もしもあなたに裁判員の通知がきたら 

加賀谷樹里

もしもあなたに裁判員の通知がきたら 
  1. 裁判員やりました
  2. 通知がやってきた!
  3. 呼び出し
  4. 抽選
  5. 裁判員と陪審員 有罪と無罪
  6. 評議室へご案内
  7. 開廷
  8. 補充裁判員て?
  9. 事実は小説より奇なり?
  10. ちょっと休憩
  11. 筋書のないドラマ
  12. 評議
  13. もしも私が被告になったら
  14. 判を終えて

裁判員やりました

「裁判員やったの」

 知人に言うと、「ええーっ!!本当にやった人いるんだ」

 と驚かれます。

「樹里のようなところにも来るんだね。もっとちゃんとした人が選ばれるのかと思ってた」


 失礼なことを言う人もいるものです。
 でも、はい。私自身もそう思っていました。違うのですよ。普通の人のところにも通知はやってきます。平凡な人生を歩んでいる人間のところにもやってきます。
 やるんですね。国民の義務なのです。断れないのです(相当の理由がなければ)
 他人事ではないのです。


 裁判員に選ばれたら何するの? 法律なんて知らない。最近人前で話したのなんてPTAくらいだぞ。そんな私にできるわけないだろ……?

 不安だ。

 まあ、そんな私にもできました。
 裁判員に選ばれたみなさん、最初は不安そうでしたが、終わってからの感想は

『面白かった(愉快という意味ではなく) やって良かった』というものでした。


 裁判中は裁判員をやっている。という事は秘密です。プライバシー保護のため。
 ですが、終わってしまえばブログもOK。もちろん秘密にしなければならないこともありますが。
 むしろ裁判員制度を理解してもらうためにも広げて欲しい、という。

 せっかく「小説家になろう」に投稿している体験者として、裁判員の通知がきたらどうしたらいいの……?とドキドキしている方の疑問や不安が少しでも解消するよう、裁判が終わるまでの流れを、少しずつお話ししていきたいと思います。



 始まりは一通の封筒から……。

通知がやってきた!

  裁判員制度が始まった頃、実家で母と姉と裁判員の話題になったことが何度かある。

「裁判員になっちゃったらどうしよう。断れないんだって。行かないと罰金払うんだよ。うつになる人もいるんだって。証拠写真を見るんだよ。死刑の判決とか。無理。絶対無理! やりたくないよ~」
それは忘れもしない平成1〇年11月。どんよりとした曇り空の日だった。


 買い物に出かけようと玄関のドアを開ける。うちは北玄関。ドアを開けると同時に冷たい風が吹きつける。

「さぶっ」

 そして郵便受けの封筒が目に入る。
 レモンイエローの封筒。また何かのカタログか?と思ったら……。
 差出人を見て目を剥く。


『最高裁判所』

 ぬなっ!? 裁判所とな!?

「うちの旦那 何かやったのか!!」

 ごめんなさいよ、旦那さま。最初に浮かんだのはそれだったよ。

「つ、捕まったらどうしよう……。会社の同僚で女子高生のスカートの中をのぞいて自主退職になった人がいると言っていたが、まさか旦那も一緒にのぞいていたのか……? 会社は? く、くび!? 家のローンは!?」

 悪い考えが頭の中を巡る。封筒にもう一度目をやる。


『最高裁判所』


「いや、待て待て。いきなり最高裁判所はあり得ない……これはもしや……」

 宛名は旦那ではなく私。

 わたし……?
 買い物どころではない。くつも揃えず慌てて家の中に入る。震える手で封を切る。

「ああ……やはり。裁判員の通知だ……」

(一緒に裁判員に選出された方たちも封筒を見た瞬間、家族が何かやらかしたと思ったらしい。皆さん慌てないで下さい)



 まさかこんなものが自分のところへやってくるとは。

 姉がこぼす。

「ほんとね~。来たら困るわね~」

 呑気な母。

「年寄りには来ないよ!お母さんに呼び出しがあるわけないでしょ!」

 母の眉間がピクリと動く。

(※ 裁判員年齢に上限はないそうです。ただし70歳以上は辞退することができます)

 裁判員に選ばれる確率は年間9500人に1人だそう

「大丈夫だよ~。そんな確率に当たりっこないって」

 心配性で口の悪い姉を鼻であしらった私だった。

 それが……。


 通知の内容を目で追っても中身が頭に入ってこない。

「ど、どうしよう。断る事は出来ないと聞いている。呼び出しに行かないと罰金を払うとも」

 とにかく落ち着こう。
 よく読めばそれは裁判所への呼び出しではなく、『翌年に用いる裁判員候補者名簿に登録された方を対象として、名簿に登録されたことの通知をする』というものであった。

 翌年1月から12月までの1年間。『裁判員候補者』に登録されるというもの。

 つまり、まだ裁判員に選ばれたわけではない。裁判所に呼び出されたわけでもない。ということ。
 この1年の間に裁判所から呼び出しがなければ何事もなく終わる……のだ。
 それからパソコンで色々調べた。ほとんどは何の通知もなく呼び出されることなく終わるらしい。

 旦那が帰宅しそのことを告げる。(旦那を疑ったことはナイショ)

