※
次の日の朝、夕麻と多紀が学校へ行く前に、礼亜に包み袋を渡す。
「これは何なのかしら?」
礼亜が渡された包み袋を受け取りながら、頭をかしげる。
「今日は母の日で、私と夕麻がお母さんにいつもお世話になってるから、私達の買ってきたプレゼントを受け取って欲しいなぁと思って」
「そういえば雪輝が見当たらないけど、お母さんは雪輝からのプレゼントは貰ったのか?」
「雪君なら、貴女達より一足早く学校に行ったわよ。プレゼントは貰ってないわね。それより貴女達も早く学校に行かないと遅れるわよ!」
夕麻と多紀は言われた通りに急いで学校へと向かった。
1.37 コミックマーケットでコスプレの観賞
あれから四ヶ月が経ち、2000年8月11日火曜日8時30分。天気は晴れ。気温は28℃。小中学校の一学期が終わり、夏休みが既に中盤に差し掛かった頃。今日は、2000年度のコミックマーケットが東京国際展示場で開催される日である。開催期間は8月11日から13日までの三日間。東京国際展示場に行くのは新参の輝世以外いつものメンバーである。他の参加者達は、二、三日間近くのホテルに泊まるらしいが、夕麻達はたったの一日参加である。
「コミックマーケットって、毎年必ず万単位の参加者がいるんだよね。早く行ってもいいけど行列も蛇の様に長いし、長時間待たされるし。初参加は11時以降がいいってネットに書いてあったなぁ。多紀、俺達は何時に行く予定なの?」
「夕麻がそう言うのなら、10時15分に出発しよう。もう直ぐ輝世も来る頃だと思うんだけどなぁ」
このまま 歩き続けてる 今夜も真っ直ぐ 一人の足跡たどって 果てしない だけど君だけは笑顔絶やさずに
「あ、来た来た、輝世ちゃんからの電話だ。もしもし輝世ちゃん?」
「もしもし〜、私は今もうお母さんちの下にいるんだけど〜、ドア開けてくれないかな〜?」
「分かった、今すぐ行くから待ってて」
多紀は自分の携帯を切ると、慌てて階段を降り玄関のドアを開けると、輝世が笑みを浮かべながら立っていた。
「輝世ちゃん、もっと遅く来るのかと思ってたよ」
「私はいつもお母さんに会いたくて仕方がないから〜、早く来たんだ〜。それじゃ駄目かな〜?」
「勿論いいよ、私も輝世ちゃんに会いたいからね。さぁ入って入って」
「お邪魔します〜」
そうお喋りを終わらせて、多紀と輝世は二階の夕麻の居る部屋へと入っていく。夕麻が輝世が入ってくるのを見計らうと、声をかけながら、輝世に抱きつく。輝世は夕麻を剥そうとするが、夕麻の力が予想以上に強く剥せれない。
「夕麻が輝世に抱きつくのは、輝世のことが好きだってことだよ」
「私はお母さんとお父さんだけが居ればそれでいいんだ〜」
(輝世を攻略するのはまじめに言って難しいなぁ、どうにかしなければ)
夕麻が輝世の言葉について苦悩する。それは、夕麻は輝世にとって眼中にない存在である。もし攻略出来なかったら、諦めることも大事なのかもしれない。けど夕麻にとって美人は絶対に諦めてはいけないものである。
そうやってるうちに、時刻が10時15分を過ぎていた。美歌達とは、11時15分に会う約束をしている。三人は1階に降りて、靴を履き、新宿駅へ向かう。新宿駅から東京ビッグサイトまで二回乗り換えをして、11時10分に美歌達と合流した。
「お待たせ、美歌、ミッテルト、カラワーナ。待った?」
「ウチらも来たばっかりっすよ、多紀」
「今は入り口にもう並んでる人が少ししかいないから、私達も急いで行こう」
こうして六人は東京ビッグサイトに入っていった。
中にはもの凄い人数がいて、約五十万人以上の人が参加していた。
「今日はどうする?何処のエリアに行く?」
夕麻は他の五人に聞いてみる。
「そうだな、今日は東のエリアに行ってみるか?色々なキャラのコスプレが観れるらしいぞ」
カラワーナが夕麻の質問に提案する。
「それじゃあ、コスプレのエリアに行きたい人、この指に止〜まれ!」
多紀が人さし指を上に上げると、輝世が直ぐに前者の指を掴む。
