なんか、犬猿の仲
自分のあだ名が名前よりも多くの頻度で呼ばれるようになったのは、いつ頃からだっただろうか。自分の通う学校の校舎を目にし、ちょうど予鈴を聞いた時、ふと頭にそんな疑問が浮かんだ。
――キマグレ。周りの友人は自分のことをそう呼ぶ。小学校高学年の頃、誰かが自分の性格を皮肉って渾名にしたのが始まりだったと思う。それから、今の年齢まで、名前でなく、渾名で皆が呼ぶようになっている。正直、変な渾名であると自分でも思うし、実際のところこの渾名はあまり気に入っていない。
自分の渾名がそこらにある渾名よりも変であるという自覚はある。だが、それでも。
「それでも、こいつらよりはマシかな……」
今自分両隣を歩く二人に聞かれないようにぽつりと呟いた。
学園での問題児である、あの二人よりは……。一人は正義を憂い、もう一人は悪を求める。正義の掲げ問題を起こし、悪を楽しむ為に問題を起こす。セイギとマオウ、そう呼ばれる学園の二大問題児。対極にして、対立関係である二人が出会えば、なかなかの騒動が起きることは少なくない。だが、そんな二人の遭遇率は高い方ではない。セイギは、雨が降ろうと、雪が降ろうと、台風が来ようとも学校に来るのに対し、マオウはまるでそれが当然のように授業をサボる。学校に来るのは、試験の日か、学園側からの強制的な呼び出しの時のみだ。それでも、しぶしぶといった感じだが……。
そんな訳で、そんな二人が学園で出会うことは滅多にない。確率的にも、低い。例えば、今日のように何のイベントもない、普通の日にそんな二人が顔を合わせることなんて今まで一度もなかった。……はずだった。
「おい、てめー、ついてくんじゃねーよ!」
「僕は好きで君についてきているのではない。学校へ向かっているだけだ。君こそついてくるのはやめろ」
それが、大変不都合な状況である時、人は自分が置かれている状況を認めることは苦痛であると思う。
「あぁん! あたしだって学校へ向かっているんだよ!」
「そうなのか、いやー知らなかった。僕はてっきりいつものように子供のような理由で学校をサボるのだと思っていたからなー」
あぁ、今日も気持ちのいい朝だな。
「はぁ! 子供のような理由ってなんだよ! いつもそんな理由で休んでいると思うなよ」
「え、そうなのかい!? 知らなかったよ。君が仮病を使ってゲーセンへ行く以外で休む理由があるのか!?」
もう少しペースを速めた方がいいかな。遅刻してしまうかもな。
「馬鹿にしてんだろ、てめー! ゲーセンの他にも遊園地行ってるんだぞ! 一人で行き過ぎて遊園地のマスコットキャラの着ぐるみから、おっさんの声で『また来てるよ』って言われたことあるぞ、コノヤロー!」
「うわー、一人で遊園地行くなんて可哀そうな……可笑しな人だね」
「てめー、言い直しても結局馬鹿にしてんのは変わってねーよ! もう我慢できねー。ぶん殴ってやる!」
「いいだろう。今日こそは決着をつけてやろうじゃないか! どっちがキマグレと登校するのに相応しいかをな!!」
「望むところだ!!」
「何でだよ」
たまらず口をはさむ。言った後、後悔で胸がいっぱいになった。
「お前ら、人をはさんで喧嘩するなよな。やるなら、勝手にやれよな」
最後の方はほとんどお願いに近い言葉だった。
「あぁん? なんだよ、キマグレー。じゃあ、どっちと登校したいんだよ」
「できれば、どっちとも嫌だ。なぜそんな話になっているんだよ」
「そう照れるな。君が僕を選べばそこのぼっちを完全に孤立することが可能なのだ!」
「はぁ! 黙っとけよ、過去の男は」
「なんだと!」
「わからないのか? もうすでにキマグレの心はあたしのもの。あんたには最初っから勝ち目なんてないのさ!」
「僕との関係は遊びだったのか!? くそ、……いくらだ! いくらで君は、心をあの悪魔に売ったんだ!?」
いや、売ってないですけど
「馬鹿だねー。金じゃないさ」
「じゃあ、何なんだ」
「……愛さ」
「! ……ちくしょー!」
もう、面倒見きれない。
「はは、それじゃキマグレ。こんな負け組ほっとい……。って、あ!」
ついに、ばれたらしい。
「逃げるな。キマグレ!」
校門へと全力で走る。後ろを振り返るとマオウだけでなく、セイギまでもが追いかけてきている。しかも、二人並んで。
「君の言う、愛という物もたかが知れていたようだな」
「何言ってやがんだ。あれは、ツンデレってやつだぞ。照れてんだよ!」
もう、その茶番はいいですよ。
足の速い二人はぐんぐんと追いついてくる。
――そして、二人に追いつかれてしまった。二人一緒にぶつかってきた。捕まってしまった。
「よーし、キマグレ。学校なんかサボって、遊園地行こうぜ、遊園地」
「何をいう、今日キマグレは体育で僕と遊ぶのだ。君とは、遊べない!」
「なにをー! ……いや、いいこと思いついちゃった」
そういって、マオウは高らかに宣言した。
「今日の体育の授業で、お前と決着をつけてやるよ!」
「いいだろう。では、キマグレとの下校をかけて勝負だ!」
「望むところだ!」
なんでだよ……。
また気づかれないように、こっそりと校舎へと向かいながら嘆息する。
――俺のいないところでやってくれよな。もう一度深いため息を吐いた。その時、授業開始のチャイムが鳴った。その音に気付いた二人が、校舎へと向かって走り出した。
とりあえず足を速めながら思った。
――もうこんな面倒な朝はごめんだ。今朝三回目のため息をついた。
なんか、犬猿の仲
最後まで読んでくださりありがとうございました。前回の更新から遅れた上にファンタジーものではないのは自分の中で残念です。できればすぐに次更新したいと考えています。誤字・脱字・ここおかしいけど何故?等あれば教えてくれるとうれしいです。次回こそはファンタジーかも。