魔法使いと見た空2
「んごっ」
鼻をつままれ、気絶していた――――――否、眠っていた少女が目を覚ました。
「おい何する―――」
言いかけて、少女の大きな目が見開かれた。
「こんだけあれば文句ないだろ?」
自慢げな顔をした少年アルの横には、これでもかというほど沢山の食材が積み上げられ、ちょっとした山になっていた。
「これは・・・?」
「腹減ってんだろ?さっきまでぐーぐーなってたぜ」
「なっ!」
お腹をさすってわざとらしく笑うアルに、少女は顔を真っ赤にさせた。
「そ・・・そんなことより!これはなんだ?」
「なんだって・・・食べ物だろ?」
「!食べられるのかっっ!?」
「・・・は?」
聞かれて、アルは食材の方を向く。人参、ジャガイモ、ハムに鶏肉、豆。果物は、リンゴやブドウが美味しそうだ。
すべてアルが幼い時から食べてきたもので、食べられないわけがない。
「いや、ふつーに食べれるだろ?ほら、これがジャガイモ。芋だよ。それがリンゴで・・・」
野菜や果物の説明をしていく。
「芋・・・?聞いたことがあるぞ!そうかこれが芋なのか!リンゴは知らないが・・・」
興味津々に食材を見つめる少女に、一つの果物を手渡した。
「これは、ラクールの実っていって、この村でしかとれないんだ。」
この村にいた農業魔法を使える者が開発したのだと説明する。この村では農業魔法を使える者がいたおかげで、どんなものでも1年中作ることができた。
だから、こんなにたくさんの食材が一度に手に入ったのだ。
「なるほど!」
「これは鶏肉で・・・って肉くらいは知ってるよね?」
まさか、と思って聞いてみる。案の定「知らん」という応えが返ってきた。
「お前の家も大変なんだな・・・」
ふと、自己紹介がまだだったことを思い出す。
「俺はアレックス。アルって呼んでくれ。お前は?」
言いながら、枯れ枝を拾い集めて火をつける。父、アルクから教わった魔法の一つだ。
おおーっと少女が歓声をあげた。
「こんくらいの魔法、みんな使えるさ」
そうこたえて、名前を聞きそびれてしまったことに気付く。
まあ後でご飯を食べながらゆっくり聞こう---そう思いながら、食材に拾ってきた棒を刺し、火を囲むように地面に突き立てていく。
「ほんとはもっと豪華に・・・切ったり皿に盛りつけて食べるんだけど。」
昨日まで、母と双子の弟と囲んでいた食卓を思い出す。湯気をたてる温かいスープや、骨付き肉。昨日はアルの15歳の誕生日で、豪華なメニューが並んだ。
そして、笑顔。数年前までは、その中に父もいた。戦争に行ってしまったが。
「こんな風に棒を刺して手で持てるようにしたら、ナイフとフォーク使わなくてもいいだろ?皿も必要ないし。ってナイフとかも知らないか・・・?」
「む、ナイフとフォークは使っていたぞ?もちろん皿もな。確か父上がフォックス製のものだと言っていたな・・・」
「ちちうえ?・・・っていうかフォックス製って、高級品じゃねーか!!」
驚くアルに、少女は不思議そうな顔をした。
「高級品?食器にまで高級なものとそうでないものがあるのか・・・おかしな世の中だ」
「ちょっとまて!何で肉とかはしらねーで高い皿使ってたんだ?」
「いや、生まれた時からすでに調理されていたものだけしか食べたことがなかったものでな。」
「??」
「食材のことは誰も教えてくれなかったし知ろうともおもわなくて・・・」
「!?っお前どこの出だ!?」
アルはとっさに警戒した態勢をとった。
「R区だが・・・」
うつむくようにして少女がこたえる。
「この国の首都じゃないか・・・!貴族しか住めないはずだろ!?なんでそんなとこの住人がこんな村に・・・!??」
「っそれは・・・」
「お前の名は何だ!?」
少女は目を伏せたまま、何かにおびえるように両手を胸の前で握り締めた。
「私の、名は…――――――――」
しばらくの間の後、決心したように少女は言った。
「私の名はクレア・カルディコット。クレアだ。」
それは、この国の王族の姫君の名前だった。
to be continued
魔法使いと見た空2