「ほんとに! うわぁ~!?」と通知を読みながら会社にも1人裁判員を経験した人がいると言う。その人から話を聞いていた旦那は「せっかくだからやれよ」と言う。なんだかとても楽観的。
 いや、やりたくて出来るものではないのだよ……。
 でも、旦那の話を聞いていて「やってもいいかな」という気持ちになってきた。
 まあ、呼び出しがなければ、やるもやらないもないのだが。

「呼び出しが来たら来たでいいか」と少し気持ちが落ち着いていた。


 封筒に裁判員についてのDVDと冊子が同封されています。
 正直に告白します。見てません。読んでません。それでも何とかなりました(これは真似しないでください)

 その後何の通知もなく時は過ぎた。気づけばカレンダーも残り一枚。
 もう来ないだろう。
 そう安心していたそろそろ年賀状を書かなければ……と思っていた頃。


 ピンポーン♪ 「郵便で~す。ハンコ下さい」


 それはやってきた。

呼び出し

最初の『名簿登録のお知らせ』は普通郵便で届きますが『呼出状』は配達証明で届きます。


『〇〇地方裁判所』


 あと二週間で期限が切れる……そんな年末に届くとは。


 受け取りながら「うわぁ」と小さく声を出した私に、郵便配達のおじさんは俯いたままそそくさとバイクに乗り走り去って行きました。

『〇月〇日から行われる裁判員裁判の裁判員候補に選ばれました』というお知らせ。
 今回は最高裁判所ではなく、抽選、裁判の行われる(基本的に地元の)地方裁判所から送られてきます。
 配達証明ですから「そんな通知受け取っていません」とすっとぼけることはできません。


 しかし! まだ「候補」です。裁判員に選ばれたわけではありません。

『最終候補選択をするので〇月〇日に裁判所に来てください』と書かれています。

 通知が届いた日から六週間前後です。
 裁判は抽選日の次の週。月曜日から。
 その時点で事件の内容はわからない。抽選日当日にお知らせしますとのこと。そして裁判所に来る日(抽選)と、裁判員に選ばれたなら、〇月〇日と〇日に裁判があります。抽選の日は当選しても午前中にすべて終わると書かれていました。


 一緒に同封されているのは質問票。

 まずは参加は不参加か。

 えっ、不参加でもいいの? と思ったら理由を書く質問票が何枚もある。
 不参加の場合は理由を書くのだが、これがかなり細かい。



 まず辞退が認められるのは

 ※ 70歳以上
 ※ 地方公共団体の議会の議員 
 ※ 学生
 ※ やむを得ない理由で、裁判員の職務を行うことや裁判所に行くことが困難な人 

 など。


 やむを得ない理由というのは

 ※ 重い病気やケガ
 ※ 親族・同居人の介護・養育
 ※ 事業上の重要な用務を自分で処理しないと著しい損害が生じるおそれがある。
 ※ 父母の葬式への出席など社会生活上の重要な用務がある。
 ※ 妊娠中又は出産の日から8週間を経過していない。
 ※ 住所・居所が裁判所の管轄区域外の遠隔地にあり,裁判所に行くことが困難である。

  など。

 (同封されていた冊子『よくわかる!裁判員制度Q&A』より)      

 子供が小さくて預けられる人がいない。どうしても仕事を休めない。そんな人はもちろん不参加で返事を出すことができます。
 参加の場合は質問票を返送する必要はありません。不参加を希望しながら返送せずに当日裁判所へ行かなかった場合10万円以下の罰金が課せられます。

 私に当てはまりそうな理由は介護、養育だが、私には絶対無理という理由はない。これを書くならとりあえず行こう。
 この通知がくるのは5.60人。その中から裁判員が6人。補充裁判員が2名選ばれる。


 まず当たらないだろ……。

抽選

 抽選に行くのに交通費は支払われます。
 そして裁判員に選ばれたら、裁判が終わるまでの交通費、日当も支払われる。遠方から通うのは大変。ホテルに泊まります。という人には宿泊費も支払われる。
 日当は最高1万円。すべて後日こちらの指定した口座へ振り込まれます。
 それから出頭証明書が発行されます。



 抽選の当日事件の内容が知らされる。
 その後面接があり、コンピューターによる抽選が行われるとのこと。



 面接でアホなふりをしようか……などの考えがふとよぎる(往生際が悪い)
「恥ずかしいことは止めてね。お母さん」
 娘に窘められた。
(やってもいいかな。と思えてきたけど、やっぱり逃げられるなら逃げたい……)

 まあ、当たらない。当たらない……。


 そして迎えた当日。
 受付順に席につく。机にはお茶のペットボトルと番号札が置いてある。その番号で抽選が行われる。
 それからプリントが数枚。
 うち1枚は担当する裁判の事件が書かれている。それと交通費を振り込む口座の確認。そしてアンケート。



 その日のスケジュールは


 1. 裁判員のDVDの放映
 2. 裁判官、弁護士、検察官の紹介。
 3. アンケートの記入、質問
 4. 面接
 5. 抽選発表


 アンケートでは裁判員になれない理由を書きます。今回のアンケートで聞かれるのは、担当する事件を読んで、被告や被害者の関係者かどうか。似たような事件を経験しているか。

