カロリック

マチミサキ 作

上京してきた
地元の後輩
現女子大生よりから久々の連絡あり。

『中免が取れたのでバイクを見に行きたい、
ショップに付き合ってもらえませんか?』

との事。


・・・

えー、ついこの前
大学に入ったばかりなのに。

お金とか大丈夫なんですかね。

私が言うのもなんですが
どうせなら
普通免許の方が良かったんじゃないですかね…。


なにより

この娘の親御さんに

『いつもとは言わないけど何かあった時には
力になってやって欲しい!』

そう頼まれているのですよ。

『何かがあるように力になって欲しい』

そう頼まれている訳ではないのです。

私の経験上
若い初心者バイク乗りは
何かしら
やらかす事が多くて。

昔、私が所有していた
バイクの一台を

『どうしても譲って欲しい!』

そう懇願してきた
高校生の少年が居ました。

免許を取得し
最初の一台はこれにしたい!

と、いうより

このバイクに乗りたいから
免許を取ったのだ!

そう
熱意溢れる眼差しで
頼まれてしまい

数日よく考えて

…ならば、とお譲りしたのですが

納車日

ウチから出て行って

数時間程したら
戻ってきました。

血だらけの顔面と右足

カウルは割れ
フォークの曲がったバイクを
ヨタヨタと押しながら。

━━しまった…
補助輪を付けておくのを忘れた…。

そう後悔し、
申し訳ない気持ちになったりしました。

そんな事もあったのです。

バイクかぁ…。

やだなぁ…。

関わりたくないなぁ…。

それが私の本心。

勿論、本人がケガをして
辛い目に遭うのも心配だし…。

私としては
学業に専念して
無事に卒業してもらいたいのですが。

あの大学の場所とアパートなら
バイクでなくても
移動手段は幾らでもあるはず。

【人は公共の移動手段のみで生きるに非ず】

いや、
生きて良いのでは?

せめて自転車じゃ駄目かなぁ、
でも
免許を取っちゃたなら
もう
乗る気マンマンでしょう、きっと。

多分
彼女にとって
今、一番身近に居る同性のライダーで
歴の長いのは
私なのでしょうけど

誓って私は
この娘にバイクなどオススメして
おりません。

でも、私が吹き込んだみたく
親御さんに思われたらやだなぁ…。

心配は募るばかり。

私もライダーの端くれでは
ありますが
他人にバイクは絶対勧めません。

バイクを否定している訳ではなく

乗るのならば
そのリスクに十分な知識と覚悟を持って
自己責任で、という事。


かなり
キツイ事故も沢山見てきたので。

もし、万が一の際に
責任の一端でも

それが
私に発生するのが
恐ろしいからです。

いい加減な甘い考えの言葉で
誘いこんだりして
何かあったら
とても責任が取りきれません。


事故

それは勿論バイクのせいだけ
ではなく
乗り手側の問題であったり
不慮のものであったり

それでも

バイクの事故は…

キツイですよ。

これもひとつの機会と捉えて

うん

書いてしまいましょう。

遺体が
かなり損傷した

現場も

何度か遭遇しているのです。


私が
救急や警察に連絡した事もあります。


現場で
泣き叫ぶご遺族も
見た事があります。


あれはね

数年前

たまたま
通りかかった道で

大きな事故の数分後に遭遇したのですよ。

大型バイクと大型トラックの
衝突事故です。

トラックの方は擦り傷程度でしたが
衝突転倒後
慣性により
数十メートルは滑り続けたらしき
バイクは原型を留めていませんでした。

このケースは極端な例で

無論、四輪車でも
事故のリスクはあります。

それでも
四輪自動車と比べ
その身体を剥き出しで走る二輪車のリスクが
比較出来ない程に高い事は
間違いありません。


原型を留めていないほどの車両では
ありましたが

それでも
私が当時乗っていたバイクと
同型である事はすぐ判りました。

色も年式も
まったく同じ。

そして

トラックの運転手は
かなり動揺しており

同型バイクという事で
不思議な因縁も感じ

私が救急、警察へ連絡しました。

ぐしゃぐしゃになったバイクの
その乗り手は
迅速に救急車で運ばれましたが

即死、であった事は
その後の連絡を聞くまでもなく…


現場検証にも
立ち会いましたが


くどいですが

キツかったですよ。


何故か
警察の方から
私の指紋も採取する、

と言われて驚きましたが

この事故現場は
大きなスーパーの真ん前であり

この事故を当初から
見ていた方々も多く

この娘は通報しただけで
無関係だよ、

との多くの証言と
お店の前に設置されていた監視カメラの
映像が残っていたので
結局は
拒否できましたが。


そんなこんなをしているうちに

現場近くに住んでいるという

親御さんがきたのですが

私や警察の

━━早く病院へ!

