果てなき道標の果てに~覇窮封神演義より

おだまきまな

果てなき道標の果てに~覇窮封神演義より

2019年作品

とても長い時間退屈だから、その星にたどりついた者たちは、そうしたシステムを考えたのかもしれない。そして、妲己も退屈だった。

「あーあ、とても長く生きられるのに、できることと言ったら男をひっかけてだますだけ。今日も退屈だわん。」
妲己がまだ妹喜として生きていた時代だった。彼女はなぜか自分がとても長く生きられることを知っていた。自分は普通の人間ではない。普通の人間よりも戦闘能力は高いし、し好品も血のしたたるような生肉だ。自分はおそらくこの星のこの地域の人類たちの頂点に立っている。なので、トップクラスの王侯貴族をだまして取り入って暮らしている。しかしその優雅な暮らしも次第に飽きてきていたのだ。何か、自分が夢中になれるものはないだろうか?見渡す限り同じ下僕の人間たちに、それを見出すことは難しい。そんな時に彼女は女媧と出会ったのだった。
「やっと会えたわん。」
なぜそう言ったのかわからない。以前に自分はこの宇宙人のような女と出会った記憶はない。しかしそう声をかけた。私はこいつを知っている・・・?なぜ?知らないはず。しかし妲己はすぐにそれを忘れた。ささいな記憶違いはどうでもいいことだった。日常怠惰に暮らしている妲己は、面倒くさいことは極力視界に入れない暮らしをしていたのである。彼女は深いたくらみは得意だが、辛抱することは我慢できない。立ち止まって考える時間は、彼女にとってはいらないものだった。それなので、彼女はその物体に言ったのである。
「あなたもその王様に何かの術をかけている最中だったのねん。私もよん。ねえ、一緒に悪だくみしない?」
妲己が言ったのは、横に寝ている湯の湯王のことである。なかなかの美形の男だったが、今は妲己に骨抜きにされており、彼女の操り人形だった。その妲己の言葉を聞いて、物体Aの目がせばまった。いいだろう、と言っているような感じかな?と妲己は思った。物体Aは言った。
「歴史の改変はある程度許されておる・・・・。しかしなんと?同化しつつあるのか。この星に。」
「は?」
「おまえは元は人間の女だな。なんでそうなった。覚えていないか。」
「あー、よく人から狐の変化だって言われるわねん。動物霊とか信じていないけどん。」
「当たり前じゃ。この星の動物にそのような力などあるはずもないわ。」
「あー、でも人間って馬鹿だから、動物が死ぬとそういう霊力が宿るとか言ってるのねん。私もそうした者らしいのん。」
「迷信にすぎぬ。して、この男で何をしているのじゃ?」
「あー、特になんにもありませーん。ただ退屈だから男ころがしてんの。」
「話にならんな。装置を早く作動させた方がよさそうじゃ。」
「装置ってなに?教えてぷりーず。」
「黙れ。できそこないには言う必要はない。」
「できそこないって何?すごく腹が立つ言い方ねん。」
「ではすごく育った者という言い方にしておく。おまえは封神計画の優等生じゃ。」
「封神計画?」
「ひとつ箱の中に腐ったリンゴがあると、中のリンゴは全部腐ってしまう。これぞ腐ったリンゴの方程式と言ってな。おまえの頭にわかるように話してみた。」
「えー、わかるように話してよおばさん。」
「その箱の腐ったリンゴを全部処分できるシステムなのじゃ。」
「わかったわん、おばさんの言うこと。つまりわらわで何かを集めて処分するつもりなのねん。そうはさせないわん。わらわも一緒に捨てる気なんでしょ?」
「うむ。よくわかったの。しかしもう装置は作動した。」
「えっ?」
「今話している間にスイッチは入れたのじゃ。じゃからおまえの寿命はそれほどもうない。」
「あと何年ぐらい?」
「まあ1000年ぐらいかのう。」
「めっちゃ腹立つ!今から遊びまくるわん!」
妲己はそう言うと、女媧のいる部屋をあとにした。そして湯は滅び、殷の時代になった。妲己は時々女媧のいる母船に行き、彼女と話をしたが、折合うことはできなかった。歴史の道しるべ、と彼女は言った。妲己の様子を見て女媧は言ったものである。
「先がない人間ほど豪遊するというタイプじゃの。しかしまったく伏義の封神システムがなければ、どうなることかと思ったわい。」
女媧はそう嘆息した。
「そろそろ回収の時代かのう。あのように同化してしまった者は寿命がとても長く生命力がある。根絶するには骨が折れる。そろそろ用意していた崑崙に人間界を掃除させようかの。ゴースト・スイーパーの出番じゃのう。」
だが、それには同じように同化した者でなければ掃討できない。そうした矛盾をかかえた封神計画だったのだった。