 判決に心理が影響されるのを避けるためである。ここで1名帰っていった。

 面接は全員ではなかった。免除して欲しい人の理由を聞く。ということでした。(裁判所によって違うのかもしれません)数名ほど面接を受け。その後、みんなの前でコンピューターのスイッチが押される。何も操作はされないという。
 年齢、性別、職業など一切関係ない。
 よって、まれに性別や、近い年齢で偏ることもあるらしい。


 小さなモニターに番号が表示される。
 私の番号は『37』
 前半の番号はほとんどなく、35.36.37と連番が映し出される。


「えっ……」

 さほど驚かなかった。

「ああ、やっぱりぃ……」

 そんな感じ。

 気が乗らないものに限って当選してしまうことが多い。
 中学校で無理やり立候補させられた生徒会。PTA役員それも一番やりたくない部長。子供会。それもやはり会長。などなど……。
 今年はやってもいいぞ! と気合いが入っているとなぜか当たらず終わるのだ。そんなものだ。
 それにしても6/50の確立でなぜ連番……?
 抽選で外れた人はここでお帰り。
 そして裁判員6名と、補充裁判員2名はとなりの部屋へ。


 テーブルと椅子が人数分並べられ、向かい合うように何人かが並んでいる。
 ここで裁判官三人と間近でご対面~。
 そして裁判官の横には検察官と弁護士が。
 あの黒い服は着ていない。ドラマで見るようなお堅い感じはしない。普通の人。
 そして若い。裁判官のひとりと検察官はどう見ても20代だ。
 裁判員に選ばれた方たちはみな賢そうに見えて緊張。が裁判長は優しそうな笑顔。
 ちょっと安心する。

 そこで全員揃って、机の上に置かれた紙に書かれた誓いの言葉(公平な判断をすることを誓いますというような文)を読み上げます。



 ああ……本当に裁判が始まるんだ。

裁判員と陪審員 有罪と無罪

 裁判員といえば……。

 三谷幸喜 脚本『12人の優しい日本人』を思い出す。


 こちらの作品はまだ裁判員制度が始まる前の作品。
 もしも日本で陪審員制度ができたなら……。優しい日本人ならどうなるかをコミカルに描いたもの。



 被告は若い女性。復縁を迫った元旦那がトラックに轢かれて死亡するという事件。

「とりあえず有罪か無罪かで評決をとりましょう。無罪だと思う人は挙手して下さい」

 みんなが手を挙げると何となく挙げてしまう。全員一致で「無罪」になりかけるが……。
 一人が有罪を主張。
 陪審員は全員一致でないと評決にならない。
 はやく帰りたくて「無罪」だよ。となだめる人。

「人が死んでるんだ。もっと真剣に話し合いましょう」と言う。


「DV旦那が悪い」「若くて美人だから無罪」「証人はばばあだから嘘をついてる」無罪を主張するもそんな理由だ。そのうち奴らに負けるなと無罪派VS有罪派になっていく……。
 帰ろうとする者。議論をし合っている脇でこっそり落書きする者。きつく意見を求められて鼻血を出してしまうおばちゃん。

 それから議論は白熱し、今度は全員一致で「有罪」に……?




 この映画は『陪審員』であって『裁判員』ではない。

 陪審員と裁判員 役割が違うんですね。
 アメリカやイギリスでは陪審員制度。
 日本では『裁判員』です。


「有罪」か「無罪」かを話し合って決定するのが『陪審員』陪審員のみで評議する。刑を決めるのは裁判官です。
「有罪」か「無罪」か、そして刑罰を裁判官とともに話し合うのが『裁判員』です。

 裁判官が最初から評議に入ってくれるので『12人の……』のような展開にはならないだろうし、鼻血を出すほど意見を求められることはないでしょう。


 ところで『12人の……』でも最初から被告は「有罪」か「無罪」か。と話し合いが始まりますが……。

 有罪でなければもちろん無罪、という判決にはなるのだが、それイコール『白(無実)』ではないのですね。
 有罪と言い切る十分な証拠はない。白ではなくても、黒に限りなく近いグレーであってもそれは『有罪』にはならないのですね。
『黒』でなければ『有罪』にはできないのです。
 英語では有罪を『guilty』 無罪は『not guilty』と言います。無実は『innocent』

「白ではなくてもグレーに持ち込めれば弁護士の勝ちなのですよ」と裁判官が初めに教えて下さいました。

 被告は黒か白か。なのではなく、証拠から黒とはっきり言えるのか。それを話し合うのです。

『12人の……』でも、初めは被告をその見た目や同情から無罪を主張していた人たちも、意見をぶつけ合いながら、徐々に理論的に有罪を立証できるのか? というところまで突き詰めていく。


「人を裁く」というと重いですが、有罪と決まったら、その『罪』に対してどのくらいの刑罰を与えたらいいのか。どのくらいの刑罰に値する罪なのか。それを考えていきましょう、と言う。