「お母さんの指は私が握った〜」
残りの四人はやれやれという顔をしながら、指を握った。
「はい決まりね、コスプレのエリアに決定」
※ ※ ※
「みんなコスプレがプロだなぁ、ほらこのff7のティファやクラウド、セフィロスだとか、持ってる武器もかっこいいし、あっ、あそこの桜大戦の桜にコスプレしてる子も可愛いなぁ」
「どんなに可愛いくても、お母さんよりは可愛くないよ〜」
多紀が他人を褒めているのに対して、多紀しか目に無い輝世はそれを否定する。
「夕麻、ウチのコスプレはどうっすか?」
「ミッテルトのどアホ!これはどう見てもお前自身じゃないか!何がコスプレだ!」
「テヘッペロ」
周りには多くの人達がカメラでパシャパシャと写真を撮っていた。
「夕麻も次回レイナーレ姉様にコスプレして欲しいっす!」
ミッテルトが夕麻に提案する。
「いや、俺もレイナーレだけど、殆ど露出のは嫌なんだよなぁ」
「ははぁ、冗談っすよ、夕麻。気にしなくていいっすよ」
六人はこうして、コスプレを夕方の4時半まで観て解散して家に帰っていった。
1.38 学校の廃墟と戦闘前
2000年10月1日ゴールデンウィーク。学校や会社が休みの中、カップルがいる人達はデートに、子供等がいる人達は遊園地へ遊びに、友達がいる人達は登山へ、何処も行きたくないっていう人達は自分の家でぶらぶらかパソコンをやっている。そして、とある教会の中で八翼から十翼のレッドエンジェル幹部達が会議室で両側の椅子に座り、十二翼の副指令のレッドエンジェルが両側の間に立ち、会議を始めていた。八翼が五人、十翼が五人、十二翼が一人。
「あの方が言っていたもう一人の十二翼の天使に為れそうな器は見つかったのか?十二翼天使がもう一人居なければ2003年にあの方の化身をこの世界に呼べれないんだぞ!2002年までにその十二翼になれそうな女の器を見つけろ、いいな?!」
十二翼の男のレッドエンジェルが彼より階級が低いレッドエンジェル達に怒鳴り散らす。彼らは自分達のことを天使と呼ぶ。彼らを“レッドエンジェル”と呼ぶのは、今のところ転生者達と日本政府の一部である。
「マーぺランス様、もうその必要はございません。器はもう既に発見致しました。名前や年齢、家族の構成、その他全てこの資料に書いております」
十翼のレッドエンジェルの一人が名をマーぺランスという十二翼のレッドエンジェルに資料を渡す。
「でかしたぞ、エスカルバ!流石は私の秘書だ」
「はっ、ありがたき幸せ」
エスカルバという名の、赤い執事服を着て赤い目に眼鏡をかけてる男性が、マーぺランスに頭を下げながら、同時に右手を左の胸あたりに掲げる。
「これで我々の目的は達成された!転生者達がなんだ、どんなに普通の人間達より強くても、我ら天使には勝てんのだよ!はっはっはっはっは!先ずは消耗品二翼の奴ら二十人でリーダーを六翼天使のブラッドリーにして、この器の大事な奴を襲撃してみるか?、その人間達はどんぐらいの力があるのか確かめさせてもらうぞ、エスカルバ、そなた今直ぐに襲撃の準備をさせろ!」
「はっ御意に」
※ ※ ※
「ブラッドリー隊長、下等種な人間なんぞにこんな人数は必要あるんでぇ?」
雲の上を飛んでいる途中で、一人の二翼のレッドエンジェルが自分より地位が高いブラッドリーに尋ねてみる。
「アハッ、アタシも必要ないと思うんだがなぁ。だがあのマーぺランス様からの命令なんだ、従うしかねないよ。地面に着いたら、翼をしまいな!人間達にアタシ達の存在を知られちゃかなわないからね!」
そう言うと、ブラッドリーを先頭に二十人のレッドエンジェル達が低空飛行になり、最後は人のいない処で翼をしまい、二翼レッドエンジェルが一列に並ぶ。ブラッドリーは1枚の資料を一人の二翼レッドエンジェルの手に渡す。
資料には、夕麻達の似顔絵や種族が記載されていた。美歌とミッテルトとカラワーナ、そしてドナシークは普段翼を出したことがないから、種族は“人間”と誤認されている。何故夕麻達を狙うかというと、レッドエンジェル達が選んだ器の対象は多紀だから。夕麻達はそのことをまだ知らない。