そのころ殷の朝歌ではまだあの妲己の訪れはなく、平和であり、崑崙から下った仙人である聞仲が監督についていた。彼は100年ほど前の若いころ、ただの人間の殷の宮中の女性に恋をした。同化したと言っても完全にあちら側の者になったわけではなく、普通に人間らしい心も持っている。それがいわゆる仙人なのだ。しかしそれは人間界には知らされておらず、仙人になることも「仙骨ができた」という言い方をした。要するに何者かに体内を取って変わられているのだが、それらは迷信の色で彩られていたのである。
「私のかわいい殷でありますから。」
と、聞仲は言ったものだった。すっかり殷の国体と失恋した女性が一致している聞仲だった。しかし彼がそう考えるのも、仙人になった以上、人間とは違うとても長い時間を過ごすことになるので、その長い長い時間に耐えるための心の動きだったのである。彼が小さいころ一緒に過ごした者たちは大半が死亡し、また新しい若い者たちが彼の周囲に次々と現れることになった。彼だけが変わらず青年のままだった。従って彼はそれらの死んでゆく者たちに過剰に感情移入することをやめたのである。彼らは時がたてばみんないなくなる者たちだった。すでに初恋の女性に失恋し彼女が死亡した時に、それは痛いほど経験済みなので、そうした孤独の中に彼の人生はあったのだった。
そんな時に彼は妲己と出会ったのである。こいつも仙人?伝説の美女?聞仲はそれらの考えをすぐに否定した。彼女は確かに自分と同じような者だが、自分の心に反する者だ。何よりも殷を湯の時代にあったように、傾けようとしていることに我慢ができなかった。私のかわいい殷なのである。妲己は彼には否定されるべき者だった。従って、見た目はお似合いの二人であっても、犬猿の仲になっていった。聞仲に追い払われて妲己が逃げ込んだ先が、いわゆる紂王が心を動かした側室の妲己である。紂王はなぜかこの冀州侯の娘を、正室がいるのに所望した。聞仲は嘆息したが、このような王の好き物心は王室にはよくある話なので、縁談を取りまとめていたのである。その妲己があの妖怪の妲己と同化している。聞仲は絶望した。それでも彼は王の補佐役としての地位を全うしようとした。そのように崑崙から命じられていたのだった。彼が紂王に成り代わって治政すればよかったという人たちも多かろう。しかしそれはだめなのだった。歴史の改変は許されなかった。彼は軍師でなければならなかったのである。
何度か彼は崑崙で対話を試みたが、地上にはありえないような装置類に阻止され、その者たちとの会話は不可能だった。彼らは何かを隠蔽している。聞仲は焦った。結局殷は壊れるところまで壊れ、彼は蓬莱島を率いて崑崙十二仙と戦うということを余儀なくされたのだった。それはもちろん彼の本望ではなかった。彼が対話したかったのは、もっと上に陣取っている者たちである。自分を仙人に作り替えた者らだ。しかし彼の願いは届くことはなかった。そして、それらの戦いの夾雑物が、あの太公望だったのだった。

太公望はもともとは殷に狩られた異民族のひとりだった。妲己が自分の晩御飯のために用意した對盆の刑をあやうくまぬがれ、放浪していたところを申公豹に声をかけられた。
「あなたはそのままですか。でもあなたにもできることがあるでしょう。」
「わしにできること・・・・・。」
「あなたには、私の見立てでは仙骨ができつつあります。修行すればなんとかなるかもしれません。」
濡れそぼり、寒さに震えている太公望に申公豹は言ったのだった。太公望はもともと弱い子供だった。しかしその後太公望は味方を得て、聞仲と対決するまでに成長した。それまでの経緯は長くなるので省く。ただ、聞仲は死ぬ時に、妲己のことをの呪って死んでいったのは間違いない。
「妲己・・・・お前の思うとおりにはさせん・・・・・。」
死に際、蓬莱島での戦いを彼は回想した。思えば敵となった太公望には、殷は仇だったので手を取り合うことはなかった。しかしわかりあえたのではないかと思う思いがある。彼のように年若く生まれた半妖の楊禪も、結局崑崙に渡ってしまった。もともとは蓬莱島の通天教主の息子だったのに、こちらに残ったのは同じ半妖でも王天君しかいなかった。その時点で負けていたのかもしれん・・・・。そう思うことは、聞仲にとっては心の痛手をさらに広げることだった。殷はおそらく滅びるだろう。私のしたことは無駄だったのだろうか。その思いで、彼の魂魄は封神台に回収される前に、あの紂王の元に行き礼を返したのかもしれない。しかしその紂王も周の黄天化の手で倒され、今最後の戦いが終わろうとしている。