 日本ではこれだけの罪を犯したらこれくらいの罰を受けるルールがある。そのことによって日本の犯罪や再犯を抑制する目的があるのですね。


 考えてみれば当たり前のことかもしれませんが、裁判員にならなければ考えなかったことかもしれません。

評議室へご案内

 抽選当日のその後。評議の行われる部屋へご案内。

 部屋には「12人の優しい日本人」のように大きなテーブルがどーんと置いてある。
 部屋の隅にはロッカーが並び、テーブルとソファが置かれ、コーヒーとお茶。それから小さな冷蔵庫にも飲み物が用意されていました。
 裁判官は名札だが、裁判員は与えられた番号の番号札が置かれ、その番号に座る。


 そこで裁判の日程など説明を受ける。
 それからファイルが一冊ずつ。日程や白紙のメモ用紙が綴じられています。

「メモ用紙は裁判で自由に使って下さい。裁判が終われば誰も中身を見たりしません。そのまま処分します」とのこと。

 軽い自己紹介。自己紹介と言っても裁判の間、裁判員はお互い「番号」で呼び合います。プラシバシー保護のため、名前を言いません。
 私は5番だったので最初から最後まで「5番さん」です。
 年齢は20代から60代まで、ばらばら。
 裁判官も始終笑顔。優しく丁寧に説明してくれます。
 テレビで見るようなお堅い、近寄りがたい感じはしませんでした。

 後で裁判員の1人が「もっと怖い感じかと思ってたよね。裁判官て。七三分けで黒縁メガネで」って言っていた。解るけど、いつの時代だよ。ってイメージですがな。


 担当する事件は『強盗傷害罪』 裁判員裁判は殺人事件など重い裁判と聞いていたので、比較的軽い事件でほっとする。
 ただ、被告は暴力団。証人も暴力団かまたは関係者だという。
 通常の裁判は4日程度だというが、今回は8日間。
 被告が無罪を主張し、証人が多いため長いのだという。


 それから裁判の行われる法廷へとご案内。
 そう、あのニュースで見るあの部屋。ただし、テレビで見るのは傍聴席からのものだが、入口は裁判官の真後ろ。そこから入り裁判員の席に着く。あの一段高い席ですね。裁判官と同列の同じ椅子。
 補充裁判員はこの席ではありません。
 裁判官の後ろ、入口の左右にテーブルが置かれ、ここに座ります。
 裁判員の長いテーブルには2人でひとつのモニターとメモ用紙が置かれています。
  気分が悪くなったら遠慮なくこのメモに書いて回してください。休息を入れます。と言う。
 ただし、一人でも欠けたまま裁判を行うことはできないので、その間裁判は中断されるとのこと。


 そんな感じで終わった抽選日。予定通りお昼前には終わりました。
 でも長い一日に感じられました。


「では、来週月曜日。お願いします」


 建物から出ると、裁判員に選ばれた皆さん口々に「ああ~やっぱり当たっちゃったよ~」などと本音を愚痴る。

 皆さん同じような思いだったのね。

「じゃぁ、来週からよろしく!」と別れる。

 なんとかできるかも。そんな気分で家に帰る。主人や子供達にも「裁判が始まったら家事の手伝いよろしくね~」と緊張もあるけど上機嫌。


 そして月曜日。
 なんとその日は今年初の雪。それも大雪だった。

 こんなことまで大当たり。トホホ……。

開廷

 いよいよ裁判当日。

 前日から大雪の予報。それまでは暖冬だったというのに……。なぜこの日に初雪。それも大雪なのか。
 もちろん早めに出るが車はまったく動かない。大渋滞。


「もしも遅刻しても開廷時間をずらしますから、慌てずに来てください」


 そう言われていましたが初日から遅れたくはない。
 ビル風に横なぐりの雪を受けながら、なんとか集合時間には間に合う。



 9時30分に評議室へ集合し、スケジュールの確認。トイレ休憩。そして10時開廷です。
 持っていくものはファイルとボールペン(裁判所から用意されたもので、どんな小さな備品にも裁判所と名前が貼ってあった。さすが細かいです)
 それからブランケットも用意されていました。


 裁判官たちがあの『黒い服』を羽織る。
「おお~」と声が上がる。
 何色にも染まらない。という意味で黒なのだそうな。(花嫁さんとは逆なのね)
 思っていたより薄い生地。と思っていたらシルクだそう!? ちなみに書記官は木綿なのだそうです。(違うんですね)
 ちなみに裁判員は特に決められた服はありません。スーツでなくても普段着でOK。ジーンズにスニーカーの方もいらっしゃいました。



 ドアの前で番号順に並びます。
 裁判長に続いて入場。
 ちょっと緊張です。
 抽選日に見た光景とは違う。被告。被告の横には警察官。検察官。弁護士。書記官。そして傍聴席にも人が。
 被告は法廷に入る前までは手錠をかけていますが、法廷では外されます。


 ドラマでよく見る光景。
 でもドラマではないのですね。徐々にこれは現実なのだと実感がわいてきました。

 被告が証言台の前に立ちます。
 被告は元暴力団組員。事件当時は暴力団組員です。
 本人確認をし、検察官が起訴状に記載された罪状を読み上げます。そして罪状認否。
 被告は「無罪」を主張しました。

 そして冒頭陳述。

 よくドラマや小説では専門用語が多く使用されますが、非常に解りやすいものでした。
 これは裁判員制度になったからなのだと思いますが、誰にでも解る言葉で、質問を必要とするようなことは今後もありませんでした。

 冒頭陳述も、これはひとにもよるのでしょうが、検察官から渡された資料は人物相関図や箇条書きで解りやすく書かれ、裁判員への配慮を感じました。

補充裁判員て?

