Happy-Lovely-聖恋夜(ヴァレンタイン)☆
里和ちゃん、結婚ですか?
北風が吹いて
指の先が凍えても
君への想いを歌うため
今日もこの青空に向かって
歌うよ 心込めて
ギターも奏でる
君へのメロディー☆
☆
「まったくもう……。」
この寒い朝から、あいつは今日もこの公園で声を張りあげて歌っている。あの歌は私のために創ったのだと、いつか言っていた。
毎朝ここを通りすぎるたびに、あいつは最後の歌詞のフレーズを決まって鳴らす。そして目が合うと、決まってウィンクしてくる。
まったく、周囲の人の目なんかおかまいなし!といった風で、恥ずかしいという感情などはまるでないらしい。あるいは私みたいな女が通りすぎるたびに、いつもそんなふうにしているのだろうか。こっちはもう、毎回恥ずかしくて、顔がガンガンに熱くなって、仕方がないというのに。そのせいで、大体いつも先に目をそらすのは私の方なのだ。
☆
「ただいま。」
……ガチャリ。
ドアを開けて中に入ると、あいつの靴が玄関に転がっている。しかし、部屋の中は真っ暗だ。TVのスイッチだけがつけっぱなしにされていて、画面の青白い映像と、ザリザリというノイズがむなしく部屋に満ちている。傍らのソファーに、彼は死んだようにうつぶせになって眠り込んでいる。その片手にはなんだか、小さなものをしっかりと握っているようだ。電気の明かりのスイッチを、私は少しためらいつつもパチっとつけた。
「ん…おかえり……里和(りわ)。」
「ただいま。うたた寝してたら、風邪ひくわよ。」
暖房も、電気もつけずに。彼は朝から夕方まで外で歌いつづけて、夜になり星がちらほら見え始めると、私の部屋へと帰ってくるのだ。
歌い疲れたと言って死んだように眠るくせに、外の寒さにはまったく強くできている体らしい。私ならとてもじゃないが耐えられない。
こんな真冬の寒空の下で、一日中立ち尽くして歌い続けるなんて真似は。
私は部屋着に着替えるため、仕事着のコートを彼の頭の上にぽさっと置いてやった。
「ほら、暖房がつくまでこれでも着てなさい。」
「ん~、コートはいらない。里和、こっち来て。」
………がさっ。
「あ~もう、放しなさいったら。」
「いやだ。里和つかまえた、離さない。」
その時私のコートに入っていたものと、あいつが片手に握っていたものが同時に床に落ちた。
「「あ。」」
☆
私の落としたものは、どう見ても、ハートの小箱。中身は日中の休み時間のすべてを使って今日作った、手作りの生チョコレート。
彼の落としたものは、どう見ても、銀灰色のビロード小箱。中身はきっと彼が無けなしの金額をはたいて買ったであろう、小さな指輪にちがいない。
“Happy-Lovery-聖恋夜(ヴァレンタイン)!!”
恋人たちに祝福を☆
<終>
Happy-Lovely-聖恋夜(ヴァレンタイン)☆
こんなプロポーズにあこがれていました。
恋人くんは、仕事みつかるんだろか…
改行、慣れなくてすみま…(とりあえずUP)