雨の靴屋
時計の鳩も眠る真夜中。
ホト
ホト
ホト。
屋根打つおかしな音で
靴職人は目が覚めました。
屋根へ登ってみると
小さな雨の子どもが背中をまるめて歩いています。
「きみ、どうかしたの」
すると、
「靴を落としてきちゃったの。これじゃシトシト響かないんだ。ちっとも楽しくないよ」
ホト
ホト
ホト。
なるほど、裸足では雨の音を出せないようです。
そこで、靴職人は新しい靴をこさえてあげることにしました。
さて。
最初の靴は
ゴン
ゴン
ゴン。
重くて少しだって飛べません。
ごはんを食べたあとの雷様の足音みたい。
ふたつめの靴は
フア
フア
フア。
軽すぎて足がつきません。
これじゃまるで生まれたての雪の子ども。
いろんな形の
いくつもの靴が
展覧会のように並んでゆきます。
そうして
時計の鳩が
目覚める頃。
シト
シト
シト。
見事な
雨の靴音が
響きました。
雨の子どもは喜んで
お庭へ飛び出し
くるくる
ぴょんぴょん
ジャンプでダンス。
靴職人もうれしくなって
雨の子どもと手をつなぎ
くるくる
ぴょんぴょん
いっしょにダンス。
ザンザカザンザン。
楽しい雨の靴音を聞きつけて
お空にいた雨の子どもたちがどんどん集まってきました。
ザンザン
ザザザン
ザザザン
ザザザ。
靴職人の家は
雨の煙で
真っ白です。
白い煙が
雲のバスへ変わると
雨の子どもたちは次々と乗りこみます。
ありがとう
ありがとう。
雲のバスは
虹を渡って
太陽の方向へ
走ってゆきました。
それから時々
靴職人のところへ
雨の子どもが遊びにくるようになりました。
そんなとき
靴職人の家は
お空がすっかり晴れていても
きらきらと
ちいさな雨に
つつまれているのです。
おしまい。
雨の靴屋
2012秋 文学フリマ 手描き豆本用。