 休憩時間、携帯電話をチェックすると電話が入っていた。

「この電話番号はもしや……」

 掛け直してみると思った通り、息子の通う中学校からだった。

「息子さんの具合が悪いようなので迎えに来てください」との電話。

 こんな時に限ってこんな電話がある。


「実は裁判中で……」と事情を告げると先生の方がびっくりしてしまった。
「で、ではお父さまに連絡します」と即、電話を切ってしまいました。


 電話のやり取りを聞いていた裁判官が「どうしました?」と気遣ってくださる。


 もしもの時は遠慮する必要はありませんよ。と言う。
 そのために補充裁判員がいる。
 途中、病気や事故でやむを得ず裁判に来られなくなった場合には、補充裁判員が後を引き受けることになります。


 では、補充裁判員はその時になったら裁判所に行けばいいの?
 誰ひとり欠けることがなければ最後まで裁判所に行く必要はないの?
 と思っていたら違うのですね。
 補充裁判員は最初から裁判員と共に法廷で裁判を傍聴することになります。

 では、裁判員と補充裁判員と何が違うのか。補充裁判員は、



 ※法廷で証人や被告に直接質問することができない。

 ※評議では意見を述べることはできない。

 ※評決に加わることはできない。


 とあります。
 ですが、裁判官から意見を求められれば評議で意見を言うことができます。
 今回の評議では、裁判員と同じように意見を求められていました。法廷での質問も直接はできませんが、裁判官が質問があれば私が代わりに聞きますよ。と必ず訪ねて下さっていましたので、裁判員とほとんど変わらないものでした。

 ただし、評決には加わることができません。評決の直前、

「ここで思う存分意見を言って下さい!」

 と裁判長に求められ、思いの丈を語っていらっしゃいました。

事実は小説より奇なり?

「実際の裁判は淡々と進みますよ。『実は私がやりました!』なんてドラマチックなことは起こりません」と裁判官が残念そうに首を振る。

 そのように淡々と進んでいきます。
 途中、休憩はこんなにあるの!? また休憩? というくらい間にちょこちょこ入ります。



 冒頭陳述によれば、今回の事件は『強盗傷害事件』


 被告はABCと強盗を計画し、ABCが事務所へ侵入。被害者に怪我を負わせ、金庫から現金を奪い逃走したという事件。
 実行犯であるAとBの供述によれは、被告は強盗の話を持ち込んだ主犯格であるという。
 この『A』と『B』そして強盗の話し合いが行われた場に一緒にいたBの彼女である『D』の三人が検察側の証人として。
 被告の友人で事件当時、被告と一緒にいたという『E』が弁護側の証人として、以後3日かけて証人の話を聞くこととなりました。



 いよいよ『証拠調べ』

 検察側から現場の写真。被害者の写真がモニターに映し出されます。荒らされた事務所の様子やこじ開けられた金庫、そして被害者の怪我の写真。
 少し緊張しましたが、思わず目をそむけたくなるような証拠写真はありませんでした。
 あまりに悲惨な写真が証拠としてあげられる場合。あらかじめ予告されることもあるようです。



 それぞれ立場の違う証人の話を聞きながら、事件が少しずつ見えてくる。それと同時に人間関係が見えてくる。
 被告とAは暴力団の師弟関係にある。
 Aが逮捕され、初めはBとC三人でやった犯行だと口裏を合わせていたのだが、Aが被告へ宛てた手紙が証拠として読まれた。初めは被告を気遣い、庇っていたが……。そこにはAの複雑で素直な思いが綴られていました。

 そしてBの彼女であるDさん。被告に借金をし、返せないためにBは今回の事件を持ち掛けられたという。このDさん。こんな女性にお願いされたら男性は引き受けてしまうのだろうな、そんな印象。
 そして弁護側の証人である暴力団組員Eの証言。
 このEさん。まるで強面俳優の〇〇さんのよう。
 人間てそれまで歩んできた人生が、話し方や佇まいから滲み出るものなのだなぁと、改めて感じる。
 まるでその役の為に用意された俳優の演じる二時間サスペンスドラマを見ているようではあるけれど、現実なのですね。


 淡々と進みはするが、生々しい人間ドラマが展開されていきました。


 法廷での内容に守秘義務はない。公開されているものに関して守秘義務はありません。
 守秘義務が課せられるのはふたつ。

『評議の秘密』と『職務上知り得た秘密』です。

 例えば『誰がどのような意見を言ったのか』『どう判決をするのか』『事件関係者や裁判員のプライバシー』は 家族でも言ってはいけません。
「墓場まで持って行ってください」とのこと。
 評議の間は窓も開けてはいけない。という徹底ぶりでした。



 重い裁判、重い判決の場合。この守秘義務は相当の負担がかかると思われます。
 裁判員同士なら話してももちろんOKなので、判決後も交流を持つ方たちがいらっしゃるようです。
 裁判官たちも「気分は? 大丈夫ですか?」「法廷中でも遠慮なく言って下さい」と度々声をかけてくださりました。
 専門のカウンセリングも用意されています。
 医者やカウンセリングに相談する際には話してももちろん差し支えありません。