「アハッ、あんた等二翼天使が奴らを捜し出して、実力を確かめるだけでいいよ、殺しはするんじゃないよ、いいね!」
「はい」x20
二十人の二翼レッドエンジェルが去った後、ブラッドリーが楽しそうに呟く。
「アハッ、せいぜい負けないようにね、人間の皆さん」
そう言い終えると、後を付いていく。
※ ※ ※
一方レッドエンジェル達が夕麻達を捜索している頃、夕麻達七人は廃墟廻りをしに来ていた。今、夕麻達の目の前には古びた学校が建っていた。学校の銘板には“新星女子中学校”と書かれている。この学校は、心霊スポットの一つであるらしい。この学校についての噂では、苛められていた女子達が次々と屋上から跳び降り自殺をし、その人数はなんと百五十人を越えていた。空を見上げれば、何故か明るい青がいつの間にか青白く染まり、周りには人の気配が一切感じない。まだ時間帯は昼だけど、おぞましい感じがしてたまらない。夕麻を先頭に、外の門を開けて、校庭を通っていく。
「この学校で苛められて自殺した女の子達って本当に可哀想だね〜、お母さん〜。もし私だったら〜、そいつらを半殺しにしちゃってたかも〜」
輝世は言葉こそ柔らかいが、両手は力いっぱいグーにしていた。
「そうだよね、輝世ちゃん。他人を苛めて自分には何が得るんだろうね」
「得られるのは一時的な優越感だけだ、だが人間はそれを分かってながらも相手を貶めたくなってしまう」
美歌が多紀の言葉に自分の意見を付け足す。
「そうだ、だから人間という下等種は存在してはいけないのだ!」
夕麻達一同が声のした方に頭を向く。
「やっと見つけたぜ、ターゲット達をな」
現れたのは、派遣された二十人の二翼レッドエンジェルだった。
1.39 戦闘前の談話
「お前たちは誰だ?、一体私達に何の用があるっていうのだ?」
カラワーナが警戒する。多紀は男性恐怖症だから、夕麻と輝世二人が自分達の体で多紀の盾となる。多紀はその後ろで二十人の二翼レッドエンジェルと目線が合うと、ガタガタと震えだす。輝世が多紀の背中を優しくさする。
「見ろ、こいつらの特徴を!赤目に赤い翼、そして二翼。ハルマゲドンが言っていた人造のレッドエンジェルだ!」
夕麻がカラワーナの前半の質問に答える。ちょうど駆けつけてきたブラッドリーが夕麻の答えを聞き、パチパチと拍手をしなが口を開く。
「アハッ、ご名答。私の名前はブラッドリー バードラン、この隊の隊長をつとめているんだ。でも私達はレッドエンジェルじゃなく天使だよ。その子の後半の質問も答えてあげるよ。私達の上司が言うには、君達の中で天使の器になれる人が一人いるんだよね。それで今のところは、その器の仲間達の実力を見せて欲しいんだよ」
(あの女性の六翼のレッドエンジェルは、俺達がメイド喫茶で会ったメイドの一人。彼女の言うように、俺達の中に天使の器になれる者がいる?美歌とミッテルトとカラワーナ、そしてドナシークは既に天使と堕天使。残りは多紀と輝世の二人。俺も16歳まで堕天使の力が封印されているから、俺も入れて三人になるって訳だ、まぁ、誰がそのレッドエンジェルの器か訊いたとこで教えてくれないのは分かっているのだけど、一応訊ねてみよう)
「ブラッドリーさん?」
「アハッ、何かな?そこの人間」
「一つ訊きたいんだけど、その、あんたらの器って誰の事を指しているのか教えてくれないかな?」
夕麻の質問を聞いていたブラッドリーの二十人の部下が冷ややかな視線で夕麻を一瞥する。
「そんなの、下賎な人間に教えられる訳ねぇだろ!」
「そうだ、チビはどっかへ失せとけ、目障りなんなよ!」
「あはははは、こんな質問をするとは、愚の骨頂」
夕麻はレッドエンジェル達の嘲笑を無視して、ブラッドリーに話しかける。
「ブラッドリーさん、あんた、部下の躾はどうなってるんだ?それとも臨時の捨て駒だったりして?」