との意見も
まったく耳に届かず

母親は半狂乱になっていました。

一緒に来た
父親に掴みかかり

『あなたがっ!あんなモノ買うからっっ!!』

悲痛に叫び続けていた
様々な絶叫の中で

この言葉が

どうしても
忘れられず

未だに耳に焼き付いています。


少し経ってから

また警察から連絡があり

こちらの
親御さん、父親の方

私にお礼をしたいそうなので
連絡先を教えても良いか?

という
問い合わせがあり

一度は御断りしたのですが

なにやら

お礼以外にも保険関係の書類で
私の署名が必要となり
協力して頂ければ、

とのことだったので

私が警察署に赴くことにし
そこで
待ち合わせ、ということで
同意しました。

そこで

亡くなった息子さんの事を
色々と聞かされました。

某国立大に現役で合格し
更に優秀な成績を修め
将来を嘱望されていたこと

その他にも色々…

それで気が楽になるなら、と

黙って聞いていました。


最後に
父親が言ったのは

『ああ、死んだな…とあの時すぐ判りました』

と、いう一言。

これ以上詳しいことは伏せますが

この方は
そういう事に詳しい
職種だったそうで。


いただいた菓子折りは
どうしても
自宅に持ち帰る気がせず

そのまま職場に持ち帰り
皆でありがたく
ご馳走になりました。


推測でしかありませんが
おそらく事故の
最大の要因は

バイクによるスピードの出し過ぎです。

いえ、
乗り手によるスピードの出し過ぎ

と言い換えましょう。

亡くなった方を鞭打つ訳ではありません

当然、悼む気持ちもあります。

しかし

むしろ
同じ車種を選んだ同志として

その死を意味のある
ものにする為に

書かせていただきますが

原因、要因は単純なものではなく
沢山あるとは解っています。

が、

乗り手によるミスの割合が一番大きい。

道路に残された
痕跡から

おそらく
フル加速状態、
もしくはそれに近い形であった事は
想像できます。

あのバイクのワイドオープン加速は
よほどの安全確認をしないと

公道では
危険極まりないのです。

アクセル全開(フルフラットオープン)にする迄もない
己のひと呼吸にも充たぬ
わずか数秒で
ギヤをローから1度も
シフトアップする事なく
100㎞に到達します。

この状態で少なくとも近距離からの
不測の事態には
人間業では対応出来ません。

危険予測にも
限界があります。

なら!そんなバイクを販売するな!

そういう意見もあるでしょう。

それでも…

です。

あのバイクは多くのライダーの夢から
生まれた情熱の結晶のひとつで
メーカーも
持てる技術の粋を集め
世に送り出したモデル

・・・

この車種だけではありません。

多くのバイク、
その軽快な加速は
道路を走る他の乗り物と比べ
速すぎるのです。

これは
バイク同士では
スペック上
低馬力と記されているものでも、です。

例えば中型単気筒モデルなどが
同じく中型ネイキッドマルチやレプリカに比べ
パワーが足りない、

とインプレ記事などに
当然の如く記されていたりしますが

実際乗ってみると

その足りないとされるパワーでも
私は遅い、とは感じません。

道路を走る沢山の乗り物の中で
平均より遥かに
上をいくと思います。

そしてライダーだけではなく
周囲もその動きに反応する事は難しい。

だからこそ

バイクとはバイクにしかない
その魅力と共に
切り離せない危険が常に付き纏う
そういう乗り物だと
私は考えています。

そして

その魅力や危険性と共に責任も大きい

自分だけではなく
他人をも巻き込む可能性もある


繰り返しますが
自分自身による十分な
理解と覚悟が出来ないならば

乗るべきではない乗り物です。

何かあったとしても

バイクに乗るのを決めたのも
そのマシンを選んだのも

そのライディングを選択したのも

【 全てはライダー 】

なのですから。

カロリック

後に
警察署から

【御協力に感謝します】

的な事が書かれた
ハガキが1枚郵送されてきました。

しばらく
このハガキをいつも
バッグに入れて持ち歩いていました。

たまたま
知人の四輪車に同乗している時に
運転していた
知人が交通違反をしてしまい

スッ、と
このハガキを取り出し

━━以前にこういったものをいただきまして…

そう
お巡りさんに見せたところ

『それは関係ありません!』

と、怒られてしまったという……。

カロリック

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-01-12

Copyrighted
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