 アメリカの陪審員にはこの守秘義務はないそう。
 ではなぜ日本の裁判員には守秘義務があるのか。
 評議の内容を公にされれば、誰がどのような意見を言ったのか、どのように評決をしたのかが公にされます。そうなると後で批判されることも起こりかねない。評議で思うような意見を言えなくなることを避けるため、裁判の公正と信頼を確保するために守秘義務はあるのですね。

ちょっと休憩

 評議の内容は秘密なのでお話しできませんが、休憩やお昼休みには裁判官の方々が雑談しながら色々と教えて下さいました。


『暴行罪』と『傷害罪』

 違いがわかりますか?と裁判官のひとりに質問され誰も答えられない。
 みんな首をかしげる。

「暴行罪」というのは、暴力をふるったけれど怪我をしないものが「暴行罪です」と言う。

『???』

 イマイチ飲み込めない。ますます首を傾ける裁判員たち。

「どういうことですか?」

 ひとりが口にする。

「つまり、『でこピン』も暴行罪にあたるんですよ」と言う。

「ええっー!!」

 思わずみんなで声を上げる。
 ドヤ顔の裁判官 (に見えただけかもしれない)


「でこピンやしっぺ。肩や手を叩いたり、押したり、平手打ちも暴行罪ですよ」と裁判官。
「え~。そんなの、日常で……」

 思わず声を出してしまい、裁判官の向こうにいた主婦の4番さんと目が合う。「遊びでも兄弟喧嘩や夫婦喧嘩でもやってることだよね」
 そう言った私に「うんうんうん!」と頷く4番さん。

「えっ!やってるんですか!?」

 と、私に顔を向けた裁判官。

「あっ! いえいえ、やってません。やってませんよ!!」

 思い切り否定しました。(危ない危ない……)

筋書のないドラマ

 ミステリーは好きです。
 無実の主人公が感じ悪~い弁護士や検察に証人尋問でじりじりと追い詰められるような法廷ものは観ていてモヤモヤしてしまうが、謎を投げ掛けられたら解きたくなるもの。

 小説の場合、最後まで読めば事件の真相は解るもの。
 ですが、現実の裁判はそうはいきません。
 無実を主張していた被告や、または真犯人が「実は私がやりました」と事件の真相を法廷で告白する──
「そんな大どんでん返しは起こりませんねぇ」と裁判官。

 何が真実なのかは裁判官はもちろん、検察も弁護士すらも知らない。
 被告が有罪か無罪かは被告しか知らないのだよね。
 事件を知らない第三者が集まって判決を下すのだから、不思議といえば不思議。そこに自分がいることがもっと不思議。
 けれど、その結果は被告にも、被害者にも、そしてその家族にも、今後の人生に大きく関わってくるのだと思うと、無責任な発言、判決はできない。
 被告が悪そうな顔をしているからといって「やっただろう」などと先入観を持ってはいけません。
『12人の優しい日本人』のように「あの人は人を殺すような人じゃないよ」などと判断されたら、被害者や被害者の家族はたまったものでありません。

 証人の話は、ひと言も聞き漏らさないよう真剣に聞く。ちゃんと聞いていられるだろうか。眠くなったりしないだろうか。と心配していましたが、そんな心配は無用でした。ドラマより、子供の話より、ママ友の井戸端会議より真剣に聞きました。

 そして証人尋問。
 これは苦手です。聞いているほうもちょっとドキドキ。
 案の定弁護士の尋問。これは事件とは関係ない突っ込みだなぁ、と素人でも思ったていたら。
 出ました。

「異議あり!」

 ドラマのように立ち上がったりしません。息巻いて指さしたりはしません。検察も弁護士も法廷を歩き回り、証言台に手を置いて、証人の顔の前で目を見つめながら尋問する、なんてことはありません。残念……。

 最近はよくバラエティ番組でも言われているのでご存知の方も多いと思いますが、逆〇裁判にも登場するあの「静粛に!」の木槌。
 あれもありません。残念……。

 それでも冷静に冷静に慎重に慎重に言葉を選び、検察VS弁護士。見えない火花が散っておりました。静かに、張り詰めた空気の中、筋書のないドラマは淡々と進んでいきました。

評議

 証人尋問が終わると、裁判員から質問することができます。

 実際質問される方もいらっしゃるようですが、休息の時間、裁判官が「質問したいことはありますか? ご自身でされますか? 質問しずらければ私から質問します」と代わりに質問して下さいました。
 さすがに法廷で質問する度胸はなかった……。

 証拠調べが終わると「論告求刑」に移ります。検察側が被告人に対して〇〇を求刑する。
 ここでいったん休憩が入ります。(続けて進んでもいいのに……というくらい休息はちょくちょく入ります)
 そして「最終弁論」 「最終陳述」と進み、審理は終わります。


 いよいよ『評議』の始まり。
 評議の進め方はその裁判所や裁判官によっても違ってくるようです。

 当選してしまったときには、裁判官に、初対面の方たちに意見を言えるのだろうか。そもそも法律も知らない人間に「意見」などあるのだろうか……。などなど不安だらけでした。私だけではありません。最初はみなさん意見が出ません。裁判官が質問するような形で、遠慮がちに話していました。
 裁判官もとても気遣ってくださいます。裁判官同士でも意見が分かれることもあり、「僕は違うんだよねえ」と話し始め議論になると、裁判員も意見を出し合うようになります。