夕麻はブラッドリーに対して、皮肉めいた発言をするが、ブラッドリーは涼しい顔のままである。だが、二十人の内の一人が“捨て駒”という単語に敏感になり、赤い翼を広げ、赤く怒りに染まった顔で夕麻に向かって魔力で形成されたソードで振り下ろす。
「愚かな人類の子供よ、俺達を侮辱した罪を三倍にして返してやる!」
(もう直ぐでこの生意気な小娘を殺せるぜ!少し、後もう少し。あれ?何故俺の身長が低くなってるんだ?しかもこれ、俺の体?まさか……)
最後にこのレッドエンジェルの意識はブラックアウトした。
「ふん!」
カラワーナが右手に握っていた光の槍を消した。レッドエンジェルの死体から光の玉が浮かび上がり、カラワーナの体の中に入っていく。
「少しだけど、私の体から力がみなぎるぞ!」
カラワーナは自分の両手をにぎにぎしながら確認する。低級堕天使から高級堕天使になるためには、まず一つ目:相手を殺し、遺体から浮かびあがる光の玉を一定数吸収する必要がある。次に二つ目:異性同性種族問わず、相手と夜の営みをする必要がある。やればやる程お互いが強くなり、二翼から四翼、四翼から六翼、六翼から八翼、八翼から十翼と順に進化する。十二翼になるには、何かの特殊な事情が必要。天使も同じである。
「アハッ、魔力を出せるという事は貴女も私達と同じ天使なんだね。私達は貴女を同属として歓迎するよ!」
ブラッドリーがカラワーナを勧誘しようとする。
「私はお前達と同属ではない。私は既に夕麻と百合の契約を交わした、だから私は夕麻のために尽くす!」
カラワーナは時折夕麻を恋人のような目で見ながら、ブラッドリーの勧誘を拒絶する。夕麻も同じ眼差しでカラワーナを見つめる。
「アハッ残念!でも簡単に仲間になっても、面白みがないからね。それに、貴女に殺されたその天使は臨時でも私の部下なんだよ。部下の仇は私が討ちたいところだけど、今十九人の部下がうずうずしてるから、彼達に任せようっと!さぁ、ようやく貴方達の出番よ、行っちゃいな!」
「ハハァ、流石はブラッドリー隊長!後は俺達に任せてください。行くぜ野郎共、四人一組で相手一人をボコボコにしてやろうぜ!そして赤い髪の小娘には一人で応戦だ」
「おおおお!」x18
こうして、夕麻vs二翼レッドエンジェル4人、美歌vs二翼レッドエンジェル4人、ミッテルトvs二翼レッドエンジェル4人、カラワーナvs二翼レッドエンジェル3人、ドナーシークvs二翼レッドエンジェル3人、輝世vs二翼レッドエンジェル1人の構図が出来上がる。
1.40 輝世vs二翼レッドエンジェル
先ずは校庭の一角で輝世と一人のレッドエンジェルが対立していた。
「おい小娘、俺はな、お前みたいな美少女を甚振るのが好きなんだよ!美少女の悲鳴を聞きながら両手と両脚を捥ぎ取り、ストローでその血を味
わうのが実に最高。お前に俺の気持ちが分かるか?俺は今まで五十人の以上の美少女をそうしてきた、キャハハすげぇだろ!次はお前とその女の番だ!」
自分語りをし終えると、そのレッドエンジェルは赤い眼をぎらぎらと光らせ、口から舌を出しながら持っているナイフを舐め回す。
「あんたの気持ちはどうでもいいけど〜、私だけじゃなく〜、私のお母さんまで侮辱するなんてあんたみたいな犯罪者は私が消してあげる〜」
「人間風情が高貴な天使を消すだと?どうやって消してくれるのかな?しかも今、お前はそこの女を“お母さん”呼ばわり?傑作だなぁ、おい!」
レッドエンジェルの男が面白がりながら、ナイフで輝世に斬りつける。輝世は斬られないように回し蹴りで男の右手に持っているナイフを蹴り落とす。
「お前のようなタイプは初めてだな、前の奴らは俺が斬りつけようとしたら、俺の目の前で跪いて、“何でもしますから、どうか命だけは”って言ってきたんだぜ!そして跪いたまま服を全部脱いで、全裸の状態で俺のチャックを開けて俺の大事な息子を自分の口に含み、俺のラブジュースを飲み始めたんだぜ!なぁどうよ、お前も俺のラブジュースを飲んでみたいか?タダだぜ!」
