第8話-18

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「どこにもいかん。私はここにいる」

 議会場から避難するジェフフェ族の流れの中で、大声を張り上げる者がいた。ビサンとミザンの父、グザは銀色の正方形をしっかりと抱きしめ、まるで自分の子供のように大事に水の中に身体を浮かべた。

 この間も水中は攻撃にさらされて、揺れ続けていた。敵攻撃艦隊が水面に張り付き、機械の触手を広げ、水を吸収し始めている。

「何度言わせるんだ、父さん。ここは危険だから逃げるんだよ」

 ビザンは水を震わせ、必死に父の白く、痩せ細った腕を、長い指で掴んだ。父がずいぶんと痩せているのをビザンはこの時、改めて実感した。

「なんで逃げなければならない。ここは家だ。家に帰るんじゃ」

 この問答を彼らは幾度も繰り返していた。

 うんざりする顔にヵ赤い怒りの色を浮上させたビザンは、思わず握った父の腕を激しく引っ張った。

 これには流石に横で見ていたミザンが見かねて止に入る。

「お父さん、これが何なのかを調べるために、研究室について向かうのよ。さあ、行きましょう」

 銀色の立方体を指し示され、グザはゆっくりと頷き、落ち着いた様子で、水中の中を泳ぎ、ジェフフェ族の避難する流れに乗っていく。

 長男として、息子として、父の老い、病気、自分の無力さを実感し、ビザンは妹の冷静な目線をただ、見ることしかできなかった。

 長い高速水流に乗ったジェフフェ族は、しばらくの後、自分たちの故郷が侵略者の巨大な機械に覆われ、ただの水源として握りつぶされるのを目の当たりにした。

 ジェフフェ族のアイデンティティが崩壊した瞬間であった。

第8話−19へ続く

第8話-18

第8話-18

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-01-14

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