自選歌集 2018年10~12月
背伸びして飽きず眺めた夏のこと忘れて眠るたねのヒマワリ
小松菜を育てた土よありがとう洗い流してしまうのだけど
トイレから別のフロアの水の音そして世界は同時株安
世界中の人が並んで手をつなぐ(海担当はくじで決めます)
横綱が神の力で押さえても地球は動くと言うかガリレオ
妄想の果てに私は裏返り世界を一口大に包んだ
立ち止まり青になるまで待っててもユートピアなら会員制で
敵のことばかり伝えてくる君はほんとに僕の味方なのかな
逆襲のドロップキックはかわされてすべて打ち抜くはずの一瞬
ダメージがだんだん模様になってゆき山椒魚はのそりと動く
檻の中象徴として生きてゆくパンダの夢は終わらぬ迷路
監視用カメラに映る人々が普通の人であろうとしている
華やかに飾ろう僕らの住む国がディストピアだとばれないように
シャーペンの芯がプツッと折れるたび密かに選ばれる罰ゲーム
粛々とクロスワードを埋めてゆきわかってしまう陳腐な答え
包丁と毛糸のマスクの強盗が叫ぶ言葉の訛りがわかる
夕焼けに斬られて君が血を流すサヨナラ未来と等しい昨日
さっきまで確かにそこにいたはずのちいさなこどもちいさなわたし
奪いあうボールに触れることもなく離れて立っていても少年
じゃんけんで歩数を決める遊びして離れすぎたら近づいていく
十字路で横断歩道を二度わたり日なたのほうの歩道を歩く
五年ほど下げっ放しのカーテンを風呂場で洗ったときの衝撃
もうどこへも行かないつもりで見下ろせばずっと揺れ続ける歩道橋
堕落した人と砂漠の旅をするラクダは海を忘れずにいる
どんぐりは生まれる前の国に住む夜になるたび海になる森
されこうべ月の光を浴びすぎて月とおんなじ銀色になる
痩せろとか太ってるとか言わないで三日月だってほんとはまるい
丸く目を開いて猫は雨の中ベンチの陰を飛びだしてゆく
遺産だと古いカバンを渡されて何代目かの旅人になる
手で囲む小さな檻を越えるときひんやり濡れたトカゲのおなか
自選歌集 2018年10~12月