「私は貴方のようなケダモノのものなんか飲みたくないね〜、飲むんだったら〜、お母さんの方がよっぽどいい〜」
輝世はレッドエンジェルの誘いを断り、中国流の少林寺拳法でまるでダンスを踊るかのようにパンチや蹴りが次々と男に炸裂する。
校庭の地面に倒れていた男の額や口から赤い血が出ていた。だが、その男は血だらけでもよろめきながら立ち上がる。
「なんの、これしき!この俺、獅野 誠吾(ししの せいご)がこんな処で倒れるなんて!俺の本気を見せてやるぜ!」
獅野 誠吾が二翼を広げ、さっきより速いスピードで移動しながら、魔力で大剣を二本形成させて両手に各一つ持ち、輝世に向かって走っていく。
ブ〜ンx2
輝世もポケットからライトセーバーを二本出し、構えながら誠吾に向かってダッシュしていく。刃先の色は黄色と紫。
輝世の持っているライトセーバーは、元々夕麻の王の財宝の中にあったものである。輝世は武器は持ってない。普通自分の父親に言えば、日本刀や拳銃やマシンガンをくれる。だが、輝世はこういう現実の武器には一切興味を示さない。輝世が好きなのは映画やアニメに出て来る架空のビームやレーザーに関する武器である。今日、女子中の廃墟に行く途中で、輝世が多紀に武器をねだったのであった。多紀はもちろんそんな危険なものは持ってない。考えた末、多紀は夕麻の王財宝の中に色々なものが入っているのを思い出し、多紀は夕麻に頼むのであった。夕麻は多紀に応じ、二本のライトセーバーが多紀の手に渡り、続いて多紀から輝世の手に渡された。
「お前の持ってるその光る剣、なかなかやっかいな感じだぜ!俺が自分の魔力で形成した大剣もどきじゃ、到底お前のそれに敵わない気がするぜ」
誠吾と輝世が立ち止まり、お互いの剣が牽制し合ってる中で前者が後者に話しかける。
「これはお母さんが私にくれた大切なものだから〜、勝てないわけないじゃん〜」
輝世が誠吾にそう伝えると、右足で力いっぱい誠吾のお腹に蹴りを入れる。
「しまった!」
誠吾は何も防御する術がなく、お腹を輝世に蹴られ、同時に両手に持ってる大剣もどきも消失し、後方の柵にぶつかりぐたっとなる。その衝撃で、誠吾の片方の翼がバキッと折れた。輝世はそんな状態の誠吾のところに向かってゆっくりと歩いていく。誠吾にとって、輝世が一歩一歩近づく度に死を身近に感じとる。
「私に殺される前に〜、何か遺言はある〜?」
輝世は刃先が紫色の方のライトセーバーを誠吾に突きつけながら、笑顔で問う。
「俺はもっと美少女達と気持ちいいことをやりたかったなぁ。勿論、お前ともやりたかった……」
ブーン
誠吾が遺言を伝えた直後に、輝世の持つライトセーバーに貫かれ消滅していった。
「獅野 誠吾〜、五十人以上の美少女を無残な姿で殺したサイコパス〜。私が殺さなくても〜、此間の狂三って人に殺されるかもね〜」
輝世の初戦闘は終わり、彼女は多紀の方向へ歩いていった。
1.41 黒の二翼vs赤の二翼(前編)
校庭の真ん中でミッテルト、カラワーナ、ドナシークの堕天使三人、対して相手は二翼レッドエンジェル十一人。人数からして、堕天使三人の方が不利なように思えるのだが……。
「この堕天使達も俺達と同じ二翼しかいないじゃん!」
「三vs十一、絶対俺達の敵ではないな!」
「あの堕天使の二人の女可愛くね?背が高い方は胸がでかくて尻も綺麗。なんか鞭でしばかれたい、冷たい視線で見下ろされ足で踏まれたい!ロリっ子の方は、抱き上げてキスしてお互いの舌を絡めあいたい!」
「じゃあもし、どっちかを選ぶとしたら、お前はどっちを選ぶ?」
「やっぱりロリキャラより姉御キャラだろ!姉御キャラはボンキュッボン!それが正常な男のロマンでしょうに!ほら、今その姉御が冷たい視線で俺を睨んできた、ゾクゾクするよ!」