妲己は思う。わらわは結局なんだったの?女媧は倒した、太公望に倒させた、あの目障りだったやつは・・・・。それでわらわは自由になったはず。真の自由を手に入れたのよ。わらわを夢中にさせた遊びはこれ、そう考える妲己だったが、なぜ彼女は女媧を阻止して、残った力で太公望を守り巨大化してあえなく崩れ去ったのだろうか。
「人にも、土にも、いられれば・・・・・・。」
太公望を召喚した亜空間で彼女はそうつぶやいた。これはわらわの心からの言葉ではない。しかし彼女は気づけばそう言っていた。違う、自分の目的はこの星の支配者になることだったはず、あの女媧に逆らい、永遠の命を手に入れるはずだったはず。違うそうではないわん、と思う彼女だったが、思うさまもなくそう「考える」感覚がみるみるうちに失われていくことを悟った。

これが、消滅?
わらわが消滅する?

違う、わらわは・・・・これはわらわの実体ではない・・・・。
そう思った時、妲己の姿は風の中にほろほろと崩れ去った。消え去る瞬間、君もおいでよ、と誰かが笑いかける映像が一瞬見えたような気がした。あれはひょっとして年老いて死んでいった紂王陛下だったのだろうか?違う、わらわはあの男だって利用していたはずだった。じゃあ誰の記憶なんだろう、と思ったところで妲己の意識は闇に途切れた。