『名探偵コナン』でいえば、コナンと服部が裁判官なら、裁判員の私たちは蘭や園子や光彦たち。といった感じでしょうか。

 裁判官も私たちの意見を真剣に聞いて下さいます。
 ちょっとした疑問にも一緒に考え、納得のいくように説明して下さいます。
 何度も言いますが「解りやすい」です。
 おそらく中学生でも参加できるだろう、というくらい誰にでも理解できる言葉で説明、評議は行われます。何の心配もありません。
 証言で暴力団特有の言葉が出て来たことがありまして、質問したところ、暴力団の業界用語といいましょうか、暴力団の専門用語ですよ。といくつか教えて頂きました。お若い裁判官もつい最近知ったようで、裁判長から「〇〇裁判官も知らなかったんだよね~」と言われ照れ笑い。そんなものなのかと、ちょっとほっとする場面もありました。


 とにかく慎重に何度も何度も証言に食い違いはないか話し合います。
 検察側の三人の証言はほぼ一致するものでした。矛盾はない。ですが、検察側だけの証言を信じて判断することはできません。今度は被告の証言が真実だとしたら……矛盾はないか。どこが食い違っているのか。残された証拠や通話記録などと照らし合わせていきます。
 ひとつの証拠を様々な角度から見ていきます。

「真実はいつもひとつ!」

 と言っても、真実に形はない、見えない。作家はいない。
 物的証拠はほとんどないなか、証言を分析しながら話し合いは進みました。

 この頃になってくると、名前も知らない裁判員の方たちとも打ち解けて雑談も交わすようになります。話し合いがしやすくなる半面。
 眠い。
 締め切った空気の悪い部屋の中、お昼を食べた後の評議は正直しんどかったです。裁判が終わった後、みなさん正直に「眠かった」と仰っていました。

 昼食はどこの裁判所も自由のようです。
 外食もOK。ただし、日当に含まれているのでしょうが……、自費です。ただ、ここ〇〇地方裁判所はビジネス街からちょっと離れていて、すぐ近くにはあまり食事する処がなく、ワンコインの日替わり弁当を職員の方が朝注文にいらっしゃるので、それで済ませる方がほとんどでした。

 東京から通勤している裁判官が、いつも私たちと共に駅弁を食べていらっしゃったのですが、ある日駅弁の話題で盛り上がりました。あの〇〇弁当美味しいよね~。食べたい! 裁判員の一人が言ったところ、「じゃあ買ってきますよ」と裁判官。
 次の日はお昼にみんなで駅弁を食べるという、想像もしなかった光景がありました。

もしも私が被告になったら

 裁判員を経験する前は、素人に判断されるってどうなの? と思ってました。
 法律を知らない人間に有罪か無罪か、量刑を決められてしまうのってどうなの? と。

 裁判員を経験して思ったことは

「もしも自分が被告になったら」

 一般の人に評議に加わってもらう方がいいんじゃない? ということ。


 裁判なんて自分とは関わりのない世界ではあると思う。私の周りにも警察関係や弁護士はいます。
 それでも強盗や殺人事件などはあまり身近には感じられない。
 事件は自分の生活しているすぐそばで起こっている。でもその事件は専門家に任せてしまって事件を起こしたらどうなるのか、よく解っていない。

 自分から被告になりたくはないが、例えば介護殺人で考えてみる。

 介護に疲れて、または殺して欲しいと頼まれて殺人を犯してしまう。最近のニュースでよく耳にします。
 もしもこんな事件を起こしてしまったら、または身近に起こったら。
 正直、裁判官だけでなく、介護を身近に感じている方が裁判員にいたら安心するだろうなぁと思う。

 例えば学校の先生は……。
 教育に関しては専門家、プロではあるけれど、「学校」を卒業して「学校」へと就職。社会人としての経験がない。(だからといって世間知らずというわけではありませんが)
 裁判官も法律の専門家ではありますが、おそらく介護に関してはあまり経験がないのではないか。

 評議の休憩時間、裁判官のいないところで「ぶっちゃけどうなんだろう。裁判員制度なんてない方が仕事が早いと思ってないのかなぁ」とそんな話しになりました。
 法律も基本的なことも知らない一般人にひとつひとつ説明し、それも裁判のたびに……などと裁判員のほとんどのみなさんが思っていたんですね。
 実際には、裁判官は私たちの意見をそれはそれは真剣に聞いて下さいました。
 そして、一般人と言っても様々な職業の方たちの集まりですから「私たちが教わることも多いのですよ」と仰っていました。

 一般人。法律の素人ではあっても、それぞれみなさんその道のプロ。
 私もプロです。と言えるような手に職はないけれど、育児や子供に関してなら裁判官よりも解っていると胸を張れるぞ。子供が犠牲になる事件。育児ノイローゼによる事件なら、母親の心理は裁判官よりも解るぞ。介護の大変さは、介護の経験のない男性や学生、裁判官よりわかるぞ。