「俺はお前と違い、ロリが大好きなんだよ!“YES!ロリータNO!タッチ”?こんな言葉、誰が考えたか知らないが、クソ喰らえだ!ロリはタッチしなければ意味ないだろうに!俺はもう既に二十人の天使のロリのハーレムに囲まれてるんだぜ!俺を人間から天使にしてくれたマーぺランス様に感謝しなければな!人間のルールは矛盾だらけで好きじゃない。ルールは、所詮権力者が弱者を縛るために創ったもの。だから、権力者はルールには縛られない。まぁそれは置いといて、とっとと戦いを終わらせて、俺のハーレムと過ごすんだ」
それらを聞いていたミッテルトとカラワーナはというと、
「本当、男という奴はゲスの極みばっかだな」
「そうっすね、あいつ等ウチらの体を舐め回しながら、なんか変な事言ってるっす!」
カラワーナの言葉を耳にしたドナシークは、ミッテルトとカラワーナに語りかける。
「私はゲスじゃないのだがな!それと奴らが喋ってるところで気付かれる前に殺した方が楽するんじゃなかろうか?相手は十一人、ミッテルトとカラワーナそれぞれ四人を相手にして、私は三人を相手にする、いいな?」
「嗚呼、分かった」「分かったっす」
「では行動開始!」
ミッテルト三人が光の槍を計六本作り出し、レッドエンジェルに向かって投擲してから、走り出して敵に近づいていく。光の槍は凄い速さで敵にめがけて飛んでいく。
「おい、なんか光のようなものがこっちに降ってきたぞ、散開しろ!」
「お、俺の腕が、いってぇよ!」
一人目は左腕を持っていかれた。
「くっ、此処でやられるなんて、ぐっ……」
二人目のレッドエンジェルは、自分の左胸にある心臓部分を光の槍に貫通されて絶命した。
「なっ……あっ……あっ」バタッ
三人目は光の槍を首に刺され、息を引き取った。
残りの光の槍はレッドエンジェル達に避けられた。
二人のレッドエンジェルの死体から光の玉が浮かび上がり、それぞれカラワーナとドナシークの体の中に入っていく。
「卑怯な手を使いやがって!正々堂々としろ、このくそ堕天使共が!」
一人のレッドエンジェルが負け惜しみを言う。
「戦いというのは、脳筋で戦うだけでなく、此処もつかわなければならんのだよ!」
ドナシークが人さし指で自分の脳の部分を指す。
「てめぇ、人様を見下ろしやがって!全員、女二人は放っといて男の方に集中砲火だ!」
「「そうは門屋が卸さない(っす)」」
ミッテルトとカラワーナがレッドエンジェル達とドナシークの間に割って入り、ミッテルトは片手を失ったレッドエンジェルを含めた四人を相手に、カラワーナは一人殺したから三人を相手に、ドナシークは残りの二人を相手にする。
先ずはミッテルトとレッドエンジェルはお互い翼を羽ばたき、空中で戦闘を広げていた。ミッテルトは透明化したまま、片手を失ったレッドエンジェルを一刀両断した。死体から一つ目の光の玉が浮かび上がり、ミッテルトの体内に入っていく。
「今から、この透明化の能力を“インビジブル”と呼ぶっす。どっかの怪盗ライダーが使ってた能力っすからね」
ミッテルトの“インビジブル”は発動中、特殊能力で位置がばれても攻撃は絶対に当たらない、凄く便利な能力。でも発動時間はたったの三分、とある特撮の巨人が地球に居られる時間と同じである。冷却時間は三十分。
「ロリっ子の堕天使は何処に消えた?ぐぁっ……」
「ちっくしょう、周りを警戒し……うぐ……」
二つ三つ目の光の玉が浮かび上がり、ミッテルトの体に入っていった。
「後俺だけかよ!出て来い!」
三分が経過し、ミッテルトが姿を現す。
「やっとお前を見つけたぞ!さっさとお前を始末して、俺専属のハーレム団とイチャチャするんだ!」
レッドエンジェルがミッテルトに対して拳を突き出す。
空中で二人が殴り合い、ミッテルトは相手の攻撃を全て避け、逆に相手はミッテルトの攻撃を受けてボロボロになり、空中から落下する。止めとして、ミッテルトは両手を銃の形にして、レッドエンジェルに魔力弾を大量に撃ち込む。レッドエンジェルの体が地面と接触し、最後の一つ光の玉も浮かび上がってミッテルトに吸収された。
1.42 黒の二翼vs赤の二翼(後編)
カラワーナは地上で三人のレッドエンジェルと向かい合っていた。