「結局あなたは救われたのですよ。あの凶悪だった妲己に。」
妲己の消滅したかけらが風に乗って消えていく砂漠で、申公豹はいつもの得意気な顔でそう太公望に言った。太公望は答えた。
「あの妲己は漁夫の利じゃよ。わしが救われたのは、あの女媧が勝ちを譲ってくれたからじゃ。女媧がおまえたちの未来か、と言ってな。この星に託した。」
「星ですか。」
「そうじゃよ。そういったものじゃ。わしはこの国のことしか考えておらんかったが・・・。」
「あなたが最初の人である伏義であるとは思いませんでした。」
「わし自身もそうじゃよ。そんな昔の人間が自分であったとはな。なぜ長い時間伏義は眠っていたのであろう。わしはもし彼が実体でいたとしたら、それを今わしに教えてほしい。」
「そうですね。」
「たくさん封神されたからのう・・・・。何かを回収するためだけにのう・・・。」
「何か、ですか。」
「そうじゃ。結局それはわしにはわからん。それなので、今わしは不機嫌じゃ。」
申公豹は太公望に言った。
「あなたはもう半ば以上伏義になっている。あの妲己のようにならないとは限らない。あの女媧の始祖から別れたもののひとつが、彼女の妖狐の魂魄だったのです。彼女もおのが半身である妖狐を飼いならすことはできなかった。それで大地と融合して、あの時消滅したのです。あなたは今果たして元の太公望であるのでしょうか?否、もうほとんどはじまりの人である伏義であると言っていいでしょう。そうでなければ、あなたには女媧を倒すことは不可能でした。」
「・・・・・・・。」
「あなたが始祖の記憶のとおりに、妲己のしたようなことをまたはじめるのか見てみたい。」
太公望は答えた。
「わしはわしじゃよ。伏義であると言われればそうであるし、太公望であると言われればそうじゃろう。もし妖怪にこの身を食われることがあったとしても、わしは元の太公望であろうと努力する。いや、努力などわしには似つかわしい単語ではないが、そうなろうとしてゆくだろう。あの楊禪がそうであったようにな。」
申公豹は太公望の言葉に、うすら笑いを浮かべた。太公望は彼とはじめて出会った時の、妲己の對盆の刑で打ちひしがれた時にそうだったように、半眼の目で答えている。胸を張って堂々として答えているのではないのだ。彼には自信などないのだろう。申公豹は言った。
「では、試してみましょう。私ともう一度勝負しませんか。真向からの勝負です。あなたが今何者であるのか、私は確かめたい。」
申公豹は雷公鞭を取り出した。鞭はもう電極を帯びて火花を散らし始めている。太公望にそれらは頭から直撃するだろう。太公望は言った。
「・・・・・無用な戦いは好まぬ。おぬしが今まで戦いの傍観者であったのも、己が身の妖怪に食われるのが怖かったからであろう。そうではないのか。」
申公豹は瞬間、激怒した。
「私はそんな男ではないですよ。私を甘く見ないでいただきたい!」
そう言って彼は雷公鞭を振り下ろそうとしたが、ためらった。結局彼は太公望の静かな目に押されてそれを振り下ろすのはやめた。無用のこと、と彼は言った。確かにその通りだった。太公望と今戦う理由は、好奇心以外の何者でもなかった。そして申公豹が傍観者であった理由も、太公望の言い当てたそれだったのだった。彼は始祖の船の放出する負のエネルギーに抗して、ずっと戦いを放棄していたのである。しかしこの最後の時、勝ち残った太公望にそう言わずにはおれなかったのだった。言わば申公豹ははじめからこのレースの敗者であることを選んでいたのだった。そして、今申公豹の脳裏に浮かんだことは、女媧を倒すほどのエネルギーを持っている太公望と真剣勝負をすれば、己れも引きこまれて変化を起こすかもしれないということだった。申公豹はひきつった笑顔を浮かべて言った。
「・・・・やめておきますよ。あなたがもっと老人になった時まで、戦いは取っておきます。」
太公望は首を振って答えた。
「おぬしが強い宝貝使いであることはわかっておるよ。それでもういいではないか。宝貝をめったに使わぬおぬしの生き方には、ずいぶん歯がゆい思いをしたものじゃったが、妲己のような者がひとりでも出ない方が世のためだったのじゃ。おぬしは賢い。」
太公望はそう言うと、そばの四不象の背を手でたたいて言った。
「わしはもうひとりで行くよ。おぬしも所帯を持ったのじゃから、子供の世話もあるじゃろう。」
「御主人・・・・。」
「みんないなくなったのう・・・。では、さらばじゃ。」
太公望はそう笑顔で言うと、日の沈む方角へとてくてくと歩き出した。遠くでかつての仲間たちが見守っているような気持ちがした。彼らは正気のまま魂魄を封神台に封神された。わしもそうなりたいものよ、と思う太公望に遠くで普賢真人が笑って『それでいいの、望ちゃん?望ちゃんだってもっと楽に生きたいでしょ。』と言ったような気がした。太公望は答えた。
「しかたがないのじゃよ。わしは小心者じゃからのう。あんな妲己らのような豪遊など肝がつぶれるのよ。普賢、わかっておるくせに。釣りゲームぐらいが関の山じゃ。それでもそうならんともかぎらんからな。十天君のポーカーゲームの部屋ではあぶなかった。」
『あはは。』
「おぬしとはもっと釣りがしたかったのう。」
『望ちゃんはこれからも妖怪退治?』
「ああそうじゃな。おのれをだましだまし続けていくよ。」
その時、後ろから声がした。四不象が涙ながらに飛んできたのだった。
「御主人~、やっぱり御伴させてください!そうして独り言をしゃべっているご主人を見ていると、今にも危ないっス。見てられないっス。」
「奥さんが怒るんじゃないのか?」
「ハナコは強い女です!」
「子供には父親が必要じゃよ。」
「僕のパパも小さいころ死んだんっスよ。同じように強く育ってほしいッス。」
「しようがないのう。まあわしもひとりで寂しかったわい。しばらく一緒にいるかのう。」
「ラジャーっス!」
「さて、どこへ行くかのう。とりあえず西に行くとするか。」
「はい、御主人!さあ僕の背にお乗りください。」
二人はそのまま、砂漠を突き進んだ。真っ赤な夕日が砂漠と丘陵地帯を照らしはじめていた。太公望を乗せた四不象の姿は、やがて地平線の中の小さな点となり、そして消えていった。

果てなき道標の果てに~覇窮封神演義より

原作漫画とかwikiを読み返していないので、細かい設定とか無視していてすみません。概略的な話ということで・・・。これも単なる思い付きです。ただせっかく思いついたのにと、黙っていられないタチで書きました。全体としては、昔読んだ芥川龍之介先生の短編小説みたいな味わいの話にしたかったということです。「蜘蛛の糸」とかのね。もちろんそんなレベルではありませんが。

あと、添付イラストが仙界伝の妲己になっているのは、昔封神でオンリーサイトを作っていた時に描いたものなので。かなり前ですね、10年以上前です。この怖い妲己の絵はあまり描いていないので、これの他には一枚ぐらいしか描いていないです。それのましな方を今回流用しました。覇窮の設定でなくてどうもすみませんです。

果てなき道標の果てに~覇窮封神演義より

【完結作品】テレビ版覇窮封神演義の改変したもので、ごく短編です。設定とか違えてあります。私の好みで整理した感じにしています。

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