死神達のレクイエム
幽霊、それは想像上の生物。科学では証明されない、現代科学唯一の謎。
これは『普通の人間』の考え方。
幽霊、それは現実の生物。科学では証明できない。しかし本当に存在し、人間界に干渉する者。そして何かしらの理由で、成仏が不可能な者。
これが『死の奏者』の考え方。
雨木志音の考えは後者。
なぜか俺は死者と干渉する力があるらしい。
志音は高校から家までの道のりを一人で歩いていた。
周りには一切音がなく、唯一聞こえるのが志音が大地を踏みしめた音唯一つのみ。
カン
いきなり音が割り込んできた。今までなかった音。空き缶を思い切り蹴飛ばしたような音。
志音はこの音を知っていた。いつもいつも聞いている。
腕時計をチラリと見る、七時半。
カン、カン
音が一層強くなる。すぐ近くまで寄ってきている感覚だった。
カン、カン、カン
音が耳元で聞こえた。
「ねぇ、遊んでよ」
振り返るとそこには、中学生くらいの、小柄な女の子が無邪気に笑ってこちらを見ていた。
「聞いてるの?」
そう、音の正体はこの子なのだ。でも『カン』というあの音をどうやってだしたのかは相変わらず分からない。
「志音、幽霊って信じる?」
いきなり話題が変わった。
何故俺の名前を知っているのか、という疑問も感じたがそれよりも『幽霊』のことを聞いてきたのかが気になった。
そして俺は、何に操られてしまったのか、気が付けば『幽霊』について知っていること、経験したこと、その全てを、一人のか弱い女の子にぶちまけていた。
少女は、俺の話を聞いて驚きも、嘲笑ったりも、苦笑したりもしなかった。
ただじっと、志音を見ていた。
「今の俺の話、信じてくれるのか?」
恐る恐る問う。
「私が見えてる、ってことは霊が見えるんでしょ?」
そうか、なんだそういうことか。
この子は、霊なのか。
(この子はまだ成仏できないのか)
少女はすがるような目で志音をまっすぐに見つめていた。志音の仕事は『死の奏者』。
幽霊には、安らかな死を。
その全てを分かち合い、共に喜怒哀楽せよ。
それが、『死の奏者』の硬い硬い、掟。
「この仕事、俺には向いてねぇわ」
死んだ者の過去が全て分かってしまう志音にとってこの仕事は、苦痛以外のなにものでもない。
レクイエムを唱えながら思う。
(あぁ、壮絶だ、俺には理解不可能な人生……)
少女は、気持ちよさそうに目を閉じ、笑っていた、その姿はまるで、天使のように優雅で美しかった。
少女の体が霞んでいくにつれ、志音の体も霞んでいき、ついには居なくなった。
さっきまで志音たちがいた長い長い道路は綺麗な夕焼けに包まれていた。
死神達のレクイエム