「女の堕天使さんよ、エロイ体つきしてんじゃねぇか!俺たちゃ、あんたみたいな美人が死ぬのはもったいないと思っている。だから、土下座して俺達に“ごめんなさい、私はもう貴方達を殺しません、許してください”って言ってくれれば逃がしてやってもいいんだぞ」
レッドエンジェルの一人が他の仲間の心の中を代弁するかのようにカラワーナに提案を試しみる。仲間の二人や対談してるレッドエンジェルを含めて、目がカラワーナの大きい胸に釘付けになっていた。
「この私を侮辱する気か?どうせ私のこの体が目当てなのだろう?私には既に好きな人がいるのでな、そいつに私の体を捧げようと思ってるんだ。お前達のようなゲスはとっととそんな下らない妄想を頭から忘れることだな!忘れられないのなら、お前達の下の部分を斬ってもいいのだぞ?」
カラワーナは三人の考えを言い当てる。図星をつかれた当人達は憎めしい顔付きになる。
「この尼、情けをかけてやったというのに!この恩知らずめが!俺達三人で早くこの尼を殺して、尼の遺体を俺達で遊びまくるぜ!」
「流石は兄貴、だけど俺のあそこもう充血してて我慢が出来ない!おおおお!」
三人のうち一人の眼鏡をかけた男がカラワーナの目前まで飛んでいき、
「俺は貴女に一目惚れしました、抱かせてください!」
とカラワーナが無防備のうちに抱きつき、胸に顔を埋める。
「お前、私から離れろ!」
カラワーナは自分に抱きついてきた男を剥そうとするが、相手の力が予想外に大きく離れられない。その光景を観ている一人のレッドエンジェルが不満を漏らす。
「コイツだけずるいぞ!女に抱きつくなんてよ!しかも顔を胸に埋めちゃってよ!俺も抱きてぇのに」
「確かにコイツはエロイけど、頭も天才程ではないけど、何かを企んでいることはわかる。それも俺達にとっていいことだ」
もう一人のレッドエンジェルが前者に説明をする。
「次は貴女の後ろを堪能させていただきます。ほう、貴女のお尻触り心地はとてもいいですねぇ」(悲しいが、死んでもらう)
突然、カラワーナは後ろから眼鏡をかけたレッドエンジェルに羽交い締めにされ、直後に後者が二人の仲間に向けて大声で呼びかける。
「俺がこの女を羽交い締めしてる間に殺せ!」
「「分かった!」」
カラワーナは試しにもがいてみるが、やはり駄目だった。
(もうあれを試してみるしかなさそうだな!今だ!)
「八門遁甲・第一門開門、開ッ!」
カラワーナのおでこの血管がはみ出し、力も増した。カラワーナは自分の頭を、後ろから自分を羽交い締めにしてるレッドエンジェルの頭にめがけてぶつける。
ゴキッ
鼻が折れ、血が吹き出たレッドエンジェルは、カラワーナを離して倒れた。
「こいつは実力を隠してたみたいだな、でもまだなんとかやれそうだ。こんな危険な女を放置する訳にはいかない、さっささと決める!」
二人のレッドエンジェルは拳をカラワーナに向けて、振り落とす。
「表蓮華!」
カラワーナは二人の後ろに回り、一人を蹴り上げ、筋肉バスターのように空中から敵を拘束し、敵の頭を下に向けて地面に叩きつける。
グチョッ!
叩きつけられた男は顔が潰れ、そのままぐったりとしていた。光の玉が浮かび、カラワーナの体内に入っていく。
「さぁ、まずは残った健全なお前を狩るとしよう」
カラワーナはそう言いながら、まだ戦力のあるレッドエンジェルに寄っていく。
「三対一で負けるなんて、有り得ない!これは絶対に夢だ!早く目を覚ましてくれ!」
レッドエンジェルは正気を失い、絶叫する。
「そうだ、これは夢である。私が目を覚まさせてあげよう」
「ほ、本当か?これは本当に夢でいいんだよな?」
「ほら、現実に帰りな!」ボキッ
カラワーナはレッドエンジェルの耳元で囁いてから、首を捻った。光の玉がカラワーナに吸収された。鼻が折れているレッドエンジェルにも止めを刺した。丁度ドナシークも自分の敵を全滅したところであった。
TS主人公が三千世界にて破壊と百合ハーレムでエンジョイタ〜イム!THE 1st ワールド
読んで頂き有難う御座います。