 何事も違った目線で見ることは大切。
 裁判官の間では常識で通っていることでも、一般人からみたらおかしなことかもしれない。
 人生経験豊富な年配の方、発想の柔軟な若い方、男性ならではの意見。女性ならではの視点。それぞれ違った意見にはっとすることもありました。

 裁判員裁判が始まる前の裁判は、事務的で解りにくかったと言います。
 自分が被告だったら、または被害者だったら、「事務的」に処理されたくはない。裁判のやり直しといったニュースも耳にします。それは避けたい。

 賛否両論ある裁判員制度ですが、

『もしも私が被告になったら』

 その時はぜひ、裁判員裁判でお願いしたい。

(できれば年齢、性別、職業は偏らないようにも配慮して欲しいですね。ランダムに選ばれるので偏ることもあるそうなので。公平第一なのでしょうが)

判を終えて

 評議の内容は守秘義務により話すことはできませんが、やはり一番大変でした。
 有罪か無罪かを決めるのにも何度も何度も話し合いが行われましたが、有罪と決定した後。では、

 ──どのくらいの罪に値するのか

 その決断が一番悩みました。それは裁判長も同じだったようです。

 この罪にはこのくらいの刑。という決まりはもちろんあるのですが、その刑の幅がとても広い。
 これでは参考にならない、というくらい広い。

 それでも考え考えて議論し合い、補充裁判員は評決に加わることができませんから、ここで最後の意見を熱く語り、決断をし、評議を終えました。

 そして判決が言い渡されます。
 ここでも表面は淡々と進みましたが、傍聴席では被告の家族が判決を聞いています。
 被告は私と同世代でした。傍聴席に座っている被告の家族は私の子供と同じくらいの年齢です。
 そして裁判長も被告と同世代です。お子さんはやはり同じくらいの年齢なのかもしれません。

 判決を言い渡された被告と、それを一段上から見下ろす裁判官。それぞれの子供たちの境遇の違い、人がなぜ犯罪を犯すのか、もしも育った環境が違っていたら……
 そんなことをぼんやりと考えていました。



 評議室に戻ると、裁判に対しての意見や感想を聞かれたので、正直に「解りやすかった。特に検察側の資料が箇条書きで書かれていて解りやすかったし、証拠提示も見やすいものでした。ただ弁護士側はちょっと……」と言うと、

「解りました。ではそう話しておきます」と言う。
「!?」

 なんと裁判員裁判が始まってから、裁判後に裁判官、弁護士、検察官が一同に会し『反省会』が行われているのだそう。これは弁護士にとっても検察官にとっても、お互い相手側の感想など聞く機会はないのでとても貴重なものなのだとか。

 裁判員制度になってから、裁判のやり方も随分と変わっていたのですね。
 裁判官は三年ほどで転勤になると教えて頂きました。地域との癒着を防ぐためだそう。裁判官と検察が慣れ合っては公正な裁判になりません。そこに一般人を入れることでより裁判が解りやすく、公正に行われるのだと思うと、最初はやりたくないと思っていた裁判員ですが、もしも自分が被告になったら、裁判員も一緒に話し合う開かれた裁判の方がいいとすら思う。結局は自分たちのためなのだと。
 そして私たちが裁判に感心を持つことで犯罪そのものが、社会が良い方向に流れていくのかな、とも思いました。
 まだまだ理解のない裁判員制度。仕事を休むにも休暇がもらえない。重い事件を担当してトラウマになってしまうなど、課題も多いと思いますが、証拠写真をイラストにするなど、少しずつ改善されているようです。

 最後に裁判長から感謝状と裁判員バッジが貰えます。
 シリアルナンバーも刻まれています。バッジをつける機会はないでしょうが……。
 なんとなく嬉しい。


 大変な一週間だった。

 あんなに一つのテーマを話し合ったのは新入社員の研修以来だったのではないだろうか……。それも研修は同世代の新人同士。今回は年齢の幅も広ければ様々な職業の人達。そして裁判官。そんな顔合わせでひとつのテーマを真剣に話し合う機会などもうないだろう。そう思うととても貴重な体験をしたものだと思います。
 事件の当事者やマスコミも警察も知り得ない「評議」の場所にいて、判決に自分の意見が反映されていると思うと、あれだけ逃げたかった裁判員ですが、やって良かったと思える。

 裁判員に選ばれた人のアンケートで、選ばれた直後は「やりたくない」が8割ですが、裁判後のアンケートでは実に9割が「やってよかった」と答えているんですね。
 あれは嘘ではありませんね。終わった直後なので解放感や達成感もあるとは思いますが。
 みんな「面白かった。やって良かった」という感想でした。

 他にも色々と思うところはありますが、今回で最終回にしたいと思います。
 最後までお付き合い頂きありがとうございました。

 今後よりよい裁判が行われることを願って。そして裁判員の通知が届いた方に少しでもお役に立てますように。



 もしもあなたに裁判員の通知がきたら……?

 とりあえず家族を疑う心配はなくなったでしょうか。

もしもあなたに裁判員の通知がきたら 

もしもあなたに裁判員の通知がきたら 

判員やりました。 通知は配達証明で届く「そんな通知受け取っていません」とすっとぼけることはできません。 面接でアホなふりをしようか……などの考えがふとよぎる やっぱり逃げられるなら逃げたい… そんな私の体験談

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