2人の男
2人の男の物語
二人の男がいた。おそろいのヘルメットをかぶって談笑している、ずいぶん年の離れた二人だった。
空は暗く、月どころか星も見えなかった。
一人がタバコに火をつけ、もう一方の男のタバコにも火を分けてやりながら言った。
「お前家族はいるのか。」
「ええ、妻と来月三歳になる娘が一人。来年にはもう一人増える予定ですよ。」
若い男はうれしそうに話している。家族のことを話すのはいつ振りだろうか。ずいぶんと長い間してい
なかったような気がする。仕事が忙しくてもう何か月と家を空けていたのだ。その間は仕事のこと以外
考えられる暇がなかった。人と話す機会は幾度と会ったが、どれも仕事の話だけで楽しい話題など一切
なかった。そのせいか今がとても楽しく思えた。
「妻とは五年前にお見合いをして知り合いました。親が勝手に決めたお見合いだったんで僕は嫌だった
んですけど、料亭に行って一目妻を見たら惚れてしまいまして。四年前に結婚したんですよ。」
うれしそうに話をする男を、煙を吐き出しながら中年の男はこちらもうれしそうに聞いている。彼もここ
最近はろくに息抜きができないでいたから、こういった会話をするのが久しかったのだ。
「妻はきれいか?」
「ええ、そりゃもう。」
「そうかい。俺の女房は昔はきれいだったのに今じゃしわだらけの猿になっちまった。毎日俺のことを
こき使いやがるんだ。息子ももう成人してしばらく会ってないな。お前がうらやましいよ。」
男は笑いながら言った。
「でも幸せなんでしょう?」
「ああ、幸せだよ。息子は立派に育ってくれたし、女房は文句を言っちゃあいるが今も俺の帰りを待っ
ててくれている。何も不満なんかないさ。」
男は笑顔で答えた。タバコは燃え尽きている。中年の男がもう一本タバコを取り出して火をつけ、若い男に
火を分けてやろうとライターを口元へ運んでやるが、オイルが切れてしまったのか火がつかない。
「火が付きませんね、最後に一本吸ってから行きたかったんですが、残念です。」
「なに、火種ならあるさ」
男は自分のタバコの火を若い男が加えているタバコに触れさせた。男たちは再びタバコを吸いながら談笑を
した。それはとても楽しいもので、男たちは大声で笑っていた。
空は暗みを増し、波は激しくなったが、男たちは気にしなかった。方翼が折れた戦闘機の上で、男たちは笑っていた。
タバコの煙が、暗い空にのまれて消えた。
2人の男
思いついたままに書きました